このブログでも紹介したことがある茨城県境町の自動運転バスが、昨年11月末に1年間の安定運行を達成しました。偉業と呼べるこの結果に対しては、日本自動車会議所および日刊自動車新聞社が創設した「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」で第一回の大賞に選ばれるなどの評価を受けています。

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一方、運行を担当しているソフトバンクグループのBOLDLY(ボードリー)では、「2021年度安定稼働レポート」を作成しています。ビジュアルを多用した48ページにわたる内容はとてもわかりやすいので、興味がある方は見ていただきたいと思いますが、ここではそのレポートを見て感じたことを取り上げていきます。

まずお伝えしたいのは、1年の間にサービスが着実に進化していることです。2020年11月25日に出発式を行った当初は1台だけでしたが、翌年1月になると2台が同時に走るようになり、2月にはバス停を追加。4月には乗務員を2人から1人に減らし、8月には2番目のルートを追加するとともに土日の運行も始め、10月からは新型コロナウイルス感染予防の観点から4人を上限としていた乗車人数を8名に緩和しています。

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ボードリーの2021年度安定稼働レポートはこちら


この結果、当初は5年で達成する予定だった走行ルート20kmを1年で実現。バス停については町民とのコミュニケーションによって、子育て支援センターのキッズハウス、スーパーマーケットのエコスなどが増設されました。1か月あたりの走行距離も、2021年6月の1156kmが、半年後の11月には2427kmと倍以上になっています。

境町の自動運転バスは現状ではレベル2であり、自動運転の続行が難しい場面では、乗務員が事前に手動運転に切り替えます。しかしながら年間平均での自動走行比率は73.5%に上ります。公道で一般車といっしょに走行していることを考えればかなり優秀です。ボードリーでは安定走行のために、道端ののぼり旗の撤去などをお願いしているそうで、こうした働きかけが効果を発揮しているようです。

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境町の自動運転バスは最高速度が20km/h未満のグリーンスローモビリティであり、ルートは幹線道路を避けていますが、それでも渋滞が発生しました。そこで短い間隔でバス停を設置し、追い越しのタイミングを増やすという対策を取りました。バス停の一部は町民から提供された私有地に設置しました。その結果、2021年4月は1便ごとに0.9回あった追い越しが、同年11月には 0.05回と劇的に削減したそうです。

地域の人たちは運行にも関わりはじめています。当初は運行スタッフはボードリーがすべて担当していましたが、現在は地域住民から8人を採用しており、遠隔監視センターも町内の施設内に設置しています。ボードリーでは今後、地域住民が運行に関わる割合を増やしていきたいとしています。

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町民が協力的である理由は、人口約2.4万人の小さな町に年間100件以上の視察陣が訪れ、テレビや新聞でたびたび扱われるなど、全国的に注目を集めていることが大きいでしょう。公共交通を軸としたコンパクトシティで注目された富山市同様、シビックプライドが育まれつつあると感じています。境町は自動運転バスの導入に際して、5年間で5.2億円という予算を組みましたが、経済効果は2020年1月からの2年間で総額6億円以上とのことです。

境町は自動運転バスだけをアピールしているわけではありません。昨年7月には東京駅と町内のバスターミナルを結ぶ高速バスが走りはじめ、町内には隈研吾氏が手がける建築物、国際大会基準を満たすスポーツ施設が次々に作られるなど、多角的にまちづくりを進めています。その結果、以前のブログでも触れたふるさと納税額は、さらに増えているそうです。

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一年間でこのレベルまで到達した理由として、やはり町長のリーダーシップは大きいと思いますが、行政・事業者・町民みんなが積極的に動いて、いい結果を目指していこうという熱意も感じました。今の日本の地域交通に大事なことが、この町にはあると感じています。日本を代表する「自動運転の町」として、これからも注目していきたいと考えています。