THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

まちづくり

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電動キックボードを自由に乗るために

海外では自由に走れるのに日本では法律上認められない乗り物やモビリティサービスはいくつかあります。米国発祥の電動キックボードのシェアリングはそのひとつです。ちなみに米国ではこの乗り物をe-scooterと呼ぶことが多いですが、日本で電動スクーターというと二輪車のスクーターの電動版を指すことが多いので、ここでは電動キックボードという呼び方をします。

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厳密には日本でも電動キックボードのシェアリングは存在します。そのひとつが、さいたま市や千葉市で展開しているWINDです。写真は埼玉高速鉄道の浦和美園駅に配備してあるものです。他の多くの国の電動キックボードと異なるのは、原付のナンバープレートや灯火類がつき、ヘルメットが袋に入って用意してあることです。つまり日本では原付扱いとなるのです。もちろん運転免許は必要になりますし、交差点での二段階右折などのルールも適用されることになります。

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訪れたのは平日の日中ということもあり、借りる人は見られませんでした。原付免許を持っている人はそれなりにいると思いますが、ヘルメット装着には抵抗を感じる人が多いのではないでしょうか。実際、ヘルメットが不要な電動アシスト自転車が普及したことで、原付の販売台数が大幅に減少していることはご存じのとおりです。 

海外では電動キックボードは厳格な規制がなく、自由に借りて乗ることができます。その結果歩行者と接触したり、車両が無造作に放置されたりという問題が出ており、パリでは歩道での走行を禁止するルールが作られたりしています。これに限らず海外は、まずは挑戦し、問題があれば修正するというプロセスが多いと感じています。一方日本は既存のカテゴリに当てはめようとし、無理なら許可しないという方針が目立ちます。成功の賞賛より失敗の非難を重視する今の風潮とリンクしているような気がします。

少し前のブログで紹介したように、今週は京都府のけいはんなオープンイノベーションセンター(KICK)で開催された「ネクストモビリティExpo2019」に参加してきました。この席で、以前から「小さな交通」に取り組んできた建築家・都市構想家で東京大学名誉教授の大野秀敏先生が興味深い提案をしました。道路を時速6kmまで、20kmまで、それ以上という3つの車線に分け、それぞれに該当する乗り物を走らせるというプランです。

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このうち歩行者や電動車いすなどが通行する6kmゾーンと、自転車や電動キックボードなどが走る20kmゾーンは一定の幅を確保するとしており、道幅が狭くなればそれ以上のゾーンが消え、自動車も20km制限になるという内容でした。車両の速度制御については、現在販売している自動車の運転支援システムにも、道路標識を読み取って走行速度を制御する仕組みが実現しているので、難しい話ではないはずです。路上の監視カメラでチェックする方式もあるでしょう。

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ネクストモビリティExpo2019の会場では、「オムニライド」と呼ばれる独創的なパーソナルモビリティの体験試乗もできました。自動車や鉄道に比べれば規制が緩いこのカテゴリーは、創造性にあふれた新しい乗り物が次々に出ています。もちろん電動キックボードもそのひとつです。こうした車両をひとつひとつ認可するか否かを検討していくという、我が国の今の体制は果たして正しいのか。もう一度多くの人が考えてほしいところです。

地方のMaaSにライドシェアは不可欠

昨年訪れたフィンランドとエストニアのMaaSを含めたモビリティサービスのセミナーを、所属する日本福祉のまちづくり学会が昨日開催したので参加してきました。昨年このブログでも取り上げたように、モビリティではフィンランドはMaaS、エストニアは首都タリンの公共交通無料化と、直線距離100km以下にもかかわらず異なるアプローチをしていますが、今回のセミナーでは共通する部分を教えられました。

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それはタクシーとライドシェアの扱いについてです。拙著「MaaS入門〜まちづくりのためのスマートモビリティ戦略」でも書きましたが、  フィンランドはMaaS導入に合わせて法律を改正。タクシー不足解消のために規制緩和を行い、ライセンス取得の敷居を下げ、Uberなどのライドシェアでも資格を取れば合法としています。エストニアも似たような状況で、タクシーとライドシェアが並立しているそうです。

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欧州でも英仏独など昔からタクシーが普及している国を中心に、ライドシェア撤退を求める動きが起こりましたが、日本のように事業そのものを禁止するわけではなく、一定のライセンスを取得すれば営業可能という方向を選択する国が多くなっています。フィンランドやエストニアの現状はその流れの上にあるようです。

フィンランドの首都ヘルシンキでは、MaaSグローバル社のアプリWhimで選択するタクシーにライドシェアが含まれます。タリンは前述のように市民は公共交通無料ということもあり、交通全体をカバーするMaaSはまだ存在せず、タクシーとライドシェアの配車アプリがメインだそうです。主役級はエストニア発で世界34か国に展開するBolt(Taxifyから名称変更)で、Uberのように電動キックスケーターやフードデリバリーも手がけているようです。

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なぜライドシェアが必要なのか。これも拙著で紹介しましたが、スウェーデンのMaaSアプリUbigoが同国第二の都市ヨーテボリでトライアルを実施した際の結果が参考になると考えています。MaaS導入前と導入後でもっとも大きく増えた移動手段がカーシェアリングだったからです。鉄道やバスはやはり限られた場所しか走っていないので、ラストマイルを含めたそれ以外の移動を気軽に使えることを住民は望んでいたようです。

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一方今年4月、日本で初めてウーバーのアプリを地域交通に導入したことで知られる京丹後市旧丹後町地域の「ささえ合い交通」を利用した際には、地方では移動の需要が少ないことに加え、運転手も不足しており、市民同士が移動を支え合うことが必要であると感じました。フィンランドとエストニアも日本に劣らず高齢化が進み、なおかつ人口はわが国より圧倒的に少ないわけで、同様の悩みを抱えているのではないかと想像しています。

こうした状況にある地方で、移動の利便性や快適性を高めるためにMaaSを導入するなら、やはりライドシェアは重要ではないかという意見が、昨日のセミナーで出されました。同感です。日本のタクシー業界は相変わらずライドシェアを「危険な白タク(タクシーが安全と断定できないことは以前書いたとおりです)」と敵視していますが、タクシーやバスが撤退した地で誰が移動を担うのか、真剣に考えるべき時期に来ていると感じました。

JR初の路線復活と新病院の関係

日本では鉄道やバスの路線が一度廃止されると、復活することは滅多にありません。そんななか2017年、広島市内を走るJR西日本可部線が、それまでの終点だった可部駅から1.6km西のあき亀山駅まで延伸しました。可部線はかつて、広島市に隣接する安芸太田町の三段峡駅が終点でしたが、2003年に可部〜三段峡間が赤字を理由に廃止されました。つまり2年前の開業区間は復活でもあり、JRがいったん廃止した路線を蘇らせた初めての例になります。

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可部線は第二次世界大戦前に広島市内の横川〜可部間が私鉄によって開業したあと国有化され、戦後三段峡まで延伸という経緯を辿っており、もともと可部駅までは電車、それ以遠はディーゼルカーで運行していました。可部駅以遠の赤字が目立っていたので、列車の運行が分かれている可部駅より先を廃止したようです。

Google マップ

しかしGoogleマップで見ると、市街地は可部駅の西側にも広がっていることが分かります。JRは運行上の分岐点である可部駅から先を廃止にしましたが、河戸(こうど)地区の住民を中心に電化延伸の運動が起こりました。広島市がこの声を聞き入れて動き出し、JRやバス会社との協議を重ね、以前県営住宅があった場所までの延伸が実現したのです。

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復活区間には河戸帆待川・あき亀山の2駅が設けられました。廃止前はこの中間に河戸駅があり、2駅先に安芸亀山駅がありました。ゆえに終着駅は「あき」がひらがな表記になったようです。以前は駅がなかった場所なので、駅北側は住宅が点在しており商店などはありません。一方駅南側の県営住宅があった場所は整備が進んでおり、この地に市民病院を建設するという看板がありました。

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広島市は可部線延伸とセットで市民病院移設を考えており、市長が突然発表したことから市議会で賛成反対が同数になり、議長裁決で一度否決されましたが、その後現病院と新病院を並立させる方向で落ち着きました。現病院で地域医療を継続しつつ、新病院で 高度・急性期医療機能、災害拠点病院及びへき地医療機関としての機能を担当するそうです。合わせて南側を流れる太田川の治水対策も進めるようです。

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安佐市民病院についての広島市の資料 = http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1449473900183/simple/08-sankou.pdf

現在の病院は市街地にありますが、可部線中島駅から徒歩10分、可部駅から徒歩15分を要し、最寄りのバス停留所からも徒歩5分と、高齢者が公共交通でアクセスするには不便です。市街地にあるので駐車場が狭く、ヘリポートがないという欠点もあります。一方の新病院はあき亀山駅と屋根付き通路で結ばれ、駐車場も広く確保してあります。 ここを拠点としたバス路線整備の計画もあります。

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つまり可部線再延伸は、総合病院のような施設を誘致することで、地域輸送を維持するうえでの一定の需要を確保するという判断もあったのではないでしょうか。高齢化が進む今の日本で、医療施設と公共交通をつなげることは大切であり、導入のプロセスに問題があったかもしれませんが、まちづくりという観点では納得できるプランです。今はまだ駅がポツンとあるだけなので、新病院開院後の状況をまた見てみたいと思います。

グリーンスローモビリティが活きる場所

昨年6月に国土交通省が概要を発表したグリーンスローモビリティ(以下グリスロ)は、今年4月にはIoTと組み合わせた活用方法の実証事業を公募。6月に7地域が選ばれました。そんな中、昨年度の実証実験からひと足先に、本格的なタクシー事業に移行した事例があります。現場を見るべく、観光地として知られる広島県福山市の鞆の浦に行きました。

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鞆の浦のグリスロは地域のタクシー会社、アサヒタクシーが走らせており、「グリスロ潮待ちタクシー」と名付けられました。鞆の浦は瀬戸内海で潮の流れが変わる場所であり、昔は潮が変わるのを待つ船でにぎわったそうです。運賃は他のタクシーと同じ初乗り630円。そのほか30分単位で貸切での観光利用も可能で、自分は鞆の浦初訪問だったこともあり、鞆港発着の30分コースを電話で予約しました。

福山駅から出るバスの終点、鞆港に着くとすぐに、ヤマハ発動機の電動カートを使ったグリスロタクシーがやって来ました。以前、石川県輪島市で乗った車両に似ていますが、最大の違いは軽自動車の黄色いナンバープレートではなく、他のタクシーと同じ緑ナンバーであることです。ここからも本格導入であることが分かります。

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走り出したグリスロは、いきなり細い路地に入ります。鞆の浦の市街地は、軽自動車でもギリギリという幅の道ばかりでした。範囲は狭いので元気な人は徒歩で巡れますが、快適に観光したい人にこのグリスロタクシーは最適です。ドアや窓がなく、ゆっくり走ることも観光向きです。道が細いので左右のお店に手が届きそうなほどであり、街の一部になって移動している感覚です。見たい場所があればさっと降りて目的地に行くこともありがたかったです。

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いくつかの観光スポットを回ったあと、運転手さんお勧めの絶景ポイント、医王寺に向かいます。道は先ほどより狭く、急な登り坂です。これまで観光客は徒歩でしかアクセスできなかったそうですが、この坂道で断念する人が多かったそうです。しかし今回はグリスロタクシーのおかげで楽に到達できました。山の中腹にある寺からは、ランドマークの常夜燈をはじめ鞆の浦が一望できました。

グリスロは最高速度19km/hなので、すべての道に適しているとは言えません。どんな乗り物にも言えることですが、ふさわしい場所でふさわしい使い方をすれば魅力が数倍にもなります。鞆の浦はグリスロを走らせるのに最適な街でした。ただ自分が知るだけでも、似たような観光地はいくつもあります。そういう場所でもサービスを始めてほしいと思いました。

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あとは予約や支払いをスムーズにできればさらに好ましいところですが、私が訪問した直後、アサヒタクシーはUberと提携し、スマートフォンアプリで配車や決済が可能になったそうです。グリスロタクシーがここに含まれれば、外国人観光客もこの乗り物を利用することで、鞆の浦をより奥深く知ることができるのではないでしょうか。今後の発展に期待します。

東京2020のユニバーサルデザインは?

明日8月25日で、2020東京パラリンピック開催まで残り1年になります。そこで今週は、国内外のモビリティデザインを見てきたひとりとして、今の東京のモビリティ分野におけるユニバーサルデザインについて考えたいと思います。

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まず海外からの来日者の玄関口となる国際空港は、ユニバーサルデザインでは世界的に高い評価を受けています。世界の空港やエアラインを評価しているSKYTRAXという組織が今年から制定したWorld's Best Airport for PRM and Accessible Facilities(高齢者、障害のある方や怪我をされた方に配慮された施設の評価/PRMはPersons with Reduced Mobilityの略)では、1位が羽田(写真)、2位が成田、3位が関西で、10位までに中部、福岡、伊丹と合計6空港が入っているのです。

先日、私が所属する日本福祉のまちづくり学会の公開講座で、これらの空港の設計に関わった方、この分野を研究している方の話を聞く機会がありました。我が国では中部を皮切りに、羽田国際線、成田、新千歳空港国際線の建築や改修において障害当事者が参加をしており、それが世界的な評価につながっているとのことでした。

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ただし空港以外のモビリティシーンでみると、海外にも注目すべき実例がいくつかあります。最初はタイの首都バンコクの高架鉄道BTSの改札口です。健常者は左側の自動改札機を使いますが、高齢者や妊娠している人などは係員がいる右側のゲートを使えます。日本でも通路が幅広い自動改札機がありますが、車いす利用者や大きな荷物を持った人にとって自動改札機は使いにくいはずであり、BTSの改札はそういう人向けの配慮が感じられます。

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続いてはドイツの首都ベルリンを走るSバーン(通勤電車)です。優先席が車いす利用者だけでなく、ベビーカー利用者や怪我をした人なども対象としていることは、最近日本の鉄道も対応していますが、自転車をそのまま載せることができるのはまだ少数です。またホームとの隙間を最小限に保つべく、車体下部に短いステップを装着しており、段差もほとんどありません。さすがドイツと唸らされます。日本でも最近、国土交通省がこの課題について検討を始めたようなので、今後に期待です。

そんな中トヨタ自動車が、東京五輪・パラリンピック用に専用開発した車両APM(Accessible People Mover)を発表しました。高齢者や障害者などアクセシビリティに配慮が必要な来場者に対し、ラストマイルの移動を提供するために開発された車両で、JPN TAXIより簡単な車いす対応、ドライバーが乗り降りしやすい中央運転席など、さまざまな部分に工夫が凝らされており、ユニバーサル性能はかなり高いレベルにあると感じました。

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残り1年でやれることは限られるかもしれませんが、私は2020年がゴールではないと考えます。むしろ2020年をスタートとして、世界トップレベルのユニバーサルモビリティを目指していきたいものです。もちろん車両やインフラの整備だけではダメで、私たち健常者の理解と行動もまた大切です。障害者自身ではなく、彼らを受け入れる社会の側に障害があるわけで、そこには人も含まれることを、忘れてはいけないと思っています。
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