まもなく東日本大震災の発生から12年を迎えます。そんなこともあって今回の東北訪問では、津波の被害が大きかった太平洋岸の都市や集落もいくつか訪ねました。その中から宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)地区を紹介します。

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名取市は仙台市の南に隣接しており、仙台国際空港が南隣の岩沼市にまたがる形であります。閖上は同市のもっとも東に位置していて、太平洋に面しており、広浦という入江があることもあって、昔から漁港として栄えてきました。しかし2011年の東日本大震災で、かつて約5000人が住んでいたと言われるこの地域は津波に飲み込まれ、700人以上の住民が亡くなったとのことです。

公共交通で閖上を目指すには、JR東日本(東日本旅客鉄道)東北本線と常磐線、仙台空港鉄道が乗り入れる名取駅からコミュニティバス「なとりん号」閖上線を使うのが一般的です。私もこのバスに乗りました。駅を出たバスは東へ進み、国道4号線を横切り、市役所の脇を通過していきます。高速道路の仙台東部道路を潜って、まもなく、かさ上げされた土地に新しい住宅が立ち並んでいる光景に出会います。

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東日本大震災で津波被害を受けた地域の復興では、高台移転や巨大防潮堤の構築など、地域によってさまざまな手法を選択しています。そんな中で閖上は、港の周辺を非居住地域とし、海岸からやや離れた場所をかさ上げして、居住地域にするという結論を出したそうです。個人的には、それぞれの地域がそれぞれの手法を選ぶことは、まちづくりに個性が出るので好ましいと思っています。

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今回は終点の「名取トレイルセンター」でバスを降り、周辺を徒歩で巡りました。トレイルセンターは閖上のまちびらきが行われた2019年にオープンした施設で、震災を機に青森県から福島県にかけての太平洋沿岸をつなぐロングトレイル「みちのく潮風トレイル」の拠点として作られました。内部は情報コーナーやラウンジ、シャワールームなどがあり、海側の広場ではキャンプもできるようです。

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近くには「ゆりあげ港朝市」と「メイプル館」があります。メイプル館は、昔から名取市と交流のあるカナダの支援により完成した建物で、飲食店や土産物店などが入っています。広浦の対岸には2020年にオープンした「名取市サイクルスポーツセンター」が見えます。サイクリングロードフットサルコートなどのほか、温泉や宿泊の施設もあります。名取市は自転車のまちをアピールしていて、市内各所をめぐるサイクルマップを用意。仙台国際空港にはサイクリングポートも用意しています。

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ゆりあげ港朝市・メイプル館の北にある「震災メモリアル公園」にも足を運びました。市内で亡くなった人の名前が刻まれた芳名板、当時の皇太子同妃両殿下(現天皇皇后両陛下)の記念碑などがあり、昔からこの地のランドマークでもあった日和山もあります。さらに北に進むと、仙台市との境を流れる名取川に出ます。川上に歩みを進めていくと「かわまちてらす閖上」があります。こちらも飲食店や土産物店が軒を連ね、休日は多くの人で賑わっているとのことです。

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閖上の特徴は、海沿いの平地という地勢を生かし、サイクリングやトレイルの拠点と位置づけつつ、カナダからの支援を感じられる場、震災で犠牲となった方々への祈りの場も用意し、これらをコンパクトにまとめていることで、これがまちの個性を作っていると感じました。仙台空港や仙台駅から近いので、遠方から訪問しやすい場所とも言えます。機会を見つけて訪れてみてはいかがでしょうか。