THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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今週月曜日、以前から議論されていたライドシェアが東京都内で導入され、昨日は神奈川県でも開始となりました。早速多くのメディアで報道されていますが、海外でライドシェアを実際に使い、日本にある同種のサービスも利用したことがあるひとりとしては、いくつか説明が必要だと思いつつあります。

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まずはニュースでよく見かける「日本版ライドシェア」という表現。この言葉を前にすると、日本にあるライドシェアサービスは1種類しかないと思いがちですが、実際には2種類あります。ひとつは今回東京都内などで、タクシー会社の運営により始まったもので、自家用車活用事業というのが正式な名称です。もうひとつは地方で以前から展開している、交通空白地自家用有償旅客運送の制度を改革したものです。

我が国では日々の移動に困っている地方こそ、ライドシェアが必要だと思っていますが、日本版ライドシェアは逆に前者を指すようです。ただし私がチェックしたライドシェア対応アプリ「Uber」「S.RIDE」「GO」の中で、この呼び名を使っているのはGOだけです。ここからも正式名称ではないことがわかります。「空飛ぶクルマ」と同じように、一部の事業者が戦略的にこの呼び名を広めているのではないかと想像しています。

国交省地方のライドシェア

一方の自家用有償旅客運送発展型は、自治体ライドシェアと呼ばれることもあります。タクシー会社ではなく自治体が主体となって展開していくからでしょう。こちらについては国土交通省の資料にあるように、自家用有償旅客運送制度をベースに、交通空白地という定義を時間帯にも適用、実施主体に株式会社が追加、タクシーの半額程度だった対価を約8割まで高めることなどが昨年末までに決められ、一部地域で導入が始まっています。

さらに今後、タクシーとの共同運用の仕組みの構築、運用区域の柔軟化、首長による最終判断権限などについて、6月をめどに内容を詰めていくことも記してあります。これと大都市でタクシー会社が運用するライドシェアが統合されて、初めて日本版ライドシェアと名乗るべきでしょう。現状では、都市型ライドシェア/地方型ライドシェアと呼び分けるほうがふさわしいような気がします。

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ライドシェアは安全ではないという意見は、今も多く目にします。その中には、内情を知らず否定しているものもあります。国土交通省の統計では、走行距離1億kmあたりの事故件数が自家用車42.7件に対しタクシー149.9件と、タクシーのほうが安全でないことが示されています。このブログで何度か紹介した京都府京丹後市のささえ合い交通では、毎朝アルコールチェックや健康状態の確認を行い、車両にはドライブレコーダーを設置するなど、タクシーに近い安全対策を行っています。

それに今週始まった都市型ライドシェアでは、上で取り上げたUber、S.RIDE、GOはすべて、手順は異なるものの、ライドシェアを使わないモードを、設定画面などで選べます(S.RIDEは最初の写真、Uberは下左、GOは右の画像)。逆にライドシェアだけを選ぶことはできないようですが、とにかく知らないうちにライドシェアに乗ってしまうということは、この3つのアプリについてはないわけです。

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海外でライドシェアを利用した人を中心に、日本での導入を支持する人も多いという報道もあります。それを踏まえれば、移動の選択肢を多く用意し、利用者がそれを自由に選ぶことができる社会が理想ではないでしょうか。ライドシェアが不安なら、黙って避ければ良いだけの話です。声の大きい一部の人たちの意見に、全体が流されるようなことは避けたいものです。

今週末は三重県の鈴鹿サーキットでF1日本グランプリが開催されていますが、先週末は東京都の東京ビッグサイト周辺で、フォーミュラEの東京E-Prixが行われていました。個人的にはレースは観戦も参加もあまり興味はなく、フォーミュラEは申し込もうと思いつつ締め切りを忘れてしまったぐらいです。ただテレビの地上波で放送していたので見たところ、終盤まで接戦の連続で、予想以上に楽しめました。

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ところで東京都ではフォーミュラE開催に合わせて、週末の2日間、「E-Tokyo Festival 2024」というイベントをビッグサイトの中で開催していました。こちらは興味があったので、レース翌日に現地を訪れました。フォーミュラEのコースだった場所は、公道を含めてコース脇のフェンスやコンクリートウォールなどが置かれたままでした。ゆえに臨場感が伝わってきて、東京の公道で世界選手権のレースが行われたのはやはり、画期的な出来事だったのだと感じました。

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フェンスやコンクリートウォールが薄いことにも気がつきました。こちらについては「auto sport web」の記事で、競技審査委員を務めた鈴木亜久里氏が、フォーミュラE独自の規格で他のレースでは使えないとコメントしていました。市街地でもレースができるよう性能を抑えているのかもしれません。レースはスピードやサウンドこそ魅力という人もいるでしょう。でもそれによって開催場所が限られてしまいます。新たなモータースポーツのファンを育てるために、こうしたアプローチは大切ではないでしょうか。

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E-Tokyo Festival 2024にも感心しました。電気自動車だけでなく、ZEV(ゼロエミッションビークル)全体を対象としているので、燃料電池自動車や電動のパーソナルモビリティも展示され、一部は試乗もできました。モビリティショーでは壇上にあった、特定小型原付を想定したスズキの電動4輪車は、間近で見ることができ、高齢者らしき方が熱心に話を聞いていました。子供向けのメニューが多く用意されており、週末の東京都心ということもあって、家族連れを多く見かけました。

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F1とフォーミュラEは、エンジンかモーターかだけでなく、頂点を極めるか、裾野を広げるかという違いもあると感じました。東京都のイベントからもそういうメッセージが伝わってきました。電気自動車とハイブリッド車の関係もそうですが、二者択一ではないと考えています。だからこそフォーミュラEは持ち味を活かして、大都市以外でも開催してほしいものです。併設イベントと合わせて魅力を広くアピールしていくのが、ふさわしい姿ではないかという気がしています。

京都市でバスや地下鉄を運行する京都市交通局が、6月1日に市バスのダイヤ改正を行うと発表しました。オフィシャルサイトにくわしい説明がありますが、大きな柱としては、コロナ禍後の利用状況に応じた増便、洛西地域のまちづくりと連携した運行の見直し、観光特急バスの新設など観光系統の再編の3つがあります。

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バスのダイヤ改正というと、最近は運転士不足を受けての減便や路線廃止などのニュースが多い中で、市バスは一部で減便をしつつ、利便性を高めるための増便や路線新設も行っており、全体では車両数、走行キロ数ともに増えています。鉄道駅との接続を重視していることも目立つ点で、京都駅から地下鉄とバスを乗り継いで観光地に行ってもらうことで、生活路線の混雑緩和を狙っているようです。

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京都市交通局のダイヤ改正を伝えるサイトはこちら

また洛西地域では地域活性化の取り組みが進んでおり、新ダイヤはその一環でもあります。この地域にある洛西ニュータウンは当初、地下鉄が延伸される計画があったものの、財政難から実現せず、人口減少と高齢化に悩んでいます。しかし21世紀に入って東側を走る阪急電鉄京都線に洛西口駅、JR西日本京都線に桂川駅が生まれており、この2駅とニュータウン内の洛西バスターミナルを結ぶ路線や便を充実させるとのことです。

洛西地域には市バスのほか京阪京都交通、阪急バス、ヤサカバスと4つのバス事業者がありますが、ICカード定期券であれば、どの事業者のバスに乗ってもいいという仕組みも予定しているそうです。一方市の中心部では、市バスと民営の京都バスで重複していた系統番号を別々にするという動きもあります。市バスと京都バスは以前から連絡定期券や一日乗車券で連携しており、回数券は市内を走る9つの事業者すべてで使えるものもあるなど、一元化が進んでいます。

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だからこそ鉄道の一元化も進めてほしいと思っています。現在京都市内を走る鉄道は、JR西日本、阪急電鉄、京阪電気鉄道、近畿日本鉄道、京福電気鉄道(嵐電)、叡山電鉄、市営地下鉄と7つの事業者がありますが、一部の事業者が一日乗車券などで連携しているだけで、地下鉄四条駅と阪急烏丸駅のように、乗り換え駅なのに駅名が違ったりする場所もあります。

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実は外国人向けには、京都をはじめ関西地区のJR以外のほとんどの鉄道に乗ることができる「KANSAI RAILWAY PASS 2day/3day」という、MaaSと呼びたくなるような乗車券があります。以前から課題になっている市バスの混雑解消には、当事者も提案しているように、鉄道との連携が効果的です。京都市内のすべての鉄道が単一のチケットで乗れるようになれば、現在のようなバス依存が少し薄まるような気がしています。

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