人口減少と少子高齢化が加速する日本で地域の移動をどうするかは、ますます切実な問題になっています。国内外のさまざまな都市や地方を訪れて感じたのは、その自治体が交通についてどれだけ理解し、どれだけの情熱を持って取り組むかで、結果が大きく変わるという事実です。先日の東京池袋での87歳の高齢ドライバーによる暴走事故の報道を見て、国内の好ましい例を紹介し、多くの人に参考にしてもらいたいという気持ちを新たにしました。

IMG_8188

今回は京都府最北端に位置する京丹後市の交通政策の中から、日本で初めてウーバーのアプリを地域交通に導入したことで知られる旧丹後町地区で展開する「ささえ合い交通」を取り上げます。ちなみに京丹後市は2004年に網野町、大宮町、久美浜町、丹後町、峰山町、弥栄町が合併して生まれましたが、合併直前は約6.5万人だった人口は2018年には5.5万人に減少。中でも旧丹後町地区人口減少と高齢化が著しく、2008年にはタクシーが撤退しました。

IMG_8165

旧丹後町地区には丹後海陸交通の丹海バスが、ほぼ国道178号線に沿って走っていますが、東西2か所の集落内は公共交通がないことから、タクシー撤退の翌年設立されたNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」が2014年からオンデマンドバスを運行しています。しかしバスが1台なので各集落にとっては隔日運行となるうえに、乗車前日までに予約が必要であるなど不便だったため、京都府や京丹後市の協力を受け、2016年からは自家用有償旅客運送制度とウーバーのアプリを活用した「ささえ合い交通」も導入したのです。

自家用有償旅客運送制度とは、公共交通の整備が行き届いていない過疎地域に、自家用車を用い一般ドライバーの運転で旅客の移動を支える制度で、市町村運営有償旅客運送の交通空白輸送と市町村福祉輸送、NPO法人などが行う公共交通空白地有償運送と福祉有償運送があります。ささえ合い交通は公共交通空白地有償運送に該当しています。

車両は地元住民のマイカーで、車体側面に表示があり、ドライバーはオレンジ色のベストを着用しています。自動車保険には独自の内容を盛り込んでおり、車両点検は半年に一度行っているそうです。ドライバーは2019年4月時点で18名います。住民数に対して多めなのは、多くのドライバーが仕事などの合間に輸送を担当するからです。ドライバーは国土交通省による自家用有償旅客運送制度の講習を受け、2年(無事故無違反の場合は3年)ごとにライセンス更新を行っており、乗務前は直接点呼を受け、アルコールチェッカーも使用しているそうです。

今回は旧丹後町の西側の集落である間人(たいざ)から、旧峰山町にあるホテルまで利用しました。ささえ合い交通の乗車地は旧丹後町内に限られますが、降車地は京丹後市全域で可能となっているからです。タクシーでも存在する営業地域のルールではありますが、旧丹後町地区には病院がないことなどを考えると、より柔軟な運用をしてもいいのではないかと思いました。

IMG_8180

車両の予約と行き先指定、料金決済はウーバーそのもので、あらかじめクレジットカードなどの登録を済ませていれば、簡単に予約ができます。しかし旧丹後町には、スマートフォンやクレジットカードを持っていない住民もいるため、途中でサポーターによる代理配車も採用し、決済は現金も可能としています。今回はこのシステムを使いました。運賃は国が定めたおおむねの目安をベースにした運賃案が、京丹後市地域公共交通会議で承認を得たもので、タクシーの半額ほどとなっています。

ウーバーアプリ利用のメリットは、外国人観光客でも言葉や通貨の苦労なしに移動ができることで、私を運んだドライバーも言葉が通じない外国人を乗せた経験があったそうです。さらに見逃せない利点として、ウーバーのデータが日報代わりとなるので、事務作業が軽減されていることを挙げていました。初期投資がほぼ不要であることもメリットとして数えられるでしょう。

IMG_8184

私を運んだドライバーの運転は、一部のタクシー運転手より信頼の置けるものでした。ドライバーになった理由を聞くと「地域の高齢者の移動を支えたいから」という答えが返ってきました。まさに「ささえ合い交通」です。多くのドライバーがパートタイムで移動を支える方式も、地方に合っていると感じました。そして自身の運転経験から、輸送行為に対しては相応の報酬を支払うべきであると思いました。

スクリーンショット 2019-04-20 23.25.26

少し前にこのブログで取り上げたように、政府の「未来創生会議」では自家用車による有償運送制度を利用しやすくするため、タクシー事業者との連携を容易にしていく法制度の整備を図っていくとしました。京丹後での実例を体験して、この方針に賛同する気持ちが増すとともに、タクシー業界の歩み寄りに期待したくなりました。ちなみにタクシー業界はことあるごとに「危険な白タク」とライドシェアを呼びますが、上に挙げた国土交通省の資料では、そうではないことが明らかになっています。