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モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

まちづくり

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宇都宮LRTのプロモーションに感心

2022年に開業予定の栃木県宇都宮市・芳賀町LRT(宇都宮ライトレール)については、このブログでも何度か取り上げてきました。昨年5月に工事が開始していますが、昨年暮からはプロモーション活動がいままで以上に活発になってきました。

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まず紹介するのは、今年1月に発行されたLRT START BOOKです。導入予定車両のデザインとカラーをかたどった小冊子で、電車の乗り方、路線図、所要時間、運賃、交差点での信号表示、バリアフリー対策、バスターミナルや駐輪場を併設したトランジットセンター、 LRT導入の理由、収支予測、西側への延伸予定、車両寸法と乗車定員などが、イラストともに分かりやすく解説してあります。

またひと月前の昨年12月には、起点となるJR東日本宇都宮駅の東西自由通路で、ラッピングシートによるLRT情報発信が始まりました。小冊子ほどではありませんが、こちらも主な情報を分かりやすく掲示してあり、人通りが多い場所ということもあり、足を止めて見る人が多くいました。なお上記2つは宇都宮市のウェブサイトでダウンロード可能なので、気になる方はアクセスしてみてください。

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その宇都宮市では、以前から市役所1階ホールでLRTのプロモーションビデオを流すなどしていましたが、先日訪れた際には、工事情報を記したパンフレットを置いてもいました。地図とともに工事期間や時間などを示してあり、バスやマイカーなどで現場周辺の道路を使う市民にとっては有益な情報でしょう。

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宇都宮市LRTのウェブサイト = https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kurashi/kotsu/lrt/index.html

いずれのプロモーションにも共通するのは、「雷都」と呼ばれるほど雷が多い土地にちなんだシンボルカラーの黄色を効果的に使い、洗練されたグラフィックと目立つコピーで分かりやすくまとめてあることです。少し前から宇都宮市ではLRTへの理解を深めてもらうべく、ビデオやパンフレットを作成してきましたが、今回はデザイン面でも評価できるレベルで、手法も多彩であり、注目度は上がりそうです。

それ以外の情報発信も積極的です。7月31日には宇都宮地域における「地域連携ICカード」を利用した IC乗車券サービスの提供について、地元の協議会とJR東日本が合意しました 。LRTやバスをJR東日本のIC乗車券Suicaで乗れるだけでなく、高齢者割引などの行政サービス導入も検討しているそうで、MaaSのひとつとしても注目できます。LRT開業前年の2021年に導入される予定で、JR東日本によれば地域連携ICカードを利用した地域交通事業者への具体的なサービス提供に向けた初のケースになるそうです。
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宇都宮市にはこれまでLRTのような公共交通が走ったことがないので、市民に対してさまざまな説明が必要となりますが、それを過剰にならず、地味にもならず、スマートな手法で周知していこうとする姿勢は好感が持てるものです。地域連携ICカードの導入など、乗りやすく使いやすいLRTにしていこうという姿勢も伝わってきます。公共交通導入前のプロモーションデザインとしては優れた部類に入るのではないかと思っています。

団地の活性化は交通次第

少し前のことになりますが、また団地に行ってきました。今回訪れたのは千葉市美浜区の幸町団地。ここは1969年入居開始で、都市再生機構(UR)では以前紹介した松原団地とは異なり、当初からある建物をリニューアル。一部は子育て世帯仕様としてエレベーター設置なども行っています。

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現地を訪れると、建物の壁や入口、案内板などがきちんとデザインしてあって、これからも魅力あふれる住宅地であり続けていこうという気持ちが伝わってきました。また歩行者用の道が広くとってあり、自動車が通り抜けできる道路は中央に1本あるだけで、暮らしやすそうな街にも感じました。
 
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それだけに交通が不便に感じました。団地の南西側を走るJR東日本京葉線は、稲毛海岸駅と千葉みなと駅のちょうど中間で、最寄り駅がありません。この近くにはもともと貨物ターミナル駅があったことが関係しているためかもしれませんが、貨物駅は2000年に廃止しており、跡地には大型商業施設が複数作られ、賑わいの場所にもなっています。

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京葉線は新習志野〜海浜幕張駅間の、イオンモール幕張新都心や千葉運転免許センターがある付近に新駅を作ることが決まりましたが、団地の活性化だけでなく周辺の商業施設の足として、この付近にも駅が欲しいと思いました。また大型商業施設は線路を隔てて団地の反対側にあるのに、団地の両端の道路まで回って行かねばなりません。地下道などでのアクセスを望みたいところです。

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バス(ちばシティバス・あすか交通)は総武線・京成千葉線稲毛駅や総武線千葉駅、京葉線千葉みなと駅を結んでいますが、直線距離で1キロに満たない千葉大学がある西千葉駅行きは平日朝の数本のみです。すでに大学では一部の部屋を留学生向けシェアハウスとして提供しているそうですが、交通が密になればさらなる連携が展開が期待できるのではないでしょうか。とはいえバス事業者は経営的に厳しいところが多く、首都圏とはいえ地方のような補助金などでのバックアップが必要と思われます。

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幸町団地のある場所は平坦なのでベビーカーや車いすの利用も苦にならず、緑にあふれた心地よい環境でした。それだけに駅の新設やバス路線の見直し、商業施設へのアクセス改善などで、スタイリッシュな外観にふさわしいスマートな移動が実現できそうです。東京都心のマンション価格が高騰を続ける中、再び郊外居住にスポットが当たりそうな気配であり、こうした地域のモビリティは重要な要素になるのではないかと予想しています。

モビリティは票になるか

参議院議員選挙の選挙戦が繰り広げられている今週、朝日新聞京都版の記者の方から現地の地域交通事情の説明を受けたうえで、今後に向けての意見を求められました。内容は記事に掲載されたので、京都の方はご覧になったかもしれません。

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出来上がった紙面を見ながら感じたのは、日本でもモビリティが国政選挙の争点のひとつに取り上げられるようになってきたということです。これまでも自治体の首長や議員の選挙では話題になりましたが、国会議員の選挙でこのように取り上げられるのはあまり記憶にありません。

それだけ今の地方の交通事情が厳しいということであり、今年の春以降、相次いで報道された高齢ドライバーによる交通事故報道も関係していると思います。高齢ドライバーの事故ばかり取り上げることに批判の意見もありますが、地方の交通事情の課題を浮かび上がらせることには貢献したと思っています。

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京都府は縦に長く、南寄りに位置する京都市は面積では府の2割弱にすぎないですが、人口は過半数を占めます。裏返せば、以前このブログで取り上げた京丹後市をはじめ、多くの地域が過疎化や高齢化に悩んでいます。

京丹後市を紹介したときに書いたように、京都には交通に精通した担当者がいたことが、多くの交通改革につながっています。新聞記事では久御山町や宇治市の取り組みが紹介されていますが、それ以外でも笠置町・和束町・南山代村を走る「相楽東部広域バス」、福知山市三和町の「みわ ひまわりライド」など、積極的な策を打ち出しています。

しかし京丹後市を訪れた感想を言えば、財政や人材に余裕がなく、ギリギリの状況でもあります。その窮状を身をもって感じ、国に伝えるためにも、地方選出の国会議員の役割は重要です。なので選挙戦のテーマに上がるのは好ましいですし、比例代表でも交通問題に言及している政党があり、風向きの変化を感じるところです。

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それだけに私が住む東京の選挙区で、モビリティを取り上げる候補者がほとんどいないのは残念です。東京の交通にはさして問題はない、つまり票にならないと思っているのでしょう。近年の欧州各国の首都の交通改革を知るだけに、こんなことで大丈夫なのかと心配になります。

自治体の首長が交通に明るければいいのですが、現在の東京は逆です。公共交通が発達しているのに、本来であれば地方が先に実施したい交通事故防止装置への補助を、潤沢な財源を後ろ盾に導入しようとしています。まちづくりでも、投資目的で買う人が多いというタワーマンションの建設は野放しに近い状況です。
 
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それ以上に懸念するのは一極集中です。総務省が先日発表した、住民基本台帳に基づく人口動態調査では、人口が増加したのは6都道府県で、うち4つが首都圏に位置しています。これは地方の公共交通維持だけでなく、子育てや福祉(公共交通も福祉の一部ですが)などの分野にも影響を及ぼしていると思います。 

今回の参院選で東京選挙区の定員は6。四国4県合計の2倍です。徳島県と高知県は独自の議員が出せません。欧州諸国に比べて高すぎる報酬、少なすぎる議員数を改めるべく、報酬を半分にする代わりに議員数を倍にすればアンバランスは少し抑えられますが、現状のままでは地方は先細りするばかりです。当選の暁には東京の交通に目を向けることはもちろん、国としてのバランスを考えて任務に当たってほしいと思います。

南仏ニースの交通まちづくり

フランス観光開発機構の紹介で、ニース・コート・ダジュール地域圏観光局の局長にお会いする機会がありました。先方にとっては畑違いであることを承知で、当方がモビリティジャーナリストであることを告げると、「モビリティは今ニースでもっとも力を入れている分野です」という答えが返ってきて最初は驚きましたが、おかげで予想以上に話が弾みました。

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ニースというと観光都市のイメージを持つ人が多いでしょう。たしかに年間観光客は500万人に上るそうです。一方でニースはフランス第5の都市であり、国際空港はパリに次ぐ発着回数を誇り、コンベンションの拠点としてもパリに続く規模となっています。 ただ地域圏全体での人口は約56万人に達するのに対し、土地の80%は山地で、海沿いの限られた場所に多くの人が住むこともあり、交通渋滞に悩まされてきたそうです。

話の中で局長が特に強調していたのがLRT(トラム)でした。ニースのLRTについては3年前のこのブログで紹介していますが、現在さらに2路線が建設中です。2号線は空港から中心市街地を抜けて港に至る11.3kmの路線で、中心市街地はトンネルで抜けることになります。完成すれば空港と中心市街地が直接結ばれることになります。

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LRTが開通すればマイカー利用者はもちろん、バス路線の多くがLRTに転換するため、交通が集中する海沿いの道の渋滞減少が期待されます。さらに一部と地下化するので、世界的な観光地として有名な海沿いの遊歩道はそのまま残ります。ここに電車を走らせるのが好ましいとは鉄道好きでも思わないでしょう。

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一方の3号線は国際空港から北へ伸びる7kmの路線です。ヴァール川沿いのこの地域は現在、「ニース・エコバレー」という名称で国家レベルでの開発が進んでおり、すでにサッカースタジアムは完成していますが、それ以外にも6つのホテル、床面積6.5万m2の国際展示場などが建設される予定です。

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今年秋に開業予定という2本の新路線が、いずれも都市問題の解決や都市計画の進展とリンクしていることがお分かりでしょう。LRTを走らせることそれ自体が目的ではなく、まちづくりのためのツールのひとつであることを、ニースの計画は改めて教えてくれます。

LRTの停留場からはフィーダーバスの運行も予定しているそうです。以前から用意している自転車シェアリングも、自転車レーンともども拡充されるとのことです。またニースはパリに先駆けて電気自動車のシェアリングサービスを導入した都市でもあり、現在も稼働中です。環境に優しいモビリティを提供しようという姿勢がこれらからも伝わってきます。

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上の資料は今回お会いした観光局の局長からいただいたものです。観光用の資料であるにもかかわらずLRTのことが記してありました。それだけ現地の人たちにとって、モビリティ=移動できることは大切な要素なのでしょう。機会があれば開通後にニースに足を運び、交通まちづくりの成果を確かめてきたいと思いました。 

「200円バス&レール」成功の理由

先月のブログで、京都府京丹後市でウーバーのアプリを使った地域交通「ささえ合い交通」を紹介しましたが、京丹後市ではそれ以外にもさまざまな交通改革を実施しています。今回は市内を走る唯一の民間バス事業者である丹後海陸交通の丹海バス(他に市営バスもあります)、唯一の鉄道である京都丹後鉄道が実施している上限200円運賃を取り上げます。

上限200円運賃

上の写真は丹海バスの車内に掲示している運賃表です。200円の数字が並んでいます。以前は多くの地方のバス同様、距離制運賃を採用しており、最高で1150円にもなっていました。京丹後市はその運賃の高さが利用者減少につながっていると考え、利用者でのアンケートでもっとも多かった200円を上限としたのです。

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2006年に一部路線で実証実験を始めると、すぐに利用者数の減少が止まり、反転しました。新規利用者の6割は高校生で、従来は多くがマイカー送迎や自転車などでの通学でしたが、200円なら定期券代が出せると家庭が判断したようです。高齢者の中にも、運転免許を返納してバス移動に切り替える人が出てきました。そこで2007年には市内全域に拡大。2010年からは本格実施となり、2013年からは周辺の宮津市、与謝野町、伊根町でも上限200円を採用しています。

最高で1000円以上だった運賃が200円となると、減収を予想する人もいるでしょう。しかし結果は逆で、利用者数が約2.7倍に増えたこともあり、新路線開設やバス停新設を行う余裕が生まれており、京丹後市が丹海バスに出している補助金額はほとんど変わっていません。補助金がないと運営が難しいことは事実ですが、このコラムで再三触れてきたように、海外の公共交通は税金や補助金主体で運営するのが一般的で、黒字赤字を重視する日本は特殊な状況であることを改めて記しておきます。

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一方京都丹後鉄道では2011年(当時の運行事業者は第三セクターの北近畿タンゴ鉄道)から、高齢者に限り上限200円運賃を導入しています。丹後地域2市2町住民が地域内から乗車するなら、福知山市、舞鶴市、兵庫県豊岡市の降車もOKで、最高運賃1530円が200円になります。高齢者の利用は実施前の3倍を超えるそうで、自分が乗車した際にも窓口で申し込む人がおり、バスと合わせてマイカー移動からの移行が進んでいると感じました。高齢ドライバーの交通事故減少にも寄与するでしょう。

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ささえ合い交通を含めて感じたのは、自治体に「交通の目利き」がいるかどうかで、地域の交通整備が大きく変わってきていることです。以前書籍にまとめた富山市などにも通じることですが、京丹後市や京都府が各種補助金の内容を理解し、ウーバーのような新しいサービスの存在を熟知していたことが、大胆かつ柔軟な交通改革を推進できた原動力のひとつだと考えています。

課題がないわけではありません。東京23区でも露呈しているバスの運転士不足です。宮津市では昨年、丹海バスが一部路線の維持困難という方針を示しました。しかし京丹後市には豊富な経験と多彩な選択肢があります。ささえ合い交通は運転士不足の解決策のひとつでもあり、将来自動運転が導入される際にはウーバーアプリの経験が活きるはずです。交通に関する引き出しを多く持つことが、将来的にも効果を発揮するのではないかと期待しています。
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