THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

まちづくり

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小さな町が自動運転シャトルを導入できた理由

新型コロナウイルスはモビリティのさまざまな分野に影響を及ぼしていますが、一方で技術開発は着実に歩みを進めています。自動運転もそのひとつです。自家用車では自動運転レベル3が認可されたことを受け、来月この技術を搭載した乗用車が市販されると言われていますが、移動サービスの分野でも各所でプロジェクトが進んでいます。

昨年末には、トヨタ自動車が2018年にコンセプトカーとして発表した自動運転シャトル「e-Palette」が、サービス提供を支える運行管理システムをオンライン発表会で公開しました。EU助成型研究開発フレームワークプログラムのシティモビル2から生まれたナビヤ「アルマ」、無印良品でおなじみの良品計画がデザインを提供したSensible4「GACHA」も世界各地で実験走行を続けています。

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こうした車両の誕生の背景や技術的な特徴について、インターネットメディア「ビジネス+IT」で記事にさせていただきましたが、中でも特筆できるのは茨城県境町の事例です。多くの自動運転シャトルがまず実証実験として導入される中、いきなり定時定路線バスとして公道での運行を始めたからです。自治体主導としては国内で初めてだそうです。

実証実験ではないので補助金や助成金主体ではなく、町ではアルマ3台の購入費用や5年分の運営費用として5億2000万円の予算を計上し、運行管理を担当するソフトバンクグループのBOLDLY、ナビヤの日本総代理店であるマクニカと契約しました。東京から50kmほど離れた、人口約2.4万人という小さな街が、なぜここまで大きな投資をできるのか。町役場に行くとヒントがありました。

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壁にはふるさと納税の金額が30億円を達成したという垂れ幕が掲げてありました。関東地方で3年連続1位、茨城県では5年連続1位だそうです。調べてみると、6年前のふるさと納税額はわずか6.5万円でした。国からの補助金・助成金獲得額もこの6年間で倍近くに増えており、それ以外に太陽光発電の売電による収益などもあるそうです。



この原動力になっているのが1975年にこの町で生まれ、2014年から町長を務める橋本正裕氏であることは間違いないでしょう。橋本町長はモビリティにも精通しており、町議会では交通分野の質問になると率先して答弁。自動運転レベルやAI、Uberなどの用語を駆使しつつ最新事情をわかりやすく説明しています。町民の多くも町長を支持しているそうです。 

橋本町長が自治体の長であると同時に、優れた経営者でもあり、町民を引っ張っていくリーダーシップも兼ね備えた人であることが想像できます。個人的に思い出したのは富山市長の森雅志氏です。プロセスの違いはあるものの、モビリティ分野に豊富な知識を持ち、日本初の事例を実現することでシビックプライドを高めていこうとする姿勢も一致しています。

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境町と富山市だけに限った話ではありません。自分が訪れた、モビリティに関して先進的な取り組みを行う自治体は多くの場合、交通に精通したリーダーやスペシャリストがいて、高い理想を掲げながら現実的な視点も持ち合わせ、卓越した実行力で課題を解決しています。そういう人材がいるかどうかでモビリティが決まるような印象さえ抱いています。 

人口減少局面にある今の日本では、地域交通の運営はますます厳しくなります。解決策のひとつとして期待できるのが自動運転です。バスのような公共交通は走行経路が一定で、スピードも遅いので、自家用車よりも自動運転が導入しやすいはずです。境町もこうした特性を理解し、いち早く導入に踏み切ったようです。今後、この自動運転バスが街をどう変えていくか。機会を見つけてまた訪れてみたいと思います。

素晴らしき飯田市ラウンドアバウト

長野県飯田市に用事があったので、以前から気になっていたラウンドアバウト(環状交差点)を見てきました。飯田市はJR東海飯田駅の東側約300mにある東和町交差点と、そこからさらに300mほど東に位置する吾妻町交差点の2か所がラウンドアバウトになっています。駅からの距離でわかるとおり、いずれも街の中心部にあります。

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2つのラウンドアバウトは歴史が異なります。吾妻町は1947年の飯田大火からの復興の際にロータリーとして設置されました。ロータリーとある通り、当時はラウンドアバウトとは違う交通ルールでした。一方の東和町は既存の交差点を2013年にラウンドアバウト化したもので、信号交差点からの転換は日本初となります。

飯田市は当初、東和町交差点のラウンドアバウト化を進めようとしましたが、当時の日本ではラウンドアバウトの知見が不足していたので、まず吾妻町のロータリーをラウンドアバウトに作り替え、2010年度に社会実験を行いました。その結果、自動車の通過速度が抑えられるだけでなく、利用者からも好意的な意見が過半数を占めたことから転換。続いて東和町交差点のラウンドアバウト化に着手しました。

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東和町のラウンドアバウト化が完成した当初は、進入時の一時停止が義務付けられていましたが、翌年、道路交通法が改正され、欧米と同じように徐行での進入が可能になりました。こうして見てくると、日本のラウンドアバウトのルール作りに飯田市が多大な貢献をしてきたことがわかります。

2つのラウンドアバウトは2018年度のグッドデザイン賞を受賞しています。当時審査委員のひとりだった私もこの取り組みは高く評価しましたが、当時は現地に足を運ぶことができませんでした。しかし今回初めて2つのラウンドアバウトを目にして、3年前に資料で見たときより、はるかに素晴らしい交差点だと実感しました。

導入されてから10年近く経っていることもあり、すべてのドライバーやライダー(2つの交差点の間には飯田郵便局があるので郵便配達のバイクも多く走ります)がスムーズに交差点を抜けていくことが確認できましたが、それ以上に感心したのが歩行者への対応です。

ラウンドアバウトは信号がないので、横断歩道を歩行者が渡る際には自動車は停止しなければいけません。日本ではこの交通ルールを守らない人が多いので気になっていました。ところが実際は、歩行者が横断歩道を渡ろうとすると、すべての車両が横断歩道の前で止まりました。ラウンドアバウト自体、日本ではあまり見かけない景色ですが、それ以上にこの交通マナーが、欧米にいるかのような気持ちにさせてくれました。

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もちろん歩行者も自動車の動きには気をつける必要があり、横断歩道にはそれを促す注意も記されていました。しかし歩行者か運転者かにかかわらず、他の交通に気をつけながら進むのは、交通安全の基本だと思います。信号の色で判断するよりも、道路を通行する1人ひとりが自分の目や耳で状況を確認し、安全かどうかを判断して通行することの大切さを、ラウンドアバウトは教えてくれます。

ラウンドアバウトは環境負荷が小さい交差点であることも報告されています。自動車がもっともエネルギーを消費するのは発進の瞬間です。飯田市の2つの交差点ぐらいの交通量であれば、赤信号からの発進回数が減らせるラウンドアバウトは、環境にも優しいのです。

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さらに環境と言えば、飯田市はラウンドアバウト整備に伴い、周囲の歩道空間を広く取り、ベンチを置き、周辺住民は花を置くなどして、公園のような景色を作り出しています。交差点でありながら広場のような場所でもあると感じました。少し前のブログで、東京やパリで道路を広場に作り変えるプロジェクトを紹介しましたが、ラウンドアバウトは地方において同じ目的を実現するための交通システムであることも確認できました。

東京とパリで進む「道路から広場へ」の流れ

今週18日、東京都心の京橋から銀座を経由して汐留に至る全長2kmの東京高速道路、通称KK線について、東京都が2年前から進めてきた検討会で、自動車専用から歩行者中心に転換し、緑豊かな公共空間とすべきという提言を踏まえ、今年度中に方針をとりまとめ、具体化に向けて進めていくことになったという報道がありました。

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この少し前にはフランスのパリで、シャンゼリゼ通り1.9kmの歩行者ゾーンを広げてテラスカフェや専用のサイクルレーンも用意し、車道を片側2車線に縮小する2019年提案の計画に、アンヌ・イダルゴ市長がゴーサインを出したというニュースが流れました。これには両端にあるコンコルド広場、凱旋門があるエトワール広場も含まれます。 つまり日仏の首都で歩行者中心の道づくりが進むことになります。

Bas des Champs Élysées bird view ©PCA-STREAM
Comité Champs-Elyséesのウェブサイト =
https://www.comite-champs-elysees.com/le-comite-champs-elysees-salue-la-decision-de-la-mairie-de-paris-de-transformer-lensemble-de-lavenue-des-champs-elysees/

KK線はかなり前にこのブログでも取り上げました。第2次世界大戦後の銀座の復興と渋滞緩和のため、銀座周辺の外堀と京橋川、汐留川を埋め立てて高架道路を建設したもので、道路下を地上2階、地下1階の商業施設としてテナント料を徴収し、通行料無料としていることが特徴です。両端で首都高速道路の都心環状線と接続し、銀座の北端で八重洲線が分岐しています。

首都高速では都市景観の観点から、日本橋付近の都心環状線を地下に移す計画が進んでおり、八重洲線はKK線の旧京橋川部分の地下を進んで都心環状線に合流する計画です。計画が実現すると、通行量が大幅に減少すると予想されることから、今後についていくつかの方向性を検討した結果、「Tokyo Sky Corridor(空中回廊)」として緑豊かな公共空間を目指すことになったそうです。

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東京都都市整備局のウェブサイト = https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bunyabetsu/kotsu_butsuryu/kk_arikata.html

一方パリのイダルゴ市長は2014年の当選以来、都市の道路を自動車中心から歩行者と自転車を優先したモデルに変えることを提唱し、セーヌ川沿いの道路の一部を公園に転換するなどしてきました。コロナ禍であってもこの流れは変わらず、2024年までに最大650kmの一時的・恒久的な自転車専用レーンを設置する計画を発表しました。

もっともパリではそれ以前から、歩行者中心の政策を推進してきたことも確かです。 そのひとつがクレ・ヴェルト・ルネ=デュモン(coulée verte René-Dumont)です。1969年に廃止された鉄道の線路跡を20年後に線状公園に仕立てたもので、レンガ造りの高架橋の下はレストランやショップが並んでいます。ニューヨークの貨物線跡を公園に転換した通称ハイラインは、ここを参考に作られたと言われています。 

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しかしKK線のような高架道路の転換例は異例です。高いところから銀座の街並みを眺め、適度に休みを取りながら京橋から汐留まで歩いて行けるとなれば、東京の新名所になることは確実でしょう。ただし全長2kmなのでパーソナルモビリティの用意があればありがたいですし、下で販売している飲食物が上で味わえるような仕組みを作っても喜ばれるのではないかと思います。

最初に書いたように、KK線が走る場所は昔は水路でした。水路が道路に変わり、移動や物流の主役が船から自動車に変わったことになりますが、それが歩行者のための広場になるというのは、シャンゼリゼの歩行者ゾーン拡大ともども、新たなフェーズに入ったと感じます。以前紹介した国土交通省の「2040年、道路の景色が変わる」もそうでしたが、先進技術を駆使して効率性や安全性を「進化」させつつ、人々の交流の場に「回帰」させる道づくりが、これからの主流になりそうな気がします。

鉄道の電化と自動車の電動化の違い

先週のブログで取り上げた自動車の電動化という言葉を聞いて、個人的に思い出すのが鉄道の電化です。ただし似ているのは字面だけで、鉄道の電化の場合は線路に架線などを張って、電車や電気機関車の運行を可能にすることを言います。車両とインフラの両方に関係する言葉であるわけで、家庭の電化とも意味が異なります。

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電化路線を走る車両がすべて電車あるいは電気機関車になるわけではありません。たとえばJR東日本東北本線の仙台と仙石線石巻あるいは石巻線女川を結ぶ仙石東北ラインは、東北本線が交流電化、仙石線が直流電化で、両線をつなぐ短絡線は電化していないため、ディーゼルハイブリッド方式の車両が架線の下を走っています。

逆に電化していない路線を電車が走ることもあります。同じJR東日本では宇都宮と烏山を結ぶ烏山線がそのひとつで、バッテリーに蓄えた電気で走る、電気自動車のような方式の車両が走っています。充電は両端の駅、および宇都宮周辺の東北本線乗り入れ区間で行なっています。

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海外ではこのようなハイテク車両は珍しいですが、電化しているのにディーゼルカーやディーゼル機関車が走る例は多くあります。フランスのグルノーブルからリヨンへの移動は、全線電化していたにもかかわらずディーゼルカーでした。さらに列車の本数が少ないローカル線では、費用対効果が薄いこともあり電化しません。これは日本も共通です。電化が進んでいて非電化が遅れているとは一概に言えません。

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つまり鉄道の場合、国や自治体の政策として電化が推進される場合もありますが、架線を張るか否か、電車を走らせるか否かは、多くが事業者の判断です。コストが見合わない場合は非電化やディーゼルカーという選択をし、非電化であっても沿線の環境対策が必要であればバッテリー電車などを導入しています。前回のブログで、自動車の電動化は利用者や事業者など使う側の判断を尊重すべきと書いたのは、こうした鉄道の状況を知っていたからでもあります。

ただ鉄道が自動車より、はるかに環境負荷が低いことは頭に入れておく必要があります。国土交通省の2018年度のデータでは、ひとり1kmあたりのCO2排出量は乗用車133gに対し、鉄道はわずか18gにすぎません。これはディーゼルカーなども含めた数字です。しかもJR東日本は自前の発電所を2つ持っており、運行に使う電力の約6割、首都圏に限れば約9割の電力を賄っています。うちひとつは再生可能エネルギーとして扱われる水力発電所です。

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国家や企業の戦略的な部分も大きいエンジン車販売禁止を強行するより、移動の一部を鉄道に切り替えるほうが、手軽に温暖化対策できることを改めて認識します。特に大都市周辺に住んでいる人たちにとっては鉄道イコール電車なわけですから、各自が日々の移動に鉄道を積極的に組み込めば、それだけで電動化になります。電車移動の比率が高まれば、電気自動車に乗り換えるより、結果的にはエコになるかもしれません。

「ほこみち」始まりました

国土交通省では6月、新型コロナウイルスの影響を受けるレストランやカフェなどを支援する緊急措置として、路上でテイクアウトやテラス営業などを行う際の許可基準を緩和すると発表しました。さらに同月にはウィズコロナに対応した道路施策を発表。アフターコロナの時期をも見据えた道路政策ビジョン「2040年、道路の景色が変わる」を提言しました。 

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この2つについてはこのブログでも紹介し、提言については今週月曜日、J-WAVEで9時間にわたり放送された特別番組「JAPAN SMART DRIVER presents THANKS TO LA STRADA」に出演させていただいた際にも取り上げました(明日までradikoで聴けます)が、いくつかの都市ではすでに動きが起きています。

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写真は横浜市中心部で、最初の写真は今月30日まで行っている社会実験「みっけるみなぶん」の様子です。みなぶんとは、みなと大通りと横浜文化体育館周辺道路を合わせた愛称で、車道幅を狭め歩道を広げるなどの再整備を予定していることから、車道の一部を囲ってテーブルやイス、人工芝などを用意しています。2番目の写真は近くの日本大通りで、歩道が広いことを生かし以前から複数の飲食店がオープンカフェを展開。先進的な地域になっています。



今週この動きがさらに一歩進みました。5月27日に公布されていた道路法等の一部を改正する法律が国会で可決され、11月25日に施行されたのです。この中では新たに「ほこみち」という愛称とともに、歩行者利便増進道路制度を創設。国や地方自治体など道路管理者がほこみちを指定することで、歩道の中に「歩行者の利便増進を図る空間」を定めることができたり、道路空間活用の際に必要な道路占用許可が柔軟に認められるなどのメリットがあります。

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最初に紹介したコロナ禍を踏まえた許可基準緩和制度についても、当初は11月30日までとされていた期限が来年3月31日まで占用の期間を延長することになったばかりでしたが、今後はほこみちに移行していくことになっていくでしょう。

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いずれにしても感心するのは「2040年、道路の景色が変わる」に続いて、今度は「ほこみち」というわかりやすい表現を起用していることです。道路利用者つまり私たちに歩み寄り、ともに良い環境を作り出していきたいという国土交通省の意志が伝わってきます。もちろん好ましい動きです。ひとつでも多くの自治体が道路の使い方を見直し、多くの「ほこみち」が生まれることを期待しています。