THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年11月

本田技研工業(ホンダ)の原動機付自転車(原付バイク)「スーパーカブ」が今年10月に累計生産台数1億台という偉業を達成。同時に最新の排出ガス規制をクリアすることを主目的としてマイナーチェンジが行われました。その新型に横浜で行われた試乗会で乗ることができました。試乗の印象については下記ウェブサイトを見ていただくとして、ここでは生産1億台に達し、来年で60周年を迎えることができた理由を考えました。

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スーパーカブの試乗記(webCG)http://www.webcg.net/articles/-/37629

偉業達成の第一の理由が「壊れにくさ」にあることは間違いないでしょう。これは13年ぶりに日本市場に復活したトヨタ自動車のピックアップトラック「ハイラックス」、先日マイナーチェンジした同じトヨタの「ハイエース」など、グローバル展開する我が国の実用車が共通して持つ特徴です。スクーターや乗用車とは比べ物にならないぐらい故障しないことが重視される分野で、日本製品ならではの信頼性や耐久性の高さが生きているのでしょう。

この信頼性を得るために、可能な限り簡単な構造を用いていることは特筆すべきではないかと思います。トランスミッションには遠心クラッチを用いることで、複雑な機構を使わずクラッチ操作を解放しました。燃料タンクの上に乗るシートのストッパーはなんとゴムの吸盤で、吸盤の端をタンク側のリブに引っかけることで固定しています。こうした柔軟な創意工夫がロングライフ、ロングセラーに貢献しているのだろうと感じました。

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スーパーカブは最新型でもセルモーターだけでなくキックスターターを装備しています。出先でバッテリーが弱ってもエンジンを掛けて帰ってくるようにできるためでしょう。これ以上排出ガス規制が厳しくなったら水冷化を考えるかもしれないが、可能な限り空冷でいきたいというエンジニアの言葉からも、シンプルさにこだわる精神が伝わってきます。

もうひとつは「乗りやすさ」です。先ほどの遠心クラッチはもちろん、フレーム構造はスクーターに近い乗り降りのしやすさで、当初から4ストロークにこだわったエンジンは力の出方が穏やかなので、2輪車に乗ったことがある人ならすぐに乗りこなせるでしょう。エンジンを水平に倒し、その上に燃料タンク、人間が乗るというパッケージングが重心変化を最小限に抑えていることも見逃せません。

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しかしそれは、つまらない乗り物であることを意味しません。遠心クラッチとシーソー式シフトペダルの連携操作は簡単ではありますが、スムーズに走らせるにはマニュアル・トランスミッション(MT)並みのコツが必要です。つまり乗りこなすプロセスが味わえます。エンジンを回してギアを変え、大径タイヤで支えられた車体をリーンして曲がる走りはモーターサイクルそのものです。これもまた愛着のある乗り物として育くまれた一因ではないかと思いました。

こうした基本構成を、レッグシールドからリアフェンダーにかけてのS字カーブが独特のスタイリングでまとめた技も感心します。スーパーカブは個性という点でも比類なき乗り物だと断言できます。そして今回のマイナーチェンジでは、角形ヘッドランプにスマートなスタイリングの従来型を海外向けとして残しつつ、日本製に戻った国内仕様は昔のスタイリングを取り戻すという、伝統を尊重する動きも見せています。

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デビューから約60年が経過しているのに現役の実用品として立派に通用し、なおかつ趣味的な面で見ても満足できるデザインと走りを備えている。このバイクの生みの親でもある本田宗一郎氏はやはり偉大な人なんだと実感しました。モビリティに興味を持つ日本人のひとりとして、スーパーカブの素晴らしさをしっかり国内外に伝えることも仕事のひとつであるという思いに至りました。

このブログでも出展内容を紹介した第45回東京モーターショーが11月5日に閉幕しました。10日間の累計入場者数は77万1200人で、約4万人の減少という結果が出ました。これを受けて一部のメディアでは、ショーのあり方についてさまざまな批判が出ていました。

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ただし世界の国際格式のモーターショーの入場者数を見ると、前回より増えているのは中国の上海ぐらいで、今年で言えば東京だけでなくデトロイト、ジュネーブ、フランクフルトも減少しています。昨年開催されたパリや北京も前回を下回っています。フランクフルトに至っては10万人以上という大幅減です。多くのモーターショーが入場者数を減らしているという事実をまず把握すべきでしょう。

これらの中で東京モーターショーと近い位置にあるのは、フランクフルトとパリだと思っています。いずれも大手メーカーがある自動車先進国で、一国を代表するショーとして開催されています。近年は他国の自動車ブランドの欠席が目立つ点も共通しています。ここで注目したいのはフランクフルトとパリで、近年ショーの方向性が大きく変わってきていることです。

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フランクフルトは自動車メーカーが発信する場という色彩を強めつつあります。今回で言えば電動化など先進的技術的なテーマを掲げ、プレスデーと一般公開日の間に業界関係者向けのトレードデーを用意していました。閉会後のプレスリリースでは随所にトレードショーという文字が登場し、関係者比率が35%に達したことをアピールしていました。

一方のパリは来年開催の次回、会場周辺のサーキットでスーパーカーや高級車を含めた試乗会を開催し、従来は別開催だった2/3輪車のショーを併催とすることなどで挽回を図ろうとしています。一方で東京やフランクフルトと同じように、IT系企業によるモビリティの新しいソリューションやサービスを体験できるコーナーも用意するとのことです。

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フランクフルトが目指しているのは、米国のハイテク系イベントとして注目が集まるCES(家電見本市)ではないかと予想しています。CESの入場者数は20万人以下であり、そもそも入場者数は重視していません。一方のパリはあくまでユーザー重視のエンターテインメント・ショーという立場にこだわっていることが伺えます。自動車を産業と考えるドイツ、文化と考えるフランスの違いでしょう。

では東京はどこを目指すのか。複数の関係者に聞いたところ、両方を目指すという答えが返ってきました。テクノロジー・ショーを掲げつつ業界関係者だけでなく一般ユーザーにもアピールしたいというスタンスだそうです。メッセージとしては弱くなるかもしれないが、日本が持つ文化の多様性を表現するようなモーターショーにしたいという言葉がありました。

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個人的にはテクノロジーとエンターテインメントを分けるのではなく、融合を目指してほしいという気持ちです。現に日本が世界をリードするパートナーロボットでは、両者を融合したプロダクトがいくつも登場しています。既存の自動車メーカーとIT系ベンチャーのモビリティの融合も進めてほしいところです。他国を含めて現状のモーターショーは自動車メーカー中心です。それがCESなどに注目が集まる理由になっていると考えています。

もうひとつ、世界が同じ方向に進みがちなエンジニアリングより、デザインを重視した方が独自性を発揮できるとも感じています。そもそもショーとは「見せる場」なのですから。今回で言えばトヨタの新型センチュリーやジャパンタクシー、マツダの2台のコンセプトカー、2輪車ではホンダ・スーパーカブやカワサキZ900RSなど、日本らしさを反映したデザインが出始めています。そして最後に、数を追うのはそろそろ止めにして、CESのように質を目指す方向にシフトしていくことを望みます。

今週水曜日、ライドシェアの生みの親であるウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)が「空飛ぶタクシー」の一種であるウーバーエア(uberAIR)についての発表を行いました。ウーバーは今年、すでに米国テキサス州ダラスとアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで2020年までにウーバーエアの飛行実験を始める計画を発表しています。今回はそれに加えカリフォルニア州ロサンゼルスでも2020年に実験を行うというアナウンスでした。

ウーバーエアが使うのは無人操縦のドローンではなく、4人乗りの電動垂直離着陸機(eVTOL)となるようです。ヘリコプターのように垂直方向に離陸・着陸可能でありながら、既存の多くのヘリコプターとは違って電動なので静かで排出ガスを出さず、環境に優しいモビリティであることが特徴となっています。ウーバーの分析では、時速320kmで飛行する電動飛行機とガソリンエンジン自動車を用いたウーバーXでは移動コストには大差がないとのことです。

Uber Elevate
ウーバーエアを紹介したウェブサイト(英語)https://www.uber.com/info/elevate/

公開された動画では、利用者がアプリを立ち上げると車両選択メニューの中にウーバーエアが登場し、高層ビルの屋上から他の利用者と相乗で飛び立つ様子が紹介されています。同じアプリで自動車と飛行機を選択できる点は新鮮です。ただ相乗りではありますが機体はウーバー所有となるようなので、ライドシェアではなくタクシーという表現にしました。

ウーバーはすでにインフラ開発企業と提携を結んでおり、ロサンゼルス周辺の20以上の離着陸拠点を独占的に利用できるとしています。ラッシュ時にロサンゼルス国際空港からステイプルズセンターへ移動する場合、地上での移動では最大1時間20分かかるところ、ウーバーエアなら地上移動時間を含めても30分以内(うち飛行時間は4分)で到着するとのことです。

App

ただしこの所要時間は、近隣に他のウーバーエアが飛んでおらず、かつウーバーエア以外に同種のサービス事業者がいない場合に限られるでしょう。同様のサービスを考えている企業は他にもいると想像できますし、一都市のモビリティをひとつの民間企業が独占して良いのかという議論もあります。多くの事業者が数多くの飛行機を飛ばせば、たちまち道路と同じような渋滞が空中で発生するでしょう。

前述したようにウーバーでは移動コストは自動車と大差ないと表明していますが、もし料金を同等とすれば需要が殺到し、渋滞が予想されます。渋滞対策として機体数を制限すれば、予約が殺到して不便なモビリティとなります。料金を高価に設定したプレミアムな移動手段とする考え方もありますが、こちらは2009年に森ビルがヘリコプターによる東京都心と成田空港間の移動サービスを片道5万円で始めたものの、2015年にサービスを終了しているという前例があります。

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ドローン活用を含めた空飛ぶタクシーの構想は、自動車が発明された直後のシーンを想像します。自動車も当初は馬車より早く快適な移動手段として注目されましたが、大衆化が進むと事故や渋滞など、さまざまな問題が表面化しました。

2028年のロサンゼルス五輪パラリンピック開催時には、ロサンゼルス住民はウーバーエアを日常的に利用し、世界でもっとも先進的な都市交通システムのひとつになっているだろうとウーバーはコメントしています。しかしその構想を実現するためには、さまざまな周辺整備が不可欠になるでしょう。個人的には大都市だけでなく、離島と本土を結ぶようなシーンでの活用も期待したいところです。

先週に続いて東京モーターショーの話題です。東京モーターショーは乗用車だけでなく、二輪車や商用車などの展示もあり、多くのモビリティを見ることができる世界的にも貴重なモーターショーでもあると思っています。その中から前回はパーソナルモビリティWHILLのブースを紹介しましたが、今回は電動アシスト自転車にスポットを当てます。

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電動アシスト自転車の近況については最近、記事にしたのでそちらもお読みいただければと思いますが、ヤマハ発動機が世界に先駆けて発売してから24年を経た今年、動きがいくつかありました。まず3月、台湾のBESV(ベスビー)が日本法人を設立して本格参入すると発表。そして9月には自動車業界のサプライヤーとして有名なドイツのボッシュが、以前このブログでも紹介した電動アシストユニットの装着車両を日本でも展開していくとアナウンスしたのです。

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電動アシスト自転車についての記事=https://citrus-net.jp/article/42490

以前から東京モーターショーに参加しているボッシュは今回、アシストユニットを出展。eBikeという新しい言葉を用いてプロモーションしていました。パイオニアであるヤマハは日本人にはおなじみのPAS(パス)ではなく、ボッシュと同じように欧州などで展開しているアシストユニットを用いたスポーツタイプYJPシリーズのコンセプトモデルを4台展示していました。

ボッシュは自身で自転車を販売するつもりはなく、米国トレックやイタリアのビアンキなど4ブランドの自転車に搭載する形をとります。ヤマハは自身でPASや YJPも販売しますが、前述のようにユニット供給も行なっています。今回のモーターショーではボッシュのみならずヤマハも、このビジネススタイルを強調するような展示となりました。

自動車はパワーユニットも車体もメーカーが開発生産し、部品をサプライヤーが供給するというピラミッド型のビジネススタイルが主流です。それに比べると電動アシスト自転車では、IT業界のプラットフォーム型を思わせるユニット供給が進んでいるわけです。メガサプライヤーのボッシュが絡んでいるためもありますが、モビリティシーンでは注目すべき動きだと思います。

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もうひとつは電動アシストが一般的となる中で、コネクテッド領域での展開が期待できることです。すでに2輪車並みに豊富な情報を表示するメーターを装備しており、ヤマハYJPシリーズはスマートフォンの充電も可能としていますが、今後はスマートフォンに専用アプリを入れて、さまざまな情報を提供するなど、さらに新しい動きが起こってくるかもしれません。

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ところでボッシュは今回の電動アシストユニットを装着した自転車について、eBikeという名前を使っています。前出したBESVも同じ言葉を使っています。もっとも長い歴史を持つ日本が電動アシスト自転車という説明的な呼び名を使っているのとは対照的です。こういうセンスは参考にしたいものです。

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