THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

モビリティ

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前橋版MaaSは広報も前橋流

3年ぐらい前から日本でも注目され始めたMaaS。経済産業省と国土交通省が実証実験への支援を行うスマートモビリティチャレンジは、新型コロナウイルスの感染が拡大した今年度も実施されており、着々と展開が進んでいることを実感しますが、一方でいまだにMaaSがどんなものかわからないという声も聞かれます。

MaaSの定義は、2015年のITS世界会議で設立されたMaaSアライアンスなどがきちんと示しています。しかし日本では一部の事業者やメディアがこれをビジネスチャンスと捉え、モビリティだけでは儲からないので商店や住宅などまでMaaSの一部という扱いを始めたことが、MaaSを分かりにくいものにしてしまった原因だと考えています。

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それはむしろスマートシティに近いわけであり、スマートシティという言葉が一般的になっていくにつれ、彼らは看板を架け替えていきました。個人的には騒ぎが収まった今こそ、MaaSへの理解を深める好機であると考えています。その点で注目したいのが、来週講演を持たせていただく群馬県前橋市であることを、講演に先立ち現地を事前視察して感じました。

前橋市では国土交通省「令和2年度日本版MaaS推進・支援事業対象地域」の採択を受け、昨年12月21日から今月12日まで、前橋版MaaS実証実験として「MaeMaaS(まえまーす)」を実施しています。まず目立つのは青猫のキャラクターです。猫ブームなのでこのキャラクターにしたわけではなく、前橋市出身の詩人、萩原朔太郎の詩集のタイトルから取ったそうです。

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さらに市役所やJR前橋駅には、MaaSへの理解を求めるコーナーも設けられており、前橋市が本気でMaaSを根付かせようとしていることが伝わってきます。名前のMaeMaaSも、前橋のMaaSであることを分かりやすく示すと同時に、交通改革を前へ回す、前進させていくという意味も込めているとのことです。

MaeMaaSの特徴として、JR東日本の「ググッとぐんMaaS」をベースとして前橋市民向けのサービス提供を行うとともに、新たな移動手段を導入していることがあります。すべてを自分たちで手掛けようとせず、大企業が確立したシステムを利用したうえで最適化を図るという手法は、コストを抑えられるだけでなく信頼性の面でも好ましいものです。

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もうひとつの特徴は、市民の利用を識別するためにマイナンバーカードとの連携をしていることです。今後マイナンバーの機能が運転免許証などさまざまな分野に広がっていく中で、いち早くMaaSとの連携を果たしたことも評価できます。しかもマイナンバーを取得していない人のために、市役所には特設の窓口が設けられており、普及への熱意が感じられます。

一連の取り組みは、国内で見てきた実例の中でも、高いレベルにあると評価できるものです。その中で11日(木曜日)に予定どおり講演を行うことになりました。開催前日まで申し込みを受け付けているとのことなので、興味のある方は参加していただければと思います。当日は前橋市の方から、MaeMaaSについての解説もあるそうです。会場あるいはオンラインでお会いできることを楽しみにしています。

小さな町が自動運転シャトルを導入できた理由

新型コロナウイルスはモビリティのさまざまな分野に影響を及ぼしていますが、一方で技術開発は着実に歩みを進めています。自動運転もそのひとつです。自家用車では自動運転レベル3が認可されたことを受け、来月この技術を搭載した乗用車が市販されると言われていますが、移動サービスの分野でも各所でプロジェクトが進んでいます。

昨年末には、トヨタ自動車が2018年にコンセプトカーとして発表した自動運転シャトル「e-Palette」が、サービス提供を支える運行管理システムをオンライン発表会で公開しました。EU助成型研究開発フレームワークプログラムのシティモビル2から生まれたナビヤ「アルマ」、無印良品でおなじみの良品計画がデザインを提供したSensible4「GACHA」も世界各地で実験走行を続けています。

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こうした車両の誕生の背景や技術的な特徴について、インターネットメディア「ビジネス+IT」で記事にさせていただきましたが、中でも特筆できるのは茨城県境町の事例です。多くの自動運転シャトルがまず実証実験として導入される中、いきなり定時定路線バスとして公道での運行を始めたからです。自治体主導としては国内で初めてだそうです。

実証実験ではないので補助金や助成金主体ではなく、町ではアルマ3台の購入費用や5年分の運営費用として5億2000万円の予算を計上し、運行管理を担当するソフトバンクグループのBOLDLY、ナビヤの日本総代理店であるマクニカと契約しました。東京から50kmほど離れた、人口約2.4万人という小さな街が、なぜここまで大きな投資をできるのか。町役場に行くとヒントがありました。

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壁にはふるさと納税の金額が30億円を達成したという垂れ幕が掲げてありました。関東地方で3年連続1位、茨城県では5年連続1位だそうです。調べてみると、6年前のふるさと納税額はわずか6.5万円でした。国からの補助金・助成金獲得額もこの6年間で倍近くに増えており、それ以外に太陽光発電の売電による収益などもあるそうです。



この原動力になっているのが1975年にこの町で生まれ、2014年から町長を務める橋本正裕氏であることは間違いないでしょう。橋本町長はモビリティにも精通しており、町議会では交通分野の質問になると率先して答弁。自動運転レベルやAI、Uberなどの用語を駆使しつつ最新事情をわかりやすく説明しています。町民の多くも町長を支持しているそうです。 

橋本町長が自治体の長であると同時に、優れた経営者でもあり、町民を引っ張っていくリーダーシップも兼ね備えた人であることが想像できます。個人的に思い出したのは富山市長の森雅志氏です。プロセスの違いはあるものの、モビリティ分野に豊富な知識を持ち、日本初の事例を実現することでシビックプライドを高めていこうとする姿勢も一致しています。

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境町と富山市だけに限った話ではありません。自分が訪れた、モビリティに関して先進的な取り組みを行う自治体は多くの場合、交通に精通したリーダーやスペシャリストがいて、高い理想を掲げながら現実的な視点も持ち合わせ、卓越した実行力で課題を解決しています。そういう人材がいるかどうかでモビリティが決まるような印象さえ抱いています。 

人口減少局面にある今の日本では、地域交通の運営はますます厳しくなります。解決策のひとつとして期待できるのが自動運転です。バスのような公共交通は走行経路が一定で、スピードも遅いので、自家用車よりも自動運転が導入しやすいはずです。境町もこうした特性を理解し、いち早く導入に踏み切ったようです。今後、この自動運転バスが街をどう変えていくか。機会を見つけてまた訪れてみたいと思います。

素晴らしき飯田市ラウンドアバウト

長野県飯田市に用事があったので、以前から気になっていたラウンドアバウト(環状交差点)を見てきました。飯田市はJR東海飯田駅の東側約300mにある東和町交差点と、そこからさらに300mほど東に位置する吾妻町交差点の2か所がラウンドアバウトになっています。駅からの距離でわかるとおり、いずれも街の中心部にあります。

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2つのラウンドアバウトは歴史が異なります。吾妻町は1947年の飯田大火からの復興の際にロータリーとして設置されました。ロータリーとある通り、当時はラウンドアバウトとは違う交通ルールでした。一方の東和町は既存の交差点を2013年にラウンドアバウト化したもので、信号交差点からの転換は日本初となります。

飯田市は当初、東和町交差点のラウンドアバウト化を進めようとしましたが、当時の日本ではラウンドアバウトの知見が不足していたので、まず吾妻町のロータリーをラウンドアバウトに作り替え、2010年度に社会実験を行いました。その結果、自動車の通過速度が抑えられるだけでなく、利用者からも好意的な意見が過半数を占めたことから転換。続いて東和町交差点のラウンドアバウト化に着手しました。

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東和町のラウンドアバウト化が完成した当初は、進入時の一時停止が義務付けられていましたが、翌年、道路交通法が改正され、欧米と同じように徐行での進入が可能になりました。こうして見てくると、日本のラウンドアバウトのルール作りに飯田市が多大な貢献をしてきたことがわかります。

2つのラウンドアバウトは2018年度のグッドデザイン賞を受賞しています。当時審査委員のひとりだった私もこの取り組みは高く評価しましたが、当時は現地に足を運ぶことができませんでした。しかし今回初めて2つのラウンドアバウトを目にして、3年前に資料で見たときより、はるかに素晴らしい交差点だと実感しました。

導入されてから10年近く経っていることもあり、すべてのドライバーやライダー(2つの交差点の間には飯田郵便局があるので郵便配達のバイクも多く走ります)がスムーズに交差点を抜けていくことが確認できましたが、それ以上に感心したのが歩行者への対応です。

ラウンドアバウトは信号がないので、横断歩道を歩行者が渡る際には自動車は停止しなければいけません。日本ではこの交通ルールを守らない人が多いので気になっていました。ところが実際は、歩行者が横断歩道を渡ろうとすると、すべての車両が横断歩道の前で止まりました。ラウンドアバウト自体、日本ではあまり見かけない景色ですが、それ以上にこの交通マナーが、欧米にいるかのような気持ちにさせてくれました。

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もちろん歩行者も自動車の動きには気をつける必要があり、横断歩道にはそれを促す注意も記されていました。しかし歩行者か運転者かにかかわらず、他の交通に気をつけながら進むのは、交通安全の基本だと思います。信号の色で判断するよりも、道路を通行する1人ひとりが自分の目や耳で状況を確認し、安全かどうかを判断して通行することの大切さを、ラウンドアバウトは教えてくれます。

ラウンドアバウトは環境負荷が小さい交差点であることも報告されています。自動車がもっともエネルギーを消費するのは発進の瞬間です。飯田市の2つの交差点ぐらいの交通量であれば、赤信号からの発進回数が減らせるラウンドアバウトは、環境にも優しいのです。

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さらに環境と言えば、飯田市はラウンドアバウト整備に伴い、周囲の歩道空間を広く取り、ベンチを置き、周辺住民は花を置くなどして、公園のような景色を作り出しています。交差点でありながら広場のような場所でもあると感じました。少し前のブログで、東京やパリで道路を広場に作り変えるプロジェクトを紹介しましたが、ラウンドアバウトは地方において同じ目的を実現するための交通システムであることも確認できました。

富士山LRTへの期待

富士山の山梨県側にLRTが導入されるというニュースが今週ありました。現在5合目までを結んでいる有料道路の富士スバルラインを軌道に転換し、LRTを走らせるというものです。

この話は突然降って沸いたものではなく、山梨県では2019年から富士山登山鉄道構想検討会の理事会や総会を何度か開いてきました。今年2月8日の総会で「富士山登山鉄道構想案」が決定されたことを受け、今回の発表になったものです。検討会の議論内容は県のウェブサイトでも見ることができます。このブログもサイトの情報をもとに紹介していきます。

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LRT導入の最大の理由はもちろん環境対策です。富士スバルラインは近年は夏季にマイカー規制を実施しているので、普通車の通行は減っていますが、代わりに大型バスは増加しており、車両重量や排出ガスが環境に悪影響及ぼしているという調査結果も出ています。この点は8年前に富士山を世界遺産に認定したユネスコも指摘していたそうです。

検討会では参考例として富山県の立山黒部アルペンルートやスイスのユングフラウ鉄道などを挙げており、システムについては富士スバルラインのルートを使ったものとして普通鉄道、大井川鐵道や黒部峡谷鉄道に使われるラックレール式鉄道、LRTの3種と、5合目までを短絡ルートで結ぶケーブルカー及びロープウェーの5つを比較。その結果LRTが選ばれました。

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富士山登山鉄道構想検討会のウェブサイト https://www.pref.yamanashi.jp/chosa/fujisan_railway/fujisan_railway_study_committee.html

普通鉄道では既存の橋が重さに耐えられないこと、ラックレール式では低床型車両を作りにくいこと、ケーブルカーやロープウェイでは樹木の伐採など自然への影響が大きく、ロープウェイは強風に弱いという課題もあり、LRTに落ち着いたようです。またLRTにすれば、アスファルトの路面をそのまま残すことで、緊急車両の通行も可能というメリットにも触れています。

試算によれば所要時間は上りが約52分、下りは最高速度を40km/hから25km/hに落とすために約74分となっています。これまでの日本の発想から考えれば、所要時間が短いケーブルカーやロープウェイを選択しそうですが、そうではなくLRTに落ち着いたのは、欧州に本拠を置くユネスコの存在が大きかったのかもしれません。

スバルラインは急勾配や急カーブが多く、そのままレールを敷くのは難しいと考える人もいるかもしれませんが、現状でも最大勾配、最小曲線半径ともに箱根登山鉄道と同程度とのことです。LRTではさらなる小回りが可能ですし、ポルトガルの首都リスボンの路面電車はそれ以上の坂道を上り下りしており、この面の問題はないでしょう。

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また5合目周辺はライフラインの整備が遅れており、電気については施設ごとに発電、上水道は給水車で供給という状況だそうです。このあたりは線路に沿って水道管を敷設したユングフラウ鉄道などの例を参考に改善していく予定とのことで、それ以外もLRT導入に合わせて環境に配慮した拠点整備を進めていきたいとしています。

報道では運賃が往復で大人1万円という数字も出ており、高すぎるという意見もあるようです。とはいえ立山黒部アルペンルートを全区間利用すると8430円、ユングフラウ鉄道は現在の為替レートで往復約2万5000円です。建設費用の回収、環境対策、夏の混雑緩和、世界的に有名な観光地ということを考えれば、1万円は妥当だと思っています。検討会でも運賃を安くして多くの人に利用してもらうのではなく、利用者にも相応の負担をしてもらうスタンスを取っています。

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今後の検討事項としては、電力の供給方法、雪崩や落石の対策、噴火時の避難計画、運営方式などを挙げていますが、それとともに既存の鉄道との連携も考慮してほしいと思います。富士急行からダイレクトにLRTに乗り換えできれば、利用者にとってありがたい交通手段に映るはずです。デザインを含めて、誰もが利用したくなる山岳LRT実現を目指してほしいと思います。

コロナ禍での二輪車人気に思う

毎年1月は前年の統計がいろいろ発表されます。それを見ると、新型コロナウイルス感染拡大でモビリティシーンにもさまざまな変化が訪れたことを実感します。そのひとつに、二輪車の増加が挙げられます。東京の道を見ていても目にすることが増えたと感じていますが、数字にもそれは現れています。

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日本自動車工業会、日本自動車販売協会連合会、全日本軽自動車協会連合会が発表した2020年の新車販売台数を前年と比べると、軽自動車を除く乗用車は87.8%、軽乗用車は90.0%なのに対し、軽二輪車(125〜250cc)は127.5%、小型二輪車(251cc以上)は101.4%と伸びています。原付(原動機付自転車)の出荷台数は一種(〜50cc)が92.7%、二種(51〜125cc)が96.5%でともに減っていますが、自動車に比べると落ち込み幅は小さくなっています。

コロナ禍でパーソナルモビリティの需要が高まったことは各所で報じられていますが、自動車は車両価格や維持費が高く、すぐに買えるような乗り物ではありません。それに比べれば二輪車は敷居が低く、速達性は自転車はもちろん自動車より上です。軽二輪がとりわけ人気なのは、車検がないのに高速道路に乗れるカテゴリーであるうえに、魅力的な新型車が登場したことが大きいでしょう。

感染防止という観点でも二輪車は有利です。そもそも密室ではありませんし、シールド付きヘルメットはフェイスシールドに近い効果があります。フルフェイスのヘルメットならマスクに近い状況ではないでしょうか。さらに二人乗りの場合は前後に座り、会話にはインカムなどを使うため、自動車より安全と言えます。

とはいえ二輪車にはネガティブな要素もあります。それが表に出たのが昨年の交通事故統計です。警察庁の発表によれば、2020年の交通事故死者数は2,839人で、前年より376人少なく、統計開始から初めて3,000人を下回りました。しかし都道府県別で見ると、前年より増えた地域がいくつかあります。特に目立つのは東京都で、22人も増えて155人になり、ひさしぶりにワースト1になりました。

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警視庁のウェブサイト = https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/jokyo_tokei/tokei_jokyo/index.html

そこで警視庁の統計で死者が大きく増えている項目を見ると、歩行中が10人、自動二輪車運転中が8人、原付運転中が4人プラスとなっていました。歩行中の事故死者が増えたのは、テレワークでいつもとは違う場所を歩く人が増えたためと想像します。原付を含む二輪車運転中の犠牲者が増加したのも、コロナ対策で二輪車で移動する機会が増えた人が多かったからではないかと推測しています。

ではどうすればいいのでしょうか。長年ライダーとして過ごしてきた自分の意見は、まず不要不急の外出は避けることです。現在は病床が逼迫している地域もあるのでなおさらです。また二輪車は天候に大きく左右されます。タイヤの接地面積が小さいので、雨の日はもちろん、同じ道でも路面やタイヤが冷えているとグリップ力が落ちます。横断歩道などのペイント、マンホールの蓋を含め、注意して運転することが大事です。

体がむき出しなので、天候にも左右されます。寒い時期はどうしても体が冷え、動きが悪くなりがちです。昔と比べると今は耐寒性に優れたウェアが多く出ているので、そういうものを身につけ、車体にスクリーンやガードなどを追加すれば、快適性はかなりアップするはずで、それが安全性にもつながると思っています。そして機会があればライディングスクールで自分の技術を見直すこともお勧めします。

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以前にも書きましたが、日本は世界有数の二輪車生産国でありながら、欧州やアジアと比べると普及は今ひとつです。たしかにリスクもありますが、機動性に優れ、操る楽しさが満喫できるだけでなく、環境対策や渋滞緩和にも貢献するうえに、モビリティで重要になる「自由」をもっとも満喫できる乗り物のひとつです。コロナを機にこの世界を知った方々は、安全に留意しつつ、魅力的な移動手段を体験していってほしいと思います。