新型コロナウィルスによって人々の移動のあり方が大きく変化していることは、このブログでも何度か記してきました。公共交通での感染を恐れ、マイカー利用に注目が集まっていることにも触れました。私自身は感染拡大後もしばしば公共交通を使っているものの感染には至っていないので、長時間でなければ問題はないと思っていますが、中には不安を抱く人はいるでしょう。

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そんな中で東武鉄道東上線が10月に開業する、埼玉県寄居町のみなみ寄居駅は異例と言えます。副駅名がホンダ寄居前とあるように、西側に隣接する本田技研工業(ホンダ)埼玉製作所寄居完成車工場のために作られる駅で、設置費用はすべてホンダが負担しているからです。この件については東武鉄道、ホンダ両社に取材した記事を東洋経済オンラインに掲載し、多くの方に読んでいただきました。

自動車メーカーも現在は多角化が進んでいますが、メインのビジネスは今も自動車を作って売ることです。それを考えると自動車工場のために新駅を作るのは矛盾していると思う人もいるでしょう。従業員が全員マイカー通勤をしてくれれば、その分売り上げが伸びるのですから。



ただこれは企業視点での考え方です。両社の話を聞いてみると、社会視点での決断であることがわかります。具体的に言えば寄居工場の西側を走り、多くの従業員や物流などの車両が通る国道254号線の渋滞を懸念したのです。町にとって大企業の工場があることは税収や地域活性化など有利な面もありますが、渋滞が恒常化すれば住民の生活に影響を及ぼしてしまいます。

しかもホンダでは同じ埼玉製作所の狭山完成車工場を、来年をめどに寄居に集約することを発表しています。また寄居工場にはホンダのマザープラントとして、先進的な生産技術をいち早く試し、世界に伝えていくという役割も持たされています。今後これまで以上に多くの人々がここを訪れる予定で、それを見越して以前から話し合いを進め、今年秋の開業に漕ぎ着けたのだと思っています。
 
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この記事はYahoo!ニュースにも掲載されました。コメント欄をチェックしていて気づいたのは、ホンダらしいという言葉が多かったことです。筆者もなんとなくホンダらしい取り組みであるとは感じていましたが、コメントでは具体例を挙げていたので納得しました。

中でも印象的だったのは創業者の本田宗一郎氏が生前、「クルマ屋のおれが葬式を出して大渋滞を起こしちゃあ申し訳ない」と言ったことを受け、社葬は開かず「お礼の会」としたエピソードで、ホンダのウェブサイトでも紹介しています。自動車メーカーだからこそ渋滞を出してはいけないというメッセージは、今回の新駅の設置理由にもつながるものです。

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記事では最後に物流面について、ドイツの自動車メーカーが完成車や部品の輸送を再生可能エネルギーを使った鉄道輸送に切り替えたことにも触れました。ホンダもそうですが、すべてを自動車で賄おうとせず、公共交通のメリットも認め、行動に移す姿勢に感心します。社会との共生という視点で考えれば、移動や物流における自動車と公共交通の連携は重要というメッセージと受け取っています。