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モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

モビリティ

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関空のデザイン 高評価の理由

今年は海外に行く機会が多く、初めて利用する空港も数多くありました。そのひとつに関西国際空港(関空)がありました。東京在住の人間にとっては縁が薄い空港ですが、今回は目的地までの直行便が取れなかったので、以前から興味があったここでの乗り継ぎを選びました。

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関西国際空港のウェブサイト=http://www.kansai-airport.or.jp

関空の第1ターミナルは、パリのポンピドゥーセンターをリチャード・ロジャースとともに設計したレンゾ・ピアノが創設し、後に小田急電鉄ロマンスカーを手掛けた岡部憲明氏が代表を務めたレンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ・ジャパンが担当しました。世界初の人工島による海上空港ということもあり、20世紀を代表する土木事業に贈られる「Monuments of Millennium」の10大プロジェクトに選ばれるなど、数々の賞に輝いています。

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帰国後、気になって岡部氏の著作を読むことで、この建築に秘められたさまざまな事実を知りました。そのひとつが、翼を休めるグライダーを思わせる優美な外観です。本館も柔らかい曲線を描く屋根で覆われており、重厚感や威圧感とは無縁の姿を見せています。

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1960年代に作られた空港は独創的な設計が多かったのに対し、1970年代以降はジャンボジェット(ボーイング747)の登場などに伴う大量輸送に対応するため、都市のビルを思わせる機能重視の空港が多くなりました。鉄道ターミナルにも同じことが言えますが、飛行機は空を舞う乗り物であり、重厚さを追求しがちな鉄道ターミナルとは一線を画す、軽快で優美なものにしたいという考えがあったそうです。

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通常は横方向に分けて配置する国内線と国際線のターミナルを、本館の上下にまとめた点も特徴です。1階が国際線到着、2階が国内線出発・到着、3階が出入国手続きとレストラン・売店、4階が国際線出発となっています。私は羽田から国内線で到着し、国際線に乗り継いだので、最初は他の空港との動線の違いに戸惑いましたが、今思い返すと、ここまで移動距離の短い乗り継ぎは珍しいと思いました。

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常識にとらわれず理想を追求した設計思想は、間接照明の反射板を兼ねた本館4階天井の白い空調ダクトなど、あらゆる部分に込められています。サイン(表示板や案内図)が整理されているのも日本では珍しく、2階からアクセスする鉄道はJR西日本が青、南海電鉄が赤と色分けしてあるのでひと目で見分けがつき、バスやタクシーは4階が降車場、1階が乗り場と国際線ゲートに合わせてありました。

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人工島ならではの地盤沈下、国際線増加と国内線減少への対策、大阪国際空港(伊丹)や神戸空港との連携など、関空を取り巻く課題はいくつもありますが、世界に誇れる日本の交通インフラのひとつとして、いつまでもその姿と機能を保っていてほしいと思いますし、ひとりでも多くの日本人にこの建築の良さを理解してもらえればと考えています。

スイスで自動運転社会を体験

1か月前に自動運転の本を出したことは、このブログでも紹介させていただきましたが、実はあの本を出すにあたって、ひとつだけ心残りがありました。本を書く前に見ておきたかった現場があったからです。スイス南東部の都市シオンで2016年6月から始まっていた自動運転バスの運行がそれです。

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シオンで使われているのは、日本でも7月にソフトバンクグループのSBドライブなどが東京で実験走行を行った仏ナビヤ社のアルマです。しかし日本では他の通行を制限した公園内の道路を走ったのに対し、シオンでは旧市街の公道を歩行者や他の自動車に混じって運行しているとのことで、本当なら一般人を乗せて公道を走る初の自動運転車になるからです。

書籍の発売と前後して訪れたその模様については、東洋経済オンラインの記事にもまとめたので(動画もあります)、気になる方はお読みいただければ幸いですが、そこでは書かなかった感想として、本のタイトルにも掲げた「自動運転社会」を知るのに、シオンはとても良い場であると思いました。

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東洋経済オンラインの記事=http://toyokeizai.net/articles/-/190889

他の多くの国と同じように、スイスも運転者がいない無人運転での公道走行は認められず、シオンを走るアルマには2人のオペレーターが乗り、ひとりはゲームのコントローラーのような端末を持っていました。しかしその端末を操作したのは最初に発車した時だけで、それ以外は車幅ギリギリの狭い道を抜け、路地を曲がり、歩行者がいれば徐行や停止を行いながらスムーズに進んでいきました。

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その代わり道路には停留所だけでなく、自動運転バスが走ることを伝える道路標識が追加され、観光案内所にはパンフレットが置かれていました。おそらく市の広報紙にも明記してあり、日本よりも政治に関心が高い欧州ですから、多くの住民はそれを知っていたでしょう。LRTと同じように、まちづくりの一環としてのモビリティという姿勢が、導入や走行をスムーズに進めるうえで重要だと教えられました。

日本では交通を遮断した道路で実証実験を行う車両を、歩行者や自転車、他の自動車といっしょに走らせるのは危険だと思う人もいるでしょう。しかし自動運転の実用化において、公道での混合交通はいつかは通る道です。この課題を前に、本来は無人運転でも走るレベル4相当の車両を、あえてオペレーターを乗せたレベル3に格下げすることで公道走行を実現したシオンの手法には賛同したいと思います。

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シオンの自動運転バスは月曜日を除く毎日午後走っており、誰でも無料で乗れます。多くの日本人にとって、山に囲まれたこのスイスの小都市に足を運ぶのは容易ではないでしょう。しかし自動運転に興味を持つ人であれば、この現場を体感して損はないと思います。自動運転社会はどうあるべきか、を考えるうえで多くのヒントが詰まっていると感じています。

ベルリンのモビリティミックス

ドイツの首都ベルリンを16年ぶりに訪れました。今回は市内2か所で開催していた見本市の視察が主な業務だったので、公共交通で動きました。そこで見たのは、多種多様な乗り物が人々の移動を支えているという事実でした。

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鉄道は日本のJRの通勤電車に相当するSバーンと地下鉄のUバーンがあります。10路線あるUバーンは市内で完結しているのに対し、Sバーンは郊外にも伸びています。Sバーンは中心市街地を環状に巡る路線と東西に貫く路線がメインで、路線図は東京を思わせます。この鉄道網を補完するようにバスもくまなく走っており、市の東側では路面電車のネットワークも発達しています。 

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Sバーンは独特の2トーンカラー、Uバーン・路面電車・バスはすべて黄色で統一しており、識別しやすいものでした。運賃は多くの欧州都市と同じゾーン制で、環状線内がゾーン1、環状線外のベルリン市内がゾーン2、市外がゾーン3という、こちらも分かりやすいルールでした。 

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シェアリングサービスも充実しており、自転車、自動車に加えて電動スクーターまであります。自転車はいくつかの事業者が競合している状態。一方自動車はダイムラー、スクーターはボッシュという大企業の関連会社が運営しています。ちなみに自転車レーンは写真のように、歩道に敷設するパターンが多いようでした。

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これ以外にタクシーも走っており、もちろん自家用車も多く目にします。しかしここまで多種多様な公共交通を用意しているためか、渋滞はほとんど目にしませんでした。

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さまざまな乗り物を組み合わせることで便利な移動環境を提供することを、モビリティミックスと呼ぶことがあります。このブログでも初めて紹介する言葉です。異なる種類の発電方法を組み合わせて理想的な電力供給を実現するエネルギーミックスと同じような意味です。

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ベルリンのような大都市では、すべての人が状況に応じて最適の移動を選択できることが、都市力の重要なポイントだと思っています。もちろんそこでは使う力も求められます。自動車産業が主力の国の首都でありながら公共交通を充実させ、誰もが環境に負荷を掛けず快適に移動できるモビリティシーンを作り出した姿勢に共感しました。

EV戦略は都市と地方を分けるべき

フランス、イギリス、中国、インド…。世界各国で、将来的にガソリン/ディーゼルエンジン自動車の走行を禁止するという発表が行われています。昨年の世界の自動車販売台数は約8400万台。そのうち中国と欧州を合わせると約半分を占めるわけですから、かなりの割合になります。

こうしたニュースを受けて一部のメディアは、かつて欧州がハイブリッド車対抗でディーゼル車攻勢を仕掛けたときのように、欧州対日本、EV(電気自動車)対エンジン車という二者択一の構図を作り出し、日本は世界の流れに取り残さていると警鐘を鳴らしています。

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たしかに最近のパリや上海の大気の状況は、たまに訪れる人間でさえも気になるレベルにあります。それを受けてでしょうか、パリでは電気自動車を見る機会が急激に増えました。すでにパリでは古いエンジン車の乗り入れを禁止しています。現状を考えれば妥当な判断だと思っています。

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しかしその考えをいきなり国全体に広げる決定には疑問を抱いています。今年6月にパリとともに訪れたル・マン(人口約14万人/パリは約222万人)では、大気汚染は気にならず、交通渋滞も目立ちませんでした。近年訪れたフランスの多くの地方都市について同じことが言えます。

もし国家単位での大気汚染が問題になっているなら、交通分野ではトラックやバス、さらに航空機や船舶の排出ガスをやり玉に挙げてもおかしくありませんが、そういう声はほとんど聞こえてきません。大都市と地方の状況の違いを含めて考えれば、環境に優しい国であることをアピールすることで国としてのプレゼンスを上げるための決定であり、政策というより戦略に近いと考えます。

今後世界的に都市部への人口集中はさらに進むと、多くの専門家が予想しています。生産の場としての地方と消費の場としての都市を分けたほうが多くの面で好ましい結果を生むからでしょう。これは電気をはじめとするエネルギーについても言えます。そして移動の面でも、都市と地方とでは異なる思考が必要になってきています。

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鉄道の世界では日本でも欧州でも、輸送量が多い大都市周辺は電車、輸送量が少ない地方は気動車(ディーゼルカー)という使い分けが一般的になっています。日本は電化こそ近代化という考えが根強いようですが、電車は環境には優しいもののインフラ整備には費用がかかるものであり、都市と地方の事情に見合った判断だと考えています。

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自動車においても同様の判断が理想であると思います。どこまでが都市でどこからが地方かという判断は議論の余地がありますが、環境問題が深刻で人口集中も顕著な大都市はEV普及を進め、過疎化によりインフラ整備が難しい地方はエンジン車を残すのが望ましいのではないでしょうか。その枠内で地方の中心市街地は自動車の乗り入れを制限するなど、状況に応じて細かい規制を実施すべきだと思います。

モビリティの世界は、昔から鉄道対自動車、自動車対自転車などのように、二者択一に置いて優劣を決めたがります。しかし多くの人は、新しい選択肢が生まれたと好意的に受け取っているはずです。EVとエンジン車にも同じ関係が当てはまります。2つの自動車は、ハイブリッド車とディーゼル車の関係と同じように、得意分野が異なります。古い新しいで決めるべき問題ではないと考えます。

ゴムタイヤで走るLRT

LRTの車両は通常、他の多くの鉄道車両のように鉄の車輪で走ります。しかし札幌やパリの地下鉄、いわゆる新交通システムと呼ばれるAGT車両と同じように、ゴムタイヤを使った車両もあります。今回はその中から、フランスのパリ郊外を走るトラム5号線と6号線を紹介しましょう。

パリを中心とするイル・ド・フランス地域圏には現在トラムが8路線あります。 5号線は2013年、6号線は翌年開業し、鉄輪を用いた7・8号線も同じ時期に走り始めています。3号線が開通した2006年から10年足らずの間にここまで路線を増やしたことにまず驚きます。

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5・6号線に導入されたゴムタイヤ車両はフランスのトランスロールというシステムを用いています。レールがないわけではなく、中央に案内軌条が1本ありますが、それでも整備費用は通常のLRTより少なくて済み、小回りが利くことに加え、ゴムタイヤによる加減速や登坂性能の高さも長所となっています。またタイヤは鉄輪に比べて荷重制限が厳しいので、結果として鉄輪車両より軽いことも特徴になります。

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5号線はパリの北に隣接し、すでにLRT1号線が走っているサン・ドニから北に伸びています。 一方の6号線はパリの南西にあるシャティヨンから西へ向けて走ります。どちらも地下鉄の終点からさらに郊外に伸びており、鉄道が走っていなかった郊外と都心を地下鉄との連携で結ぶことで、パリの交通問題・環境問題を改善しようという目的があるようです。

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いずれも一部区間を乗っただけですが、5号線は途中に徐行を必要とする橋があり、普通のLRTより軽量なゴムタイヤ車両のメリットが生きているようでした。一方の6号線は写真で分かるようにかなりの急勾配があります。一部の停留場はこの勾配の途中にあるので、鉄輪式の車両では発進が難しいでしょう。ゴムタイヤ式とした理由が理解できました。

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ただし乗り心地はバスに近く、この点は鉄輪式LRTのほうが上です。レールが1本なので既存の鉄道への乗り入れもできません。最近世界各地で導入が進むBRT(バス高速輸送システム)と比べても、自在性で大きく劣ります。フランスのルーアンなど、自動運転技術を導入することでレールに近い効果を獲得したBRTもあります。

ただし輸送力の大きさではLRTはバスより優位です。車両の大きさ長さからくる存在感、レールがあるので決まった方向だけに進む安心感もバスでは太刀打ちできない部分です。私も初めて訪れる場所ながら不安なく乗ることができました。しかし現状が最良かと聞かれると断定はできません。電車とバスの中間を担うモビリティの研究は、今後もしばらく続いていくと思われます。
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