THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

メディア

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カフェはまちづくりに欠かせない

新型コロナウィルスの感染拡大が止まりません。モビリティ分野では毎年この時期に行われるジュネーブモーターショーが開催3日前になって突然中止になるなど、世界的に混乱が続いています。そんな状況下ではありますが今週、週刊東洋経済と東洋経済オンラインにカフェの記事を書いたので、今週はこのテーマを選びました。

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モビリティやまちづくりが専門の人間がなぜカフェの記事を書いたのか。それはカフェが人の移動に不可欠な存在であり、まちづくりの一部だと考えているからです。先週触れた「歩いて暮らせる街」という表現にあるように、都市内では乗り物を降りて徒歩移動となることが多く、歩き疲れれば当然休憩したくなるし、その街で他人と待ち合わせることもあるでしょう。さらに移動途中に仕事をこなしたい場合もあります。そんなときにまず思い浮かぶのがカフェです。

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カフェはたしかに飲み物を提供する場でもありますが、同時に時間と場所を提供する場でもあります。カフェ文化が発達した都市のひとつであるフランスのパリでは、「一杯のコーヒーで何時間粘れるか」というフレーズさえあります。なので飲み物や食べ物の味はもちろん、店のデザインや雰囲気など、長い間心地よく過ごせる空間も大事で、これもモビリティやまちづくりに通じる部分だと感じています。





そのためにはやはり、個性的な独立店は重要な存在ですし、チェーン店であってもその土地に合ったデザインが欲しいところです。写真で紹介するのはスイスのシオン、米国ポートランド、我が国の東京新宿と富山のカフェです。いずれも周囲の風景や都市のキャラクターに配慮しつつ個性を表現したつくりで、街の名脇役と言える存在感を放っていました。

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さらに言えばこの4つのカフェは、公共交通で簡単にアクセスできます。シオンは無人運転シャトル、ポートランドではライトレールが背後に映っていることがお分かりでしょう。富山のカフェがある公園は富山駅から自転車をシェアして数分、新宿は駅西口からすぐの場所にあります。逆にマイカー移動なら車内でコーヒーを飲めますし打ち合わせもできるので、カフェの存在感は薄くなります。公共交通にとって大切なパートナーでもあるのです。

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今は世界各地で外出を控える状況にあり、カフェに積極的に足を運ぶような雰囲気ではなく、営業する側は大変な状況であることが想像できます。だからこそ感染が収束したら、またひんぱんに利用していきたいと考えているところです。またこれからモビリティやまちづくりに関わる人には、ぜひカフェの存在も頭に入れていただきたいと思っています。 

MaaSの本を書いた理由

2年ぶりに書籍を出すことができました。今回はモビリティ業界で話題になっているMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)がテーマです。このブログでも紹介した、昨年秋のフィンランドスタディツアーが契機であることはたしかですが、当時は本を出そうという気持ちにまでは至りませんでした。

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その気持ちが変化したのはまず、MaaSがモビリティの一大革命のようなものではなく、私が長年追いかけてきた欧州の公共交通改革の延長線上にあることを知り、しかも発祥の地であるフィンランドでは構想から導入まで10年の歳月をかけ、じっくり進めてきていたからです。

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ビジネス系メディアを中心に、 MaaSに関するニュースが連日のように届きます。こうした速報では書籍はインターネットにかないません。そこで個々のトピックを紹介するより、ストーリーとして綴っていこうとしたのです。

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MaaSと同じフィンランド生まれのノキアの携帯電話を長年愛用してきており、現地の情報通信産業の知識も少し持っていたことや、スマートフォンを使ったモビリティサービスのパイオニア的存在である米国ウーバーの取材を体験したこと、国内外の自動車メーカーとつながりがあり、無人運転シャトルの実験に注目してきたことも、書籍化を決意する理由になりました。これらはすべて、MaaSと関係があったからです。

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本書ではMaaSをまちづくりのためのツールのひとつと位置づけています。この点はモビリティと同じで、それ自体が目的にならず、手段のひとつであるべきと考えます。昨今のインターネットの情報は玉石混交で、MaaSをビジネスツールと捉えたり、モビリティそのものをMaaSと呼んだりする例も目にします。これがMaaSを分かりにくくしているのも事実であり、フィンランドで習得した真のMaaSの姿を伝えるには書籍のほうが効果的だとも考えました。

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「MaaS入門〜まちづくりのためのスマートモビリティ戦略」は学芸出版社から7月25日発売。価格は2300円+税で、書店やAmazonなどで販売しています。多くの方に手にとっていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

MaaSの独自解釈を危惧する

メディアの言うことは信じないでほしい。2018年9月にMaaSの調査のためにフィンランドを訪れた際に、現地の担当者が口にした言葉です。MaaSがさまざまなメディアで取り上げられていく中で、記者や編集者が本来の概念を勝手に書き換えた結果、当初の定義からかけ離れた例を見ることが、たしかに我が国でも多くなりました。

MaaSのルーツは2006年にフィンランドにあり、6年後にMaaSという言葉が考え出され、2014年に公の場で初めて発表。2015年にはMaaSアライアンスというグローバルな組織が形成され、翌年MaaSアプリの代表格であるWhimが生まれています。それぞれの場面でMaaSの概念は明確に記されています。にもかかわらず2019年の日本で、その概念を自在に書き換えようとする行為がメディアを中心に目立っています。

MaaS英国プレゼン

特定の交通に関するスマートフォンのアプリを開発すれば、それがMaaSだという人がいます。本来はモビリティではないショッピングやレストランの情報もMaaSに不可欠という人がいます。多くは利用者の立場ではなく、提供者側の都合で語っている感じがしています。ちなみに欧州では2018年、自動車メーカーBMWとダイムラーがモビリティサービス部門の統合を発表しましたが、発表資料でMaaSに言及しているのは1部門だけで、MaaSの概念をわきまえていることが伝わってきます。

個人的にはこのブログでも何度か触れたBRTに似た雰囲気を感じています。 BRTはバス高速輸送システムと訳されるのが一般的で、専用レーンの確保などにより定時性を高めるところに最大の目的がありますが、日本には連節バスの導入がBRTであると勘違いしている事業者があり、専用レーンの準備を後回しにしたことで、BRTそのものの評価を下げた例が存在します。タイの首都バンコクでも、写真のように完璧に近いBRTを導入している事実を知ってほしいところです。

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そもそも日本には「○○銀座」や「小京都」など、トレンドとなっている場所にあやかる命名は多く存在します。MaaSも今、トレンドワードなのかもしれませんが、MaaSではないものをMaaSと称することが、本来は明確な概念であるMaaSを分かりにくくしている要因ではないかと思います。なによりも利用者の立場になって発言してほしいと考えています。

もうひとつ気になるのは、本来は公共的な概念であるMaaSという表現を、特定の事業者が私物化しようとする動きです。たとえば首都圏で鉄道事業などを展開する小田急電鉄は2018年12月、ヴァル研究所やタイムズ24、ドコモ・バイクシェア、WHILLとともに、システム開発やデータ連携、サービスの検討を相互に連携・協力していく「小田急MaaS(仮称)」の検討について合意したと発表。自社名を冠したことに賛否両論が巻き起こりました。

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同社はその後、小田急MaaSという言葉をあまり使わなくなりましたが、今月にはヴァル研究所とともに、鉄道やバス、タクシーなどの交通データやフリーパス・割引優待などの電子チケットを提供するためのデータ基盤「MaaS Japan(仮称)」を共同で開発すると発表。ニュースリリースにはMaaS Japanは小田急電鉄が商標出願中であると記されています。

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類似の表現は国土交通省がすでに使用しています。昨年10月から今年3月まで開催した「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」の中間とりまとめには「日本版MaaS(Japan MaaS・仮称)」という言葉が出ています。国の組織がこの言い回しを使うのは納得できますが、民間事業者が似たような言葉を商標出願までする行為には疑問を抱きます。

MaaSは数百兆円規模のマーケットになるという算出もあり、現在の日本は新規ビジネスという部分にばかり注目が集まっていることを危惧しています。MaaSは本来、都市や地方の不特定多数の移動者がより快適に、より便利に移動するための概念です。このことを今一度心に留めてほしいと思っています。

蒸気機関車が走り続けるために

蒸気機関車(SL)を取り上げるのは、このブログで初めてだと思います。今年1月、鉄道専門誌「鉄道ジャーナル」の取材で、関東地方で蒸気機関車を営業運転している東武鉄道と真岡鐵道の整備現場を訪れ、関係者に話を伺いました。その内容は今月21日発売の鉄道ジャーナル5月号に掲載していますが、いま蒸気機関車を走らせるには多くの苦労があることを教えられました。

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まずは独特の構造です。蒸気機関車は石炭などを燃やして水を温め蒸気を作り出し、その蒸気でピストンを動かして車輪を回し走ります。現在の鉄道で使っている電車や電気機関車、ディーゼルカーやディーゼル機関車とはまるで内容が違います。東武鉄道では2年前に蒸気機関車を復活させるにあたり、機関士は経験がある事業者に研修に行ったそうです。整備面でも電気や内燃機関で走る車両とはまったく違う知識と技能が必要とされるので、勉強と訓練は欠かせません。

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手間の掛かる構造であることも分かりました。真岡鐵道では運転の翌日だったこともあり、各部の掃除を行なっていましたが、一週末の運転だけで石炭カスがバケツ一杯になるほど出てくるのに驚きました。これ以外の部分も電気や内燃機関で走る車両とは桁違いのメインテナンスが必要であり、もちろん電子制御など入っていないので、人間の力と技に頼る作業になります。現場の苦労を思い知らされました。

さらに日本で作られた蒸気機関車は、改造で生まれた形式を除けば、第2次世界大戦直後までに製造されています。つまり若い車両でも約70歳です。当然ながら部品の交換は必須になります。東武鉄道ではある部品に亀裂が生じたため、JR北海道が所有する保存機関車の部品と交換したそうです、現在東武鉄道が走らせている機関車もJR北海道から借り受けているのでスムーズに話が進んだとも言えるわけで、会社が異なれば違った結果になったかもしれません。

もうひとつ2つの現場を訪れて感じたのは、企業規模の違いが現場の違いに現れていることでした。東武鉄道は最近になって蒸気機関車を復活したこともあり、検修庫は広くきれいで、真岡鐵道との差を感じました。しかし1両の蒸気機関車に掛かる手間は同等です。他の鉄道車両にも言えることですが、中小事業者のほうが負担は大きいと感じました。

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いま蒸気機関車を走らせるのは、技術遺産の継承とともに観光目的という部分が大きく、モビリティとは直接関係はないかもしれませんが、蒸気機関車の運転によって多くの観光客が訪れ、それが地域活性化につながることは確実であり、東武鉄道も真岡鐵道も運行の理由に挙げていました。しかし中小の事業者ほど、事業運営に占める比重は大きくなるのもまた事実です。

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日本で蒸気機関車を運行している鉄道事業者は、年に一度会合を開き情報交換などを行うそうです。このコミュニティを発展させ、運転士の育成から部品の手配までを一体化してはどうかと思いました。機関車はすべて元鉄道省/国鉄の機種であり、共通項は多いのではないかと想像します。多くの人に感動を与える裏で、並外れた苦労があることを知った今、オールジャパンの体制で支えていっても良いのではないかという気持ちを抱きました。

ちょっと変わった「自動運転本」出しました

久しぶりに本を出すことになりました。写真でお分かりのとおり自動運転に関する書籍で、4年前の超小型モビリティの本と同じ秀和システムから、来週火曜日9月12日に発売となります。すでにAmazonなどでは予約を受け付けています。価格は1500円(税抜き)です。

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自動運転に関する書籍は多く出されていますが、本書はタイトルにもあるとおり、自動運転の導入によって社会はどうなるか?にフォーカスを当てている点が、やや違うのではないかと思っています。 歴史や技術の解説もしていますが、単なる技術書や経営書ではなく、もっと広い視野での「自動運転社会」を想像しながら、専門的にならず分かりやすく書いたつもりです。

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国内外の数多くの自動運転・無人運転に接してきた結果思ったのは、自動運転にはソーシャルとマーケティングの2つの側面があることです。個人的にはその中で、ソーシャル面を大事にすべきという結論に至りました。よって本書では自動車メーカーの自動運転とIT企業などが主導する無人運転車に同じ比重を置いています。どちらが勝つかではなくどちらも選べることが、安全快適な社会を作るからです。
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もうひとつ、自動運転の基礎技術はほぼ確立しており、そろそろ「どう作るか」から「どう使うか」に考えをシフトすべきと感じています。世界各地で普及しているライドシェアが、10年前に登場したスマートフォン前提のサービスであることを思い出してみてください。自動運転をより便利なものとするためには、ソフト面の発展が大切であると考えています。

このように一風変わった自動運転本ですが、気になった方はぜひお求めいただければと思っています。よろしくお願いいたします。