米国生まれのパーソナルモビリティ、セグウェイが生産終了というニュースが今週ありました。発表が2001年だったので、ちょうど20年で製品としての生涯を終えることになります。

セグウェイのデビューは画期的でした。当時は電動のパーソナルモビリティは車いすタイプぐらいしかない中で、立ち乗りというスタイルを提案。しかも加減速を乗る人の体重移動で行うという、高度な技術に圧倒されました。私が初めて出会ったのは2002年のパリモーターショーで、タイヤを供給しているミシュランのブースで試すことができました。 自分はすぐに乗りこなせましたが、なかなか自立できなかった人がいたことも覚えています。

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ではなぜセグウェイは普及しなかったのか。理由として交通ルールを挙げる人がいます。たしかに日本は新種の乗り物やモビリティサービスに厳しい態度を取る国なので、公道走行は講習を受けたインストラクターによるガイドツアーに限定されていました。ただ生まれ故郷の米国は多くの州で自由に乗れ、ドイツでは自転車レーンを走らせるようにするなど、公道走行を認めている国もけっこうありました。

個人的にはそれよりも、車両価格が原因のひとつだと考えています。1台100万円前後というのは、富裕層の趣味としては受け入れられますが、多くの人はそのぐらいの予算があればはるかに便利な自動車を選ぶはずで、同等の出費の趣味的な乗り物なら公道を走れる2輪車、逆に同等の機能であれば10分の1以下の予算で手に入る自転車に行くでしょう。

価格の高さは公的機関の導入でも障壁になります。セグウェイは国内外の警察や警備で使われていますが、こうした組織が導入する場合には税金が使われます。公的機関のお金の使い方に納税者である私たちが目を光らせるのは当然のことで、ひとり乗りの移動手段に約100万円を出費するのは理解し難いと思う人が多いのは当然です。

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しかもセグウェイは前に書いたように、誰でも簡単に乗ることができるユニバーサルな乗り物とは言えませんでした。 この面では高齢者や障害者の移動手段として以前から使われている電動車いすのほうが、はるかに使いやすいものです。最近は我が国のWHILLのようなスタイリッシュな製品が登場してきたことで、健常者が疲れた時などに利用する乗り物という位置付けへの理解度が高まっています。

決め手になったのはやはり、電動キックボードのシェアリングでしょう。こちらの強みは何と言っても、安いものでは1台数万円という車両価格の安さです。しかもセグウェイと違って軽いので持ち運び可能であり、充電担当という新たなサービスも可能にしました。電動キックボードシェアが生まれたのもまた米国です。20年の間にモビリティを取り巻く状況が大きく変わったことを教えられます。

セグウェイのデビューに触発され、似たようなパーソナルモビリティがいくつも登場しました。日本でも自動車メーカーなどが参入しました。しかしいずれも普及はしませんでした。セグウェイも2015年に後発企業のひとつ中国ナインポットに買収されました。とはいえその後もセグウェイ由来のパーソナルモビリティは普及せず、ナインボットも現在は電動キックボードのラインナップを充実させています。

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何度か乗った経験から言えば、セグウェイはモーターサイクルやスポーツカーのような存在でした。高価でありながらひとりしか乗れず、荷物の置き場所もありません。高度な技術がもたらす操縦感覚には相応の慣れが必要でした。しかし操る歓びは他のどんな乗り物でも味わえないものでした。ひとことで言えばファン・トゥ・ライドでした。

20世紀は優れた技術がしばしば社会を変えてきました。しかし21世紀は社会の要求に見合ったデザインと技術、サービスのミックスを提供することが求められていると感じています。スマートフォンはその典型です。セグウェイはそんな時代の変化を踏まえて、レジャービークルに転換したほうが、独創的な技術を後世に伝えられたのではないでしょうか。逆に社会的な乗り物には、やはりリーズナブルとユニバーサルという条件が大事になることを教えられました。