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モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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EV戦略は都市と地方を分けるべき

フランス、イギリス、中国、インド…。世界各国で、将来的にガソリン/ディーゼルエンジン自動車の走行を禁止するという発表が行われています。昨年の世界の自動車販売台数は約8400万台。そのうち中国と欧州を合わせると約半分を占めるわけですから、かなりの割合になります。

こうしたニュースを受けて一部のメディアは、かつて欧州がハイブリッド車対抗でディーゼル車攻勢を仕掛けたときのように、欧州対日本、EV(電気自動車)対エンジン車という二者択一の構図を作り出し、日本は世界の流れに取り残さていると警鐘を鳴らしています。

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たしかに最近のパリや上海の大気の状況は、たまに訪れる人間でさえも気になるレベルにあります。それを受けてでしょうか、パリでは電気自動車を見る機会が急激に増えました。すでにパリでは古いエンジン車の乗り入れを禁止しています。現状を考えれば妥当な判断だと思っています。

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しかしその考えをいきなり国全体に広げる決定には疑問を抱いています。今年6月にパリとともに訪れたル・マン(人口約14万人/パリは約222万人)では、大気汚染は気にならず、交通渋滞も目立ちませんでした。近年訪れたフランスの多くの地方都市について同じことが言えます。

もし国家単位での大気汚染が問題になっているなら、交通分野ではトラックやバス、さらに航空機や船舶の排出ガスをやり玉に挙げてもおかしくありませんが、そういう声はほとんど聞こえてきません。大都市と地方の状況の違いを含めて考えれば、環境に優しい国であることをアピールすることで国としてのプレゼンスを上げるための決定であり、政策というより戦略に近いと考えます。

今後世界的に都市部への人口集中はさらに進むと、多くの専門家が予想しています。生産の場としての地方と消費の場としての都市を分けたほうが多くの面で好ましい結果を生むからでしょう。これは電気をはじめとするエネルギーについても言えます。そして移動の面でも、都市と地方とでは異なる思考が必要になってきています。

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鉄道の世界では日本でも欧州でも、輸送量が多い大都市周辺は電車、輸送量が少ない地方は気動車(ディーゼルカー)という使い分けが一般的になっています。日本は電化こそ近代化という考えが根強いようですが、電車は環境には優しいもののインフラ整備には費用がかかるものであり、都市と地方の事情に見合った判断だと考えています。

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自動車においても同様の判断が理想であると思います。どこまでが都市でどこからが地方かという判断は議論の余地がありますが、環境問題が深刻で人口集中も顕著な大都市はEV普及を進め、過疎化によりインフラ整備が難しい地方はエンジン車を残すのが望ましいのではないでしょうか。その枠内で地方の中心市街地は自動車の乗り入れを制限するなど、状況に応じて細かい規制を実施すべきだと思います。

モビリティの世界は、昔から鉄道対自動車、自動車対自転車などのように、二者択一に置いて優劣を決めたがります。しかし多くの人は、新しい選択肢が生まれたと好意的に受け取っているはずです。EVとエンジン車にも同じ関係が当てはまります。2つの自動車は、ハイブリッド車とディーゼル車の関係と同じように、得意分野が異なります。古い新しいで決めるべき問題ではないと考えます。

ゴムタイヤで走るLRT

LRTの車両は通常、他の多くの鉄道車両のように鉄の車輪で走ります。しかし札幌やパリの地下鉄、いわゆる新交通システムと呼ばれるAGT車両と同じように、ゴムタイヤを使った車両もあります。今回はその中から、フランスのパリ郊外を走るトラム5号線と6号線を紹介しましょう。

パリを中心とするイル・ド・フランス地域圏には現在トラムが8路線あります。 5号線は2013年、6号線は翌年開業し、鉄輪を用いた7・8号線も同じ時期に走り始めています。3号線が開通した2006年から10年足らずの間にここまで路線を増やしたことにまず驚きます。

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5・6号線に導入されたゴムタイヤ車両はフランスのトランスロールというシステムを用いています。レールがないわけではなく、中央に案内軌条が1本ありますが、それでも整備費用は通常のLRTより少なくて済み、小回りが利くことに加え、ゴムタイヤによる加減速や登坂性能の高さも長所となっています。またタイヤは鉄輪に比べて荷重制限が厳しいので、結果として鉄輪車両より軽いことも特徴になります。

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5号線はパリの北に隣接し、すでにLRT1号線が走っているサン・ドニから北に伸びています。 一方の6号線はパリの南西にあるシャティヨンから西へ向けて走ります。どちらも地下鉄の終点からさらに郊外に伸びており、鉄道が走っていなかった郊外と都心を地下鉄との連携で結ぶことで、パリの交通問題・環境問題を改善しようという目的があるようです。

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いずれも一部区間を乗っただけですが、5号線は途中に徐行を必要とする橋があり、普通のLRTより軽量なゴムタイヤ車両のメリットが生きているようでした。一方の6号線は写真で分かるようにかなりの急勾配があります。一部の停留場はこの勾配の途中にあるので、鉄輪式の車両では発進が難しいでしょう。ゴムタイヤ式とした理由が理解できました。

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ただし乗り心地はバスに近く、この点は鉄輪式LRTのほうが上です。レールが1本なので既存の鉄道への乗り入れもできません。最近世界各地で導入が進むBRT(バス高速輸送システム)と比べても、自在性で大きく劣ります。フランスのルーアンなど、自動運転技術を導入することでレールに近い効果を獲得したBRTもあります。

ただし輸送力の大きさではLRTはバスより優位です。車両の大きさ長さからくる存在感、レールがあるので決まった方向だけに進む安心感もバスでは太刀打ちできない部分です。私も初めて訪れる場所ながら不安なく乗ることができました。しかし現状が最良かと聞かれると断定はできません。電車とバスの中間を担うモビリティの研究は、今後もしばらく続いていくと思われます。

ル・マンはトラムも24時間

世界3大レースのひとつと言われるフランスのル・マン24時間レースを初めて観戦しました。レースが行われるサーキットは多くの場合、公共交通では行きにくい場所にあるのですが、ル・マンは2007年にトラム(LRT)が導入されたことで、数少ない例外となりました。私もトラムを使ってサーキットに向かいました。

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トラムはフランス国鉄ル・マン駅を中心に3路線が走っています。このうち3号線はバスを使ったBRTで、1・2号線が路面電車になっています。駅の南方にあるサーキットへ向かうのは1号線です。パリのモンパルナス駅からル・マン駅までは高速鉄道TGVで約1時間。駅のすぐ横にトラムの停留場があるので乗り換えは楽です。

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ル・マン24時間には2輪レースと4輪レースがあり、2輪はブガッティ・サーキットと呼ばれる専用コースで開催されるのに対し、今回観戦した4輪レースは周辺の一般道を含めたサルト・サーキットで行われます。終点のAntarès-MMArena停留場はこのサルト・サーキットの内側にあり、3分ほどで入口に着きます(上の写真の奥に入口が見えるかと思います)。

ル・マンの街にとって24時間レースは特別なイベントであり、街の各所にポスターが貼られ、レストランやショップにはレースをイメージした飾り付けがなされます。そしてトラムも「24時間仕様」になります。路線案内はレーシングドライバーのイラストが入った専用のものとなり、乗車券も同様のデザインになります。そしてレースが行われる土曜日から日曜日にかけては終夜運転が行われます。

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キャンピングカーやテントを持ち込んだ人以外は、スタートからゴールまでサーキットに居続ける人は少なく、どこかのタイミングで自宅やホテルに戻ります。長丁場ということでお酒を飲みながら観戦する人もいるでしょう。またサーキットに行ったことがある人の多くは、帰りの渋滞に悩まされた経験をお持ちだと思います。いろんな面でトラムの24時間運行はありがたい存在です。

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各時間帯の運転間隔は決まっていますが、帰り客が殺到した時間帯には次々に車両が送り込まれていました。阪神電鉄の甲子園駅を思わせる臨機応変な輸送を行っていました。またレース前日夕方には市内のジャコバン広場周辺でドライバーのパレードが行われましたが、このときはパレードのコースと重なる区間を運休としていました。

ヨーロッパにおけるトラムは、多くが都市問題の解決のために導入されています。しかしル・マンの場合はそれに加え、世界的に有名なモータースポーツ・イベントの成功を後押しする存在でもありました。自動車と鉄道を敵対関係に位置付ける人も多い中で、ここでは見事な共存が図れていました。

バスの車両改革が進まない理由

今回は昨年乗ったパリのバスの話題から始めます。パリのバスが2025年までにディーゼルエンジン車を全廃するなど、大胆な環境改革を進めていることは以前に紹介しましたが、現時点でもハイブリッドバスは各所で見かけます。

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昨年乗ったのもその1台で、ディーゼルエンジンで発電した電気で走行していました。日産ノートe-POWERやJR東日本HV-E201系に似たメカニズムですが、このメカニズムは都市環境だけでなく、利用者にとっても優しいというメリットを生み出していることが分かりました。

車内の写真を見ていただければ、後輪のさらに後ろまで床がフラットであることがお分かりでしょう。エンジンが発電に専念し、タイヤを回すのはモーターだけなので、このような構造が実現できたようです。おかげで高齢者、車いすやベビーカー利用者などのために広いスペースを用意できています。

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一方日本の路線バス車両は、多くが中扉から後方については従来と同じ構造を持つ、部分低床になっています。しかしこれは、日本のバスメーカーに技術がないからではなく、バスの運行事業者が全低床バスに興味がないわけでもないことを、先日関係者に教えられました。

日本のバス事業者は鉄道事業者と同じように、運賃収入を原資として運行しています。そのため設備投資に割く予算は限られており、車両を購入する際にも、なによりも安価であることを求めざるを得ないそうです。メーカーはその要望に沿って、可能な限り開発費用を抑えた車両しか供給できない状況とのことです。

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このブログで何度も書いてきたことですが、高齢化や過疎化が問題となっている先進諸国で、公共交通を公費で支えるという仕組みがないのは日本ぐらいです。欧米の公共交通は税金を導入した運営がなされているから、先進的なデザインやメカニズムの車両・インフラが積極的に導入できるのではないかと思っています。

日本は世界一の高齢化社会であり、地方の過疎化も進んでいます。多くのバス事業者が苦境に陥っています。このままでは近々実証実験が始まるという無人運転バスの導入もスムーズに進むか心配です。公共交通は公費で支えるという仕組みを一日も早く導入すべきであると、改めて記しておきます。

上毛電鉄で感じた交通結節点の重要性

大型連休を利用して群馬県と栃木県を日帰りで巡ってきました。その行程の中でローカル私鉄の上毛電鉄にも乗りました。西桐生駅から中央前橋駅まで通しで利用したので、いろいろな発見がありました。

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上毛電鉄は慢性的な利用客減少に悩んでいます。群馬県は人口当たりの自動車保有台数が日本一というクルマ社会であり、スバル(旧富士重工業)の開発現場や生産施設があるなど産業面でも自動車への依存度が大きい地域であることが関係しているのでしょう。

上毛電鉄はそんな中で多彩な対策を講じています。代表例がサイクルトレインです。平日は中央前橋発8時17分/西桐生発8時19分発以降終電まで、土日祝日は全列車で自転車の持ち込みができます。日本の多くの鉄道で自転車は分解あるいは折り畳んで袋に入れないと持ち込めない中、欧米流のルールを先取りした好ましい動きです。鉄道利用者のための無料レンタサイクルも一部の駅にあります。

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さらに今回乗った車両は地元の不動産業者の協賛で、車内に水族館のようなラッピングが施してありました。これ以外にも上毛電鉄では、利用区間を限定しない「マイレール回数乗車券」、65歳以上の高齢者を対象とした「寿回数乗車券」 などさまざまな対策を講じています。パーク&ライド駐車場も6駅に用意しています。

沿線には住宅が建ち並んでおり、いわゆる過疎地域ではありません。それを考えると1時間に2本という本数は少ないかもしれませんが、並行するJR東日本両毛線桐生駅はさらに少なく昼間は1時間1本です。にもかかわらず利用者数が減少の一途を辿るのはなぜか。理由のひとつに交通結節点があると感じました。

私が訪れた地方鉄道の中で、ひたちなか海浜鉄道、いすみ鉄道、福井鉄道、和歌山電鐵は再生の成功例として取り上げられることが多いですが、この4つの鉄道には共通点があります。始発駅がJR駅と直結していることです。さらに福井鉄道と和歌山電鉄の起点は県庁所在地です。一方のいすみ鉄道は終着駅で小湊鉄道という別の地方鉄道とも連絡しています。

上毛電鉄も途中の赤城駅で東武鉄道桐生線と接続しており、ここからは浅草行きの特急りょうもう号が出ています。しかし赤城駅があるみどり市は平成の大合併で生まれた都市であり、地域拠点と呼べるほどの規模ではありません。拠点となり得るのはやはり県庁所在地の前橋市、織物産業で発展した桐生市でしょう。しかし駅名で分かるように、上毛電鉄の駅はどちらもJRの駅から離れているのです。

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1928年開業当時の駅舎が残る西桐生駅はJR桐生駅から300mほどなので、多くの人が楽に歩いて行けます。JRの駅とつなげるには駅舎を取り壊す可能性も出てきます。約5km西には赤城駅もあり、そこまでして両駅をつなげる必要性は薄いという認識です。しかし前橋中央駅と前橋駅は約1km離れており、バスで移動することになります。多くの人が面倒だと感じるでしょう。

そこで前橋・桐生・みどり3市で作る上電沿線市連絡協議会では以前から、上毛電鉄をLRT化してJR駅まで延伸する計画を検討していました。ところが同会は5月8日、コンサルタントに調査を委託した結果、中央前橋〜前橋駅間でも118億円の整備費用が必要との結果を明らかにしました。

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2006年に開業した富山市の富山ライトレールは、やはりJR富山駅周辺の約1kmを路面電車化しつつ、車両や駅を含めた整備費用は58億円で済んでいます。同じ距離の整備に2倍の費用を計上したことに唖然としています。この結果を受けて前橋市長は早期のLRT化は難しいと述べていますが、上毛電鉄の存続には前橋側の結節点構築は絶対条件だと考えています。求められるのは早期の判断です。
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