先週に続いて、東日本大震災からの復興を目指すまちづくりを取り上げます。今回は福島県の太平洋岸(浜通り)にあり、福島第一原子力発電所事故で大きな影響を受けた双葉郡浪江町です。この地で日産自動車が展開するAIオンデマンド交通「なみえスマートモビリティ」を取材するために現地を訪れた際、日産の方の案内で町内を巡ることもできたので、そのときの印象を綴ります。

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なみえスマートモビリティの内容などについては、自動車総合ニュースサイト「レスポンス」で公開されていますが、現地に行ってまず感じたのは、原発事故の影響を受けた地域は、復興まちづくりの中で別枠で考えるべきではないかということです。



浪江町で避難指示が解除され、住民が戻ってきたのは2017年。交通インフラでは、2015年に常磐自動車道は全通したものの、JR東日本(東日本旅客鉄道)常磐線が復旧し、東京や仙台と再び結ばれることになったのは3年前で、新常磐交通の路線バスが町内の運行を再開したのは2021年です。つまり他の地域より6年以上遅れていることを、頭に入れておくべきだと感じました。

避難指示が解除されたのはおおむね常磐自動車道より東側で、西部の山林は除染されず、この町の重要な産業のひとつだった林業は大きな影響を受けているそうです。そんな中でこの町では、浪江駅前、町役場がある国道6号線周辺、海沿いと3つのゾーンに分けた、コンパクトな復興まちづくりを進めているという印象で、好感を抱きました。

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駅前は「地域スポーツセンター」「ふれあいセンターなみえ」に加えて、日産と東京大学が設立した「浜通り地域デザインセンターなみえ」があり、町役場の近くには「イオン浪江店」「道の駅なみえ」が相次いで開業。それぞれが地域拠点になっていました。さらに浪江駅は、建築家の隈研吾氏らとともに「浪江駅周辺整備事業に関する連携協定」が締結されており、近々生まれ変わることになっています。

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海沿いは産業集積地域で、世界最大級の水素製造能力を持つ「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」、ドローンの実験などが行える「福島ロボットテストフィールド」の滑走路などがあります。近くには、津波が来る前に全員が無事避難できた奇跡の学校として語り継がれる請戸(うけど)小学校が震災遺構として公開されており、請戸漁港市場も復活しています。

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カーボンニュートラルへに取り組んでいることも特徴で、道の駅ではEVの充放電を自律的に行う制御システムを活用。浜通りデザインセンターなみえではEVシェアリングも用意され、南隣の双葉町およびトヨタ自動車とともに、燃料電池自動車を用いた移動販売の連携協定を締結しています。

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浪江町を訪れて感じたのは、大変な状況に置かれながらも、まちづくりが前向きであることとです。一部のマスコミが伝える後ろ向きの被災地報道とは対照的です。しかも日本全体で見ても先進的な事例が多く、復興を機に日本の先頭に立とうという心意気が伝わってきました。数年後に浪江駅が新しくなったときに、再訪したいと思いました。