THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

まちづくり

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TOKYO 2020の年を迎えて

今年最後のブログなので、来年開催される東京オリンピック・パラリンピック関連の話題を取り上げます。東京五輪ではマラソンと競歩が札幌開催に変わるという波乱もありましたが、先日新国立競技場が完成するなど、パラリンピックを含めて準備は着々と進んでいるようです。それとともに会期中の交通対策の検討も進んでいることが、TOKYO 2020のオフィシャルサイトを見ると分かります。

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その内容について、世界を代表するメガシティでの開催という点で共通する2012年ロンドン大会と比較をまじえながら、自動車メディアMOTAで執筆しました。詳しくは記事を見ていただきたいのですが、ロンドンの公共交通は他の多くの欧州都市と同じようにロンドン交通局が一括して運営しているうえに、同じ組織が道路交通も管轄するという優位性はあります。またロンドン大会では観戦チケットに公共交通の1日乗車券が付いていました。これは東京でも実現してほしいサービスです。

一方で東京にも強みはあります。そのひとつが首都高速道路です。欧州の都市は一般的に首都高速のような道路は持たないので、ロンドンでは一般道路の一部をオリンピック・ルート・ネットワークに指定し、専用レーンや優先レーンなどを用意して対処したそうです。首都高速は有料であり、交差点がなく、歩行者や自転車が通らないので、交通のコントロールがはるかにしやすいことは誰でも予想できます。個人的にも首都高速の活用には賛成します。

組織委員会では一般道路で大会前の交通量の10%減、首都高速は競技会場が集中したり通過交通が多く混雑したりする重点取組地区とともに30%減を目指しているそうです。ところが今年の夏に行った実験では、一部の入口閉鎖や料金所ゲート制限、環状7号線内側の一般道の通行制限などの規制を行ったうえに、企業などに混雑緩和に向けた取り組みのお願いをしたにもかかわらず、結果は約7%減に留まりました。

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この数字、移動者のほうにも原因があると思っています。今年、関東地方を相次いで襲った台風で、交通事業者が計画運休を発表したのに、出勤しようとする人々で各地の駅が大混雑しました。事前に運休が分かっているのに会社に行く。あるいは出社を命じる。こうした考え方が来年も引き続き残るようでは、どんな素晴らしい対策を行っても混乱は間違いないでしょう。

ロンドン大会のモビリティマネジメントは多くの人が評価していますが、資料を調べると、1日乗車券の用意や自転車レーンの整備などに加え、多くの住民がオリンピック・ロード・ネットワークの存在を理解し、約150万人がテレワークに切り替えたという記録が残っています。多くの人々が、選手や関係者とは違う形で大会に参加しようという気持ちだったのではないでしょうか。東京大会のモビリティシーンもこのような雰囲気になってほしいと願っています。

*次回は2020年1月11日更新予定です。良いお年をお迎えください。

人が主役の神戸都心まちづくり

先月は浜松、富山、そして神戸で講演があったので、短時間でしたが各都心を散策してきました。今回は12月8日まで開催されたグッドデザイン神戸展で訪れた神戸の都心・三宮に触れます。当日は神戸市役所の方々も多く来ていただき、情報交換の中で再整備を進めていることを教えていただきましたが、実際に三宮からウォーターフロントの会場に向かう道でも、いくつか発見がありました。

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まずはJR神戸線三ノ宮駅通路に掲げられていたイラストから紹介します。今は下の写真のように広い車道が交わる交差点を、歩行者中心の空間「三宮クロススクエア」に生まれ変わらせる計画があるようです。歩行者空間にはBRTあるいはLRTが乗り入れ、トランジットモールを形成する様子が描かれています。日本の大都市の中心部がここまで歩行者優先というのは例がなく、実現すれば画期的な場になることは間違いありません。

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一部の道ではすでに改革が実行されていました。メインストリートのフラワーロードに並行して三宮からウォーターフロントに伸びる「葺合南54号線」では、車線や停車帯を減らし、車道は細くカーブさせることで自動車の速度を落とす一方、新たに生まれた空間を歩行者のために配分していました。広がった歩行者空間にはベンチも置かれ、憩いの空間になっていました。

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グッドデザイン神戸展の会場だったデザイン・クリエイティブセンター神戸は「KIITO」という愛称が示しているように、1927年に輸出生糸の品質検査を行う施設として作られた建物を用いています。隣には同じ1927年に完成した神戸税関もあり、長い歴史を持つ港町らしい趣のある地域でした。いずれも三宮からは1km近い距離がありますが、だからこそ単なる歩道ではなく、休みながら目的地を目指すことができるこのような道はありがたいと思いました。

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三宮へ乗り入れる既存の鉄道にも動きがあります。新幹線新神戸駅と六甲山北側の神戸電鉄谷上駅を結ぶ北神急行電鉄が、来年から神戸市営地下鉄と一体化されます。これまでも列車の乗り入れはしてきましたが、来年からは運賃も一体となるので、谷上〜三宮駅間は大幅値下げになります。さらに阪急電鉄の神戸三宮駅周辺が地下化され、地下鉄と乗り入れる構想もあります。実現すれば市北西部のニュータウンから大阪まで乗り換えなしで行けることになりそうです。

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神戸市は近年人口減少に悩んでおり、2015年には福岡市、今年は川崎市に抜かれました。前述の交通網整備はそれが理由であることは明らかですが、一方で都心ではタワーマンションの規制に乗り出すなど、闇雲に発展を目指しているわけではないようです。むしろ三宮周辺の動きを見ると、暮らしやすさ、居心地のよさを第一に考えている感じを受けます。「人が主役のまち」を目指す神戸の動きに、これからも注目していきたいと思います。

日本のモータウン再興に期待

前回の富山と順序が逆になりましたが、今回は2週間前に特別講座のために伺った浜松について感じたことを書きます。特別講座の会場は静岡文化芸術大学。浜松駅から1.2kmほどの場所なので、前回訪れたときは徒歩で向かいましたが、今回は路線バスを使い、帰りは大学の先生方と歩いて駅を目指しました。

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そのときに気付いたのは、歩道の広さでした。浜松市は以前からユニバーサルデザインに注力しており、大学周辺は2000年の開学に先駆けて区画整理事業が行われたためもありますが、車道に対して歩道が広く取ってあり、土地勘がない自分のような人間でも安心して歩くことができました。

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今回の特別講座では隣の磐田市に本社があるヤマハ発動機デザイン本部長の長屋明浩氏に同席していただきました。また浜松市に本拠を置くスズキの方々にも参加していただきました。この2社は、先月から今月にかけて開催された第46回東京モーターショーで、ともに歩道領域の電動パーソナルモビリティを展示したことでも共通しています。

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新しいモビリティを導入するためには、一定条件での実証実験が必要です。もちろんその後、本格的な導入につなげていくことが大切ではありますが、車両の製造企業が地元にあり、ふさわしい道路もある浜松は、歩道領域の電動パーソナルモビリティの実証実験を進めるのに最適なフィールドではないかと思います。

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この種のモビリティは個人所有のほか、たとえば東京や名古屋から静岡文化芸術大学に行きたいが足腰が弱く歩く自信がないという人などのために、シェアリングの可能性も考えられます。幸いにして浜松市などで鉄道やバスを運行している遠州鉄道は、小田急電鉄が今秋サービス開始したMaaSアプリ「EMot」を導入しました。これのサービス範囲をパーソナルモビリティにも広げれば、浜松市内での行動範囲がさらに広がることでしょう。

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もちろんこれは大手メーカーに限った話ではありません。浜松市は第二次世界大戦直後、多くの二輪車メーカーが誕生したことから日本のモータウンと言われています。現在も関連企業が多く存在しており、技術力を生かして車いすの製造などを行っています。スモール&スローなモビリティに注目が集まる今だからこそ、豊富なものづくり経験を持ち、走らせる場にも恵まれた浜松で、普及に向け先陣を切ってほしいと、久々にこの街を訪れて感じました。

富山路面電車南北直通が意味すること

最近のブログでも紹介してきたように、先週末から浜松、富山、神戸の3箇所で講座を持つ機会に恵まれました。参加していただいた方には、この場を借りてお礼を申し上げます。今回はその中から、2011年に書籍「富山から拡がる交通革命」を執筆以来6度目の訪問になる富山から、富山駅周辺の最新情報をお届けします。

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上の写真で、2015年の北陸新幹線開通と同時に駅下に乗り入れを始めた市内電車の富山駅停留場の奥が、明るくなっていることがお分かりでしょうか。富山では2006年、廃止が議論されていたJR西日本富山港線が第3セクターの富山ライトレール運営によるLRTに生まれ変わりましたが、この計画時点で富山駅南側を走る富山地方鉄道の市内電車(富山軌道線)との直通運転を行う構想はありました。それが実現に近づきつつあるのです。

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市内電車の富山駅停留場が営業を開始した頃、在来線のホームはまだ地平にありました。そこでまずこれらのホームを高架化し、続いて市内電車と富山ライトレールの線路をつなげるというプロセスで工事が進んでいます。合わせて従来は地下だった南北連絡通路も地平になり、かなり楽になりました。富山ライトレールの富山駅北停留場は仮設ホームになっていましたが、直通後は撤去され、新幹線ホーム下の停留場に統一されることになります。

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また今年5月には、富山ライトレールと富山地方鉄道が合併し、富山地方鉄道が存続会社になることを発表しており、10月には運行ルートと運賃が明らかになりました。富山ライトレールの電車はすべて市内電車に乗り入れ、朝のラッシュ時は市内電車の終着駅まで直通運転。昼間は環状線への直通運転も行います。そして運賃(大人)は現金が210円、ICカードが180円で据え置かれます。つまり単なる直通運転ではなく、欧米の都市交通のような運営と運賃の一元化が実現するのです。

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地元の人に話を聞くと、環状線開通以来にぎわいが戻ってきている中心部の繁華街は、富山ライトレール沿線から乗り換えなしで行けることになるわけで、お客さんの増加が期待できるとのことでした。逆に市内電車沿線の住民が、富山ライトレール沿線の観光地にスムーズに行けるメリットもあります。いずれの場合も余計な出費はありません。これは沿線の企業や学校、公園など多くの施設について言えることです。市民の行動範囲が拡大し、まちが活性化することは間違いありません。

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富山ライトレールの成功を機に、福井では路面電車の改革が実行に移され、利用者増加などの効果を上げています。宇都宮ではLRT新設の工事が始まり、岡山では富山と同じようにJR線転換の動きがあります。しかし先駆者である富山は、さらに一歩先を目指そうとしていることがお分かりでしょう。やはりこの都市の交通改革からは今後も目が離せません。

電動キックボードを自由に乗るために

海外では自由に走れるのに日本では法律上認められない乗り物やモビリティサービスはいくつかあります。米国発祥の電動キックボードのシェアリングはそのひとつです。ちなみに米国ではこの乗り物をe-scooterと呼ぶことが多いですが、日本で電動スクーターというと二輪車のスクーターの電動版を指すことが多いので、ここでは電動キックボードという呼び方をします。

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厳密には日本でも電動キックボードのシェアリングは存在します。そのひとつが、さいたま市や千葉市で展開しているWINDです。写真は埼玉高速鉄道の浦和美園駅に配備してあるものです。他の多くの国の電動キックボードと異なるのは、原付のナンバープレートや灯火類がつき、ヘルメットが袋に入って用意してあることです。つまり日本では原付扱いとなるのです。もちろん運転免許は必要になりますし、交差点での二段階右折などのルールも適用されることになります。

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訪れたのは平日の日中ということもあり、借りる人は見られませんでした。原付免許を持っている人はそれなりにいると思いますが、ヘルメット装着には抵抗を感じる人が多いのではないでしょうか。実際、ヘルメットが不要な電動アシスト自転車が普及したことで、原付の販売台数が大幅に減少していることはご存じのとおりです。 

海外では電動キックボードは厳格な規制がなく、自由に借りて乗ることができます。その結果歩行者と接触したり、車両が無造作に放置されたりという問題が出ており、パリでは歩道での走行を禁止するルールが作られたりしています。これに限らず海外は、まずは挑戦し、問題があれば修正するというプロセスが多いと感じています。一方日本は既存のカテゴリに当てはめようとし、無理なら許可しないという方針が目立ちます。成功の賞賛より失敗の非難を重視する今の風潮とリンクしているような気がします。

少し前のブログで紹介したように、今週は京都府のけいはんなオープンイノベーションセンター(KICK)で開催された「ネクストモビリティExpo2019」に参加してきました。この席で、以前から「小さな交通」に取り組んできた建築家・都市構想家で東京大学名誉教授の大野秀敏先生が興味深い提案をしました。道路を時速6kmまで、20kmまで、それ以上という3つの車線に分け、それぞれに該当する乗り物を走らせるというプランです。

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このうち歩行者や電動車いすなどが通行する6kmゾーンと、自転車や電動キックボードなどが走る20kmゾーンは一定の幅を確保するとしており、道幅が狭くなればそれ以上のゾーンが消え、自動車も20km制限になるという内容でした。車両の速度制御については、現在販売している自動車の運転支援システムにも、道路標識を読み取って走行速度を制御する仕組みが実現しているので、難しい話ではないはずです。路上の監視カメラでチェックする方式もあるでしょう。

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ネクストモビリティExpo2019の会場では、「オムニライド」と呼ばれる独創的なパーソナルモビリティの体験試乗もできました。自動車や鉄道に比べれば規制が緩いこのカテゴリーは、創造性にあふれた新しい乗り物が次々に出ています。もちろん電動キックボードもそのひとつです。こうした車両をひとつひとつ認可するか否かを検討していくという、我が国の今の体制は果たして正しいのか。もう一度多くの人が考えてほしいところです。