THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

まちづくり

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駅名のつくりかた

春は鉄道会社のダイヤ改正がよく行われます。それに合わせて新駅の開業や駅名変更も実施されたりします。首都圏ではJR東日本山手線・京浜東北線にひさしぶりの新駅「高輪ゲートウェイ」が誕生し、京浜急行では一挙に6つの駅名を変更しました。公募を行ったことも共通しますが、両社の駅名の決め方にはかなり違いがありました。

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高輪ゲートウェイ駅は、車両基地の跡地を使った再開発の一環として計画され、駅以外の建物は現在工事が進んでいます。資料を見ると、駅名の公募を行うはるか前の2015年に、「グローバルゲートウェイ品川」というコンセプトワードを決めており、駅名公募のときの資料にも書いています。条件にこそしませんでしたが、社内にはゲートウェイという言葉を入れたい気持ちが強く、公募で1位だった高輪と組み合わせたのではないかと想像してしまいます。

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しかし批判が続出したこともあり、江戸時代に「高輪大木戸」という門が置かれ賑わっていたという説明をしています。木の質感を生かした建築や明朝体を使った駅名標は、こうした歴史的な側面に合致しているような気がします。明朝体は視覚障害者にとって読みにくいという意見もあるので、地色を濃くして高輪大木戸駅とすればまだ違和感は少なかったかもしれません。

一方の京浜急行は、2018年に創立120周年を迎えたことを機に、沿線の小中学生を対象として実施した「わがまち駅名募集」がベースです。羽田空港に関連する2駅は空港側で呼び名の変更があり、東京モノレールともども変えることが前提になっていたうえに、大師橋駅(旧産業道路駅)は川崎市の都市計画事業で地下化されるのを機に変更を考えていたそうで、品川駅や横浜駅など26駅を除き、子どもの意見を聞くことにしました。



変更の理由などについては昨年「東洋経済オンライン」で記事にしていますので、興味のある方はご覧いただきたいのですが、そこにもあるように子どもの意見をそのまま使ったわけではありません。4駅のみを変更し、10駅については「鮫洲【鮫洲運転免許試験場】」のように副駅名標を掲げることになりましたが、募集から決定までに時間をかけ、票数などは公開せず、最終決定は京浜急行が行っています。

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タイトルで「つくりかた」という表現を使ったのは、駅名もまた、まちづくりの一環と考えているからです。どんなまちにしたいかを、住民や自治体の声を聞きながら短い言葉で表現するのは、大きな影響力があります。その点でいけば、事業者としての先入観は持たず、子どもの意見に耳を傾けたうえで、最終的にはプロの目で冷静に判断した京浜急行のプロセスは、参考にすべき事例ではないかと思いました。

カフェはまちづくりに欠かせない

新型コロナウィルスの感染拡大が止まりません。モビリティ分野では毎年この時期に行われるジュネーブモーターショーが開催3日前になって突然中止になるなど、世界的に混乱が続いています。そんな状況下ではありますが今週、週刊東洋経済と東洋経済オンラインにカフェの記事を書いたので、今週はこのテーマを選びました。

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モビリティやまちづくりが専門の人間がなぜカフェの記事を書いたのか。それはカフェが人の移動に不可欠な存在であり、まちづくりの一部だと考えているからです。先週触れた「歩いて暮らせる街」という表現にあるように、都市内では乗り物を降りて徒歩移動となることが多く、歩き疲れれば当然休憩したくなるし、その街で他人と待ち合わせることもあるでしょう。さらに移動途中に仕事をこなしたい場合もあります。そんなときにまず思い浮かぶのがカフェです。

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カフェはたしかに飲み物を提供する場でもありますが、同時に時間と場所を提供する場でもあります。カフェ文化が発達した都市のひとつであるフランスのパリでは、「一杯のコーヒーで何時間粘れるか」というフレーズさえあります。なので飲み物や食べ物の味はもちろん、店のデザインや雰囲気など、長い間心地よく過ごせる空間も大事で、これもモビリティやまちづくりに通じる部分だと感じています。





そのためにはやはり、個性的な独立店は重要な存在ですし、チェーン店であってもその土地に合ったデザインが欲しいところです。写真で紹介するのはスイスのシオン、米国ポートランド、我が国の東京新宿と富山のカフェです。いずれも周囲の風景や都市のキャラクターに配慮しつつ個性を表現したつくりで、街の名脇役と言える存在感を放っていました。

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さらに言えばこの4つのカフェは、公共交通で簡単にアクセスできます。シオンは無人運転シャトル、ポートランドではライトレールが背後に映っていることがお分かりでしょう。富山のカフェがある公園は富山駅から自転車をシェアして数分、新宿は駅西口からすぐの場所にあります。逆にマイカー移動なら車内でコーヒーを飲めますし打ち合わせもできるので、カフェの存在感は薄くなります。公共交通にとって大切なパートナーでもあるのです。

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今は世界各地で外出を控える状況にあり、カフェに積極的に足を運ぶような雰囲気ではなく、営業する側は大変な状況であることが想像できます。だからこそ感染が収束したら、またひんぱんに利用していきたいと考えているところです。またこれからモビリティやまちづくりに関わる人には、ぜひカフェの存在も頭に入れていただきたいと思っています。 

徒歩通勤を始めて分かったこと

新型肺炎の感染防止のためにどうすべきか。自分が選んだ行動のひとつが歩くことでした。それまで週1回のペースでジムに通っていたのですが、人が密集しているうえにマスクをするような場所ではないので、しばらく行くのを控えることにしました。でもそのままでは運動不足になりそうなので、片道約2.5kmある自宅の事務所の間の移動を、自転車よりも運動量の多い徒歩に切り替えたのです。

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自宅と事務所を結ぶルートとしては、バスも通る表通りと、昔ながらの商店街を貫いていく狭い道があります。所要時間は自転車ならどちらも15分、バスは停留所までのアクセスを含めて25分、徒歩は40分ぐらいで、個人的な感覚では遅いとは思いませんでした。これが徒歩通勤に踏み切った理由のひとつですが、実践してみるといろいろ発見がありました。

まずは見える景色の違いです。自転車は自動車に比べればゆっくり移動しますが、自分で運転してるので前方を常に確認しなければならず、周囲の風景を認識できるかという点ではバスのほうが上です。それが徒歩になると一変します。もちろん歩行中も前方確認は必要ですが、そもそもスピードが4分の1ぐらいなので、余裕がたっぷりあるのです。おかげで商店街の店先に並んでいる商品が価格を含めてわかるぐらいです。

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また自転車は、一度止まると再び走り出すのにそれなりのエネルギーが必要です。信号無視の自転車が減らないのは、もちろんいけないことですが、そのあたりが原因のひとつかもしれません。それに比べると自分の感覚として、歩きはじめるのにエネルギーはほとんど必要としません。なので路地の奥にある店に寄り道し、買い物をしたりするようにもなりました。

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これまでは鉄道駅やバス停留所まで最寄駅から目的地まで離れている場合などに、必要に迫られて歩くというパターンが多かったので、徒歩にはネガなイメージを持っていました。しかし最初から徒歩で移動と決めていると、それは散歩やハイキングに近いもので、仕方なく歩いているという気分にはなりません。これは新しい発見でした。

自宅から取材や打ち合わせ先に直行・直帰する場合も多く、急いでいるときもあるので、毎日徒歩移動しているわけではありませんが、移動の種類がひとつ増えたという感覚になったのは事実です。新型肺炎の感染は多くが乗り物や病院など密室の中で発生しているようなので、徒歩移動は感染を遠ざける手段のひとつにもなるのではないでしょうか。

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歩いて暮らせるまちづくりというと、マイカーに頼らない、公共交通を活用した生活を指すことが多いですが、表現のとおり、鉄道やバスを降りて歩くことが大事であることがわかりました。沿道の店を利用することが多くなり、それがまちの賑わいにつながると実感したからです。同じ距離を時間をかけて移動する分、同じ距離から得られる情報の多さは圧倒的です。今後も時間を見つけて徒歩移動を組み込んでいきたいと思っているところです。

車道から歩道へ、というまちづくり

少し前の話になりますが、昨年秋、東京都内の2つの商業施設が相次いでリニューアルオープンしました。この2つの場所について、モビリティの面で共通する取り組みがあったので、今回はそこにスポットを当てていきます。

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まずは1973年にオープン以来、渋谷の流行発信地となり、公園通り(パルコは公園という意味のイタリア語)など周辺の道路が愛称で呼ばれるきっかけにもなったパルコです。2016年に一旦閉店しましたが、昨年11月に復活しました。パート1からパート3まであったうち、パート2はホテルに姿を変え、残るパート1とパート3が合体して新しいパルコになりました。

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ではパート1とパート3の間にあった、サンドイッチ通りと呼ばれた車道はどうなったかというと、歩行者専用通路に姿を変えています。渋谷駅からセンター街〜スペイン坂という順で向かうと、スペイン坂を登りきったところがこの通路になっており、スムーズにアクセスできます。南北の道路に高低差があることを利用して、階段とスロープが設けてあるので、車両の進入や突破を防ぐこともできそうです。

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公園通り側も、1階部分は歩道ギリギリまで建物を伸ばすことはせず、待ち合わせなどに使えそうな、余裕のある空間の使い方をしています。渋谷文化の発信地として君臨し続けてきたパルコが考える、これからのまちづくりのメッセージなのだと理解しました。

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もうひとつは町田市の南町田グランベリーパークです。東急電鉄田園都市線と国道16号線および246号線、境川に囲まれたここは、2000年に南町田グランベリーモールと呼ばれるショッピングモールがオープンしましたが、3年前に1度閉館。その後再開発され、昨年11月に名称をあらためてオープン。最寄駅も南町田から南町田グランベリーパークに改称しました。

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モールからパークに名前を変えたのは、隣接する鶴間公園と一体で再開発を行ったことがあるようです。モールと公園の間には従来、車道が走っていましたが、再開発に合わせて歩道に転換し、2つの空間を安全に歩いて行き来できるようにしたのです。その代わり公園の北側に新たに車道を設けることで、円滑な自動車通行にも配慮しています。

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欧米ではニューヨークのタイムズスクエアやパリのセーヌ川沿いなど、車道を歩道に転換した事例がいくつもあります。歩道にLRTを通して利便性を高めたトランジットモールも数多く存在しています。日本でも北海道旭川市の平和通など、先駆的な事例がいくつかありますが、東京の2例を見て、これが今の社会を反映した潮流なのだと感じました。

日本で24時間都市が難しい理由

昨年あたりからコンビニエンスストアの24時間営業についての意見が目立つようになりました。今回の年末年始では一部の飲食店や商業施設が元日営業を止め、2日あるいは3日からの営業とするお店が増えました。そして今週、ガストやジョナサン、バーミヤンなどを展開するファミリーレストラン大手のすかいらーくグループが、24時間回営業を止めていくことを決断しました。

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一方で日本には、東京オリンピック・パラリンピックを前にナイトタイムエコノミーを推進しようという動きもあります。欧米の大都市に比べて日本は夜を楽しむことができないので、飲食店の営業時間をのばしたり、公共交通を終夜運転したりという主張が見られます。こうした論点の際に必ずと言っていいほど例に出るのがニューヨークです。ニューヨークでは地下鉄や路線バスが24時間運行だからナイトライフが満喫できるという主張です。
 
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 しかしニューヨークの地下鉄は、運営環境が日本の地下鉄とは大きく違います。このブログで何度も触れてきたように、欧米の多くの都市交通は公的組織が一括して管理しており、目先の黒字赤字に一喜一憂して減便や廃止を行うことはあまりありません。ニューヨークもMTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ)が一括して管理しています。ちなみにMTAは公共交通のみならず、マンハッタンと周辺を結ぶ橋やトンネルも管理しています。
 
ニューヨークの地下鉄は、ひとつの路線に複数の系統が走っているのも特徴で、日本で言えば地下鉄よりも路面電車やバスに近い状況になっていますが、すべての路線が24時間運行というわけではなく、深夜には運転しない系統も減り、本数もかなり少なくなります。深夜専用の路線図まで用意しています。朝晩に比べて利用者が少ないのはニューヨークも同じであることが想像できます。

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日本でも東京都が六本木と渋谷を結ぶ路線バスの24時間運行を実施したことがありますが、1年を待たずに廃止になりました。本数が少なかった、他のバスや鉄道との連携がなかったなどの理由が考えられますが、それをニューヨーク並みにするには今の運営体制では無理です。加えて近年は運転士不足も課題になっています。東京の地下鉄の24時間運行に言及する人は、このあたりの事情まで考えて議論してほしいものです。

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24時間運行の交通が日本にないわけではありません。空港では関西国際空港が知られていますし、都市間の夜行バスや列車も根強い人気があります。物流の世界も24時間営業です。しかし国際空港は海外との時差を勘定に入れる必要があり、夜行のバスや列車は高速移動手段が確立していなかった頃から存在しています。いずれも都市内の24時間運行とは分けて考えるのが自然でしょう。

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日本は農耕により発展してきた国であり、日の出とともに仕事を始め、日の入りとともに仕事を終え休むという生活を送ってきました。その風習が残っている観光地も多くあります。たとえば浅草の仲見世は19時ぐらいにはほとんどの店が閉まります。それでも世界各地から多くの人が訪れ賑わっています。これが日本らしさではないでしょうか。ナイトタイムエコノミーの議論はそろそろ終わりにして、多くの人が心地よく過ごせる社会を目指してほしいと思っています。