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モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

モビリティ

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日本一のバスターミナルは?

日本一の高速バスターミナルというと、多くの人が2016年に開業した東京都のバスタ新宿(新宿高速バスターミナル)を思い浮かべるのではないでしょうか。国土交通省が今年発表したデータによれば、1日平均の発着便数は約1500台、乗降客数は約3万人となっており、たしかに規模の大きさが窺えます。

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しかし日本には同規模のバスターミナルが他にもあります。福岡県の西鉄天神高速バスターミナルはそのひとつです。2015年に西日本鉄道が発表した数字は、発着便数約1600台、乗降客数約2万人と、新宿と互角の数字であることが分かります。
 
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少し前に九州に行く機会があったので、このバスターミナルを訪ねました。繁華街として知られる天神のターミナルビル「ソラリア」の中にあり、2階が西鉄電車の駅、3階がバスターミナルになっています。地下街によって地下鉄天神駅とも結ばれており、雨でも濡れずに行けるのは新宿に対するアドバンテージです。

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バス乗り場は6か所と、新宿の半分にすぎません。しかしクオリティでは明らかにこちらが上でした。茶色と黒を基調にしたシックな配色で、サインは黒い丸で統一してあり、案内表示も見やすいものでした。待合室やトイレは広く、カフェやコンビニエンスストアが最初から用意してある点も好感を抱きました。

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天神のバスターミナルが開業したのは1961年で、何度かの改良を経て2015年、現在の形になりました。この経験が豊かな空間づくりに結実しているのでしょう。「量」はともかく「質」では天神の完勝です。なのにあまり知られていないのは、メディアの東京偏重報道にも原因がありそうです。もっと注目してほしいモビリティシステムのひとつであると痛感しました。 

スーパーカブ1億台の原動力

本田技研工業(ホンダ)の原動機付自転車(原付バイク)「スーパーカブ」が今年10月に累計生産台数1億台という偉業を達成。同時に最新の排出ガス規制をクリアすることを主目的としてマイナーチェンジが行われました。その新型に横浜で行われた試乗会で乗ることができました。試乗の印象については下記ウェブサイトを見ていただくとして、ここでは生産1億台に達し、来年で60周年を迎えることができた理由を考えました。

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スーパーカブの試乗記(webCG)http://www.webcg.net/articles/-/37629

偉業達成の第一の理由が「壊れにくさ」にあることは間違いないでしょう。これは13年ぶりに日本市場に復活したトヨタ自動車のピックアップトラック「ハイラックス」、先日マイナーチェンジした同じトヨタの「ハイエース」など、グローバル展開する我が国の実用車が共通して持つ特徴です。スクーターや乗用車とは比べ物にならないぐらい故障しないことが重視される分野で、日本製品ならではの信頼性や耐久性の高さが生きているのでしょう。

この信頼性を得るために、可能な限り簡単な構造を用いていることは特筆すべきではないかと思います。トランスミッションには遠心クラッチを用いることで、複雑な機構を使わずクラッチ操作を解放しました。燃料タンクの上に乗るシートのストッパーはなんとゴムの吸盤で、吸盤の端をタンク側のリブに引っかけることで固定しています。こうした柔軟な創意工夫がロングライフ、ロングセラーに貢献しているのだろうと感じました。

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スーパーカブは最新型でもセルモーターだけでなくキックスターターを装備しています。出先でバッテリーが弱ってもエンジンを掛けて帰ってくるようにできるためでしょう。これ以上排出ガス規制が厳しくなったら水冷化を考えるかもしれないが、可能な限り空冷でいきたいというエンジニアの言葉からも、シンプルさにこだわる精神が伝わってきます。

もうひとつは「乗りやすさ」です。先ほどの遠心クラッチはもちろん、フレーム構造はスクーターに近い乗り降りのしやすさで、当初から4ストロークにこだわったエンジンは力の出方が穏やかなので、2輪車に乗ったことがある人ならすぐに乗りこなせるでしょう。エンジンを水平に倒し、その上に燃料タンク、人間が乗るというパッケージングが重心変化を最小限に抑えていることも見逃せません。

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しかしそれは、つまらない乗り物であることを意味しません。遠心クラッチとシーソー式シフトペダルの連携操作は簡単ではありますが、スムーズに走らせるにはマニュアル・トランスミッション(MT)並みのコツが必要です。つまり乗りこなすプロセスが味わえます。エンジンを回してギアを変え、大径タイヤで支えられた車体をリーンして曲がる走りはモーターサイクルそのものです。これもまた愛着のある乗り物として育くまれた一因ではないかと思いました。

こうした基本構成を、レッグシールドからリアフェンダーにかけてのS字カーブが独特のスタイリングでまとめた技も感心します。スーパーカブは個性という点でも比類なき乗り物だと断言できます。そして今回のマイナーチェンジでは、角形ヘッドランプにスマートなスタイリングの従来型を海外向けとして残しつつ、日本製に戻った国内仕様は昔のスタイリングを取り戻すという、伝統を尊重する動きも見せています。

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デビューから約60年が経過しているのに現役の実用品として立派に通用し、なおかつ趣味的な面で見ても満足できるデザインと走りを備えている。このバイクの生みの親でもある本田宗一郎氏はやはり偉大な人なんだと実感しました。モビリティに興味を持つ日本人のひとりとして、スーパーカブの素晴らしさをしっかり国内外に伝えることも仕事のひとつであるという思いに至りました。

関空のデザイン 高評価の理由

今年は海外に行く機会が多く、初めて利用する空港も数多くありました。そのひとつに関西国際空港(関空)がありました。東京在住の人間にとっては縁が薄い空港ですが、今回は目的地までの直行便が取れなかったので、以前から興味があったここでの乗り継ぎを選びました。

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関西国際空港のウェブサイト=http://www.kansai-airport.or.jp

関空の第1ターミナルは、パリのポンピドゥーセンターをリチャード・ロジャースとともに設計したレンゾ・ピアノが創設し、後に小田急電鉄ロマンスカーを手掛けた岡部憲明氏が代表を務めたレンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ・ジャパンが担当しました。世界初の人工島による海上空港ということもあり、20世紀を代表する土木事業に贈られる「Monuments of Millennium」の10大プロジェクトに選ばれるなど、数々の賞に輝いています。

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帰国後、気になって岡部氏の著作を読むことで、この建築に秘められたさまざまな事実を知りました。そのひとつが、翼を休めるグライダーを思わせる優美な外観です。本館も柔らかい曲線を描く屋根で覆われており、重厚感や威圧感とは無縁の姿を見せています。

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1960年代に作られた空港は独創的な設計が多かったのに対し、1970年代以降はジャンボジェット(ボーイング747)の登場などに伴う大量輸送に対応するため、都市のビルを思わせる機能重視の空港が多くなりました。鉄道ターミナルにも同じことが言えますが、飛行機は空を舞う乗り物であり、重厚さを追求しがちな鉄道ターミナルとは一線を画す、軽快で優美なものにしたいという考えがあったそうです。

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通常は横方向に分けて配置する国内線と国際線のターミナルを、本館の上下にまとめた点も特徴です。1階が国際線到着、2階が国内線出発・到着、3階が出入国手続きとレストラン・売店、4階が国際線出発となっています。私は羽田から国内線で到着し、国際線に乗り継いだので、最初は他の空港との動線の違いに戸惑いましたが、今思い返すと、ここまで移動距離の短い乗り継ぎは珍しいと思いました。

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常識にとらわれず理想を追求した設計思想は、間接照明の反射板を兼ねた本館4階天井の白い空調ダクトなど、あらゆる部分に込められています。サイン(表示板や案内図)が整理されているのも日本では珍しく、2階からアクセスする鉄道はJR西日本が青、南海電鉄が赤と色分けしてあるのでひと目で見分けがつき、バスやタクシーは4階が降車場、1階が乗り場と国際線ゲートに合わせてありました。

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人工島ならではの地盤沈下、国際線増加と国内線減少への対策、大阪国際空港(伊丹)や神戸空港との連携など、関空を取り巻く課題はいくつもありますが、世界に誇れる日本の交通インフラのひとつとして、いつまでもその姿と機能を保っていてほしいと思いますし、ひとりでも多くの日本人にこの建築の良さを理解してもらえればと考えています。

スイスで自動運転社会を体験

1か月前に自動運転の本を出したことは、このブログでも紹介させていただきましたが、実はあの本を出すにあたって、ひとつだけ心残りがありました。本を書く前に見ておきたかった現場があったからです。スイス南東部の都市シオンで2016年6月から始まっていた自動運転バスの運行がそれです。

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シオンで使われているのは、日本でも7月にソフトバンクグループのSBドライブなどが東京で実験走行を行った仏ナビヤ社のアルマです。しかし日本では他の通行を制限した公園内の道路を走ったのに対し、シオンでは旧市街の公道を歩行者や他の自動車に混じって運行しているとのことで、本当なら一般人を乗せて公道を走る初の自動運転車になるからです。

書籍の発売と前後して訪れたその模様については、東洋経済オンラインの記事にもまとめたので(動画もあります)、気になる方はお読みいただければ幸いですが、そこでは書かなかった感想として、本のタイトルにも掲げた「自動運転社会」を知るのに、シオンはとても良い場であると思いました。

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東洋経済オンラインの記事=http://toyokeizai.net/articles/-/190889

他の多くの国と同じように、スイスも運転者がいない無人運転での公道走行は認められず、シオンを走るアルマには2人のオペレーターが乗り、ひとりはゲームのコントローラーのような端末を持っていました。しかしその端末を操作したのは最初に発車した時だけで、それ以外は車幅ギリギリの狭い道を抜け、路地を曲がり、歩行者がいれば徐行や停止を行いながらスムーズに進んでいきました。

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その代わり道路には停留所だけでなく、自動運転バスが走ることを伝える道路標識が追加され、観光案内所にはパンフレットが置かれていました。おそらく市の広報紙にも明記してあり、日本よりも政治に関心が高い欧州ですから、多くの住民はそれを知っていたでしょう。LRTと同じように、まちづくりの一環としてのモビリティという姿勢が、導入や走行をスムーズに進めるうえで重要だと教えられました。

日本では交通を遮断した道路で実証実験を行う車両を、歩行者や自転車、他の自動車といっしょに走らせるのは危険だと思う人もいるでしょう。しかし自動運転の実用化において、公道での混合交通はいつかは通る道です。この課題を前に、本来は無人運転でも走るレベル4相当の車両を、あえてオペレーターを乗せたレベル3に格下げすることで公道走行を実現したシオンの手法には賛同したいと思います。

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シオンの自動運転バスは月曜日を除く毎日午後走っており、誰でも無料で乗れます。多くの日本人にとって、山に囲まれたこのスイスの小都市に足を運ぶのは容易ではないでしょう。しかし自動運転に興味を持つ人であれば、この現場を体感して損はないと思います。自動運転社会はどうあるべきか、を考えるうえで多くのヒントが詰まっていると感じています。

ベルリンのモビリティミックス

ドイツの首都ベルリンを16年ぶりに訪れました。今回は市内2か所で開催していた見本市の視察が主な業務だったので、公共交通で動きました。そこで見たのは、多種多様な乗り物が人々の移動を支えているという事実でした。

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鉄道は日本のJRの通勤電車に相当するSバーンと地下鉄のUバーンがあります。10路線あるUバーンは市内で完結しているのに対し、Sバーンは郊外にも伸びています。Sバーンは中心市街地を環状に巡る路線と東西に貫く路線がメインで、路線図は東京を思わせます。この鉄道網を補完するようにバスもくまなく走っており、市の東側では路面電車のネットワークも発達しています。 

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Sバーンは独特の2トーンカラー、Uバーン・路面電車・バスはすべて黄色で統一しており、識別しやすいものでした。運賃は多くの欧州都市と同じゾーン制で、環状線内がゾーン1、環状線外のベルリン市内がゾーン2、市外がゾーン3という、こちらも分かりやすいルールでした。 

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シェアリングサービスも充実しており、自転車、自動車に加えて電動スクーターまであります。自転車はいくつかの事業者が競合している状態。一方自動車はダイムラー、スクーターはボッシュという大企業の関連会社が運営しています。ちなみに自転車レーンは写真のように、歩道に敷設するパターンが多いようでした。

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これ以外にタクシーも走っており、もちろん自家用車も多く目にします。しかしここまで多種多様な公共交通を用意しているためか、渋滞はほとんど目にしませんでした。

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さまざまな乗り物を組み合わせることで便利な移動環境を提供することを、モビリティミックスと呼ぶことがあります。このブログでも初めて紹介する言葉です。異なる種類の発電方法を組み合わせて理想的な電力供給を実現するエネルギーミックスと同じような意味です。

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ベルリンのような大都市では、すべての人が状況に応じて最適の移動を選択できることが、都市力の重要なポイントだと思っています。もちろんそこでは使う力も求められます。自動車産業が主力の国の首都でありながら公共交通を充実させ、誰もが環境に負荷を掛けず快適に移動できるモビリティシーンを作り出した姿勢に共感しました。
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