また悲惨な交通事故が起こってしまいました。 滋賀県大津市の交差点で、直進する乗用車と右折する乗用車が接触し、直進車両が横断歩道脇で待っていた保育園児の集団に突っ込み、幼い園児2人が亡くなってしまった事故です。亡くなられた方々、ご遺族の方々には、この場を借りてお見舞いを申し上げます。

少し前にブログで取り上げた東京池袋での高齢ドライバーによる事故もそうですが、犠牲になったのは歩行者で、大津の事故では2人のドライバーは無傷だったそうです。当然だと思うかもしれません。しかし以前も紹介しましたが、日本は歩行中の交通事故死者の比率が極端に高い国でもあります。

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IRTAD道路安全レポート2018年版 = https://www.itf-oecd.org/road-safety-annual-report-2018

上の3つの円グラフは、IRTAD(国際交通安全データ解析グループ)が1年前に発表した32か国のレポートから、交通死亡事故の状態別比率について、クルマ社会の代表と言われることもある米国、自動車が基幹産業となっているドイツを日本を比べたものです。歩行中の犠牲者(Pedestrians)の比率が米独の倍以上であることが分かります。

32か国の中にはアジアがあまり入っていないのでグローバルデータとは言えないかもしれないですが、ひとつの指標にはなるでしょう。欧州各国はおおむねドイツに近く、歩行中犠牲者の比率で日本を上回っているのは韓国と南アフリカだけで(ナイジェリアはデータなし)、GDPランキングで日本よりはるかに下位のモロッコやウルグアイより比率が高くなっています。

では歩行中の犠牲者が日本より格段に低い欧米は、歩道橋や地下道、 ガードレールなどを整備して完璧な歩車分離をしているのでしょうか。過去に訪れた都市の写真をいくつか見てもらえれば、まったく逆であることが分かります。欧米で歩行者の犠牲者が少ないのは、歩行者優先という意識が日本よりはるかに浸透しているためだと考えています。今の自動車は軽いものでも1トン前後あり、衝突すれば生身の人間はひとたまりもないことを熟知しているのでしょう。

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中にはその意識が薄いドライバーもいるでしょう。そこで欧州では、日本に先駆けて生活道路の速度制限を時速30キロとするゾーン30を取り入れ、横断歩道の前などには路面を盛り上げたハンプを作って減速を促し、生活道路の入り口にはリモコンで上下する支柱ライジングボラードを設けて歩行者を保護しています。これらについても数年前に取り上げましたが、あとの2つについては日本ではほとんど見たことがありません。

フランスのパリ(下の写真)など、横断歩道の手前にガード用の支柱を設置した都市も一部にありました。しかし横断歩道以外の部分にはガードはありません。しかもパリの支柱は日本によくある白色ではなく、茶系の色として景観を害さないようにする配慮が見られます。茶系であっても歩行者からは識別できるので問題はありません。

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まちづくりにも違いがあると思っています。欧州の都市はいわゆるコンパクトシティで、郊外とはっきり分かれており、道路の速度制限も大きく異なります。 たとえばドイツでは、郊外では時速100キロで走れた道が、市街地に入ると制限速度50キロとなり、学校の近くなどでは時速30キロまで落ちることもあります。都市内は歩行者優先、都市間は自動車優先という違いが明確なのです。

ところが日本では、多くの地方で市街地が無秩序に拡大したために、都市と郊外の境目が曖昧になっています。これがまちなかでもスピードを落とさないドライバーの多さにつながっているような気がします。その点でもコンパクトシティは重要です。都市を高密度化すれば公共交通への投資が容易になります。これも交通死亡事故防止につながります。

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それ以前の話として、欧米では信号のない横断歩道の手前で待っていると必ずクルマが停まり、渡らせてくれます。逆に言うと停まってくれないのは自分の経験では日本ぐらいです。この違いは昔、足首を骨折して松葉杖生活を送った時の、欧州と日本の鉄道駅や列車内の対応の差に似ています。

ガードレールを設置したり通学路を変更したりすれば、歩行中の犠牲者は減るかもしれません。しかし車道はそのままで歩道に手を加えていくという考え方では、ドライバーは悪くない、歩行者が注意しなければいけないという気持ちが増長するのではないかと危惧しています。不思議に感じてしまうほど、この国は交通弱者に対して冷淡な社会であると再認識しています。