羽田空港の国際線を大幅に増やすための新たな飛行ルートについて、国土交通省が関係自治体や有識者と協議会を開催した結果、東京五輪パラリンピックを前にした2020年3月から運用することを正式に決めたとのことで、石井国土交通相が8日の会見で発表しました。

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経緯や内容については同省のウェブサイト「羽田空港のこれから」に出ているので、詳しく知りたい人はご覧いただきたいのですが、現在は南風時と北風時で、4本の滑走路を図のように使い分けています。空港の東側に広がる東京湾から着陸し、東京湾に向けて離陸していることが分かります。

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新ルートでは、南風時で国際線が多く離着陸する15時から19時までに限り、都心を縦断して着陸することになります。東京五輪パラリンピックを前に、今後の訪日客の増加に対応するためには国際線の増便が不可欠。しかし現在のルートでは限界であることから、このルートを考え出したそうですが、飛行ルート周辺の住民からは騒音や落下物などに対する懸念が出ています。

世界の主な空港のレイアウトを見てみると、「世界一忙しい空港」として知られる米国アトランタ国際空港を含め、風向きに沿ってターミナルを挟むように2本の滑走路を並行に配置する例が多くなっています。羽田は滑走路を4本も持ちますが、飛行路が交差しているので効率は良くありません。風向きを考えれば新ルートのように、南北方向の2本の並行滑走路を活用するのがたしかに理に適っています。

私の事務所も新しい飛行ルートの近くにあります。東京23区生まれの自分は、そもそもこの地に静かさは求めておらず、また落下物は空港周辺でなくても存在するはずであり、この2点はあまり問題視していないのですが、2020年を理由にして新しい飛行ルートを承認してもらい、羽田の離着陸回数を増やそうというプロセスには納得しきれない部分があります。

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そもそも国際空港として首都圏に作られた成田はどうするのかという疑問が湧きます。同様に新空港を作った大阪は、伊丹は国内線、関西(関空)は国際線中心と使い分けています。複数の空港を持つ海外の大都市でも、これに近い運用をしています。騒音の大きい大型機を使うことが多い国際線を都心から遠ざけよう。そんな配慮を感じます。

都心に近い羽田に機能を集中させると、成田や関空より羽田のほうが便利と思う人が増えるのは当然で、さらに離着陸数が増えるでしょう。そうすると当初の15〜19時限定、南風時限定という規定はいつしか消滅し、朝から夜まで飛行機が都心上空を飛ぶことになるかもしれません。逆に成田は次第に閑散としていく可能性があります。東京への一極集中と同じ構図を見ているような気がしますし、この一件で東京への一極集中がさらに進む恐れもあります。

たしかに成田は東京都心から50キロ以上と遠くにあります。ただし京成電鉄スカイライナーを使えば日暮里まで最速36分で行けます。特急料金が必要にはなりますが、この数字は海外の大都市の空港とさほど遜色はありません。一方のJR東日本成田エクスプレスは東京駅まで約60分と、運賃がはるかに安い高速バスとさほど変わらず、同社の気持ちは新線を建設する羽田のほうに向いているのではないかと感じます。

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成田を発展させていくなら、スカイライナーを都営地下鉄乗り入れ可能として、押上から浅草、日本橋、銀座、品川、そして羽田空港を結ぶ軸として位置付けることが重要になりそうです。東京スカイツリーがある押上まで約30分、羽田まで約1時間で到達できるはずで、利便性はかなり高まります。その補完としてJRや高速バスを各地に走らせるという形になるでしょう。

ただそれも羽田と成田、首都圏の2空港の今後をどうするのかという国としてのビジョンが見えない限りは手をつけられません。自宅や会社から近いからという近視眼的な目ではなく、日本を代表する大都市の空港をどうするかという視点で、多くの人が考えてほしいテーマだと思っています。