THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年08月

フランス、イギリス、中国、インド…。世界各国で、将来的にガソリン/ディーゼルエンジン自動車の走行を禁止するという発表が行われています。昨年の世界の自動車販売台数は約8400万台。そのうち中国と欧州を合わせると約半分を占めるわけですから、かなりの割合になります。

こうしたニュースを受けて一部のメディアは、かつて欧州がハイブリッド車対抗でディーゼル車攻勢を仕掛けたときのように、欧州対日本、EV(電気自動車)対エンジン車という二者択一の構図を作り出し、日本は世界の流れに取り残さていると警鐘を鳴らしています。

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たしかに最近のパリや上海の大気の状況は、たまに訪れる人間でさえも気になるレベルにあります。それを受けてでしょうか、パリでは電気自動車を見る機会が急激に増えました。すでにパリでは古いエンジン車の乗り入れを禁止しています。現状を考えれば妥当な判断だと思っています。

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しかしその考えをいきなり国全体に広げる決定には疑問を抱いています。今年6月にパリとともに訪れたル・マン(人口約14万人/パリは約222万人)では、大気汚染は気にならず、交通渋滞も目立ちませんでした。近年訪れたフランスの多くの地方都市について同じことが言えます。

もし国家単位での大気汚染が問題になっているなら、交通分野ではトラックやバス、さらに航空機や船舶の排出ガスをやり玉に挙げてもおかしくありませんが、そういう声はほとんど聞こえてきません。大都市と地方の状況の違いを含めて考えれば、環境に優しい国であることをアピールすることで国としてのプレゼンスを上げるための決定であり、政策というより戦略に近いと考えます。

今後世界的に都市部への人口集中はさらに進むと、多くの専門家が予想しています。生産の場としての地方と消費の場としての都市を分けたほうが多くの面で好ましい結果を生むからでしょう。これは電気をはじめとするエネルギーについても言えます。そして移動の面でも、都市と地方とでは異なる思考が必要になってきています。

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鉄道の世界では日本でも欧州でも、輸送量が多い大都市周辺は電車、輸送量が少ない地方は気動車(ディーゼルカー)という使い分けが一般的になっています。日本は電化こそ近代化という考えが根強いようですが、電車は環境には優しいもののインフラ整備には費用がかかるものであり、都市と地方の事情に見合った判断だと考えています。

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自動車においても同様の判断が理想であると思います。どこまでが都市でどこからが地方かという判断は議論の余地がありますが、環境問題が深刻で人口集中も顕著な大都市はEV普及を進め、過疎化によりインフラ整備が難しい地方はエンジン車を残すのが望ましいのではないでしょうか。その枠内で地方の中心市街地は自動車の乗り入れを制限するなど、状況に応じて細かい規制を実施すべきだと思います。

モビリティの世界は、昔から鉄道対自動車、自動車対自転車などのように、二者択一に置いて優劣を決めたがります。しかし多くの人は、新しい選択肢が生まれたと好意的に受け取っているはずです。EVとエンジン車にも同じ関係が当てはまります。2つの自動車は、ハイブリッド車とディーゼル車の関係と同じように、得意分野が異なります。古い新しいで決めるべき問題ではないと考えます。

LRTの車両は通常、他の多くの鉄道車両のように鉄の車輪で走ります。しかし札幌やパリの地下鉄、いわゆる新交通システムと呼ばれるAGT車両と同じように、ゴムタイヤを使った車両もあります。今回はその中から、フランスのパリ郊外を走るトラム5号線と6号線を紹介しましょう。

パリを中心とするイル・ド・フランス地域圏には現在トラムが8路線あります。 5号線は2013年、6号線は翌年開業し、鉄輪を用いた7・8号線も同じ時期に走り始めています。3号線が開通した2006年から10年足らずの間にここまで路線を増やしたことにまず驚きます。

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5・6号線に導入されたゴムタイヤ車両はフランスのトランスロールというシステムを用いています。レールがないわけではなく、中央に案内軌条が1本ありますが、それでも整備費用は通常のLRTより少なくて済み、小回りが利くことに加え、ゴムタイヤによる加減速や登坂性能の高さも長所となっています。またタイヤは鉄輪に比べて荷重制限が厳しいので、結果として鉄輪車両より軽いことも特徴になります。

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5号線はパリの北に隣接し、すでにLRT1号線が走っているサン・ドニから北に伸びています。 一方の6号線はパリの南西にあるシャティヨンから西へ向けて走ります。どちらも地下鉄の終点からさらに郊外に伸びており、鉄道が走っていなかった郊外と都心を地下鉄との連携で結ぶことで、パリの交通問題・環境問題を改善しようという目的があるようです。

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いずれも一部区間を乗っただけですが、5号線は途中に徐行を必要とする橋があり、普通のLRTより軽量なゴムタイヤ車両のメリットが生きているようでした。一方の6号線は写真で分かるようにかなりの急勾配があります。一部の停留場はこの勾配の途中にあるので、鉄輪式の車両では発進が難しいでしょう。ゴムタイヤ式とした理由が理解できました。

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ただし乗り心地はバスに近く、この点は鉄輪式LRTのほうが上です。レールが1本なので既存の鉄道への乗り入れもできません。最近世界各地で導入が進むBRT(バス高速輸送システム)と比べても、自在性で大きく劣ります。フランスのルーアンなど、自動運転技術を導入することでレールに近い効果を獲得したBRTもあります。

ただし輸送力の大きさではLRTはバスより優位です。車両の大きさ長さからくる存在感、レールがあるので決まった方向だけに進む安心感もバスでは太刀打ちできない部分です。私も初めて訪れる場所ながら不安なく乗ることができました。しかし現状が最良かと聞かれると断定はできません。電車とバスの中間を担うモビリティの研究は、今後もしばらく続いていくと思われます。

今週月曜日から東京(23区+武蔵野・三鷹市)のタクシーで新しいサービスの実証実験が始まりました。これまでは目的地に着くまで分からなかった運賃を事前に確定する「事前確定運賃サービス」です。参加するのは日本交通、国際自動車、大和自動車交通、第一交通産業の4グループに属する44社で、10月6日まで行われるそうです。

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サービスの詳細についてはウェブサイト「citrus」で記事を書いているので参照していただきたいのですが、東京のタクシーで大掛かりな改革が実施導入されるのは今年3度目です。まず1月、このブログでも紹介した昨年の実証実験の結果を受けて初乗り運賃が410円に引き下げられた後、3月には日本交通での子会社ジャパンタクシーが目的地に着く前に自動的に運賃が支払われる「ジャパンタクシー・ウォレット」というサービスを導入しています。

ここまで読んできて気付いた人もいるでしょう。3つの改革はすべて東京についての話です。初乗り運賃引き下げは名古屋地区などでも実施していますが、最後に紹介したジャパンタクシー・ウォレットはジャパンと名乗るにもかかわらず、ウェブサイトを見ると東京23区および武蔵野・三鷹市で運行しているタブレット搭載済の日本交通車両のみとなっています。さらに最初に紹介した事前確定運賃サービスは3000円以上でなければ適用できないという条件付きです。

一連の改革内容を見ながら、今の日本のタクシーは大都市でしか満足なサービスを提供できないのではないかという気持ちを新たにしました。しかも初乗り運賃引き下げ以外の2つの改革は、ウーバーなどのライドシェアでは当たり前になっている内容です。それを「新しいサービス」と称して紹介するガラパゴス的思考に驚かされます。

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citrusの記事=https://citrus-net.jp/article/34714

日本でもすでに過疎化と高齢化に悩む地方ではライドシェアの導入が始まっています。このブログでは京都府京丹後市でのサービス開始に続き、北海道中頓別町でもウーバーのシステムを用いての実証実験が始まったことをお伝えしました。その後中頓別では今年4月から運賃の徴収を始めており、関係者によればこれ以外の地域での導入の計画も進んでいるそうです。

一時期に比べれば表には出さなくなりましたが、タクシー業界がライドシェアを敵視している状況は変わりません。しかし前述したように新しいサービスは東京に限られています。タクシー業界では新しいサービスがやがて全国展開されていくと匂わせているようですが、大都市のモビリティサービスが地方に適応できなくなっていることは、鉄道やバスを見ても明らかです。

今の日本のタクシーに必要なのは、小手先の改革ではなく抜本的な改革です。とりわけ地方では、鉄道などで導入されている上下分離方式などの公的支援に加え、ライドシェアでおなじみの住民による相互輸送を取り入れていかないと、早々に立ち行かなくなっていくのではないでしょうか。
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タクシー車両に目を向けると、数年前から導入している日産自動車のユニバーサルタクシー(NV200)に続き、トヨタ自動車からも新型車が登場する予定です。車いす利用者にも対応したユニバーサルタクシーは、高齢者比率が高い地方でこそ有効です。しかし地方のタクシー会社が高価な新型車を導入する余裕があるか疑問です。以前書いたバスの車両改革に似た構図を連想します。

利用者不在の不毛な争いにいますぐ終止符を打ち、真の意味で住民の側を向いた改革を進めてもらうよう要望します。

日本福祉のまちづくり学会で交流のある方から自動運転の勉強会の案内をいただいたので、昨日参加してきました。交通関係の研究者や事業者など約20名が集まる中で、国の自動運転関連の検討会で重要なポジションを務め、自動車メーカー技術者との交流も深い大学の先生の講義を拝聴した後、意見交換を行いました。

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個人的にもっとも印象に残ったのは、自動車技術者の間では最近、自動運転レベル3をスルーし、ダイレクトにレベル4を目指す考えが主流になりつつあるということでした。

自動運転のレベルについては下の表を見ていただきたいのですが、わが国では米国SAE(ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ)という団体の指標を参考にしており、レベル0から5まで6段階に分かれています。現在市販化されている運転支援システムはレベル2で、レベル3になると人間の代わりにAI (人工知能)が運転を担当することが大きな違いになります。

しかしその上のレベル4では、領域を限定するとはいえAIがすべての運転を担当するのに対し、レベル3はAIが運転を代わってほしいと要請した際には人間が代行する義務があります。裏を返せばAIの運転技術が完璧ではないことを示しています。一方で人間の役割も、基本はAIに任せつつAIが要請した際には運転を担当するというファジーな内容です。

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日本学術会議のウェブサイト=http://www.scj.go.jp

この問題を解消するためのステップとして、車両側はレベル4の水準を達成しつつ、それをまず人間が運転し、AIに任せても問題がないという結論が出た暁に初めて移行するという手法があるようです。つまりレベル2の範囲を広げる代わりにレベル3はスキップし、直接レベル4に到達するというものです。

そもそもSAEの自動運転レベル分けは、自動車メーカーを基準として作られたものです。先月ソフトバンク・グループのSBドライブなどが東京で実験走行を行った仏ナビヤ・アルマ(写真)や、DeNAが日本各地で走行を重ねているイージーマイルEZ10は、ペダルもハンドルもなく、当初からレベル4としてカテゴライズされています。自動車メーカーのロジックでは判断できない動きが生まれているのです。

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SAEが制定した自動運転のレベル分けは、現在の私たちが自動運転の性能を理解するうえでは有効でしょう。しかしそれは過去の経験に基づいて制定されたものであり、未来永劫遵守すべきものではありません。ルールは時代の要請によって柔軟に変えていくべきものであり、それは自動運転においても当てはまります。つまり絶対的なものではありません。

そもそも自動運転は交通事故を減らすとともに、すべての人に安全快適な移動を提供するために生まれた技術です。レベル3相当の技術を他に先駆けて市販化することは、企業成長の論理では重要かもしれませんが、前述したように曖昧な基準を曖昧な説明のまま販売することの危険性を孕んでいます。その点で車両側の技術をレベル4相当まで高めたうえで人間からAIへの移行を進めていくという解釈は、説得力のあるものでした。

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