THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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ソニーはモビリティの本質が見えている

2022年も3ヶ月が経過しました。この間のモビリティ分野での話題のひとつに、ソニーグループの動きがありました。まず1月に米国ラスベガスで開催したCES(家電見本市)で、2020年に続いて2台目となる電気自動車のコンセプトモデルを公開するとともに、新会社ソニーモビリティの立ち上げをアナウンスすると、3月には本田技研工業(ホンダ)との間で戦略的提携に向けて基本合意しました。

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この2つの出来事について、インターネットメディア「ビジネス+ IT」で記事を書かせていただきました。興味がある方はお読みいただければと思いますが、まず私は1月の発表を聞いて、ソニーは自分たちだけでゼロから自動車を開発するわけではなく、既存メーカーなどと組むだろうと予想していました。




自動車産業は長年、垂直統合型のものづくりが主流でした。これからもその手法は残るでしょう。しかしソニーも関わるICTの分野では、水平展開のものづくり、自社工場を持たないファブレス方式などが一般的になりつつあり、近年は自動車業界にもそれが浸透しつつあります。

たとえばグーグルの自動運転部門が独立したウェイモは、当初こそ車両も自社開発しようとしましたが、その後は既存の自動車メーカーの車両に自動運転技術を搭載し、自動運転タクシーの商用運行などに発展しています。車両はクライスラーやジャガーなどが使われているようですが、多くの人は「ウェイモの自動運転車」と呼んでいます。ソニーもこのスタイルを目指すものと思われます。

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SC-1共同開発についてのヤマハ発動機のニュースリリースはこちら

しかもソニーにはモビリティ分野での経験があります。ヤマハ発動機と共同開発したソーシャブルカート「SC-1」、タクシー配車アプリ「S.RIDE」、ニューステクノロジーとの連携による車内および車窓サイネージサービス「GROWTH」「Canvas」などです。ホンダが初の提携相手ではないわけです。さらに言えば、イメージセンサーは先進運転支援システム(ADAS)やドライブレコーダーでお馴染みになっています。

記事ではこれらが将来、ホンダとの連携で生まれる自動車などに搭載されるだろうと書きました。すると昨日、ソニーグループはソニーモビリティの設立を発表。モビリティ向けサービスプラットフォームの開発および事業化とともに、SC-1事業の展開、S.RIDEへのサポート継続を明記しました。現在のデジタル分野のものづくりなどを見れば、自分以外にもこうなるだろうと予想した人は多いはずです。

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昨日の発表で驚いたのは、事業展開の中に自律型エンタテインメントロボット「aibo(アイボ)」が含まれていたことです。ゲームや映画、音楽とともに移動時間を盛り上げてくれる存在になるのか、高度なロボティクス技術を自動運転の移動サービスや物流サービスなどに発展させていくのか、興味が湧きます。

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ソニーモビリティ株式会社設立のニュースリリースはこちら

CESでの発表がコンセプトカーの公開を兼ねていたので、ソニーが自動車を作るという部分だけに注目する人もいたようですが、同社はもっと広い目でモビリティシーンを見ており、自分たちの技術を移動に役立てたいというメッセージを感じます。移動可能性というモビリティ本来の意味に近いビジョンであり、あらためて注目すべき会社のひとつであると感じました。

日立駅が愛される理由

新型コロナウイルス感染症の影響で鉄道利用者が減少しています。当然ながら新たな投資も難しいと察していますが、以前も書いたように、これを機に量から質への発想の転換を図り、乗ってみたくなる車両、使ってみたくなる駅を提供することもまた大事と考えています。そんな気持ちから、建築家が手がけた鉄道車両と駅舎をテーマに、東洋経済オンラインで記事を書かせていただきました。ここではその中から、建築家の妹島和世氏デザイン監修のJR東日本常磐線日立駅を紹介します。

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日立駅は太平洋の海岸近くにあります。ほぼ南北に伸びるホームの上に駅舎があり、駅舎の端から東西に自由通路が伸びています。西側が中央口、東側が海岸口です。現駅舎の供用開始は2011年4月。2005年に、日立駅の橋上化を含む日立駅周辺地区整備構想がまとめられ、それに基づき整備されました。これ以外に駅南端に周辺の工場通勤者向けの橋上口があります。

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中央口はバスターミナルがある駅前広場につながっており、出入口脇には情報交流プラザ「ぷらっとひたち」、コンビニなどが並ぶ「まちステーション日立」もあります。妹島氏は駅舎のデザイン監修のほか、これら駅周辺全体の空間設計も担当したとのことです。一方の海岸口側は海に突き出すように通路が伸び、先端は展望デッキになっていて、脇にはカフェがあり、近くにはピアノも置いてあります。



とにかくほぼ全面ガラス張りの作りに圧倒されます。ほとんどの場所で太平洋が望めます。記事でも触れましたが、やはり同氏がデザイン監修した西武鉄道の特急用車両「ラビュー」、同じ建築家の西沢立衛氏とのユニットSANAA(サナア)による金沢21世紀美術館との共通項を感じます。SANAAがデザインしたFlower(フラワー)と呼ばれる花の形のベンチが置かれ、機能本位になりがちな駅に暖かさや柔らかさを添えているところも見逃せません。

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カフェや駅ピアノ、情報交流プラザなど、列車に乗り降りする以外の機能を取り入れたところも感心しました。駅がまちの顔であり、人々が集う場であるというメッセージが伝わってきます。一方で東日本大震災では震度6強という強い揺れに見舞われたにもかかわらず、翌月には供用開始したという逞しさも備えており、頼れる駅でもあるという印象を利用者に与えたのではないかと思います。

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この駅が各方面から高い評価を受けるようになったのは、もちろん妹島氏の才能によるところが大きいですが、同時に彼女が日立市出身であることも外せないでしょう。良さも悪さも知り尽くしているからこそ、海が見えるまちの素晴らしさをストレートにアピールすることで、市民が誇りを持ち、全国から注目してもらえる都市になってほしいという思いが伝わってきます。自分のような外からの目線も大事ではありますが、現場を熟知した人には勝てないということを痛感しました。

*来週は夏休みとさせていただきます。次回の更新は8月28日になります。

信用乗車は日本でも根付くか

栃木県宇都宮市及び芳賀町で2023年春に開業予定のLRT「宇都宮ライトレール」については、先月のブログで車両を紹介しましたが、その後、宇都宮市や宇都宮ライトレールに話を聞く機会にも恵まれました。詳細は今月21日発売の鉄道専門誌「鉄道ジャーナル」に掲載していますので、気になる方は購読していただければと思いますが、今回はその中から、乗車方式について取り上げます。

このブログでも触れたことがある信用乗車がそれです。欧米のLRTでは一般的になっている方式で、乗務員が運賃の収受を行うのではなく、利用者が自主的に車内の端末にICカードなどをタッチし、決済を行うというものです。

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宇都宮ライトレールに使われる車両は全長30m近くと、日本の路面電車車両では最大級です。3両編成で扉は片側4か所あります。しかし乗務員はひとりだけです。従来の日本では、広島電鉄の一部車両のように車掌を乗務させる場合を除き、乗務員がいるいちばん前の扉から降りていました。これでは多くの扉を持つメリットを生かせず、大型車両なのでむしろラッシュ時には遅れの原因になります。

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そこで宇都宮ライトレールでは、大型車両を導入すると決めた当初から、現金決済は従来どおり、いちばん前の扉で降りてもらうスタイルを受け継ぎつつ、ICカード利用者はすべての扉で乗り降りできるよう、扉の脇に乗車用と後者用の2つの端末を用意しました。

本音を言えば、欧米のように現金利用者とカード利用者で運賃に大きく差をつけることで、カード利用に誘導したいところですが、日本では反対意見が多く出ることも予想されます。現金決済の利用者には従来どおりの対応をしつつ、カード利用者にプラスアルファのサービスを提供するのは、日本の現状に見合った手法だと感心しています。

しかもカードはJRのSuicaと互換性を持つ一方、高齢者や障害者向けの福祉ポイントなども用意されるという地域連携型で、開業に先駆けて今年3月に路線バスに導入しています。従来の磁気カードからの置き換えを前提としたためもあり、現時点でバス利用者の8割が使用しているそうです。この状況から考えれば、信用乗車はスムーズに浸透していきそうです。

どの扉でも降りることができるメリットは、乗降性向上以外にもあります。それを先日、広島に行った際に理解しました。広島電鉄では一部車両で、降車時のみ全扉を使えます。車両は宇都宮ライトレールより短く、扉は片側2か所なので、前から降りても不便ではなかったのですが、停留場によっては後ろの扉から降りる人がけっこういました。

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理由は停留場の立地にありました。路面電車の停留所は前端あるいは後端が横断歩道に接しており、降りた人は横断歩道を使って街に出て行きます。この横断歩道の接続が後ろ側だと、後方から降りる人が多いのです。宇都宮ライトレールは車両が長い分、こうした使い分けをする人が増えそうです。さらに車両が長くなる通常の鉄道のワンマン運転にも導入すれば、メリットはより大きくなるでしょう。

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懸念があるとすれば、やはり日本は無賃乗車をした際の罰金が安すぎることでしょう。宇都宮ライトレールは地域路線なので、ある程度は周囲の目が働くことは想像できますが、無賃乗車は過失というパターンは少なく、ほとんどは故意なので、個人的には欧州レベルの高額な罰金を用意すべきだと考えます。まだ開業までは2年近くあるので、その間にこの課題を詰めていくことを希望します。

コロナ禍でも注目「ニアミー」とは

新型コロナウイルスの影響で移動が制限されたり、移動の機会が減少したりする状況が続いていますが、一方でウィズコロナを見据えた新しいモビリティサービスも生まれています。そのひとつがニアミー(株式会社NearMe)が展開する「スマートシャトル」です。

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ニアミーという名前を初めて目にした人もいるでしょう。2017年に東京で創業した同社はまず、タクシーの稼働率を上げるべく利用者と車両をマッチングするプラットフォーム提供を開始しました。日本の法律では、タクシー事業者による乗合(相乗り)は許可されていません。そこでニアミーでは旅行会社としてタクシーに乗りたい人を事前にマッチングし1台に乗ってもらう形をとりました。

続いてこのプラットフォームを使い、成田空港と都内15区の指定場所を結ぶ空港シャトルをスタートします。ところがコロナ禍で空港需要が止まります。この状況を見て同社は空港向けの仕組みを使って公共交通の密を回避し、タクシーにも有益になる仕組みとして通勤シャトルを提案。東京都内で6月にトライアルを開始、翌月本格導入したのです。

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短期間でサービスを立ち上げ軌道に乗せただけでなく、コロナ禍で需要が減ると、逆に需要がありそうな分野に同じ技術を転用していく。ニアミーの大胆かつ柔軟な展開は以前から注目しており、代表取締役社長の高原幸一郎氏にテレビ会議で取材を行い、インターネットメディアの「ビジネス+IT」で公開しました。

そこでも一部書きましたが、その後も同社は展開を広げており、通勤シャトル導入と同時期には福岡県で、トヨタ自動車の工場と福岡空港や県内指定エリアを結ぶシャトルの実証実験を始め、7月からは空港シャトルを羽田空港および那覇空港にも導入。9月にはJAL、JTB上海、「乗換案内」でおなじみのジョルダンとの連携を次々に発表しました。今月は総額5億円もの資金調達を完了しています。



私自身は通勤電車や路線バスは感染の可能性が高いとは思っていません。現実にこの半年間利用を続けてきましたが感染はしていません。なので通勤の必要があっても通勤シャトルは使わないし、空港へは鉄道を利用するでしょう。ニアミーもJALという大量輸送サービス会社と連携しているわけですから公共交通を否定しているわけではなく、移動の選択肢を増やしているのだと理解しています。

そのなかで感心するのはタクシーという既存の交通機関を活用し、1台のタクシーに多くの人を乗せることで、以前から厳しい状況にあったタクシーの経営改善を図ろうとしていることです。さらに高原社長は取材で、今後は日々の移動に困っている地方の高齢者にもスポットを当てていきたいと語ってました。この点にも期待を寄せています。

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地方はタクシー会社があっても数台というところが多く、移動者の生活サイクルは似ているので利用が集中しがちという話を聞きます。1台で多くの利用者が移動できるシャトルサービスは有効でしょう。ただ逆にまったく利用者がいない時間帯が存在するのも事実であり、旅行会社としての登録なら白ナンバー車両も使えるはずなので、持ち前の柔軟性を生かした地域モビリティ構築を望んでいます。

自動車工場のために鉄道駅を作る意味

新型コロナウィルスによって人々の移動のあり方が大きく変化していることは、このブログでも何度か記してきました。公共交通での感染を恐れ、マイカー利用に注目が集まっていることにも触れました。私自身は感染拡大後もしばしば公共交通を使っているものの感染には至っていないので、長時間でなければ問題はないと思っていますが、中には不安を抱く人はいるでしょう。

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そんな中で東武鉄道東上線が10月に開業する、埼玉県寄居町のみなみ寄居駅は異例と言えます。副駅名がホンダ寄居前とあるように、西側に隣接する本田技研工業(ホンダ)埼玉製作所寄居完成車工場のために作られる駅で、設置費用はすべてホンダが負担しているからです。この件については東武鉄道、ホンダ両社に取材した記事を東洋経済オンラインに掲載し、多くの方に読んでいただきました。

自動車メーカーも現在は多角化が進んでいますが、メインのビジネスは今も自動車を作って売ることです。それを考えると自動車工場のために新駅を作るのは矛盾していると思う人もいるでしょう。従業員が全員マイカー通勤をしてくれれば、その分売り上げが伸びるのですから。



ただこれは企業視点での考え方です。両社の話を聞いてみると、社会視点での決断であることがわかります。具体的に言えば寄居工場の西側を走り、多くの従業員や物流などの車両が通る国道254号線の渋滞を懸念したのです。町にとって大企業の工場があることは税収や地域活性化など有利な面もありますが、渋滞が恒常化すれば住民の生活に影響を及ぼしてしまいます。

しかもホンダでは同じ埼玉製作所の狭山完成車工場を、来年をめどに寄居に集約することを発表しています。また寄居工場にはホンダのマザープラントとして、先進的な生産技術をいち早く試し、世界に伝えていくという役割も持たされています。今後これまで以上に多くの人々がここを訪れる予定で、それを見越して以前から話し合いを進め、今年秋の開業に漕ぎ着けたのだと思っています。
 
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この記事はYahoo!ニュースにも掲載されました。コメント欄をチェックしていて気づいたのは、ホンダらしいという言葉が多かったことです。筆者もなんとなくホンダらしい取り組みであるとは感じていましたが、コメントでは具体例を挙げていたので納得しました。

中でも印象的だったのは創業者の本田宗一郎氏が生前、「クルマ屋のおれが葬式を出して大渋滞を起こしちゃあ申し訳ない」と言ったことを受け、社葬は開かず「お礼の会」としたエピソードで、ホンダのウェブサイトでも紹介しています。自動車メーカーだからこそ渋滞を出してはいけないというメッセージは、今回の新駅の設置理由にもつながるものです。

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記事では最後に物流面について、ドイツの自動車メーカーが完成車や部品の輸送を再生可能エネルギーを使った鉄道輸送に切り替えたことにも触れました。ホンダもそうですが、すべてを自動車で賄おうとせず、公共交通のメリットも認め、行動に移す姿勢に感心します。社会との共生という視点で考えれば、移動や物流における自動車と公共交通の連携は重要というメッセージと受け取っています。