THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: ニュース

トヨタ自動車が2人乗りの電動超小型モビリティ「C+pod(シーポッド)」を、今年の夏頃に生産終了すると発表しました。C+podはまず2020年12月に、法人ユーザーや自治体などを対象に販売が開始され、1年後にはリース契約による個人ユーザーへの販売もスタートしていました。昨年11月までの約3年間の累計販売台数は約2000台だったそうです。

IMG_1916

超小型モビリティには、自治体などがシェアリングとして運用する認定制度と、一般の乗用車と同じ型式指定の2つの展開方法があり、C+podは型式指定を取得した唯一の車種でした。つまり生産終了によって、個人が購入して乗る超小型モビリティはなくなることになります。以前からこのカテゴリーに注目してきたひとりとしては残念ですし、日本の制度設計がはたして良かったのか、改めて考えさせられました。

1946435

超小型モビリティに似たカテゴリーは、世界各地にあります。日本が制度設計の参考にしたと言われる欧州では、L6eとL7eという2つのカテゴリーがあります。ボディサイズの制約はなく、最高出力や最高速度、車両重量でクラス分けされています。ではL1eからL5eまでは何かというと、2輪車や3輪車のカテゴリーになっています。つまり欧州の超小型モビリティは、2輪車や3輪車の派生型なのです。

スクリーンショット 2024-01-27 16.04.40
国土交通省の超小型モビリティについての説明はこちら

しかし日本では、軽自動車が存在していたこともあり、認定制度と型式指定のどちらも、軽自動車をベースとしています。欧州とはスタート地点からして違うのです。なので2輪車に比べて安全と考える欧州とは対照的に、軽自動車と比べて4人乗れない、高速道路が走れないなどのデメリットを挙げる意見が目立ちました。

しかもその後、2020年の型式指定の導入に際しては、一般の乗用車ほどのレベルではないものの衝突試験を義務付け、軽自動車と同じだったボディサイズはミニカー(原付3/4輪)と同じ、全長2.5m、全幅1.3m以下にしました。新規参入のハードルは高くなり、C+podが唯一の存在となりました。しかも厳しい規格が影響したのか、価格は166万5000円からと高価です。この数字も生産終了につながったと考えています。

9912

欧州の超小型モビリティの代表格と言えるシトロエン「AMI」の販売台数は、2020年4月から昨年11月までで4.3万台と、C+podの約20倍です。欧州など12カ国で販売していることもありますが、7990ユーロからという低価格を実現しつつポップに仕立てたデザインの力は大きいと思いますし、家電量販店での取り扱い、カーシェアリングでの展開など、さまざまな手法でこのジャンルを広めていこうという強い意志は、C+podを上回っていると感じます。

IMG_2928

日本で新たにこのジャンルへの参入を考える車両がないわけではありません。昨年秋に開催されたジャパンモビリティショーでは、いくつかのスタートアップから提案がありました。しかし型式指定を取るとなると、小さなボディで衝突試験をクリアしなければならず、価格上昇につながることが懸念されます。それを見越してひとり乗りのミニカー登録とした車両の提案もありました。

いずれにしても、こうした車種が市場に出てくるまでは、超小型モビリティの型式指定はゼロになるわけです。AMIをはじめとする海外勢も、ボディサイズや衝突安全性能の関係で、型式指定を取るのは難しいでしょう。2013年に超小型モビリティの認定制度が創設されて、たった10年ほどで制度自体が成り立たなくなりつつあることを、カテゴリーを作った側はどう考えているのでしょうか。現状に即した柔軟な対応を望みたいところです。

2024年最初のブログになります。今年は元日に能登半島地震、2日に羽田空港の航空機衝突事故と、年明けから大惨事が続きました。能登半島のある北陸地方は、東日本大震災の年に書籍執筆のために富山市を訪問して以降、大学の特別講義や銀行主催のセミナーなど、さまざまな形で関わってきただけに、これまでの大地震とは違う衝撃を受けています。

ただ現在は救助活動が最優先であり、無駄に動いて渋滞を助長したりするのは控えます。羽田空港の事故も、航空安全推進連絡会議の緊急声明にあったとおり、今は原因究明の最中であり、責任追及の段階ではないと判断しています。いまは亡くなった方のご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。 

令和5年中の死者数1

ところで年末年始にはこれ以外にもニュースがありました。モビリティ関連では警察庁が一昨日、昨年中の交通事故死者数の発表がありました。能登半島地震の被害が甚大ということもあり、あまり報じられていませんが、8年ぶりに前年を上回りました。しかも8年前は死者数増加は4人にすぎなかったのに対し、今回は一挙に68人も増えており、50人以上の増加は2000年以来のことです。

令和5年中の死者数4
交通事故死者数を伝える警察庁のオフィシャルサイトはこちら

さらに目立つのは、65歳以上の高齢者の死者数が減少しているのに、総数は増えていることです。具体的にどの層が増加しているかはわかりませんが、国家公安委員会委員長のコメントの中に、「子どもが犠牲となる痛ましい交通事故や、飲酒運転等の悪質・危険な運転による交通事故も後を絶ちません」という一文があり、気になるところです。

増加の理由のひとつとして思い浮かぶのが、昨年春に新型コロナウイルス感染症対策の行動制限が緩和されたことです。たしかにコロナ禍前の2019年と比べれば、死者数は減っています。しかしその前の4年間と比べると、減り幅は小さくなっています。

自動車の安全技術が進歩していることは、仕事柄多くの新型車に乗ることで体感しています。ではなぜ交通事故の死者は減らないのでしょうか。漫然運転という言葉がありますが、車両の安全性は高まっているのに、ドライバーの安全意識は逆に低下しているのではないかと感じています。

IMG_1914

東京都杉並区で昨年12月、自動車整備工場からバックで出てきた自動車が歩行者をはねたあと、道路を横切って反対側のマンションの植え込みに激突して停止した死亡事故は、多くの人が覚えているでしょう。この道は何度も通ったことがありますが、整備工場は歩道に隣接しているので、車両の出し入れは細心の注意が必要に感じます。また最新情報では、事故車両は車検がない状態だったこともわかっています。

IMG_1088

このひと月前には、同じ杉並区を走る環七通りで転倒事故がありました。こちらはアンダーパスと側道の分岐点にある障害物表示灯に激突したようです。この付近の環七通りはアンダーパスの手前で緩く右にカーブしています。表示灯の黄色いランプが交互に点灯して注意を促していますが、スマートフォンなどを見ていて気づかなかったのかもしれません。昨年はアンダーパスの南側でも同様の事故が起きています。

今回の警察庁の交通事故死者数の発表や、昨年近所で起きた2件の事故から見て、一部の自動車メーカーが目標に掲げている死亡事故ゼロのためには、車両の安全技術以上に、自分を含めたドライバーの安全意識を高めていく必要があると感じました。とりわけスマートフォンを含めた携帯電話を扱いながらの運転は、飲酒運転を思わせる動きであり、飲酒運転並みの懲罰を設けても良いのではないかと思っているところです。

2023年は特定小型原付の導入、路線バスの運転士不足、ライドシェアの議論など、例年以上にモビリティの話題が多かったと感じています。さらに前年のJR西日本の公表がきっかけとなった赤字ローカル線では、同じJR西日本の芸備線が、国が指針を示した再構築協議会で議論されることになりました。

IMG_9515

そして3月にここで取り上げた、富山県内を走るJR西日本の城端線・氷見線でも、活性化の取り組みが決まりました。 富山県では7月に城端線・氷見線再構築検討会を立ち上げ、議論を行ってきました。その結果、今週月曜日に城端線・氷見線再構築実施計画(案)がまとまったのです。内容は県やJR西日本のオフィシャルサイトで見ることができるので、興味のある方はご覧になってください。

IMG_1511
富山県城端線・氷見線再構築検討会ウェブサイトはこちら

再構築事業の実施予定期間は10年間で、事業主体はJR西日本からあいの風とやま鉄道に変わり、車両は電気式気動車などの新型車両に置き換えるとともに、24両から34両に増やし、現状で城端線42本、氷見線36本の列車本数をともに60本程度とするそうです。さらに両線の直通運転、交通系ICカード対応なども盛り込まれています。

具体的には、前半の5年で新型車両の導入や交通系ICカード対応を行うとともに事業主体を移管し、後半の5年で直通運転のための整備を進めるとのことです。費用は合計382億円で、国が128億円、県と沿線4市がそれぞれ75億円、JRが104億円を負担しますが、JRは150億円を支出するそうで、残り46億円は積み立てられる予定です。

城端線と氷見線は、2020年からLRT化の検討が始まったものの、今年3月に新型鉄道車両の導入をベースとした利便性・快適性向上という方向に転換しました。ここまでは以前のブログで取り上げましたが、その後わずか9か月で上に書いた方針をまとめたスピードには驚きました。新幹線開業に伴って並行在来線の運営のために生まれた第3セクターが、他のJR路線を引き継ぐことも画期的です。

IMG_5353

さらに車両の刷新や本数の増加だけでなく、直通運転や交通系ICカード導入まで含めているうえに、パーク&ライドの推進、街中を回遊するモビリティの整備、アニメキャラクターを活用した観光アピール(藤子・F・不二雄さん、藤子不二雄Aさんはどちらも沿線出身です)など、まちづくりにも踏み込んでおり、モビリティを真剣に考えていることが伝わってきます。

IMG_9560

内容を見ながら感じたのは、私も書籍などで触れてきた富山市の経験が生かされていることです。表面的な項目だけでなく、地域の可能性を信じた攻めの姿勢、利用者にも伝わりやすいメッセージからも感じます。富山市では森雅志前市長がリーダーとして牽引しましたが、そういう人がいなくても前に進める動きが出てきたことも感心しました。これからも富山の交通改革を注視していきたいと改めて思った次第です。

2023年のブログは今回が最後となります。今年もお付き合いいただきありがとうございました。次回の更新は2024年1月6日になります。素敵なクリスマス、良いお年をお迎えください。

フランスのパリが先月、またもモビリティに関連する新たな取り組みを発表しました。今回対象とするのはSUVで、来年2月に住民投票を行い、賛成多数が得られた場合、SUVの駐車料金を大幅に引き上げることで、市内のSUVを減らすことを目指すとのことです。オフィシャルサイトにも、住民投票が来年2月4日に行われることを含めて記してあります。

IMG_7671

パリではこれまでも、SUVなど大型の乗用車の走行を規制してはどうかという議論はあったと記憶していますが、実行には移せませんでした、それが今回、住民投票という形での実現を目指そうとしたのは、今年の4月に電動キックボードのシェアリングの是非に関する住民投票を行った経験が大きいと思っています。オフィシャルサイトにも「電動キックボードに続いて」という記述があります。

フランスに限ったことではありませんが、自動車のボディは大きく重くなり続けています。パリのオフィシャルサイトによれば、1990年には平均重量は975kgだったのが、現在は1233kgになっているそうです。つまり場所を取るだけでなく環境負荷も高くなっています。パリを含めたイル・ド・フランス地域圏では、大気汚染により毎年平均7900人の早期死亡が発生しているというWHOの報告もあります。

IMG_7702
パリSUV住民投票についてのオフィシャルサイトはこちら

すべてのSUVが規制の対象になるわけではなく、ガソリン/ディーゼル車とプラグインを含めたハイブリッド車は車両重量1.6t以上、電気自動車は2t以上が対象になります。昨年秋にパリで撮影した写真を見返すと、東京に比べれば大型のSUVは少ないので、大混乱にはならないでしょう。もともとフランス車は、日本車やドイツ車に比べて小柄で軽量の車種が多く、対象となる車種は少なめです。そのあたりも見込んでの規制かもしれません。

付け加えれば、SUV規制はパリが2024〜30年に進める気候変動対策のための自動車規制のひとつに過ぎません。これもオフィシャルサイトに書いてありますが、歩行者や自転車のための空間確保はさらに進められ、来年開催予定のオリンピック・パラリンピックでペリフェリーク(環状道路)とイル・ド・フランスの高速道路に用意される関係車両優先レーンは、大会終了後は公共交通と相乗り車両の専用レーンになり、環状道路の最高速度は70km/hから50km/hに引き下げられるそうです。

IMG_7757

さらに2026年までに、市内に300ある学校に面した通りを歩行者専用化していく計画もあるようです。こちらは環境対策とはあまり関係ありませんが、日本でも通学中の子供が交通事故に遭うニュースをひんぱんに目にしているだけに、ちょっとうらやましいと思える決定です。やはりこれからも、パリのモビリティは注視していく価値があるとあらためて感じました。

仕事で東京の地下鉄を利用したときのこと。乗り換え駅にこんなポスターが貼ってありました。ウーバーです。タクシーと共存していくという意味を込めつつ、わが国でのライドシェア解禁を見据えた明確なメッセージに、思わず足が止まってしまいました。いよいよ日本でもライドシェアが認可されるかもしれないという気持ちが、さらに強くなりました。

F_bOW1ca0AAme20

ただし東京は現時点でタクシー不足とは感じないので、ライドシェアが必要なのは、むしろ地方や観光地だと思っています。このうち地方では、すでにタクシーとの共存を目指した、いくつかの先行事例があります。

header
やぶくるのオフィシャルサイトはこちら

まずは国家戦略特区に選ばれたこともあり、マスコミで紹介されることが多い兵庫県養父市の「やぶくる」です。導入は2018年で、このブログで何度か取り上げた京都府京丹後市「ささえ合い交通」同様、交通空白地自家用有償旅客運送の制度を活用していますが、京丹後市と違うのはウーバーなどのアプリは使わず、電話受付としており、タクシー会社が対応していることです。電話口で「やぶくるお願いします」と言って必要事項を伝えれば、手配してくれるそうです。

続いて紹介するのは、徳島市で介護福祉サービスを展開するイツモスマイルが、町営バスが廃止された同県神山町で展開する「まちのクルマ」です。利用者はマイナンバーカードで登録後、電話あるいは同社開発の地域アプリ「さあ・くる」で予約。運賃は1乗車8000円を上限として85%を神山町が補助し、残りの利用者が負担するそうです。タクシーと自家用有償旅客運送を共同運行することも特徴。IT企業のサテライトオフィス進出、今年度グッドデザイン賞金賞を受賞した高等専門学校の誕生などで、全国的に注目されている町ならではの取り組みだと思っています。

5d8b99df9d3b4a176eb945de70a9c56e7e4376ddのコピー
まちのクルマのオフィシャルサイトはこちら

最後は同じ徳島市の電脳交通が、二種免許保有者を対象に、空いた時間に副業でタクシー乗務員をしてもらう実証実験「スポドラ」です。一般ドライバーが対象ではないですが、副業でできるところはライドシェア的です。電脳交通の技術を使い、需要ピークの時間帯だけ勤務してもらう 形で、副業人材を受け入れたいタクシー事業者と求職者をマッチングするとのことで、横浜・埼玉エリアで来年1月9日まで実施するそうです。

スクリーンショット 2023-11-25 21.28.28
スポドラのオフィシャルサイトはこちら

最近の日本は、2つの事象を対立軸に置いて議論するのが好きなようで、タクシーとライトシェアもそういう関係に当てはめる人がいます。しかし私は、タクシーとライドシェアは共存ができると思います。なによりも移動の選択肢が増えるのは好ましいことです。今回紹介したように、共存の道を探っている事例もあります。モビリティ(移動可能性)という言葉に沿った内容で、ライドシェアが導入されてほしいと願っています。

このページのトップヘ