THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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来週火曜日の9月1日から、いわゆる生活道路における自動車の法定速度が60km/hから30km/hに引き下げられることは、自動車を運転する人であれば知っているでしょう。今回はこれに関連する内容で、日本ではあまり知られていないエピソードを、紹介したいと思います。「#Love30」キャンペーンというのがその名前です。

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#Love30キャンペーを紹介するWHOのサイトはこちら

このキャンペーンが生まれたのは、2021年3月のこと。国連とWHO(世界保健機関)が主催した第6回国連世界交通安全週間で、人々が歩き、生活し、遊ぶ場所での自動車通行を30km/hに制限し、世界各地で低速道路を実現していく行動が、政策立案者に呼びかけられたことに関係しています。ここでメインスローガンの「Streets for Life(生命のための通り)」とともに宣言されたのが、#Love30キャンペーンで、世界中の市町村で30km/hの制限速度が当たり前になることを求めたものです。

WHOではこの運動について、「安全と健康」「環境」「活気あるコミュニティ」「汚染の軽減」の4つのメリットがあると主張し、実現に向けて国や自治体のリーダーに対し、「インフラの改修」「適切な制限速度の設定」「取り締まりの強化」「車両技術の導入」「意識啓発」の5つの施策をパッケージで導入するよう求めています。国連は2021〜2030年を「交通安全のための行動の10年」と定め、世界の交通事故死傷者を50%削減するという野心的な目標を掲げてもいて、#Love30はその中核をなす重要なアクションとなっているようです。

WHO速度による致死率のグラフ
自動車速度と歩行者致死率の関係などを紹介したWHOの「Speed management」はこちら

なぜ30km/hなのかというと、歩行者が自動車と衝突した場合、自動車の走行速度が30km/h以上では死亡率が大きく跳ね上がるという調査結果が、WHOなどで公表されているからです。これを元に生まれたのがゾーン30で、欧州では1992年、オーストリアのグラーツが生活道路での30km/h規制を実施したのを皮切りに、世界に広がっていきました。2011年からは我が国でも導入が始まっています。しかしこうした動きだけでは不十分であるからこそ、10年後に#Love30キャンペーンが生まれたのでしょう。

この決定を受けてか、日本では同じ年の8月、「ゾーン30プラス」が制定されました。最高速度30km/hの区域規制と、ガードレールや狭さく、ハンプなど物理的設備を組み合わせていくことで、さらなる歩行者優先の通行空間整備に取り組んでいくというものです。一方フランスのパリでは同じ月、幹線道路や外縁部の自動車専用環状道路(ペリフェリック)を除く市内全域を30km/h制限とする新たな規制が施行されました。

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一連の変化があった2021年は、新型コロナウイルス感染症が拡大した翌年に当たります。日本では移動の自粛が叫ばれ、テレワークが一気に普及したことが記憶に新しいですが、欧米や中国ではさらに厳しい行動制限(ロックダウン)が実施されました。WHOの#Love30キャンペーンや、それを受けての一部の国の動きは、コロナ禍で交通安全政策を一気に進められる好機だと判断したのかもしれません。

ではなぜ我が国がゾーン30プラスの展開に続き、生活道路の法定最高速度引き下げという法改正を施行したのでしょうか。#Love30キャンペーンを他国よりも真摯に受け止めるべき国だと認識しているからだと想像しています。IRTAD(国際交通事故データベース)の2025年の報告書によると、日本は交通事故死者の道路別比率で市街地が60%に達していますが、オーストリアの28%、フランスの32%を大きく上回っているからです。

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日本は欧州諸国より、交通事故死者に占める歩行者の割合が多いことは知られていますが、それだけでなく市街地での事故比率が高いことも特筆すべきことなのです。この国こそ#Love30が重要なのであり、今回の法改正は妥当だと考えています。

電動アシストというと、多くの人が自転車を思い浮かべるかもしれませんが、1993年に世界で初めてこの機構を市販化したヤマハ発動機は、他にも電動化のノウハウを用いたさまざまなモビリティを実現しています。

代表格が既存の手動車いすに取り付ける電動化ユニットで、昨年で30周年を迎えたそうです。それ以外でも、グループ会社のヤマハモーターエンジニアリングでは、消防用ホースを楽に運搬できる電動アシストホースカーを作り続けています。今週はその経験を活かして、大型ベビーカーや介護機器の専門メーカー五十畑工業とともに共同開発した「電動アシストお散歩カー」を発表しました。

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ヤマハモーターエンジニアリングでは、電動アシストホースカーのノウハウを他の業界の現場課題解決に拡げていきたいと考えていたところ、人手不足が深刻化しており業務負荷の軽減が求められている保育業界に注目したとのことです。少子高齢化が課題となっている昨今だからこそ、保育業界の困りごと解決のために自分たちの技術を提供したというストーリーに感心しました。

消防用とは違い、誰もが簡単に操作できることが大事ということで、2年半にわたり保育士へのヒアリングが行われ、試作車を6台製作し、ブラッシュアップを繰り返しながら製品へと仕上げていったそうです。試走を体験した女性保育士は「今までの10%くらいの力で動かすことができた」とのことです。ちなみに道路交通法では「小児用の車」に分類され、歩行者扱いになります。

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来年創業100周年を迎える老舗企業の五十畑工業は、10年前まで同種の製品を販売していたそうで、復活を望む現場からの切実な要望があり、かつて販売していたこの乗り物を再び世に届けたいという気持ちがあったとのことです。また同社のオフィシャルサイトには「緊急時の避難にもお使いいただけます」という文字もあります。たしかに災害時、迅速に園児を避難させるときにも活躍できそうです。

保育業界というと、マスメディアではたびたび待機児童問題が話題に上がります。厚生労働省の2021年のデータでは、待機児童数が群を抜いて多いのは東京都で、首都圏1都3県だけで全国の半数以上を占めます。一方で甲信北陸の合わせて5県はゼロだったりします。少子化対策のためにも、一極集中の緩和が大事だと教えられますが、こういう形での業界支援もまた重要です。

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電動アシストお散歩カーを紹介するヤマハ発動機のニュースレターはこちら
 
9月から受注開始というこの電動アシストお散歩カー、価格は同じ五十畑工業の手動のお散歩カーが9.8万円なのに対し、79.8万円からとかなり高価です。販売台数が増えれば下がっていく可能性はありますが、補助金などを用意してもらって、多くの施設に導入してもらえればと思っています。

南海電気鉄道が、現在建設中のなにわ筋線に乗り入れる次期空港特急の導入を発表しました。これまで「ラピート」が築いてきた価値と精神を継承しつつ、次世代の南海グループのフラッグシップとなることを目指して開発に取り組むとのことですが、多くの人が注目したのは、車両デザインのパートナーとしてイタリアのピニンファリーナと共創するということです。

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ピニンファリーナと言えば、数多くのカーデザインを手掛けてきたことで知られています。なので「なぜ鉄道?」と思った人がいるかもしれませんが、欧州ではいくつか実例があり、私もスイス連邦鉄道で乗ったことがあります。またスイスとイタリアを結ぶユーロシティ(国際特急列車)は、やはり自動車ではおなじみのジョルジェット・ジウジア氏が立ち上げたイタルデザインが手掛け、フィアット・グループが開発した車体傾斜装置「ペンドリーノ」を組み込んでいます。

スイスがデザイン後進国かというと、全然そんなことはありません。同国が1950年代に提唱したタイポグラフィ(文字を美しく効果的に配置・表現するデザイン手法)はその後、スイス・スタイルとして世界中に広まりました。多くの人が今も使う「ヘルベチカ」という書体も、このときに生まれたものだそうです。下の写真でユーロシティが停車する右隣のホームにあるスイス連邦鉄道の時計も、スイスを代表するデザインのひとつになっています。

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そんなスイスの鉄道がイタリアンデザインを取り入れているのは、移動体に求められるダイナミズムやエレガンスの表現に長けているからでしょう。私は今年度を含めて、長年グッドデザイン賞の審査委員を務めさせていただいていて、鉄道をはじめとするモビリティのデザインを数多く見てきていますが、他のジャンルと大きく違うのがこの動感表現であり、この点でイタリアは今なお世界のトップレベルにあると思っています。

昔の話になりますが、NHK BSでピニンファリーナのドキュメンタリー番組の解説を担当することになり、事前に全編を見た中でもっとも印象的だったのは、デザインをまず遠くから見て、走る姿を想像しながらチェックしていたことです。日本のカーデザインは細部にこだわりがちですが、疾走中は細かい部分は見えないわけで、プロポーションが命であるという主張に共感しました。

日本の鉄道車両で海外のデザインを採用した事例として、JR西日本(西日本旅客鉄道)の新幹線車両500系を思い出す人は多いでしょう。ドイツのアレクサンダー・ノイマイスター氏が手掛けたもので、今も山陽新幹線「こだま」として走り続けていますが、かつては東海道新幹線東京駅まで乗り入れていました。航空機を思わせる丸い断面やシルバーの車体色など、それまでの新幹線車両とは明らかに違うデザインで、日本初の300km/h営業運転を実現するなど高性能も自慢でした。

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ただ東海道新幹線を運行するJR東海(東海旅客鉄道)にとっては、自社の車両とドアの数や座席数が異なり、運行管理に支障があることなどを表向きの理由として、同等の性能を持つN700系の登場もあり、東京駅への乗り入れは2010年で終了しました。その後は前述のとおり山陽新幹線内で使われていましたが、1997年から走りはじめていて、まもなく30年選手になるということで、来年1月に定期運行が終了することになっています。

外国人が多く乗る空港アクセス特急だからこそ、日本人がデザインしてほしいという書き込みも目にします。しかし新型特急が発着する関西国際空港の第1ターミナルは、イタリアを代表する建築家レンゾ・ピアノが関わっていることを、忘れてはいけないでしょう。実はイタリアつながりでもあるわけで、個人的にはピアノの建築とピニンファリーナの車両のコラボレーションという点にも注目しています。

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南海電気鉄道のニュースリリースはこちら

もちろん日本人のひとりとして、同じ国のデザイナーや、モビリティに関わる会社には活躍してほしいと思っていますが、個人のデザインの嗜好や評価は、それより上に位置するものであるべきでしょう。国の意見が優先されるのは、ナショナリズムがすぎると感じるし、会社の意見を優先というと、500系の東京駅乗り入れが打ち切られたあの瞬間を思い出します。素晴らしいモビリティデザインは、素直に褒めて好きになりたいものです。

*来週は夏休みをいただきます。次回の更新は8月22日の予定です。

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