THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

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先月末、本田技研工業(ホンダ)が50ccエンジンで走る原動機付自転車(原付)の生産を終了するというニュースが流れました。ホンダ自身が発表したわけではないですが、50ccは二輪車排出ガス規制で優遇措置を受けており、その期限が来年11月にやってくること、代わりに125ccをベースに最高出力を抑えたものを現行の交通ルールで用意することが議論されていることなどは知っていたので、納得できる報道ではありました。

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このテーマについて、自動車専門ウェブメディア「webCG」でコラムを書かせていただいたので、排出ガス規制の内容など、くわしいことはそちらを見ていただければと思います。ただこれは原稿を書くときはいつもそうなのですが、調べてはみたものの書かなかった内容もいくつかありました。そのなかで個人的に注目したのは、日本二輪車普及安全協会の記事「市民の足として大活躍 原付普及率が日本一のまち」でした。

記事では全国の市区町村を対象に原付の普及率を調べた結果、島しょ部が上位を占めると報告しています。移動距離が短い、道路が狭い、平地が少ないなどの環境を考えれば、理解できるところです。島しょ部以外では、この記事では1万世帯以上と20万世帯以上の2つの基準で調査しており、1万世帯以上の都市では和歌山県有田市、20万世帯以上の都市では愛媛県松山市がトップになったそうです。

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「市民の足として大活躍 原付普及率が日本一のまち」記事はこちら

それぞれの基準でのベスト20も表で掲載してあり、こちらも納得したのですが、温暖で雨が少なく、坂道が多い場所で多く乗られているようでした。世帯数1万以上ではトップ3を和歌山県が独占し、20万世帯以上では3位に静岡市が入るなど、みかんの名産地に近いものがあると感じました。いずれにしても、自分のまわりだけ見て必要が否かを断じてはいけないと思いました。

ではこうした人々は50ccエンジンの原付がなくなったらどうすべきでしょうか。125ccエンジンを搭載した車種は、やや大柄になるので、小柄な人は扱いにくくなるでしょう。少し前は特定小型原付にも注目しましたが、自転車タイプを含めて乗ってみると、自転車と同等の乗り物と考えるべきであり、原付の代わりにはならないという気持ちになりました。



となるとやはり電動化が妥当だと考えます。そもそもガソリンエンジンは、シリンダーあたりの排気量が小さくなるほど高回転型になるので、低速短距離移動が多い原付にふさわしいとは言えません。ハイブリッドはスペースがないしコストにも響きます。電動アシスト自転車や電動車いすなど、身近にある多くのパーソナルモビリティがモーターを使っていることを考えれば、原付もそうなるのが自然ではないでしょうか。

それにコラムにも書きましたが、ホンダがいくつかの車種で採用している脱着式のバッテリーパックは、国内二輪メーカー4社とENEOSの合弁企業Gachacoがシェアリングサービスを展開しており、コマツの小型建設機械も使用するなど、日本発のプラットフォームと言える状況になっています。しかも交換式なら電動車両の欠点である航続距離の短さ、充電時間の長さが解消できます。

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ヤマハ発動機は現状は違うバッテリーを使っており、スズキは昨年秋のジャパンモビリティショーで、電動アシスト自転車用バッテリーを使ったコンセプトモデルを出展していました。しかし限られたマーケットで3社が独自企画で競争するというのは、前回のブログで取り上げた地域交通と同じで、長い目で見ればデメリットのほうが多いのではないかという気がしています。

すべての国内メーカーの原付が同じバッテリーを使えば、コストダウンを進められるし、日本車が圧倒的なシェアを獲得している東南アジアなどにも展開していけるはずです。私は現在125ccのスーパーカブに乗っているぐらいなので、エンジンで走る二輪車にはそれなりに思い入れはありますが、バッテリーパックの統一化は作る側にも使う側にも、メリットが多いと考えています。

自動車の取材で何度も訪れたことがある神奈川県の箱根に、初めて船に乗る取材で行ってきました。芦ノ湖を巡る遊覧船に加わった富士急行の「箱根遊船SORAKAZE」です。長い間この地で遊覧船を運航してきた西武グループの伊豆箱根鉄道が、箱根周辺での展開を縮小することになり、静岡県函南町にある十国峠の施設ともども、富士急行が事業を引き継ぎ、新型船を就航させることになりました。

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詳細については自動車専門誌「ENGINE」に執筆したので、気になる方はご覧になっていただければと思いますが、SORAKAZEは新造ではなく、西武時代に建造された大きな窓を持つ双胴船をベースに、JR西日本特急列車「やくも」、完全電気推進タンカー「あさひ」などを手掛けた川西康之氏がデザインを担当したものです。



特筆すべきは時代背景を考え、量から質への転換を図るとともに、環境対応を図っていることで、定員を700人から550人に減らす代わりに、天然芝を敷き詰めたデッキ、ブランコ風ベンチ、赤富士をイメージしたソファ、畳を敷いた小上がりスペースなど、遊び心あふれる空間に仕立ててあり、ゆったり移動する船旅にふさわしい場になっていました。

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一方で気になったのは、同じ芦ノ湖に小田急電鉄が就航している箱根海賊船との関係です。かつて西武と小田急は、この地域でバスを含めた激しい競争を繰り広げ、「箱根山戦争」とまで呼ばれました。西武側の規模縮小で争いは収まったかのように思えますが、富士急と小田急のウェブサイトでは、相手側の船は紹介されず、元箱根や箱根関所跡近くの港は、200mほどしか離れていないのに別々になっています。

下は天然芝が敷き詰められたSORAKAZEのデッキから元箱根港を眺めた写真で、左側の白い低層の建物があるあたりに富士急、右側の鳥居の近くに小田急の港があります。たしかに残るひとつの港の場所は違いますが、利用者から見れば同じ港で両方の船に乗れたほうがいいわけで、会社が変わっても戦争の爪痕が残ってしまっているような光景は残念でした。

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さらに懸念するのは、こういう雰囲気を残していると、多くの人から公共交通は競争原理が成り立っていると見られ、利用者が減って赤字になれば撤退するのが当然とみなされることです。今、日本の多くで人口減少や少子高齢化から公共交通の利用者が減り、運賃収入だけでは到底運営していけないのに、黒字赤字で判断しようとする人が多いのは、こうした状況も関係しているのではないかと思います。

このブログで何度も書いてきましたが、欧州の公共交通はそうではありません。その名のとおり公共施設の一部という考えから、公的組織が地域の交通を一元的に管轄し、まちづくりという視点で路線や便数などを考え、税金や補助金を主体とした運営がなされています。黒字か赤字かで言えば大赤字ですが、生活のために必要なインフラという考えから、公が支える仕組みになっているようです。

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公共交通で競争原理が成り立つのは、人口も所得も増え続けているような世の中だと思っています。今はそれとは逆に近い状況であるわけで、そもそも競争そのものが成り立たないと考えるのが自然ではないでしょうか。日本の交通事業者から「競争」という考えがなくなることで、黒字赤字という議論が少なくなり、欧州のように公で支える仕組みに近づいていくことを希望しています。

今回のテーマはモペッドです。モペッドとはモーター+ペダルという意味の造語で(ゆえに「モペット」は誤りです)、エンジンを使ったタイプは昔からありました。セルモーターや変速機がない代わりに、ペダルを漕いで助走をつけ、その勢いを使ってエンジンを掛けるという仕組みでした。本田技研工業の第1号車はこのタイプで、私もフランスの「ソレックス」に乗っていたことがあります。

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最近のものは電気モーターを使っており、見た目は電動アシスト自転車に似ています。とはいえモーターだけで走ることができるので、特定小型あるいは一般原動機付自転車(原付一種)としての登録が必要で、警察では「ペダル付き原動機付自転車」と呼んでいます。つまりナンバープレートの装着や自賠責保険への加入が義務付けられますが、都内で見かけるものの多くはナンバーをつけていません。違法車両であることは明白なので、ここでは違法モペッドという表現を使っていきます。

ナンバーなしで乗ることができるのは、多くの車両がオンライン販売だからでしょう。販売業者のウェブサイトには原付登録が必要などと書いてありますが、登録するかどうかは購入者の判断になります。そして多くの購入者がナンバーを取らずに乗るのは「バレないから」「逃げ切れるから」の2点に尽きると思っています。多くは違反を承知で乗っているというのが個人的な見解です。もともと違反をしているからでしょう、信号無視や歩道走行など、他の違反も平然としているという印象です。

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私も東京都内で違法モペッドを何度か見たことがあります。歩道を歩いていて、すぐ横を抜いていったこともありました。個人的には自動車の駐車違反などより、はるかに人に直接危害を及ぼす状況であり、前に書いたように確信犯である可能性も大きいので、積極的な取り締まりをしてほしいと思いますが、路上で監視したり自転車で追いかけたりという現状の対策は役不足なので、自分なりに考えた案をここで挙げておきます。

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それは違法モペッドを含めたパーソナルモビリティのための取り締まり用車両を用意することです。具体的には郵便配達やフードデリバリーなどに使っている二輪や三輪の原付二種がふさわしいと思っています。パトカー(四輪の警察車両)は軽自動車から3ナンバーのセダンまであるのに、白バイが大型二輪ばかりであることを不思議に思っていました。小型の二輪/三輪車なら機動性の高さを生かして、生活道路での交通事故や住宅地内での事件などでも役立つはずです。

近年、電動キックボードをはじめ、新しい形のパーソナルモビリティがいろいろ出てきました。多くは個人が使うために開発されたものですが、業務用として生まれた車両もあります。すでに一部の民間企業は積極的に導入していますが、自治体や警察などの公的機関はあまり活用していないと感じています。私もいくつか乗ってみて、便利であることは確認しているので、安全で快適な社会の構築のために役立ててもらいたいものです。

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ちなみに私はモペッドそのものを撲滅すべきとは思っていません。特定小型原付登録なら、スピードが20km/h未満に抑えられるので安全性は高まるし、同じカテゴリーの電動キックボードより安定感があるからです。すでにこのカテゴリーに対応した車両がいくつか販売されており、自転車シェアリングでおなじみの「オープンストリート」では、首都圏の一部のステーションで車両を用意しています。



同社が特定小型原付の車両を導入した経緯などは、インターネットメディア「メルクマール」で記事が公開されているので、気になる方はご覧になっていただければと思いますが、私も乗ってみたところ、自転車に近い車体なのですぐに慣れ、漕がないので楽であるうえに、電動キックボードより安心だと感じました。体力に自信がない人でも安全快適に移動できるパーソナルモビリティという点で、存在価値があると思っています。

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