先々月から先月にかけて、フィンランドの首都ヘルシンキでMaaSのスタディツアーに参加したことや、フェリーでバルト海対岸のエストニアの首都タリンに渡ったことを書きました。しばらく時間が空きましたが、今回はタリンで体験したことを書きます。それは市民向けに実施している公共交通無料の取り組みです。

タリンでは市役所の担当者に話を聞くことができたので、無料にした理由、財源について、無料化の効果、市民に限定した理由などについて質問をしました。その答えを含めたタリンの公共交通事情については、東洋経済オンラインで記事にしているのでご覧ください。 

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タリンを取り上げた東洋経済オンラインの記事 = https://toyokeizai.net/articles/-/249037 

話を聞いてまず感じたのは、我が国との公共交通に対する考え方の違いです。タリンは公共交通運営への補助金を72%から90%に引き上げることで無料化を実現しました。つまり運賃収入の割合は無料化以前から30%未満だったことになります。これはエストニアに限った話ではなく、ドイツは45%、フランスは30%ぐらいとなっています。一方日本の広島電鉄は、昨年のブログで紹介した時点では、9割以上を運賃収入で占めていました。

タリンの公共交通が文字どおり公共サービスとして位置付けられ、その延長上として無料化を実施したのに対し、日本の公共交通の多くは営利事業となっており、無料化は遠い世界の話であることを、あらためて思い知らされました。黒字赤字という収支状況によってサービス内容が大きく左右されるというのは、公共サービスとして好ましくないことです。公立学校が赤字なので授業を減らしたり休校にしたりするでしょうか? 公共交通も同じ考えのもとで運営すべきと思います。

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もうひとつ、タリン市役所の担当者は、公共交通無料化がフランスを中心にいくつかの都市で実施され、今後も導入予定があることを言及していました。自分も今年になって無料公共交通の現場を訪れるのは初ではなく、これが3度目でした。最初はこのブログでも紹介した石川県輪島市、2度目は米国ペンシルベニア州ピッツバーグで、後者についても東洋経済オンラインで記事にしています。

輪島市の場合、運営主体の輪島商工会議所は交通事業者ではなく、ドライバーは2種免許を持たないので、日本のタクシー業界のルールに沿って無料にしたという理由もあったとのことです。一方ピッツバーグでは市の中心部のみ無料とすることで、ショッピングやスポーツ観戦などに利用してもらい、都心の活性化や交通渋滞の解消などを狙っているようです。

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タリンの実例では無料化による収入減を、住民の増加による税収増が大きく上回ったという報告もありました。そのうちに転入者が少なくなり、無料化が負担になると考える人もいるでしょう。そういう場合は有料に戻せば良いと思います。現に昨年訪れた米国オレゴン州ポートランドでは、以前はピッツバーグと同じように都心部を無料としていましたが、現在は有料となっています。しかしポートランドはいまなお「全米でもっとも住みたい街」であり続けているようです。

交通以外にも積極的な都市改革を実行したおかげもあり、にぎわいが定着したので有料にしても問題ないと判断したのではないでしょうか。そして今、タリンが同じ道を目指しているような気がしました。記事にも書きましたが、日本も今すぐ公共交通を無料化せよとは思いません。それよりも、公共交通の活性化が都市の活性化につながるという欧米の実例を、ひとりでも多くの日本人が知ってほしいという気持ちでいます。