昨年12月以来、ほぼ1年ぶりに顔認証を取り上げます。前回は大阪メトロが日本の鉄道で初めてこの技術を用いた改札機の実証実験を始めたことに合わせ、前の月に開催された鉄道技術展で担当者に伺った話を織り交ぜましたが、その後の1年間でモビリティやまちづくり分野で実証実験がいくつも行われているので、改めて取り上げることにしたのです。

神姫バス顔認証

このテーマについてはウェブメディア「ビジネス+IT」で記事にもしましたが、まず路線バスでは2月には茨城県つくば市、7〜8月には兵庫県三田市で顔認証乗車の実証実験を行っており、いずれもNEC(日本電気)のシステムを使っています。上の写真は三田市の実験を行った神姫バスのものです。NECは7〜9月にJR東日本高輪ゲートウェイ駅前で行われたイベントで、顔認証改札技術などタッチレスサービスの技術も提供しました。

NECでは個々の交通に顔認証を導入するよりも、都市全体を顔認証社会とすることを目標としているそうです。いち早くそれを具現化したのが和歌山県白浜町(南紀白浜)の実証で、2019年1月から空港、商業施設、宿泊施設などを対象に行っていますが、今年10月からは富山市でも同様の社会実験を始めました。乗り物もその中に含まれており、南紀白浜では路線バス乗車券やレンタカー予約、富山では遊覧船のチケット購入が可能です。

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NECをはじめ現在日本で導入している顔認証はデータベースをクラウドに置くタイプで、少ない出資で導入可能というメリットがありますが、データの照合に通信を用いるので、現状では認証完了まで1秒ぐらいかかるのがネックと言われています。5Gになればレスポンスは上がるものの、各駅やバス停付近の通信環境を完璧にしておくことが前提であり、全国レベルでの普及は先になりそうです。

 

しかしモビリティへの顔認証は、それ以上のメリットが数多くあると考えています。定期券やICカード、スマートフォンの出し入れの手間がなくなるので、両手に荷物を持っていても使えます。車いすやベビーカーの利用者にもありがたいはずで、スマートフォンが苦手という高齢者も、最初に登録を済ませてしまえば端末を持つ必要がありません。コロナ禍の現在では非接触であることもメリットになります。

顔認証を導入するもうひとつのメリットは、データ収集ができることです。これによって運行ルートや便数などをきめ細かく調節し、サービス向上につなげることができます。この点は特に、利用者減少や運転士不足、財政基盤の弱さなどに悩む地方の公共交通にメリットがあると考えています。前述したレスポンスも利用者が少ない地方ではさほど問題になりません。高齢者でも入りやすいことを含め、大都市よりも地方に向いたサービスではないでしょうか。

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思えばスマートフォンの個人認証も、当初はパスワード認証だったものが指紋認証を経て、現在は顔認証になっています。使い勝手とセキュリティを高次元で両立したシステムなのでしょう。しかもモビリティとの相性は良く、高齢者でも使え、地方に向いています。以前紹介した東御市電気バス顔認証も、すでに使いこなしている高齢者が何人もいます。地方交通の改革手段のひとつとして、今後さらに注目が高まっていくのではないかと考えています。