メディアの言うことは信じないでほしい。2018年9月にMaaSの調査のためにフィンランドを訪れた際に、現地の担当者が口にした言葉です。MaaSがさまざまなメディアで取り上げられていく中で、記者や編集者が本来の概念を勝手に書き換えた結果、当初の定義からかけ離れた例を見ることが、たしかに我が国でも多くなりました。

MaaSのルーツは2006年にフィンランドにあり、6年後にMaaSという言葉が考え出され、2014年に公の場で初めて発表。2015年にはMaaSアライアンスというグローバルな組織が形成され、翌年MaaSアプリの代表格であるWhimが生まれています。それぞれの場面でMaaSの概念は明確に記されています。にもかかわらず2019年の日本で、その概念を自在に書き換えようとする行為がメディアを中心に目立っています。

MaaS英国プレゼン

特定の交通に関するスマートフォンのアプリを開発すれば、それがMaaSだという人がいます。本来はモビリティではないショッピングやレストランの情報もMaaSに不可欠という人がいます。多くは利用者の立場ではなく、提供者側の都合で語っている感じがしています。ちなみに欧州では2018年、自動車メーカーBMWとダイムラーがモビリティサービス部門の統合を発表しましたが、発表資料でMaaSに言及しているのは1部門だけで、MaaSの概念をわきまえていることが伝わってきます。

個人的にはこのブログでも何度か触れたBRTに似た雰囲気を感じています。 BRTはバス高速輸送システムと訳されるのが一般的で、専用レーンの確保などにより定時性を高めるところに最大の目的がありますが、日本には連節バスの導入がBRTであると勘違いしている事業者があり、専用レーンの準備を後回しにしたことで、BRTそのものの評価を下げた例が存在します。タイの首都バンコクでも、写真のように完璧に近いBRTを導入している事実を知ってほしいところです。

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そもそも日本には「○○銀座」や「小京都」など、トレンドとなっている場所にあやかる命名は多く存在します。MaaSも今、トレンドワードなのかもしれませんが、MaaSではないものをMaaSと称することが、本来は明確な概念であるMaaSを分かりにくくしている要因ではないかと思います。なによりも利用者の立場になって発言してほしいと考えています。

もうひとつ気になるのは、本来は公共的な概念であるMaaSという表現を、特定の事業者が私物化しようとする動きです。たとえば首都圏で鉄道事業などを展開する小田急電鉄は2018年12月、ヴァル研究所やタイムズ24、ドコモ・バイクシェア、WHILLとともに、システム開発やデータ連携、サービスの検討を相互に連携・協力していく「小田急MaaS(仮称)」の検討について合意したと発表。自社名を冠したことに賛否両論が巻き起こりました。

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同社はその後、小田急MaaSという言葉をあまり使わなくなりましたが、今月にはヴァル研究所とともに、鉄道やバス、タクシーなどの交通データやフリーパス・割引優待などの電子チケットを提供するためのデータ基盤「MaaS Japan(仮称)」を共同で開発すると発表。ニュースリリースにはMaaS Japanは小田急電鉄が商標出願中であると記されています。

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類似の表現は国土交通省がすでに使用しています。昨年10月から今年3月まで開催した「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」の中間とりまとめには「日本版MaaS(Japan MaaS・仮称)」という言葉が出ています。国の組織がこの言い回しを使うのは納得できますが、民間事業者が似たような言葉を商標出願までする行為には疑問を抱きます。

MaaSは数百兆円規模のマーケットになるという算出もあり、現在の日本は新規ビジネスという部分にばかり注目が集まっていることを危惧しています。MaaSは本来、都市や地方の不特定多数の移動者がより快適に、より便利に移動するための概念です。このことを今一度心に留めてほしいと思っています。