THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

カテゴリ: コミュニケーション

あけましておめでとうございます。本年もTHINK MOBILITYをよろしくお願いいたします。

2023年最初のブログは、フォーラム出演のお知らせからです。1月24日(火曜日)16時から17時50分まで、内閣府と神奈川県が主催し、警察庁、文部科学省、厚生労働省、国土交通省が後援する「令和4年度交通安全フォーラム」に、パネリストのひとりとして出席することになりました。

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今年度のテーマは「新たなモビリティに対応した交通安全対策」で、パンフレットにあるように電動キックボードなどが対象になる予定です。当日の模様はYouTubeでライブ配信されますので、YouTubeが視聴可能で当日時間に余裕のある方は、ご視聴いただければと思います。



電動キックボードと言えば、昨年秋に訪れたパリでも多くの人が乗っていました。こちらについては昨年末、インターネットメディア「東洋経済オンライン」にまとめさせていただきました。こちらもご覧になっていただければと思いますが、以前のブログで紹介した自転車走行空間の急拡大が、電動キックボードの安全性も高めており、ゆえに乗る人が増えたのではないかと感じました。

とはいえ課題があることも記事で触れたとおりで、来月に予定されているシェアリング業者との契約更新を打ち切るかどうかという話まで出ているようです。今日あらためて現地のメディアを調べたところ、逆に規制に反対する意見も多く出ており、現時点では結論が出たという内容の記事は確認できませんでした。



パリではアンヌ・イダルゴ市長が2年前に「15分都市」、具体的には2024年までに誰もが(つまりマイカーに頼らず)会社や学校などあらゆる都市機能に15分以内でアクセスできる都市を目指すと宣言しています。そのためには公共交通のひとつと言える電動キックボードシェアリングは重要と主張する人も多くいるようです。

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24日のフォーラムでは、こうした話題も提供したいと考えています。個人的には記事にも書いたように、新たなモビリティは移動の多様性という意味でも受け入れる立場です。こうした観点に、パリでの経験も踏まえて、日本でもこうした乗り物が安全快適に走ることができるよう、他の参加者の方々とともに考えていきたいと思っています。 

今回はひさしぶりに趣味的な目で乗り物を取り上げたいと思います。今週日曜日にフランス車が集まる「フレンチブルーミーティング」にオーナーとして参加し、6日後の今日はヤマハ発動機のモーターサイクルが集まる「ヤマハモーターサイクルデー」を取材したからです。

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自動車や二輪車を趣味として捉えない人にとっては、このようなイベントが開かれる意味すらわからないかもしれません。しかし乗り物にはそもそも、乗って楽しむという側面があります。たとえば鉄道趣味には「乗り鉄」というジャンルがあります。加えて自動車や二輪車、自転車では自ら操る歓びも加わります。ゆえにいまなおデザインやメカニズムなどを含め、趣味の対象とする人が多くいます。

しかも大量に販売されている車種なら、情報に恵まれており、整備を行う場所も潤沢ですが、数が少ないとそうとも言えなくなります。2021年のデータで言えば、正規輸入のフランス車の新車販売台数はは全ブランドを合わせて約2.7万台で、ヤマハの原付(126cc以下)を除く台数は約3.1万台と、偶然にも近い数字ですが、このぐらいの台数になると、日本の道路を走る車両の中では少数派と言えるでしょう。

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よって自然とオーナーの結びつきが強まり、それがイベントに発展するのではないかと考えています。実際フレンチブルミーティングはそのような経緯で、1987年に始まりました。一方送り手の側からそういう場を用意したのが、2018年にスタートしたヤマハモーターサイクルデーです。新型コロナウイルス感染症の影響で、リアル開催はどちらも2019年以来3年ぶりとなりました。

こういう場で得られる情報は、趣味的な話題に留まりません。自分の愛車を安全快適に走らせるという知識も、ベテランのオーナーとの交流から得ることができます。最近はインターネットであらゆる情報を仕入れることが可能ですが、それらは玉石混淆です。そんな中で実際に同じ車種に乗る人の経験談は、なによりも信頼できる情報になるのです。

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イベントにはもうひとつ観光面での貢献もあります。フレンチブルーミーティングが長年行われてきた長野県の車山高原、ヤマハモーターサイクルデーが開催された山梨県のふじてんリゾートは、いずれもスキー場として有名であり、冬季には多くの人が詰めかけますが、それ以外は観光客はさほど多くありません。でもこうしたイベントを開催すれば、オフシーズンでも集客が可能になります。

今年のフレンチブルーミーティングでは、これまでメイン会場となっていた広いグランドが再開発のために使用不可となり、車山高原の他の駐車場を使いつつ、新たに愛知県蒲郡市のラグナシアにも会場を設け、3年前から行っていたオンラインを含めた3つの舞台を用意しました。このうち車山高原では今年も、車山高原観光協会や信州綜合開発観光が協力しています。宿泊だけではなく食事や買い物など、さまざまな部分で収入につながることを評価しているからではないかと思います。

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公共交通でも、蒸気機関車が牽引する臨時列車を走らせたり、車両基地を公開したりといった動きがあります。ここで紹介したフレンチブルーミーティングやヤマハモーターサイクルデーも、乗り物そのものの魅力を堪能するという点では一致しているのではないでしょうか。そして結果的にはそういう気持ちが、デザインの洗練や技術の進化に結びつくのではないかと期待しています。

このブログで名古屋市の基幹バスを取り上げた直後の9月7日、国土交通省が「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の 導入に関するガイドライン」を策定しました。わが国におけるBRT(バス高速輸送システム)は、曖昧な解釈のまま導入事例が増えつつあり、わかりにくくなっていることも事実です。今回のガイドラインはその点を定義化したものであると期待し、目を通してみました。

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結果的にはとても残念な内容でした。ガイドラインではBRTの定義として、「走行空間、車両、運行管理等に様々な工夫を施すことにより、速達性、定時性、 輸送力について、従来のバスよりも高度な性能を発揮し、他の交通機関との接続性を高めるなど利用者に高い利便性を提供する次世代のバスシステム」としています。これだけ見た人は、国土交通省の定義なので納得するでしょう。しかしグローバルでのBRTの定義はかなり違います。

ITDPオフィシャルサイトのBRTページ

BRTにくわしい米国の研究団体ITDP(交通開発政策研究所)によると、BRTは高速、快適、費用対効果の高いサービスを大容量で提供する、バスをベースとした高品質の輸送システムとしており、専用レーン、他車の影響を受けにくいレーン配置、車外での運賃収受、他車の転回禁止などの交差点制御、バス停と車両の段差・隙間解消の5点をを挙げています。

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しかし国交省のガイドライン全体版では、BRTに求められる性能や構成要素は示しつつ、具体的な指針はありません。日本らしいと言えばそれまでですが、概要版は少しわかりやすくなっていて、現時点で国内に導入されている事例を4グループに分類し、専用走行空間、連節バス、PTPS(公共車両優先システム)、高頻度・快速運行などの言葉が並んでいます。

国土交通省ウェブサイトのBRTガイドラインの説明

2つの内容を比べて気づいた人もいるでしょう。グローバルでは鉄道のような車外での運賃収受まで取り入れて速達性や定時性を追求しているのに対し、日本ではなぜかグローバルの定義にはない連節バスが入っています。連節バスはたしかに大量輸送を可能としますが、乗り降りに時間がかかるので、車外での運賃収受が重要になります。MaaSを使えば簡単に実現できますが、その点への言及は見当たりません。

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国交省のガイドラインには、国内のBRT導入箇所として28の実例が紹介してあります。大船渡線・気仙沼線BRTやひたちBRT、名古屋市基幹バスおよび名古屋ガイドウェイバスなど、このブログで紹介してきた好ましい例も入っていますが、一方で3分の2以上にあたる20の事例は連節バス導入となっており、バスレーンもPTPSもないのに連節バスがあることでリスト入りしているような事例が数多くあります。

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最初に書いたように、BRTはバス高速輸送システムの略であり、バスに鉄道並みの定時性や速達性を与えることが最大の目的です。連節バスの導入は二の次です。個人的にそれを実感したのが、バリ郊外を走るTVMという路線です。新交通システムの実験線をBRTに転用したもので、全ルートが専用レーンなので写真のように、道路が渋滞していても定時性・速達性を維持しています。これが本物のBRTの姿であることを、覚えておいてほしいと思います。

以前もお伝えしたとおり、今週は石川県金沢市の北國銀行本店でセミナーを担当させていただきました。参加者および関係者の皆様には、この場を借りてお礼を申し上げます。今回はセミナーの前後に、関係者の方々と何度か意見交換をする機会にも恵まれました。ここではその意見交換の中で出てきた、この言葉を取り上げたいと思います。

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交通分野ではこの言葉は、2000・2001年に福井県を走る京福電気鉄道越前本線が相次いで正面衝突事故が起こったことを受け、国土交通省から運行停止や事業改善が命じられたことを指します。京福電鉄は改善の余力がないとして、三国芦原線ともども廃止届を提出します。当時の福井では、鉄道はなくてもいいという考えの人もおり、反対意見はさほど目立ちませんでした。

ところが実際に鉄道が止まると、代行バスでは通勤通学客を運びきれないうえに、移動をマイカーに切り替えた人もいて、自転車が使えない冬季には道路はマヒ状態となり、多大な社会損失を招きました。福井駅周辺にはJR西日本以外に福井鉄道福武線も走っており、こちらは運行を継続していたので、多くの住民が鉄道の有無による明確な差を痛感したようです。

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そこで県では鉄道再生に向けて舵を切りました。京福電鉄の県内路線は第3セクターのえちぜん鉄道勝山永平寺線および三国芦原線として生まれ変わり、その後経営が厳しくなった福井鉄道も、同様の体制で再出発を図りました。さらに両鉄道ともに新設計の低床型車両が投入され、相互乗り入れも始まりました。おかげで減少が続いていた利用者は底を打ち、上昇に転じました。

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一連の話は福井の方からは聞いていましたが、金沢で耳にするとは思いませんでした。言葉の奥に、金沢を同じ状況に陥らせてはいけないという危機意識を感じました。この地域の鉄道やバスを運行する北陸鉄道は、北陸新幹線開業後の観光客増加で黒字経営が続いていたものの、新型コロナウイルス流行で状況が一変。現在の状況が続けば運行に支障をきたす恐れもあると危惧していたようでした。

負の社会実験を経験した福井、コンパクトシティの軸として公共交通を整備した富山と比べると、金沢はマイカーがあれば充分と考える人が多いとのことです。しかし高校生や高齢者など、公共交通を使う人は少なくないはずです。加えてコロナ禍が収束すれば増えるであろう国内観光客は、多くが鉄道や飛行機で石川県入りするので、そこから先は地域交通が頼りです。

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今回のセミナーには、こうした状況も関係していると感じました。理想を言えばやはり欧米のように、税金や補助金を主体とした運営体制への移行でしょう。しかし国のルールが急に変わることは望めないわけで、さまざまな知恵を絞って支えることが急務であり、そのひとつとしてMaaSを位置付けたことに好感を抱きました。北陸最大の都市が交通改革に目覚めるか。これからも興味を持って見守っていきたいと思っています。

今回はひさしぶりにセミナーのお知らせです。2月17日の14時から、石川県金沢市の北國銀行および北國総合研究所が主催し、北國新聞社の後援で開催される経営者セミナー 「MaaSが地方を変える ー地域交通を持続可能にする方法ー」で、講師として登壇することになりました。 場所は金沢駅西口駅前の北國銀行本店ビル3Fメインホール、参加は無料です。

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実はセミナーのタイトルは、昨年9月に発売した拙著とまったく同じです。北國銀行の方が「MaaSが地方を変える ー地域交通を持続可能にする方法ー」を読んでいただき、直接連絡をくださったことが、セミナーに結びつきました。出版社の了解ももらったので、このタイトルでの開催になりました。

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銀行が地域交通をテーマにするのは珍しいと思うかもしれませんが、地方銀行には地域経済の発展を後押しするという役目もあります。私もかつて、地方銀行協会の研修会でワークショップを開いた経験があります。とりわけ北國銀行はコンサルティング業務も積極的であるうえに、デジタルにも精通していることから、地域交通事業者にさまざまな形で支援や助言を行っているそうです。

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今週、北國銀行本店で事前の打ち合わせを行いました。北陸の地域交通というと富山県や福井県が取り上げられることが多く、石川県は輪島市のグリーンスローモビリティはあるものの、県庁所在地である金沢の交通改革はあまり目立たないという印象でした。しかしながら最近は、北國銀行をはじめこの分野に積極的な事業者のあと押しもあり、改革の機運が出てきたとのことです。

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申し込み期限は2月10日。経営者セミナーとありますが一般の方の参加も可能です。 新型コロナウイルス感染拡大中でもあり、開催方法は変更する場合もありますが、日時は確定しています。当日は出版後の最新情報の紹介、金沢の地域交通についての提案もできればと考えています。近隣の方々のご参加をお待ちしております。よろしくお願いいたします。

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