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モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

モビリティ

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MaaSの真実を知った日

2週間前のこのブログで、フィンランドのヘルシンキからエストニアのタリンへフェリーで移動したことを書きました。では両都市では何をしていたのか。まずヘルシンキでの活動を書けば、私も所属している日本福祉のまちづくり学会の有志が企画したMaaS(マース)のスタディツアーに参加していました。

ご存じの方も多いかと思いますが、MaaSはMobility as a Serviseを示した言葉です。しかし単なるモビリティサービスを示しているわけではありません。この言葉をいち早く使いはじめたフィンランドの交通通信省、ヘルシンキ市役所、MaaS Global社から説明を受け、議論を重ねることで、MaaSの真の意味が理解できたような気がします。内容についてはモビリティ専門ウェブサイト「ReVision Auto&Mobility」でも紹介していますので、興味のある方はご覧ください。

ヘルシンキのトラム
ReVision Auto&MobilityのMaaSの記事 = https://rev-m.com/mobility/whim20181009/

日本でも今年になって、MaaSに取り組む交通関係者が多くなりました。特に自動車業界で目立つような気がします。しかしフィンランドのMaaSは自動車のために生まれたわけではありません。その逆で、ICTを駆使することで公共交通にマイカー並みの利便性を持たせ、自動車移動に頼りがちな市民を公共交通に誘導するという考えです。

そのためにMaaS Global社が製作したスマートフォンアプリ「whim(ウィム)」は、目的地への経路探索を行うのみならず、クレジットカード情報をあらかじめ入力しておくことで事前決済を行い、定額乗り放題のプランまで用意しています。しかも鉄道やバスだけでなく、タクシーや自転車シェア、カーシェア、レンタカーなど、あらゆるモビリティサービスを使って案内をしてくれます。

whimアプリ画面

アプリを開発すればOKという簡単な話ではありません。ヘルシンキの交通にはさまざまな事業者が絡んでおり、各事業者の時刻や運賃などのデータがないと実現は不可能です。そのために陣頭指揮を取ったのがフィンランド政府で、交通事業者などが持つデータのオープン化を進めました。国を挙げてのスマートモビリティへの取り組みがMaaSに結実したと言えそうです。

もうひとつヘルシンキのMaaS関連のウェブサイトを見ると、インテグレーテッドモビリティという言葉を目にします。ユーザーの声でもオールインワンであることがもっとも評価されているようです。前述のように鉄道、バス、自転車シェア、レンタカーなどあらゆる交通を、マイカーのように一体で利用できることもスマートモビリティでは大切だと教えられました。

ヘルシンキ自転車シェア

つまり特定の交通事業者が自分たちの利益だけのためにアプリを提供することは、MaaSとは言えないと思います。日本の多くの都市は複数の民間事業者が競合している状況ですが、利用者にとって有り難いのはやはり、ひとつのアプリで多彩なモビリティを一体に使いこなせる、スマートでインテグレーテッドなサービスではないでしょうか。そのためには国や自治体のリーダーシップが大切だと感じました。

前述のReVision Auto&Mobilityでは11月21日にセミナー&交流会を開催予定で、私もMaaSをテーマにした回で登壇予定です。この場を含め、MaaSの本場を見てきたひとりとして、今後も積極的にこのテーマについて情報発信をしてきたいと思っています。

オフロード消防車を生んだ革新と協調

今週は大型台風が四国と関西に上陸したあと、北海道を震度7の大地震が襲い、ともに多大な被害を出しました。亡くなった方のご冥福をお祈りしますとともに、被害に遭われた方が1日も早く元の生活に戻ることをお祈りします。

このような場面で必要とされるモビリティは何か。西日本豪雨のあと、国内最大の消防車製造会社モリタが開発した小型オフロード消防車を取材し、工場内で試乗もしました。その模様は自動車専門サイト「オートックワン」で紹介していますが、車両の内容のみならず、誕生の背景からして革新的であり、ブログでも取り上げることにします。

走り1M
モリタホールディングスのウェブサイト = http://www.morita119.com

まず注目したいのは、2年前の熊本地震の消防関係者の声がきっかけだったことです。現場を熟知した会社ならではの判断です。しかもその声に応えるべく、多くの車種を検討した結果、あえて国内で販売していない車両をベースに選び、公道走行用ナンバー取得に挑戦しました。その過程では、社会貢献という状況を理解し、国土交通省や車両製造元の川崎重工業がバックアップしました。

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一連のストーリーは2月に当ブログで紹介した、石川県輪島市を走る電動カートに似ています。あちらも従来は許されなかったナンバー取得を、輪島商工会議所の陣頭指揮のもと、関係省庁や車両製造元のヤマハ発動機のバックアップで実現し、まちなか移動に展開していました。

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オートックワンの記事 = https://autoc-one.jp/workcar/5002666/

どちらもレジャー用途でのナンバー取得は難しいでしょう。日本はこうした分野に厳しく対処する国であると思っています。しかし社会貢献という名目であれば、製造会社ともども実現に向けて柔軟に取り組む姿勢があることを、2つの実例は示しています。

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もうひとつ特筆したいのは、車体後部のユニットを目的に合わせて交換することです。モビリティに限らず、日本のものづくりは完璧を求めがちな傾向があります。消防車でもできるだけ多くの装備を搭載した車両が良いと考える人がいるかもしれません。しかしそれは車両の大型化やコストアップにつながります。 小型化にこだわるためにユニット交換という手段を編み出した発想に感心しました。

消防車は自治体などの予算によって採用が決まるそうで、本格導入は来年になるとのことですが、今回の災害で威力を発揮するモビリティのひとつであることは間違いなく、早期の配備を期待します。

群馬から全国に広がる低速電動バス

1か月前のこのブログで、グリーンスローモビリティという新しいカテゴリーを紹介しました。そのとき石川県輪島市で稼働している電動カートと並んで、群馬県桐生市などで運行中の電動バス「eCOM」に触れました。その後桐生に行く機会ができたので、今回はこの乗り物を取り上げます。モビリティメディア「ReVision Auto&Mobility」でも記事を掲載しているので興味のある方はご覧ください。

桐生再生本社とeCOM8_2
ReVision Auto&Mobilityの記事 = https://rev-m.com/mobility/ecom20180727/

記事にもあるとおり、eCOMは群馬大学と自動車設計技術会社「シンクトゥギャザー」が開発生産し、桐生ではまちづくり会社の「桐生再生」が運行していますが、それ以外に国内外各地で走っています。産官学の共同プロジェクトで、自動車メーカーが関わらずに、ここまで完成度の高い電動バスを製作し、各地で走行するまでの実績を作っている事実にまず感心します。

eCOM8_2の車内

しかもそれは、多くの地方都市が抱える人口減少と高齢化問題に対処した移動手段であり、電動化によって夏の酷暑に代表される地球温暖化対策の影響を抑えつつ、「西の西陣、東の桐生」と言われた繊維産業の伝統を残す街並みを観光資源としてアピールするツールでもあります。まちづくりの一部としてのモビリティという考え方も、これまでの多くの自動車とは異なるビジョンであり注目すべき部分です。

後部に車いす用リフトを装備

桐生市内をひとまわり乗った印象をひとことで言えば、予想以上の完成度の高さでした。低速電動バスの前に超小型モビリティの開発も行っていたグループならではの経験が伝わってきました。一方で19km/hという最高速度は、短距離の移動では不満は感じられず、コストや環境負荷、事故の際の被害を抑えられるだけでなく、独特の街並みをより身近に体験できるという美点も教えられました。

桐生本町通りを走行中

それは自転車や路面電車など、かつては前時代的と考えられたものの、環境に優しいなどの理由で再び脚光を浴びている乗り物と似ています。考えてみればこれらもグリーンスローモビリティです。世界的にモビリティの物差しが変わりつつあるからこそ、新しい物差しのもとで生まれたeCOMが各地で注目されているのでしょう。低速電動バスのベンチマークになりつつある存在として、今後も動向に注目していきたいと思います。

線路有効活用としてのLRT

今週も西日本豪雨で被害を受けた地域の鉄道にスポットを当てます。今回は岡山県岡山市と総社市を結ぶJR西日本吉備線(愛称・桃太郎線)です。同線は今年4月、JRと両市がLRT(ライトレール)化における役割分担や費用負担について基本合意しました。

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これを受けて現地で三者などに取材した内容が、今日発売の鉄道専門誌「鉄道ジャーナル」に掲載されました。かなり長い記事でもあり、興味がある方は購読していただきたいのですが、取材を通して考えた吉備線LRT化の特徴としては、既存の鉄道路線を継承することと、廃止が議論されるほど利用者減少に悩んでいないことが挙げられます。

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前者は富山ライトレールという前例がありますが、吉備線の一日の平均利用者数はライトレール化される直前のJR富山港線の3倍以上に上ります。実際に乗ってみても、沿線には住宅が立ち並び、学校が多いこともあって、朝のラッシュ時を含め利用者の多さに驚きました。しかし車両は古いディーゼルカーで、本数は朝のラッシュ時でも3本、昼間は1〜2本に過ぎず、家や会社があるのに駅がないという場所も目立ちました。

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岡山県もまた自動車移動者が多く、交通渋滞が問題となり、環境悪化も懸念されています。高齢化も進んでおり、移動困難者の増加や高齢ドライバーによる事故も問題視されています。増えつつある外国人観光客のための交通整備も重要です。しかし現状の吉備線は、こうした要求に応えきれていないと感じました。

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駅を増やすとともにユニバーサル性を高め、加減速性能の良い小さな車両を数多く走らせれば、自動車で移動していた住民の一部が吉備線に移行し、沿線訪問をためらっていた観光客も使ってくれるようになるのではないでしょうか。つまり吉備線のLRT化は、いまある線路を有効活用することで住民や観光客などの利便性を高めつつ、都市問題の解決を図るための選択と言えます。

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吉備線が開通したのは今から110年以上前の1904年。当時もまちづくりのような考えはあったと思いますが、今とは状況が大きく異なります。同じ線路を使いながら、未来のまちづくりに見合った鉄道にできるか。その答えがLRT化なのだと思いました。

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LRT化の議論はまだ始まったばかりであり、今後住民理解など多くのステップをクリアして行く必要があります。その前に今は三者とも復興に全力を注ぐ時期だと思います。しかし少子高齢化をはじめ、将来起こり得る問題に対し、先手を打って対処していこうという積極的な姿勢には好感を抱きました。

地方鉄道の「見せる力」に期待する

先月仕事で関西を訪れた際には、今年3月から京都市の叡山電鉄で走り始めた「ひえい」も見てきました。ひえいは叡山電鉄が属する京阪グループが比叡山・琵琶湖への観光ルート活性化の一環として製作した車両で、特別料金は取らず、他の車両に混じって出町柳〜八瀬比叡山口間を走っています。

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外観は何と言っても前面の金色の楕円形が目を引きます。沿線の神聖な空気感や大地の気などをイメージしたそうです。ただ車体の緑を含めて派手ではなく、実車は想像以上に落ち着きがありました。横の窓も楕円で統一してあり、こだわりが伝わってきました。車内のカラーコーディネートも外観と同様で、座席はひとり掛けとして座り心地にこだわり、優先スペースは色違いのヘッドレストと長めの吊り革で識別できます。ドアの上の乗り方案内や運賃表・路線図もスマートにまとめてありました。

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ところでこの車両を形式名ではなく「ひえい」という名前で紹介したのには理由があります。新型車ではなく改造車だからです。1987年に登場した700系をベースに1両だけ作られたもので、その700系は1950年代以前の旧型車の機器を用いて生まれました。700系になってから機器を入れ替え、今回車体を作り変えたという変遷を辿っているのです。

地方鉄道ではこうした形で新しい車両を生み出す例が多く見られます。JR九州の「或る列車」や「はやとの風」などののD&S(デザイン&ストーリー)列車は有名で、多くは特別料金を必要としますが、ひえいと同じように通常料金で乗れる車両も、猫の駅長たまをモチーフにした和歌山電鐵「たま電車」、0系新幹線をイメージしたJR四国「鉄道ホビートレイン」などがあります。

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なぜ新型車ではないのかは説明するまでもないでしょう。費用を出せないからです。欧州のように地方鉄道も自治体が運営主体となれば、税金などを投入して新型観光車両を導入できるでしょう。かつて訪れた南仏ニースのプロヴァンス鉄道はそうでした。それでも叡山電鉄は実績と経験のあるデザイン会社(GKデザイン総研広島)を起用しており、デザインにコストを掛けて良いものに仕上げようという姿勢は感心しますし、その気持ちは観光客に響くはずです。

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ただし現在の日本の観光車両は、多くが水戸岡鋭治氏のデザインであることも事実です。彼の作風を否定するわけではありませんが、似たような雰囲気の車両が増えているという印象を持つ人もいるでしょう。日本には数多くのデザイナーがいます。未知のクリエイターに形を委ねるのはたしかにリスクが伴うかもしれませんが、鉄道会社には勇気を出して新しい可能性に挑戦してもらいたいと思います。
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