THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: ニュース

今日3月16日、北陸新幹線が敦賀駅まで延伸しました。これにともない並行在来線が第3セクターとなり、大阪や名古屋と金沢・能登地方を結んでいた特急がすべて敦賀止まりになるというマイナス面もあることは以前書きましたが、今回はプラス方向のポイントに触れたいと思います。それはシェアサイクル(今回はサービス名に近いこの名称を用います)との連携です。

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これまでの終点である金沢市には、新幹線開業前の2012年から「まちのり」がありますが、加えて2020年4月からは福井県敦賀市「つるがシェアサイクル」、昨年3月からは福井市「ふくチャリ」および石川県小松市「こまつシェアサイクル」の展開が始まりました。そして今日、福井県越前市でも導入されました。

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ボート数は、歴史の長い金沢市の78か所が他を圧倒しており、小松市は29か所、福井市は19か所、敦賀市は15か所あります。今日始まった越前市では、北陸新幹線の越前たけふ駅と、第3セクター「ハピラインふくい」武生駅の2か所でスタートしました。展開範囲ではこまつシェアサイクルが広く、小松駅から10km近くある日本自動車博物館や粟津温泉にもポートがあります。

すべてのサービスが、NTTドコモグループのドコモバイクシェアが運営するアプリで利用できることにも触れておくべきでしょう。東京23区や横浜市などでドコモのシェアサイクルを使っている人は、そのまま使えるので便利です。ちなみに金沢、小松、福井、敦賀のシェアサイクルの会員は、この土日に限り、初乗り無料キャンペーンを実施しているとのこと。新たに会員になる人も対象とのことなので、これを機会に試してみてはいかがでしょうか。

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初乗り無料キャンペーンのページはこちら(まちのり)
Tsuruga MaaS Cardのページはこちら(つるがシェアサイクル)

北陸新幹線の各駅からは、もちろん鉄軌道やバスも走っていますが、公共交通では行きにくい場所もあります。公共交通とシェアサイクルを組み合わせることで、移動の可能性が広がります。すでに敦賀市では、バスとシェアサイクルの1日乗り放題共通フリーパス「Tsuruga MaaS Card」を発売していますが、他の地域でもこのような取り組みを期待しています。

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小松市自動運転バス導入事業のページはこちら

これ以外に沿線でのモビリティのニュースでは、小松市で走り始めた自動運転レベル2のバスがあります。こちらは小松駅と小松空港の間4.4kmを結んでおり、昨年10月からの試験走行を経て、3月9日から通年運行を開始したとのことです。以前も紹介したように「乗り物のまち」としてアピールしている地に、新しい乗り物が加わったことになります。

もちろん既存の新幹線の駅にもシェアサイクルはありますが、ここまで新幹線との結びつきをアピールした例は、あまり記憶がありません。それだけサイクルシェアが日本でも浸透してきたということなのでしょう。今回延伸区間に出かけた際には、活用してみてください。

かつて私も1ヵ月間お借りしたことがあり、このブログで何度か紹介もしたトヨタ自動車の電動3輪スモールモビリティ「i-ROAD」が進化を果たしました。開発担当者がトヨタから設計を引き継いで興したスタートアップ「Lean Mobility」での市販予定車「Lean3」がそれです。会社の背景や車両の概要、簡単な試乗記などを、「東洋経済オンライン」で記事にしたので、ご興味のある方はご覧になっていただければと思います。

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i-ROADの長所も短所も知り尽くした方が手がけただけに、根本の思想は同じながら各部がアップデートされ、乗り物としての完成度は格段に高まっていましたが、それとともにビジネスの考え方も印象に残りました。Lean Mobilityは純粋な日本企業ではなく、日本と台湾のアライアンスメーカーで、すでに台湾の自動車関連企業連合から28億円の出資を受けています。来年まず発売するのも台湾で、その後日本や欧州での展開を考えているとのことです。



この話を聞いて私は、電動パーソナルモビリティのメーカーでありサービス展開も行うWHILLを思い出しました。2012年に設立されたこの会社も、翌年米国に現地法人を設立しており、最初に出資が決定したのは同じ米国の「500 Startups」というベンチャーキャピタルだったからです。

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2つのスタートアップが日本以外を視野に入れたことは理解できます。Lean MobilityのLean3は、台湾や欧州ではL5という専用のカテゴリーがあり2名乗車できますが、日本ではミニカー(原付3/4輪)登録となりひとりしか乗れないのです。一方のWHILLは、米国の電動車いす市場は日本の数十倍もあり、車いす利用者に対する意識も大きく違うことから、いち早く進出したとのことです。こうした挑戦に理解があることは、どちらもまず現地で出資を受けていることで証明されています。

日本のエンジニアリングやデザインが世界的に見てもトップレベルであることは、2つの会社の製品を見ても納得してもらえると思います。しかしそれを受け入れる社会には、明確な差があると感じています。それはルールやマーケットという、文字や数字で表せる部分だけでなく、新しいモノものやコトに対して慎重であり、かつ最初から完璧を求めるという、この国ならではのマインドも大きく働いていると思っています。

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これはスタートアップに限った話ではありません。電気自動車の攻勢が一段落し、再び注目が集まっているハイブリッド車のパイオニアであるトヨタ「プリウス」は、日本で販売が伸び悩む中、米国でハリウッドスターたちが乗り始めたことで人気に火がつき、2代目をニューヨークで初公開するなどグローバルを意識した展開を行うことで、世界に評価が広まっていったことを覚えている人もいるでしょう。

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日本が生み出したモビリティだからこそ、まず日本に導入してもらいたいという気持ちも、もちろんあります。でも我が国は上に書いたような制約があるうえに、挑戦を快く受け入れ、支援を引き受けてくれる国や地域は他に多くあります。となれば、革新的な思想のスタートアップが、まず海外に目を向けるのは当然でしょう。Lean Mobilityの今後に期待したいと思います。

今月2日、東京駅から銀座、晴海、豊洲市場などを経由して東京ビッグサイト付近に至る都心部・臨海地域地下鉄(臨海地下鉄)の運行事業者について、現在りんかい線を走らせている東京臨海高速鉄道が選定されたというニュースがありました。理由として挙げられたのが羽田空港へのアクセスで、JR東日本が昨年工事を開始した「羽田空港アクセス線」3ルートにりんかい線が含まれていることを重視したそうです。

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羽田空港アクセス線については、3つのルートが合流する東京貨物ターミナル駅にスポットを当てた記事を「東洋経済オンライン」に書きました。興味がある方は読んでいただければと思いますが、臨海地下鉄に話を戻すと、現地の交通事情にくわしい人は、2020年にプレ運行をスタートした東京BRT(バス高速輸送システム)と競合する路線であることに気づいているはずです。

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東京BRTのオフィシャルサイトはこちら
東京都「都心部・臨海地域地下鉄」事業計画案のページはこちら

たしかに両者の路線図(右の臨海地下鉄は予定)を見比べると、都心側の起点は違うものの、築地あたりから先はほぼ同じです。しかも東京BRTは2月1日、東京オリンピック・パラリンピックの選手村を改修し、今年入居が始まった「晴海フラッグ」に向かう「選手村ルート」を追加したばかりです。臨海地下鉄の発表は翌日であり、東京BRTがこの地域の公共交通としては役不足なのではないかというメッセージを感じます。

そう思える理由はいくつかあります。4年目を迎える現時点でもプレ運行とのことで、海外のBRTでは必須と言える専用レーンがなく、信号制御などによりBRT車両の通行を優先させるPTPS(公共車両優先システム)も導入されていないようです。輸送力の大きい連節バスは一部に過ぎず、起点は虎ノ門ヒルズというターミナルと言えない場所で、新橋は鉄道駅から離れた場所に停留所があることも気になります。臨海地下鉄の計画が動きはじめた中で、本格運行に向けて進化をしていくのかも疑問です。



地方では昨年、2015年と国内では早い時期に導入した新潟BRTについて、市長がBRTという名称を廃止すると表明し話題になりました。当初から乗り換えが不便などの意見が出ていたうえに、新型コロナウイルス感染症による利用者減少、そして運転士不足が重なったこともあって、専用レーンの整備を止めるなど、BRT構想そのものを見直すと、交通事業者と合意したそうです。

2つのBRTに共通しているのは、計画段階では専用レーンに言及していたようなのに、実施に移せないことです。道路は自動車のものであり、今より狭くなることは許さないというドライバーが、残念ながらそれなりにいるからでしょう。多くの歩道が狭いままで、自転車レーンが増えないのも同じ理由ではないかと、ドライバーのひとりとして悲しく思います。

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一方昨年7月に開業した芳賀・宇都宮LRTは、当初の予測を上回る利用者数を記録しているうえに、現地事情を知る人の話では、渋滞も目立たないようです。LRTはBRTに比べて整備費が高額になるので、計画段階では異論が多く出されますが、開業のかなり前に車線の減少などは終わっているので、この時点で違う道を選ぶなどの対策を取っており、運行開始で自動車からLRTに乗り換えた人が加わったので、問題なく推移してるのでしょう。

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日本の多くのBRTが、専用レーンを用意しないなど曖昧なまま導入が進んでいることは、このブログでも取り上げましたが、ここへきてその影響が出てきていると感じます。LRTは当然ながら、レールという専用走行空間を確保しているので、BRTにまつわる問題はありません。たしかに産みの苦しみはあるものの、LRTのほうが曖昧な考えの入り込む余地が少ない分、日本にふさわしい都市交通システムではないかと思いつつあります。

昨年末、日本のライドシェアに大きな動きがありました。政府が今年4月からライドシェアを部分的に解禁することを決めたのです。とはいえ全面解禁ではありません。タクシーが不足している地域や時間帯で、タクシー会社に登録した一般ドライバーやマイカーを活用する仕組みで、タクシーの配車アプリを使い、運賃はタクシーと同一。タクシー会社は登録したドライバーの研修や運行管理を行い、事故が起きた場合の対応も行うそうです。

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タクシー会社以外の参入については、すでに交通空白地などを対象とした自家用有償旅客運送制度がありますが、これでは移動問題の解決にならないという意見が多く出ていることから、6月までに法整備などの議論をまとめるよう進めていくとのことです。

例によって賛否両論が出ていますが、これまでと違うのは、単純な賛成反対の声だけではないことです。これまでライドシェアに頑なに反対してきたタクシー業界が受け入れの姿勢を示しているのに対し、ライドシェア推進派の自治体からは不満の声が上がっています。

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冒頭の文で、タクシー会社という言葉が何度も出てきたことでわかるように、4月から始まるのはタクシー会社の運営になります。もちろん事故対応などの安心感はありますが、ドライバーの登録も、展開する地域や場所も、アプリの運用もタクシー会社が行います。少し前までライドシェアに反対していた人たちが、ライドシェアを活かすような運営をできるのか、疑問に思うのは私だけではないようで、複数の自治体から法整備を迅速に行ってほしいという意見が出ています。

少なくとも自分の場合は、ライドシェアはタクシーを補完する存在ではなく、比較対象であり続けてきました。時間や運賃(ライドシェアはダイナミックプライスです)などを比べて、どちらかに乗るというパターンです。移動の選択肢が増えれば、それだけ移動が自由になります。ライドシェアもそのひとつであり、日本人が陥りがちな二者択一ではありません。今回の決定に不満を寄せる推進派の人たちも、同じような気持ちではないでしょうか。

だからこそタクシー会社以外がライドシェアを運営できる法整備を進めてほしいところですが、これまでの経緯から考えると、ここでタクシー業界が反対に回る可能性が考えられます。たしかに東京23区内であれば、現状でもタクシーが足りないわけではないので、今回の方式でもいいでしょう。しかし地方は鉄道もバスも1時間に1本ぐらい、タクシーは数台という中で、地域輸送を維持し、観光需要に対応していかなければなりません。さらなる移動の選択肢が必要です。

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ただ今回の議論で、自治体の人たちもこの移動サービスを理解しつつあるのは朗報です。国やタクシー会社より住民に近い場所にいるわけですから、住民の気持ちの代弁者として、真に地方に必要な移動を構築してほしいと思います。そして法整備が絡むわけですから、国会議員の役割も重要です。鉄道やバスでこれだけ問題が出ているのに、国会でモビリティが話題になることが少ないのは残念です。人間にとって移動は必要不可欠という考えで議論を進めていくことを望みます。

地方は運転手がいないという主張は、地方の実情を知らない人ではないかと思っています。このブログで何度か取り上げた京都府京丹後市丹後町の「ささえ合い交通」も、人口は5000人未満で、タクシー会社は成り立たず撤退したのに、ドライバーは16人います。会社員のような仕事の人が少ないので、空いた時間を使えるのかもしれません。地方で飲食店を営みたい、創作活動をしたいという若い人も、同様にして移動支援ができるので、移住促進にもつながると思っています。

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今の日本はバスもタクシーもドライバー不足です。移動が困難に感じる人は増え続けています。ライドシェアは危険だと思う人は、無理に乗ってもらう必要はありません。しかしそうではない人も多くいます。であれば選択肢を増やすべきではないでしょうか。ひとりでも多くの人が、移動が自由になったと感じてほしいものです。

トヨタ自動車が2人乗りの電動超小型モビリティ「C+pod(シーポッド)」を、今年の夏頃に生産終了すると発表しました。C+podはまず2020年12月に、法人ユーザーや自治体などを対象に販売が開始され、1年後にはリース契約による個人ユーザーへの販売もスタートしていました。昨年11月までの約3年間の累計販売台数は約2000台だったそうです。

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超小型モビリティには、自治体などがシェアリングとして運用する認定制度と、一般の乗用車と同じ型式指定の2つの展開方法があり、C+podは型式指定を取得した唯一の車種でした。つまり生産終了によって、個人が購入して乗る超小型モビリティはなくなることになります。以前からこのカテゴリーに注目してきたひとりとしては残念ですし、日本の制度設計がはたして良かったのか、改めて考えさせられました。

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超小型モビリティに似たカテゴリーは、世界各地にあります。日本が制度設計の参考にしたと言われる欧州では、L6eとL7eという2つのカテゴリーがあります。ボディサイズの制約はなく、最高出力や最高速度、車両重量でクラス分けされています。ではL1eからL5eまでは何かというと、2輪車や3輪車のカテゴリーになっています。つまり欧州の超小型モビリティは、2輪車や3輪車の派生型なのです。

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国土交通省の超小型モビリティについての説明はこちら

しかし日本では、軽自動車が存在していたこともあり、認定制度と型式指定のどちらも、軽自動車をベースとしています。欧州とはスタート地点からして違うのです。なので2輪車に比べて安全と考える欧州とは対照的に、軽自動車と比べて4人乗れない、高速道路が走れないなどのデメリットを挙げる意見が目立ちました。

しかもその後、2020年の型式指定の導入に際しては、一般の乗用車ほどのレベルではないものの衝突試験を義務付け、軽自動車と同じだったボディサイズはミニカー(原付3/4輪)と同じ、全長2.5m、全幅1.3m以下にしました。新規参入のハードルは高くなり、C+podが唯一の存在となりました。しかも厳しい規格が影響したのか、価格は166万5000円からと高価です。この数字も生産終了につながったと考えています。

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欧州の超小型モビリティの代表格と言えるシトロエン「AMI」の販売台数は、2020年4月から昨年11月までで4.3万台と、C+podの約20倍です。欧州など12カ国で販売していることもありますが、7990ユーロからという低価格を実現しつつポップに仕立てたデザインの力は大きいと思いますし、家電量販店での取り扱い、カーシェアリングでの展開など、さまざまな手法でこのジャンルを広めていこうという強い意志は、C+podを上回っていると感じます。

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日本で新たにこのジャンルへの参入を考える車両がないわけではありません。昨年秋に開催されたジャパンモビリティショーでは、いくつかのスタートアップから提案がありました。しかし型式指定を取るとなると、小さなボディで衝突試験をクリアしなければならず、価格上昇につながることが懸念されます。それを見越してひとり乗りのミニカー登録とした車両の提案もありました。

いずれにしても、こうした車種が市場に出てくるまでは、超小型モビリティの型式指定はゼロになるわけです。AMIをはじめとする海外勢も、ボディサイズや衝突安全性能の関係で、型式指定を取るのは難しいでしょう。2013年に超小型モビリティの認定制度が創設されて、たった10年ほどで制度自体が成り立たなくなりつつあることを、カテゴリーを作った側はどう考えているのでしょうか。現状に即した柔軟な対応を望みたいところです。

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