THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年01月

国土交通省が昨日、昨年春に改正された踏切道改良促進法に基づいて選んだ全国1479か所の「課題のある踏切」のうち、改良すべき踏切として529か所を指定しました。昨年の58か所に続く指定で、ピーク時1時間に40分以上遮断している「開かずの踏切」のほか、交通量の多い場所、事故が起こった場所などが選ばれています。

同省はこれらについて、改正法の趣旨を踏まえ、立体交差化や拡幅等だけではなく、必要に応じて当面の 対策や踏切道の周辺対策等、地域の実情にあわせた改良計画の検討を行っていきたいとしています。

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この発表を見て、ちょっと不思議な気持ちになりました。開かずの踏切と踏切事故は、本来相反するものではないかと思ったからです。それがともに問題となっているのは、遮断時間が長いので待ちきれずに踏切を渡る人がいるからでしょう。現にテレビのニュースでは地元住民が同様のエピソードを挙げていました。

予想どおり、529か所の約8割は首都圏、中京圏、関西圏に位置しています。やはり一極集中(この場合は三極ですが)が影響を及ぼしているようです。 この問題を解決するのに、いままでどおりの手法で取り組んでも限界があると考えています。高架化や地下化は、高齢者や身障者にとって鉄道を使いにくいものとしてしまいます。建物が密集した都市の道路の拡幅も簡単にはできません。

2か月前「東京の通勤電車をどうするか」というテーマでブログを書いたとき、東京都の小池百合子知事が打ち出した「満員電車ゼロ」実現のために、勤労者の在宅勤務や事業所の地方移転を進めることを提案しました。この提案は踏切問題を解消していくためにも効果があると考えています。そしてもうひとつ、歩車分離を提案します。

下の写真は今月訪れたポートランドのライトレール停留場です。車道には信号があるのに対し、歩道はホーム間の連絡通路と共用としており、待つことはほとんどありません。警報機や遮断機はないので、各自が安全確認する必要がありますが、個人的には危険だとは感じず、むしろ安全意識が高まって良いと感じました。

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ポートランドのライトレールは郊外では高速で走り、駅間も長く、踏切には遮断機が付いています。一方、都心では短い駅間をゆっくり走り、道路との交差部分はこういう構造が多くなっています。欧州ではトラムトレインと呼ばれる形態で、日本でも広島や福井などで走っています。

日本の都市部の鉄道駅も昔はこういう構造が多かったようですが、安全対策の名の下に跨線橋や地下道に切り替わりました。歩行者専用道路に路面電車を走らせるトランジットモールが認められないのも、この安全思想が影響しているのでしょう。しかしその結果、駅の利用者にとっても、踏切の通過者にとっても、不便なものとなっているのです。

優等列車が高速で疾走する昼間は遮断機は必要かもしれません。しかし朝のラッシュ時は多くの路線がノロノロ運転なので、こうした構造が適用できるのではないでしょうか。

たしかにこの場合、利用者一人ひとりが安全を確保する割合が高くなります。しかしそれは移動においてもっとも大切な心得です。信号がないのは危険と言われたラウンドアバウトが、実際には信号付き交差点より事故が少ないというデータもあります。個人の安全意識を高める方向でのインフラ作りを希望します。

ドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任しました。就任演説でも「米国第一主義」をはじめ、選挙戦中に掲げていた方針をほぼ実行すると明言しており、大統領選でヒラリー・クリントン氏が勝った州を中心に賛否両論が巻き起こっています。そのひとつが昔からリベラルな気風で知られているオレゴン州です。

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2週前のブログで書いたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)取材を終えた私は、そのオレゴン州で最大の都市であり、日本のまちづくり関係者から注目されているポートランドに向かいました。ポートランドについては、実際に同市開発局に勤務する山崎満広氏が書いた「ポートランド 世界で一番住みたい街を作る」がくわしく、自分も同書を参考にモビリティ視点で街を巡りました。

ポートランド国際空港を降りると、ターミナルの端からライトレール(通称MAX)が出ています。これに乗るとダイレクトで市の中心部(ダウンタウン)に行けます。ダウンタウンでは他のライトレールや、ひとまわり小柄な車両を使ったストリートカーと交差しており、乗り換えることで市内の主要地域に行くことができます。日本で言えば、都心部を巡るストリートカーは広島電鉄の市内線、郊外へ直通するライトレールは宮島線に近い印象です。

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ライトレールの郊外部分には、◯◯トランジットセンターという駅がいくつかあります。これらは駅前にバスターミナルが併設された駅です。電車もバスも低床で駅やバス停には階段がないので、車いすやベビーカーの利用者を含め、多くの人が楽に乗り換えできそうです。一方都心部には地元の大企業ナイキがスポンサードしたサイクルシェアリングがあり、ダウンタウン脇を流れるウィラメット川沿いの再開発地区を筆頭に、自転車レーンも各所に整備されていました。

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まるで欧州の都市を見るようなモビリティ環境でした。おかげでラスベガスでお世話になったライドシェアやタクシーを、一度も使う必要がありませんでした。しかしモダンなビルが建ち並び、ハイウェイの高架橋が続く光景は米国そのもので、メインストリートにカジュアルでクリエイティブな店舗が並ぶ景色も欧州とは違うところです。米国らしさを消さずに、うまく欧州流モビリティを組み込んだ感じです。

ランチタイムのレストランは客も店員も若い人がメインでした。一方でライトレールやストリートカーは高齢者の利用が目立ちます。あらゆる世代にとって住みやすい街になっているようです。レストランやショップはライトレールやストリートカーの沿線に集中しているおり利用しやすそうでした。裏通りは荒廃した箇所もありましたが、メインストリートは一部の米国のダウンタウンのような危険な雰囲気とも、日本のシャッター通りのような寂れた感じとも無縁でした。

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山崎氏の著作によれば、このまちづくりは都市が明確なビジョンとプランを持ち、住民が積極的にバックアップする形で作り上げていっただそうです。行政任せでも、市民任せでも、この街はできなかったでしょう。クルマ社会の典型と言われた米国で、こんな都市が構築できたことは驚きです。日本の地方都市もクルマ社会から脱却する可能性はある、やればできるということを、ポートランドは示しているようでした。

警察庁が1月5日、昨年の交通事故死者数を発表しました。一昨年より200人以上も少ない3904人でした。死者数が3000人台になるのは、実に1949年以来とのことだそうです。一昨年は、たった4人とはいえ15年ぶりに前年を上回ったので、このブログでも取り上げましたが、昨年は一転して大幅減少となりました。

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警察庁の発表資料=https://www.npa.go.jp/pressrelease/2017/01/20170105_01.html

この件についてはインターネットメディアの「citrus」でも取り上げているので、気になる方はご覧になっていただきたいのですが、今回はそこでも触れた、ある数字について取り上げます。

その数字とは、都道府県別の交通事故死者数です。昨年のワースト3は愛知県(212人)、千葉県(185人)、大阪府(161人)となっており、一昨年と比較すると2位と3位が入れ替わったものの、同じ府県が入っています。一方少ない県は鳥取県(17人)、島根県、山形県(ともに28人)などとなっています。気付いた方もいると思いますが、死者数が多い3府県は人口数も多く、逆に少ない県は人口も少なめです。

そこで人口10万人あたりの死者数を見ると、順位は大きく変わります。福井県と徳島県が6.28人でワーストワンの座を分け合い、香川県が6.25人で続いています。もっとも死者数が少ないのは東京都で1.18人。絶対数ではワーストスリーにランクインした大阪府は、人口10万人あたりで見ると神奈川県の1.53人についで3番目に少ない1.82人となっています。

交通事故を引き起こす要因はさまざまであり、断定はできませんが、自動車での移動に頼ることが多いと思われる都道府県は人口あたりの死者数が多く、逆に公共交通が充実している都道府県は少ないという傾向があるのです。

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citrusの記事=http://citrus-net.jp/article/12992

昨日、運転免許の更新時に偽の診断書を提出したとして、70歳の男性ら3人が書類送検されたというニュースがありました。男性は脳梗塞の後遺症で左半身が不自由で、医師から運転を止められていたそうですが、「買い物などで自動車がどうしても必要だった」という理由で運転をしていたそうです。

我が国の地方交通については、さまざまな課題があります。しかし日々の移動に困っている住民が多いのは事実であり、それが死亡交通事故や診断書偽造に結び付いているのであれば、事故対策のひとつとして公共交通の充実は効果があるはずであり、もっと重視されるべきだと考えています。

あけましておめでとうございます。今年も本ブログをよろしくお願いいたします。さて2017年は、現在開催中のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)を取材するために、新年早々、米国に向かいました。そこで初めてライドシェアを利用したので、体験談を交えつつ、なぜ米国でライドシェアが受け入れられたのか、日本ではどうすべきかなどを綴っていきます。

CESが開催されているネバダ州ラスベガスは、空港から市街地までの交通が貧弱な都市のひとつです。ホテルが集まる地区に沿って走るモノレールは空港には乗り入れず、多くのホテルは無料の送迎バスすらなく、有料の乗り合い式シャトルバスか、通常の路線バスぐらいしかありません。ゆえに移動はタクシーに頼ることが多くなります。

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出発前にインターネットでチェックすると、ラスベガスのタクシーの体験談として、本来は必要ないフリーウェイ(高速道路)を使って遠回りし、高額な料金を請求されたという声が複数ありました。安心して利用できる交通とは言えないと感じたので、日本ですでにスマートフォンのアプリの登録を済ませてあったウーバー(Uber)を使うことにしました。

空港についてアプリを開くと、現在地が特定されるので、行き先の名称や住所を入力します。米国では高級型、相乗り型などいくつかのメニューが料金とともに表示されます。今回はもっとも一般的なウーバーXを選びました。するとアプリにドライバーの名前、車種、ライセンスプレートのナンバーが表示されるので、それを頼りに乗ることになります。

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ラスベガスの空港は、タクシー乗り場とは別にライドシェア乗り場があります。タクシーは到着ロビーの目の前にありますが、ライドシェア乗り場は隣接した駐車場のビルの中でした。かつての高速ツアーバスを思い出す状況です。しかも空港へ向かう道路が混雑していたようで、10分ほど待たされました。この点は空いていればすぐに乗れるタクシーのほうが有利です。

車両はふだん自家用車として使われているものらしく、タイプはさまざまです。クルマにくわしい自分にとって、車種の表示は識別の際に助かりました。ドライバーは他に仕事を持っている方もいます。最初に乗ったクライスラーのドライバーは、本職はタトゥーアーティストで、空いた時間を活用してライドシェアを行っているとのことでした。

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タクシーとの最大の違いは、乗ったときに行き先を告げなくても良いことと、降りるときに料金の支払いがないことです。前者は日本語が通じない海外ではありがたく、後者は外国のタクシーでしばしば聞かれる料金トラブルから解放されるので安心です。

ただしいつもタクシーより割安かというとそうではなく、CESの終了時間近くに空港に向かおうとしたときは、タクシーの相場より高い料金が表示されました。需要と供給の関係で料金が変動するようです。そこで並ぶのを覚悟でタクシーを選びました。実際、チップを入れてもウーバーの表示より安くすみました。

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さらに一部のホテルでは、正面入口での降車は許すが乗車は認めないという表示を見ました。空港の乗り場と似た状況です。ラスベガスのタクシー業界は力が強く、空港やホテルに対し、ライドシェアを同等に扱わないよう圧力をかけているという噂もあります。タクシーとライドシェアが対立に近い構図にあることは、日本と似ているようです。

しかし今回のラスベガスで感じたのは、双方に良い点があったことです。ゆえに状況に応じて両者を使い分けていました。空いていれば待たずに乗れ、料金相場が存在するタクシーと、事前に料金が決まり、行き先の伝達もスムーズなライドシェアは、二者択一の関係ではありませんでした。だからこそ日本でも双方のサービスを自由に選べるような状況になってほしいものです。

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