THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

まちづくり

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自動車博物館にも公共交通は大切

先週紹介した金沢市でのセミナー後は、その前にオンラインセミナーを行った公立小松大学に足を運び、小松市役所にも挨拶に伺いました。空き時間では前から見てみたかった「日本自動車博物館」にも行きました。地元の実業家が1978年に富山県小矢部市に開館し、1995年に現在の場所に移転したもので、展示台数約500台という国内最大級のスケールに圧倒されました。

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ただしアクセスには少々難がありました。JR北陸本線小松駅から出る路線バスを使うと、最寄りのバス停まで30分以上かかり、そこから徒歩で約15分を要します。博物館にはキャン・バスという観光客向け周遊バスの停留所がありますが、こちらは近くの粟津温泉が加賀温泉郷の一部という扱いから、西隣の加賀市にある加賀温泉駅発着になります。結局私はカーシェアリングを利用しましたが、見学時間が長かったこともあり、公共交通があればと感じました。

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小松市には日本自動車博物館以外にも、この地で創業した小松製作所の建設機械などを展示する小松駅前の「こまつの杜」、小松空港に併設された「航空プラザ」など、交通関連のスポットがいくつかあります。同市は「乗りもののまち」としてこれらをアピールしていますが、日本自動車博物館のように、公共交通で行くのが大変な場所もいくつかあります。

自動車好きであれば自動車で行くべきという考えを持つ人もいるでしょう。その行動を否定はしませんが、東京から日本自動車博物館まで走っていくと6時間以上かかります。しかも今は降雪期であり、どこで通行止めや立ち往生が起こるか分からず、その日のうちに着かない可能性もあります。北陸新幹線がめったに運休しないことを考えれば、多くの人は公共交通を選ぶのではないでしょうか。

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振り返れば欧州の自動車博物館の中には、公共交通でのアクセスが良好な場所がいくつかありました。たとえばフランスでは、世界最高峰と言われるミュルーズの国立自動車博物館は、鉄道博物館ともども国鉄駅からトラム(路面電車)で行けますし、ル・マン24時間レースが行われるサルトサーキットに設置された博物館も、やはり国鉄駅からトラム1本であることは以前紹介したとおりです。

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自動車博物館に公共交通でアクセスできるようになれば、自動車を運転しない人でも施設を訪れることが可能になり、遠方からの来訪者が増えることでしょう。もちろんそれは地域活性化にもつながります。とりわけ小松駅には2年後に北陸新幹線が乗り入れ、東京や大阪、名古屋などから行きやすくなります。とにかく展示内容は申し分ないので、その素晴らしさを多くの人が体感できる周辺整備を望みます。

プレイスメイキングを考える

今回はこのブログ初登場となる「プレイスメイキング」を取り上げます。プレイスメイキングとは、公共空間をコミュニティの中心の場として考え直し、作り替えていくために、⼈々が集まって描いていく概念のことです。 1990年代に米国ニューヨークで確立されたとのことで、都市について考える際の思想・手法として世界的な潮流となりつつあるそうです。

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日本でも以前紹介した国土交通省の政策「ほこみち(歩行者利便増進道路)」などで触れており、多くの都市で実証実験が展開されたりしています。プレイスメイキングウィークという世界規模でのイベントも各地で開かれており、日本では昨年度に続いて、プレイスメイキングウィークジャパンが今月初めにオンライン開催されました。ちなみにここまでの内容は、同イベントのオフィシャルサイトを参考にしています。



私がプレイスメイキングを知ったのは最近のことですが、それ以前から国内外で、近い事例はいくつも見てきました。たとえばフランスのパリでは、2002年に始まったセーヌ川沿いの道路をビーチに仕立てる「パリ・プラージュ」をはじめ、市庁舎前のスケートリンク、自動車工場跡地の公園などが、実はプレイスメイキングに近かったのではないかと思っています。

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国内では、私が企業のアドバイザーとして関わっている長野県小諸市で今年10月、小諸城址の大手門公園に「こもろまちタネ広場」がオープンし、さまざまなイベントが行われています。まちタネ広場について同市では、市民や事業者のいろいろな想いや活動を持ち寄り形にする(=タネをつくる)場としており、プレイスメイキング社会実験としているので、概念は近いと受け止めています。

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プレイスメイキングと公共空間活用は違うという主張もあります。個人的には堅苦しい考えの押し付けは浸透の妨げにつながるので控えたいところですが、そのうえで感じているのは交通とモビリティの関係に近いことです。交通は自動車や鉄道などの輸送機器の側に立った表現なのに対し、モビリティは人の移動のしやすさという違いがあります。建築や土木ではなく人間の側から公共空間活用にアプローチしたのがプレイスメイキングではないかと把握しています。

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プレイスメイキングはモビリティとは関係なく、むしろ道路空間の一部を活用することもあるので、モビリティとは対極にある概念と考える人がいるかもしれませんが、私はプレスメイキングとモビリティは関連していると思っています。その場所に行くための足が必要だからです。なかでも重要なのは公共交通です。

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こういう場所では長時間過ごすことが多く、マイカーでは駐車場代が嵩むうえに、駐車場そのものがコミュニティを生み出す場とは言いがたく、プレイスメイキングとは対照的な場と考えるからです。ここで挙げた国内外の事例もすべて、駅や停留場などの近くにありました。プレイスメイキングを考えているクリエイターの人たちはぜひ、モビリティもセットで考えていただきたいと思います。

トランジットセンターが重要な理由

公共交通の乗り換え地点のことを、交通結節点やトランジットセンターと呼ぶことが多くなってきました。このブログでも米国ポートランドの事例などを報告しましたが、最近は国内でもしばしば目にします。なおこの2つの言葉、交通結節点が文字どおり点というイメージなのに対し、トランジットセンターは機能を含めた面を示していると個人的に思っているので、ここでは後者を使います。

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まずは香川県を走る高松琴平電気鉄道(通称ことでん)琴平線の伏石駅です。2020年11月に開業したばかりの新しい駅で、今年11月にトランジットセンターがオープンしました。駅は高速道路の高松自動車道および国道11号線と交わる場所にあり、路線バスのほか、高松と徳島を結ぶ高速バスも乗り入れています。

これまで高速バスは当駅付近を通過していましたが、高松の中心市街地の渋滞で到着が遅れることがあったそうで、一部が中心市街地から離れた伏石駅に停車するようにしたそうです。同駅からことでんを使うと、県庁や市役所に近い瓦町駅まで7分で到達します。東京でも都心へ向かう高速バスの一部が手前の駅などに停車していますが、地方都市での実施は珍しく、今後の状況に注目したいと思っています。

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ブログで何度か紹介している栃木県の宇都宮ライトレールも、トランジットセンターを5カ所作る予定です。そのうちのひとつ、宇都宮市の清原管理センター前停留場では、隣接する工場から敷地の提供を受け、バスやタクシー乗り場などが整備されていました。写真は今年5月に撮ったものなので、今はさらに工事が進んでいるかもしれません。

ここからは宇都宮市に隣接する真岡市などに向かうバスが発着予定です。現在はJR東日本宇都宮駅と真岡市の間はバスで直結しているので、ライトレール開業後は乗り換えが必要になりますが、間を流れる鬼怒川の橋がしばしば渋滞したりするので、定時性ではこちらが上になりそうです。LRTの恩恵を受けるのは沿線だけではなく、周辺の広い地域に及ぶことが想像できます。

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複数の交通をつなぎ合わせ、便利で快適なものにする概念と言えば、MaaSが思い浮かびます。しかしデジタル技術を使って移動のシームレス化を目指しても、実際の乗り換えに時間が掛かっては効果半減です。ハードとソフトがともに高いレベルにあってこそ、真に使えるモビリティサービスになるはずです。MaaSを導入するのであれば、同時にトランジットセンターなどハードウェアのシームレス化にも目を向けてほしいものです。

地域交通には住民参加も大切

昨日、京都大学で特別講義を担当させていただきました。カーボンニュートラルや新型コロナウイルス感染症への対策を含めた、国内外のモビリティの最近の動きを、リアルとオンラインのハイブリッドで話しました。受講していただいた学生の方々と担当の先生に、この場を借りてお礼を申し上げます。

ここでは講義内容の中から、拙著「MaaSが地方を変える」でも取り上げた山口市の取り組みを紹介します。同市では、これまでのように行政や事業者だけの努力では地域交通の維持に限界があることから、市民が自主的に考え動くことが必要と考え、2006年という早い時期から、市長が中心となって住民参加を呼びかけてきたことが特筆できます。

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山口市は2005年と2010年に周辺の町と合併することで、市域を拡大してきました。同市ではこのうち山口と小郡を都市核、小郡以外の合併前の旧町拠点を地域核と考え、それぞれの核の間はJRなどの交通事業者が輸送を担当することにする一方、地域核と生活拠点を結ぶ交通などについては、住民が主体となって交通を整備することにしたのです。わかりやすい役割分担だと思っています。

4公共交通の機能分担

住民主体の交通の代表が、地域住民が自主運行するコミュニティタクシーです。地域内をきめ細かく廻り、地域の中心地や駅・バス停までを結ぶ定時定路線の乗合交通で、2007年にまず小郡の「サルビア号」が運行を開始しました。市民交通計画の策定と同じ年に走りはじめたことから、同時並行で検討が進められたことがわかります。運行地域はしだいに拡大し、現在は7地域で運行しています。

地域住民は、路線や時刻を考えるだけでなく、年に何度も会議を開き、車両への乗り込みヒアリング調査をしながら、より利用しやすい経路やダイヤへと改善を進めているとのことです。ただし運行はタクシー会社が受託しています。行政は取り組みを支援し、地域に適したコミュニティ交通として守り育てていく役目を担っています。

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グループタクシーという制度もあります。こちらは駅やバス停から離れた地域に住む高齢者にタクシー券を交付するもので、1乗車につき1人1枚の使用が可能ですが、特徴的なのは相乗りを可能としており、3人で乗れば3人分の利用券が使えるので、相乗りするほどお得になります。4人以上のグループを集落などで作り、代表者を決め、その人が申請することで利用券を受け取る仕組みなので、外出促進で高齢者の健康維持に貢献するだけでなく、地域のつながりをも促進することになりそうです。

時刻表とマップ

もちろん行政が何もしていないわけではなく、前述したコミュニティバスなどを走らせているほか、昨年9月からは自転車シェアリングも導入。これらの交通をトータルで考えるという観点から、市内の鉄道やバスの時刻表をひとつにまとめ、マップとともに発行してもいます。以前のブログで紹介したパークアンドライド駐車場「置くとバス駐車場」も取り組みのひとつと言えるでしょう。

多くの地方都市が、山口市と同じような悩みを持っていると思います。その悩みを自治体や事業者だけで抱え込んでしまい、減便や廃止になってしまう例もあるでしょう。ただ地域交通の良し悪しは市民がいちばんよく知っているはずですし、そもそも民主主義の国ですから、本来はひとりひとりがもっと地域のことを考えていいはずです。なので山口市の方針には納得していますし、まちづくりの知識や経験が養われる市民は多くなりそうで、それがプラスに働くのではないかと期待しています。

ウーブン・シティはまちづくりか

2020年1月にトヨタ自動車が建設を発表した「ウーブン・シティ(Woven City)」。先月5日には舞台となる静岡県裾野市が地元住民や報道関係者向けに開催した「これからのまちづくり」説明会で、ウーブン・シティを手がけるウーブン・プラネット・ホールディングスのジェームス・カフナーCEOが説明を行いました。

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ウーブンシティのオフィシャルサイトはこちら

当日の模様はYouTubeで配信されたので私も視聴し、ウェブメディア「Merkmal」で記事を書かせていただきました。説明会の内容は記事を見ていただきたいですが、1ヶ月たった今思うのは、たしかに名前にシティが入っており、オフィシャルサイトに掲げたコンセプトでは「ヒト中心の街」「実証実験の街」「未完成の街」と「街」が多く出ているものの、多くの人が想像する「まち」とはかなり違う場所になりそうだということです。

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裾野市「これからのまちづくり」説明会報告ページはこちら

当日もカフナーCEOが私有地のまま開発を進めることに言及し、新しいモビリティを実証し住民が体験する場と説明しました。翌日はトヨタ自動車の豊田章男代表取締役社長がオウンドメディア「トヨタイムズ」で、テストコースという表現を何度も使っていました。私企業が自己資産を投じて作る施設ということもあり、実験の場所であることを第一目的にしたことがクリアになってきた感じがします。

新しいモビリティの実証実験を大学構内など公道以外の空間で行うことは、これまでもありました。ウーブン・シティはそこに人が住み、暮らしの中で実証実験を行っていく場だと解釈しています。ただし当初の住民はトヨタ関係者など約2000名に限られ、試作車の実験を敷地内で行う関係もあり、大学のキャンパスなどよりも閉じた場になることが予想できます。

裾野市ではウーブン・シティ構想を受けて、次世代型都市構想であるSDCC(裾野デジタル・クリエイティブ・シティ)構想を発表しています。市民や企業などがデジタル技術やデータの利活用によって地域課題を解決していくとしており、ウーブン・シティの周辺整備も含まれていますが、ウーブン・シティ本体は事業主体が異なるので、これとはまったく違う方針で進んでいくことになりそうです。



それでも同市では今年6月から周辺の住民や商店会などが、ウーブン・シティに近いJR御殿場線岩波駅周辺地区のまちづくりワークショップを開いています。説明会直前には第4回ワークショップを開催しており、さまざまなアイデアが出されたようです。裾野市のオフィシャルサイトでは内容をくわしく見ることができます。市民の希望と熱意がウーブン・シティと連携していくことを望んでいます。

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第4回岩波駅周辺地区まちづくりワークショップの報告はこちら

個人的には運転免許返納後の高齢者に居住の機会を与えてほしいと思います。新しいプロジェクトである分、新鮮な感覚を持つ研究者などを率先して迎え入れたい気持ちはあると思いますが、社会課題の解決という視点で考えれば、やはり高齢者への移動手段提供が思い浮かぶのです。それが長い目で見れば、まちづくりにつながっていくのではないかと考えています。