THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2017年12月

12月に入ってふたたび自動運転に関するニュースがいくつか入ってきました。まず14日、東京都江東区と愛知県幸田町で、公道で初めて遠隔操作による無人運転車を走らせる自動運転システムの実証実験が実施されました。18日には石川県輪島市でも同様の実験が行われました。そして22日には東京都千代田区で、公道を使って無人運転車の試乗会(写真)が開催されました。

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ここへきて一気に公道での無人運転実験が始まったのは、6月に警察庁が発表した「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」が大きいと考えています。従来は運転手がいることが義務づけられていたのに対し、新しい基準では遠隔操作をしていれば運転手がいなくても良くなったのです。江東区、幸田町、輪島市の実験はこの改正に基づいたものです。

一方千代田区の試乗会は公道の一部を締め切って行われましたが、官公庁や自治体などではなく、三菱地所という大手デベロッパーが関与していたことに注目しました。無人運転をまちづくりのツールのひとつとして考える民間企業が出てきたということでしょう。

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そしてもうひとつ、以前ブログで取り上げた栃木県栃木市での実証実験もそうでしたが、一般の方々を乗せることで、無人運転や自動運転の体験者を増やしていることも重要です。無人運転や自動運転に対する理解を増やすには、もっとも効果的な手法だからです。

ここまで紹介してきたプロジェクトに、自動車メーカーとして関わっているのはヤマハ発動機ぐらいで、多くの自動車メーカーは自動運転を付加価値と位置づけ販売していこうと考えているようです。発売は来年以降になりますが、市販車初のレベル3自動運転を実現したとして今年発表されたアウディA8はその代表です。しかし高齢化や過疎化が進む現在の日本社会を考えれば、無人運転や自動運転はまず、バスやタクシー、ライドシェアなどの公共交通から導入していくのが自然だと思います。

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あとはいつ実証実験の段階を脱し、本格的なサービスに移行するかに興味が集まります。これについては内閣官房の「官民ITS構想・ロードマップ」で2020年までに市場化したいとしています。 公道での無人運転の実証実験が始まり、自動運転を含めた体験者を増やしている現状を考えれば、地域限定での導入は実現可能ではないかと考えます。今年のブログはこれで最後になりますが、来年も無人運転・自動運転の話題を積極的にお届けしていく予定です。

ひさびさに講演のご案内です。来年1月20日、富山市の富山市民プラザで開催される「まちづくりセミナー2018」でお話をさせていただくことになりました。テーマは「モビリティ先進都市TOYAMA」です。

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セミナーのご案内=https://www.facebook.com/events/1517306118306072/

富山は自分にとって新たな進むべき道を示してくれた都市のひとつです。2011年、東日本大震災の影響で仕事が激減する中、5年前に開業直後の富山ライトレールを訪ねて感心したことを思い出し、一連のストーリーを本にまとめようと考えました。森雅志市長をはじめとする関係者の協力のおかげもあって、同年末に「富山から拡がる交通革命(交通新聞社)」として出版することができました。

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その後も富山には2012、2013、2016年に訪れ、先進的な取り組みをメディアなどで報告してきました。我が国の地方交通の多くが疲弊していく中、富山は独自の工夫と熱意によって、欧州の都市を思わせる公共交通を軸としたコンパクトシティを構築。日本の都市交通改革の牽引役となっています。そんな成功事例を目にしてきた経験は、自分の活動の中で重要なポジションを占めるようになりました。

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しかしそれは東京に暮らす人間が外野から眺めた印象でもあります。地元の方々はどのような感想を抱いているのか。今回は貴重な意見交換の場でもあると考えています。一方富山の都市交通を体験したことがない方は、これを機に実際に利用してみることで先進性を確認してみてはいかがでしょうか。ひとりでも多くの方とお会いできることを楽しみにしています。よろしくお願いいたします。

日本一の高速バスターミナルというと、多くの人が2016年に開業した東京都のバスタ新宿(新宿高速バスターミナル)を思い浮かべるのではないでしょうか。国土交通省が今年発表したデータによれば、1日平均の発着便数は約1500台、乗降客数は約3万人となっており、たしかに規模の大きさが窺えます。

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しかし日本には同規模のバスターミナルが他にもあります。福岡県の西鉄天神高速バスターミナルはそのひとつです。2015年に西日本鉄道が発表した数字は、発着便数約1600台、乗降客数約2万人と、新宿と互角の数字であることが分かります。
 
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少し前に九州に行く機会があったので、このバスターミナルを訪ねました。繁華街として知られる天神のターミナルビル「ソラリア」の中にあり、2階が西鉄電車の駅、3階がバスターミナルになっています。地下街によって地下鉄天神駅とも結ばれており、雨でも濡れずに行けるのは新宿に対するアドバンテージです。

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バス乗り場は6か所と、新宿の半分にすぎません。しかしクオリティでは明らかにこちらが上でした。茶色と黒を基調にしたシックな配色で、サインは黒い丸で統一してあり、案内表示も見やすいものでした。待合室やトイレは広く、カフェやコンビニエンスストアが最初から用意してある点も好感を抱きました。

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天神のバスターミナルが開業したのは1961年で、何度かの改良を経て2015年、現在の形になりました。この経験が豊かな空間づくりに結実しているのでしょう。「量」はともかく「質」では天神の完勝です。なのにあまり知られていないのは、メディアの東京偏重報道にも原因がありそうです。もっと注目してほしいモビリティシステムのひとつであると痛感しました。 

高速道路の制限速度を時速100キロから110キロに引き上げる試行が始まりました。今年11月からまず新東名高速道路、12月からは東北自動車道のそれぞれ一部区間で導入しています。この件について私はさまざまなメディアで発言や執筆をしてきましたが、今週もラジオ(ニッポン放送「高嶋ひでたけのあさラジ!」)でコメントを紹介していただいたので、そこでの内容を含めもう一度取り上げることにします。

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新東名高速道路110キロ区間を管轄する静岡県警察のウェブサイト=https://www.pref.shizuoka.jp/police/anzen/jiko/kiseka/sokudo110.html

昨年5月のブログでも書きましたが、今回の引き上げは多くの自動車が高速道路で出している速度、つまり実勢速度に制限速度を近づけることで速度のバラツキをなくし、追い越しを減らすことで事故の発生を抑えるという目的があります。近年、多くの国で制限速度の引き上げを実施しているのも同様の理由であり、その結果事故が減ったという報告も多く寄せられています。

しかしすべての車両が110キロとなるわけではなく、上のイラストで示しているように大型トラックなどは80キロのままです。トラックより乗用車の方が偉いということではありません。乗用車に比べて重く重心が高い大型トラックは、ブレーキ性能や操縦安定性で乗用車に大きく劣るためです。そして乗用車などと大型トラックなどの速度差をつけることで、大型トラックの追い越しによる重大事故を減らすという目的もあります。

今回感心したのは、いままで単一だった最高速度の表示を2種類に分けたことと、片側3車線の区間では大型トラックなどの通行帯をもっとも左側の車線に指定する交通規制を実施したことです。いずれも2種類の速度制限があることを明示した好ましい動きです。しかしインターネットを見ると、110キロ引き上げについて賛否両論が出ているようです。さまざまな理由が考えられますが、日本のドライバーが追い越しに慣れていないことも関係していると思っています。

日本の道路では、追い越しのための右側はみ出しを禁じた黄色い車線をよく見かけますが、欧米でここまではみ出し禁止の道路が多い国は記憶にありません。事故を減らすにははみ出しを禁止すれば良いという判断が主流だったのでしょう。その結果、日本の多くのドライバーが追い越しの経験が少ないまま高速道路を走り、追い越しが終わっても走行車線に戻らないなど、さまざまな問題を引き起こしているのではないかと思います。

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ついでに言えば上の写真で見える信号機はいずれも、主として横断歩道のために用意されていますが、これも欧米諸国ではほとんど目にしません。日本を含め、横断歩道を渡ろうとする歩行者がいれば自動車は停止するのがルールだからです。ところが我が国では、それでは事故が多くなるという判断なのか、信号による制御が一般的になってしまっています。

どちらも一見すると危険を遠ざける、好ましいルールに思えます。しかし人口10万人あたりの交通事故死者数で、日本は欧州諸国とほとんど変わりません。この数字から懸念するのは、ドライバーの「運転力」が低下しているのではないかということです。

ここでいう運転力とは速く走る能力ではありません。道路という公共空間のもとで、周囲の環境と協調し、状況に応じて的確な操作ができる能力を示すものです。近年の日本は一般道路でも制限速度の引き上げが行われる一方、生活道路ではゾーン30の導入が進み、信号のない環状交差点(ラウンドアバウト)も増えています。自動運転社会が目前に迫っているだけに戸惑うかもしれませんが、本来は移動者ひとりひとりがわきまえておくべき心得だと思っています。

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