THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

まちづくり

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「ほこみち」始まりました

国土交通省では6月、新型コロナウイルスの影響を受けるレストランやカフェなどを支援する緊急措置として、路上でテイクアウトやテラス営業などを行う際の許可基準を緩和すると発表しました。さらに同月にはウィズコロナに対応した道路施策を発表。アフターコロナの時期をも見据えた道路政策ビジョン「2040年、道路の景色が変わる」を提言しました。 

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この2つについてはこのブログでも紹介し、提言については今週月曜日、J-WAVEで9時間にわたり放送された特別番組「JAPAN SMART DRIVER presents THANKS TO LA STRADA」に出演させていただいた際にも取り上げました(明日までradikoで聴けます)が、いくつかの都市ではすでに動きが起きています。

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写真は横浜市中心部で、最初の写真は今月30日まで行っている社会実験「みっけるみなぶん」の様子です。みなぶんとは、みなと大通りと横浜文化体育館周辺道路を合わせた愛称で、車道幅を狭め歩道を広げるなどの再整備を予定していることから、車道の一部を囲ってテーブルやイス、人工芝などを用意しています。2番目の写真は近くの日本大通りで、歩道が広いことを生かし以前から複数の飲食店がオープンカフェを展開。先進的な地域になっています。



今週この動きがさらに一歩進みました。5月27日に公布されていた道路法等の一部を改正する法律が国会で可決され、11月25日に施行されたのです。この中では新たに「ほこみち」という愛称とともに、歩行者利便増進道路制度を創設。国や地方自治体など道路管理者がほこみちを指定することで、歩道の中に「歩行者の利便増進を図る空間」を定めることができたり、道路空間活用の際に必要な道路占用許可が柔軟に認められるなどのメリットがあります。

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最初に紹介したコロナ禍を踏まえた許可基準緩和制度についても、当初は11月30日までとされていた期限が来年3月31日まで占用の期間を延長することになったばかりでしたが、今後はほこみちに移行していくことになっていくでしょう。

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いずれにしても感心するのは「2040年、道路の景色が変わる」に続いて、今度は「ほこみち」というわかりやすい表現を起用していることです。道路利用者つまり私たちに歩み寄り、ともに良い環境を作り出していきたいという国土交通省の意志が伝わってきます。もちろん好ましい動きです。ひとつでも多くの自治体が道路の使い方を見直し、多くの「ほこみち」が生まれることを期待しています。

顔認証は地方交通に向いている

昨年12月以来、ほぼ1年ぶりに顔認証を取り上げます。前回は大阪メトロが日本の鉄道で初めてこの技術を用いた改札機の実証実験を始めたことに合わせ、前の月に開催された鉄道技術展で担当者に伺った話を織り交ぜましたが、その後の1年間でモビリティやまちづくり分野で実証実験がいくつも行われているので、改めて取り上げることにしたのです。

神姫バス顔認証

このテーマについてはウェブメディア「ビジネス+IT」で記事にもしましたが、まず路線バスでは2月には茨城県つくば市、7〜8月には兵庫県三田市で顔認証乗車の実証実験を行っており、いずれもNEC(日本電気)のシステムを使っています。上の写真は三田市の実験を行った神姫バスのものです。NECは7〜9月にJR東日本高輪ゲートウェイ駅前で行われたイベントで、顔認証改札技術などタッチレスサービスの技術も提供しました。

NECでは個々の交通に顔認証を導入するよりも、都市全体を顔認証社会とすることを目標としているそうです。いち早くそれを具現化したのが和歌山県白浜町(南紀白浜)の実証で、2019年1月から空港、商業施設、宿泊施設などを対象に行っていますが、今年10月からは富山市でも同様の社会実験を始めました。乗り物もその中に含まれており、南紀白浜では路線バス乗車券やレンタカー予約、富山では遊覧船のチケット購入が可能です。

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NECをはじめ現在日本で導入している顔認証はデータベースをクラウドに置くタイプで、少ない出資で導入可能というメリットがありますが、データの照合に通信を用いるので、現状では認証完了まで1秒ぐらいかかるのがネックと言われています。5Gになればレスポンスは上がるものの、各駅やバス停付近の通信環境を完璧にしておくことが前提であり、全国レベルでの普及は先になりそうです。

 

しかしモビリティへの顔認証は、それ以上のメリットが数多くあると考えています。定期券やICカード、スマートフォンの出し入れの手間がなくなるので、両手に荷物を持っていても使えます。車いすやベビーカーの利用者にもありがたいはずで、スマートフォンが苦手という高齢者も、最初に登録を済ませてしまえば端末を持つ必要がありません。コロナ禍の現在では非接触であることもメリットになります。

顔認証を導入するもうひとつのメリットは、データ収集ができることです。これによって運行ルートや便数などをきめ細かく調節し、サービス向上につなげることができます。この点は特に、利用者減少や運転士不足、財政基盤の弱さなどに悩む地方の公共交通にメリットがあると考えています。前述したレスポンスも利用者が少ない地方ではさほど問題になりません。高齢者でも入りやすいことを含め、大都市よりも地方に向いたサービスではないでしょうか。

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思えばスマートフォンの個人認証も、当初はパスワード認証だったものが指紋認証を経て、現在は顔認証になっています。使い勝手とセキュリティを高次元で両立したシステムなのでしょう。しかもモビリティとの相性は良く、高齢者でも使え、地方に向いています。以前紹介した東御市電気バス顔認証も、すでに使いこなしている高齢者が何人もいます。地方交通の改革手段のひとつとして、今後さらに注目が高まっていくのではないかと考えています。

まちづくりのためのLRTを実感する宇都宮

宇都宮LRT、つまり栃木県宇都宮市および芳賀町で建設が進んでいるLRTについては、雑誌やウェブサイトでこれまで何度も記事にしてきたこともあり、最近も何度か現地を訪れています。先月もいくつかの場所を視察してきました。今回はそのときの様子を、いつもと違う角度から紹介します。

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まずは宇都宮市東部のテクノポリス地区。ここは現在の宇都宮市長がLRT導入を公約に市長選挙に当選した翌年になる2013年から開発がスタートした地区で、現在は7000人以上が暮らしています。今回この地を訪れると、小学校の建設が進んでいました。

我が国の少子化は全国的な傾向であり、東京都渋谷区の当事務所の近くでも、数年前に3つの小中学校の統合が行われました。それを考えれば、新規に小学校が生まれること自体が異例の出来事です。宇都宮市のウェブサイトにも紹介があり、4年前に学校開設の基本計画が承認され、来年4月に開校予定とのことです。開設の理由のひとつに、LRT整備で今後も人口増加が予想されることが書かれています。

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たしかにテクノポリス地区は、いまもなお宅地開発が進んでいます。このように大手の住宅メーカーが参入している場所もあり、すでに買い手がついたところもあることがわかります。これもまた人口減少に悩む地方から見ればうらやましい状況でしょう。ちなみにこの場所は停留場予定地からは300mほどです。

近くにある私立大学も紹介します。付属高校が高校野球で活躍していることでも有名な大学で、設立は1989年。現在はJR宇都宮駅からスクールバスを運行していますが、学校名を冠したLRTの停留場が隣接する道路に作られる予定で、学生側にとっても大学側にとっても開通の期待は大きいのではないかと思われます。

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LRTが乗り入れる宇都宮駅東口は以前は駐車場と飲食店があるだけでしたが、現在は再開発が始まっており、フェンスで覆われています。ここにはホテル、コンベンション施設、シェアオフィス、商業施設などが入るそうです。フェンスには来年春に車両の導入が始まることも書いてありました。

LRTも含めた公共交通は導入それ自体が目的ではなく、まちづくりのための手段のひとつ。欧米の主要都市や我が国の富山市などが掲げ、このブログでも何度か書いてきたことを、宇都宮市は忠実に実現しようとしていることがわかります。当初は工業団地の通勤路線として計画されたものを、住民の声を受け入れて生活路線に転換した結果、住民の理解も深まっていることが伝わってきます。

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たしかに実際にLRTを利用する人は、市民のうちの一部にすぎないでしょう。しかし居住者や通勤通学者の増加は税収増につながり、広い目で見れば地域全体の発展に寄与するプロジェクトになります。まして昨今は高齢ドライバーの事故が問題となり、公共交通整備が重視されているうえに、コロナ禍で東京からの転出者が増え、地方移住が伸びています。そこまで考えたまちづくりが求められています。

明日、その宇都宮市で市長選挙の投開票が行われます。今回も前回と同じように、LRT推進派とLRT凍結派の争いとなっています。これまで書いてきたように、これは公共交通の是非ではなく、まちづくりの是非という話です。まちづくり推進か、まちづくり凍結か、を選ぶ場であると考えています。

城端線・氷見線LRT化を考える

先週に続いて富山県西部のモビリティの話題です。2種類の電動3輪車に乗りに行く際には、JR西日本氷見線、加越能バス、万葉線を使いましたが、このうち高岡駅と氷見駅を結ぶ氷見線は、高岡駅から新高岡駅を経由して城端駅に至る城端線ともども、今年1月にJR西日本がLRT化など新しい交通体系への転換を検討していることが明らかになっています。今回はこの話題を取り上げます。

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JR西日本では富山港線(富山ライトレールを経て現在は富山地方鉄道)、吉備線に続いて3路線目のLRT検討になります。以前訪れた吉備線と共通しているのは、キハ40系という旧式のディーゼルカーを使い続けていることです。富山港線LRT化による成功事例を体験していることもあり、相次いでLRTによる近代化を検討しているのではないかと思っています。

ただ今回利用した氷見線側で見ると、いくつか課題があると感じました。そもそも氷見駅が、漁港や番屋街などがある市の中心部から離れています。氷見線から氷見港までは1km、番屋街までは2kmほどあるのです。しかも富山駅から射水市新湊地区を経由して氷見に向かうバスは、駅を通らず漁港や番屋街に直行します。地域を走る加越能バスでさえ氷見駅には立ち寄らず、近くの国道に最寄りのバス停があります。

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高岡市も、北陸新幹線は高岡駅のひとつ隣にある新高岡駅に乗り入れており、駅周辺にはショッピングモールがある一方、高岡駅近くの百貨店は閉店するなど、主役の座が入れ替わりつつあることを実感します。ただこちらは城端線が両駅を結んでいます。氷見線を氷見港付近まで延長するという手法を含め、交通結節点の一元化を図らないと、LRT化の効果は発揮されにくいと思っています。

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もうひとつ気になるのは高岡駅から射水市新湊地区に伸びる万葉線の扱いです。氷見線と万葉線は高岡駅から能町駅付近まで並行していますが、万葉線は停留場が多く、交差点で信号停止することもあり、所要時間は3倍近く掛かります。なので新湊地区から氷見線経由で高岡・新高岡駅に乗り入れることで、スピードアップを図れないかと考えるようになりました。

実はこの地域には、氷見線から分岐して万葉線に沿って走る貨物線があり、かつては旅客営業をしていたものの、万葉線の開通で貨物線に専念するようになったという経緯があります。時計の針を巻き戻すような形にはなりますが、2つの路線が並行するのであれば、線路をつなげることで速達性を高めるという選択肢があっても良いのではないでしょうか。

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残る高岡市内の路面電車は単独で残すことになりますが、利用状況次第では氷見線に駅を増やしたうえで統合という結論になるかもしれません。いずれにしても地域の生活や観光にとってプラスになることが第一であり、そのために有効な投資を行ってほしいと考えています。

東御市電気バス実証実験に関わって

東御市という長野県の自治体を知っているでしょうか。長野県東部にあり、東部町と北御牧村が合併して2004年に誕生しました。第3セクターのしなの鉄道が通り、上信越自動車道のインターチェンジがあります。ここで今週月曜日から小型電気バスによる公共交通の実証実験が始まりました。私はアドバイザーとして関わってきたので、内側から見た地方のモビリティ改革の様子をお伝えします。

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今回紹介する実証実験は、東御市と同市に本拠を置くカクイチ建材工業との連携協定のもとで行うもので、同市の商工会や観光協会などとともに東御市先端MaaS協議会を結成し、高齢者がいきいきと元気に生きる社会を目指したまちづくり改革を進めることになりました。その一環として小型電気バスによる公共交通の実証実験を始めたのです。

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東御市は多くの地方都市同様、人口減少と若者の流出に悩まされています。市が誕生した時の人口は約3.2万人でしたが、現在は3万人を割り込んでいます。多くの市民はマイカーを移動手段としているものの、最近は運転免許を返納する高齢者も増えています。とはいえ路線バスはいずれも1日数便、タクシー会社の所有車両は数台にすぎません。 そこで市ではオンデマンド方式のバスなどを走らせていますが、こちらも利用者が減少し、料金の値上げや土曜日の運休を余儀なくされています。

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こうした状況は、バスのルートが移動実態に合っていないためもあると感じていました。オンデマンド交通も2点間の移動が前提で、市内の回遊には向きません。これではお出かけの楽しみは生まれず、地域の活性化も望めません。そこでしなの鉄道田中駅と市民病院、スーパーマーケット、温泉施設を結ぶ循環型のルートとして、住民にも観光客にも東御市を楽しんでもらえるバスにしようと考えました。

バスの名前は「RIDE’N(ライデン)」で、この地で生まれた江戸時代の名力士・雷電関とRide onを掛け合わせたものです。一方モビリティサービス全体の名称は「CANVAS(キャンバス)」としました。名前が2つあるのは紛らわしいとも感じますが、こちらはラストマイルの移動を担うグリーンスローモビリティ、さらには病院や商店などの利用も可能としていく予定で、顔認証を導入したサービスを目指します。

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実はこの電気バス、当初は東京2020五輪パラリンピック競技大会のイベント輸送用で活躍する予定でした。しかし3月に大会が延期になり、急遽東御市に打診をして、今回の実証実験にこぎつけました。つまり準備期間は半年です。しかしバスは走り始めることができました。関係者の努力に感謝するしかありません。改善すべき部分はもちろんあります。でもそれは走りながら直していけばいいと思っています。完璧を求めるがゆえに、もっとも大切な利用者への提供が遅れることは避けたいと考えました。

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驚いたのは、事前告知をほとんどしていなかったのに、周辺自治体や関係企業などが情報を聞きつけて、話し合いの場を持つようになったことです。出発式の日も近隣の自治体の首長と面会し、車両の視察も行いました。東御市がある東信地域が今回の実証実験を機に、地域全体でのモビリティ改革を推進し、他の地域に影響を及ぼすような存在になればと思っています。気になる人はぜひ訪れてみてください。