THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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4月にこのブログでも紹介した自転車の交通反則通告制度(青切符)導入に動きがありました。警察庁では来年4月の導入を目指して、パブリックコメントを受け付けたりしてきましたが、このたび自転車の基本的な交通ルールと警察の交通違反の指導取締りの基本的な考え方について周知を行い、自転車の安全・安心な利用を図るための資料を「自転車ルールブック」として公表しました。

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50ページ以上にわたるボリュームがありますが、図や写真を多用し、赤切符・青切符に該当する違反は赤色あるいは青色のアンダーラインで示しているなど、わかりやすいと感じました。下で紹介したものは概要版になります。

個人的に印象的だったのは本題に入る前に、「普通自転車の歩道通行について」というページがあったことです。普通自転車については、2年前のブログで解説したので見ていただくとして、このような項目をわざわざ用意したのは、4月の発表時に取締り対象として「通行区分違反(逆走、歩道通行等)」とがあり、自転車での歩道通行が全面的に禁止となると思った人がいたことへの対応でしょう。

自転車概要資料
自転車概要資料2

当時のブログでは、道路交通法に普通自転車の歩道通行という項目があるので、全面禁止とはならないと書きました。自転車ルールブックでも、単に歩道を通行しているという違反については、これまで同様「指導警告」が行われ、基本的に取締りの対象となることはないと記してあります。

これに限らず、悪質・危険な違反行為でない場合は従来どおり指導警告となり、悪質・危険な違反をした場合に、これまでの赤切符に青切符が加わるというのが、来年4月からの大きな違いになります。

どのような違反があるかは、ガイドブックに書かれていますが、たとえば携帯電話を使用しながらの運転では青切符、それで事故を起こした際は赤切符になるということで、自動車の交通違反に近い内容です。他に赤切符は酒酔い運転・酒気帯び運転、妨害運転など、青切符は遮断踏切立入り、ブレーキのない自転車での走行などが挙げられています。

指導取締りを重点的に行う場所・時間帯も記されています。場所については各警察署ごとに「自転車指導啓発重点地区・路線」を指定するとのことで、ウェブサイトや自治体の広報誌などで示されるそうです。時間帯については、自転車関連事故の発生が多い朝の通勤・通学時間帯および日没前後の薄暗い時間帯を中心に、重点的に行っていくと示されています。

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また自転車で交通違反を繰り返した人は、青切符などの処理手続とは別に、自転車運転者講習の受講が必要となります。さらに自動車の運転免許を所持している者が、自転車乗用中に重大な事故や違反をしたときは、運転免許の停止処分を受ける可能性も書かれています。後者については異議を唱える人がいそうですが、個人的には同じ道路を通行する車両なのですから、妥当と考えます。

いずれにしても、来年4月以降は、このガイドブックに沿って取締りなどが行われることになりそうであり、警察庁のオフィシャルサイトで公開されているので、自転車を利用する、しないにかかわらず、道路を使う人は目を通し、自転車のルールはこうなるんだと頭に入れておくことが大切ではないでしょうか。

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それとともに大事なのは、青切符導入で自転車の安全対策を終わりとしないことです。日本は国民のおよそ2人にひとりが自転車を保有しており、移動分担率は欧州諸国と比べても上位に位置します。それを考えれば、走行空間が絶対的に不足しています。警察庁と国土交通省、自治体などが連携して、あくまで利用者目線での走行環境整備を進めていってほしいものです。

日本には島がいくつあるか、知っていますか? 6,852島と答える人がいるかもしれませんが、これは1987年に海上保安庁が公表したもので、2年前に国土地理院が数え直したところ、14,125島と倍以上になりました。測量技術の進歩で、地図に描かれた陸地のうち、自然に形成されたと判断した周囲長0.1km以上の陸地を対象に数えたことが、倍以上になった理由だそうです。

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離島と呼ばれるのはこのうち、北海道、本州、四国、九州、沖縄本島以外で、ほとんどは無人島ですが、400あまりの島には人が住んでいます。そのうちのひとつ、静岡県熱海市の初島に、下の写真にある新しい高速船を就航し、観光施設も運営する富士急行のプレスツアーで行ってきました。船や施設はAUTOCAR JAPANの連載で取り上げましたが、当日はそれ以外の案内もしていただいたので、離島のモビリティというテーマで紹介していきます。

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初島は熱海市の中心部から10kmほど離れた相模湾にあり、人口は220人ぐらい。観光業のほか漁業、農業に従事する人が住んでいるようです。一周4kmほどなので、自転車で十分と考える人がいそうですが、現実にはそれは大変です。灯台がある最高峰の海抜は51mあるので、海沿い以外はほとんど山道だからです。公共交通も存在しないので、現地の人の移動手段は原付と軽トラックがメインでした。

気になったのは燃料となるガソリンです。電気や水道は本土からケーブルやパイプで供給され、携帯電話は灯台の近くに基地局がありましたが、高速船は車両は積めず、燃料の運搬もできません。島の外に行く必要がないので、原付と軽トラックという選択になるのかもしれませんが、ガソリンは専用の船で運んでいるそうで、海が荒れたりすると供給はどうなるのか、不安を抱きました。



島内は低速短距離移動なので、電動のほうがいろいろな面で便利そうです。ただ海岸を離れるとすぐに坂道が始まるうえに、熱海市は高齢化率が50%近くと、静岡県の市でもっとも高いことを考えると、私が体験した車両では、3輪あるいは4輪の特定小型原付がふさわしいと感じました。大都市では批判が集まっている特定小型原付ですが、初島のような場所にはむしろマッチしていると感じました。

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自動車は移動よりも、農産物や鮮魚などの運搬が主な役目になりそうなので、軽トラックが適役です。ただし島内はもちろん高速道路はないので、以前ブログで書いたように、高速道路を走行不可能とする代わりに保安基準を緩和し、価格を下げた車両があれば、そのほうが望ましいでしょう。

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過去に訪れた島を思い出しながら、初島を巡って、100の島があれば100通りのモビリティが求められると感じました。住民が少なく、土地が狭く、産業が限定されることが関係しているでしょう。軽トラックや原付は大量生産なので、地域のニーズに対応しにくい面があります。日本は島国であるわけですから、法規面でも構造面でも、もう少し離島の生活に柔軟に対応できるようになって良いのではないかと思いました。

栃木県を走る芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)が、今月26日に開業2周年を迎えます。それを前にした19日には、累計利用者数が1000万人の大台に達したという発表がありました。開業前の想定より半年ほど早い到達とのことです。

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なぜここまでの利用者を集めたのでしょうか。沿線に住む人そのものが増えたことは大きいと思います。先月のブログで、自宅の近くにある東京メトロ方南町駅を取り上げたときに、直通運転開始前と現在の人口比較をしたので、今回も開業前の2015年と今年3月の宇都宮市総人口、市役所のある旭1丁目、以前ブログで取り上げた新設の小学校に近いゆいの杜7丁目で比べると、次のようになりました。

宇都宮市合計  519,904人→513,086人 98.7%
旭1丁目     485人→412 人            84.9%
ゆいの杜7丁目  594 人→1,844人           310.4%

市役所のある地域は、市の平均をやや上回る減り幅なのに対して、ゆいの杜7丁目は爆発的な伸びを示しています。東京のような大都市ではなく、タワーマンションが林立しているわけでもないのにこの増加は驚くべきで、宇都宮市全体の人口が微減というレベルに収まっているのは、ライトライン沿線の人口増加のおかげとも想像できます。それだけLRTには、人を惹きつける力があるということでしょう。

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人口が増えればその分、自動車の数も増え、交通渋滞に悩まされるということになりそうです。しかし栃木県などの調査結果によると、LRT開業後は周辺道路の渋滞は減少傾向とのこと。増加した住民は移動の一部をLRTなどの公共交通で行っていることが窺えます。

さらに以前から住んでいる住民も、移動の一部をLRTに振り替えたと考えられます。ライトラインは開業当初は現金での運賃支払いが多く、遅延が目立っていましたが、現在は交通系ICカードの利用率が向上し、運賃収受による遅れはほとんどなくなりました。これまで公共交通とは無縁だった人たちが、LRTを使おうとカードを持つようになったからでしょう。

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栃木県は、自動車検査登録情報協会の統計によると、自家用乗用車の世帯当たり普及台数が都道府県別で第5位で、その数は1.55台でした(昨年3月末現在)。つまり半分ぐらいの世帯は複数所有ということになります。ただし日本自動車工業会が昨年発表した、2023年の自家用車市場動向調査では、車両価格の上昇を負担に感じ、減車を考えている人が増えているという意見も出ています。

たしかに今年モデルチェンジしたダイハツ工業の軽乗用車「ムーヴ」の価格は135.85~202.4万円と、30年前に登場した初代の約1.7倍です。日本人の平均年収が30年間ほとんど横ばいであることを考えると、負担は大きくなっているはずです。それでも代わりの交通手段がなければ、我慢して所有するしかないですが、この地域にはライトラインがあります。

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公共交通と自動車を対立軸に置く人は今も多いですが、自動車で賄っていた移動をすべて公共交通に置き換えるのは、かなり難しいことです。しかし2台ある自動車を1台に減らして、公共交通と併用するなら、車両価格の上昇も追い風になるし、ハードルはかなり低いはずです。自家用車の普及率が高い栃木県で、ライトラインが予想以上の利用者を記録している理由は、そんな考え方をする人が増えているということなのでしょう。

でもこうした動きは、日本に先駆けてLRTが導入された欧米では珍しくないことです。日本はこれまで新設のLRTがなかったので、効果を懐疑的に見る人も多かったようですが、ライトラインの成功で、LRTにはまちの賑わいを取り戻す力があり、自家用車との共存が可能であることが、理解されつつあります。そのきっかけをこの国にもたらしたことが、ライトラインの大きな価値だと思っています。

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