THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2018年02月

信用乗車という言葉をご存知でしょうか。ワンマン運転のLRT(路面電車)などで、運転士などの乗務員が乗車券の確認をせず、利用者が運賃を支払って乗車していると信用することで、複数の扉での乗り降りを認める方式です。他にも呼び名があるようですが、ここではもっともよく使われている信用乗車という言葉を使います。

欧州の都市交通では一般的になっていますが、日本では乗車時あるいは降車時に乗務員が運賃収受やICカードの確認を行う方式を踏襲しています。しかしこの方式では、乗降の扉が限定してしまうので混雑時に時間が掛かるという欠点があります。特に車両が長く扉数が多い近年のLRT車両は、信用乗車を前提とした設計と言えるでしょう。

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こうした流れを受けて、日本では広島電鉄で数年前、ICカードのみ全扉での乗降を認める試験運用が行われたのに続いて、昨年10月からは富山ライトレールで降車のみ導入されています。富山ライトレールは後ろ側の扉から乗り、乗務員がいる前側の扉から降りる方式ですが、カード利用者に限り降りるときも後ろ側の扉を使うことができるようになりました。

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先月富山ライトレールに乗ったのは週末の午前中という混んでいない時間帯でしたが、当然のように後ろ側の扉からカードをタッチして降りる利用者が多く見られました。 乗務員の目の届かない場所で乗り降りができるので無賃乗車も可能ですが、朝のラッシュ時には以前から導入していたことに加え、他の乗客の目があることもあり、大きな問題にはなっていないようです。

前述のように欧州では全扉での乗降が可能です。写真はル・マン(フランス)のLRTですが、扉付近に乗車記録を行う端末を取り付けてあり、切符の場合は乗車時に挿入、カードの場合は乗車時と降車時にタッチすることで、所定の運賃を支払ったことになります。

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ただし不定期で乗車券の確認を行う係員が乗車しているとのことで、無賃乗車が見つかった場合は高額の罰金を取られます。カードの場合も係員が持つ端末で瞬時に分かるそうです。下の写真のフランクフルト(ドイツ)の場合は60ユーロと、最大で通常の乗車券の約20倍にも相当します。これを抑止力としているのです。

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実はここに日本での信用乗車導入が難しい理由のひとつがあります。日本の法律では無賃乗車に対する罰金は乗車券の2倍以内と定められているそうなのです。つまり富山ライトレールの場合は340円(カード利用時)であり、自動車で交通違反をした際に支払う反則金を考えれば、比べるべくもないほどの少額です。

日本ではローカル線のワンマン車両も同様の乗降スタイルを使っていますが、長い車両に2〜3駅だけ乗る場合など、走行中に後方から前方に移動しなければならず不便です。ワンマン方式が当然であり、将来的には無人運転も考えられるわけですから、早急に信用乗車を前提とした法整備をすべきでしょう。

2週間ぶりに北陸の話題を記します。私が訪れた週末は、この時期では珍しく晴天に恵まれましたが、その後北陸地方は記録的な大雪に見舞われ、今日も降雪が続いているようです。亡くなった方々のご冥福をお祈りし、被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げますとともに、1日も早く普段の生活を取り戻すことができるよう願っているところです。

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さて、富山でのセミナーの前日には石川県輪島市を訪れました。 ここでは7年前からヤマハ発動機の電動カートを中心市街地の移動に使用し、一部の道路では自動運転の実証実験を行なっているからです。くわしい内容はウェブサイトReVision Auto & Mobilityに記してありますが、 現地で関係者に話を伺うとともに実際に試乗しながら、富山と福井のモビリティシーンを思い出しました。

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ReVision Auto & Mobilityの記事=https://rev-m.com/self_driving/wajima20180214/

ひとつはこのプロジェクトが輪島商工会議所会頭のリーダーシップにより進められ、ヤマハや関係省庁、研究者などと協力しながら、当初は不可能だった電動カートのナンバー取得や公道での自動運転の実証実験など、困難とされるハードルを少しずつクリアして、先進的な取り組みを実現したことです。富山市長と富山ライトレールの関係を思い出します。

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もうひとつは高度で複雑な機構に傾倒せず、簡潔な構造でありながらゴルフ場などで自動運転の経験が豊富な電動カートを活用し、最高速度は保安基準の一部が緩和される19km/h以内に留め、自動運転についてもルート内の一部で実施していることです。既存の設備をうまく活用しながら適切な投資を行なっているところは、福井の交通改革に共通していると感じました。

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電動カートを活用した自動運転は今後福井県永平寺町、沖縄県北谷町などでも行われる予定で、輪島市では無人運転による移動サービスも視野に入れているそうです。電動カートを活用し自動運転を視野に入れた輪島の挑戦は、高齢化や過疎化が進んで日々の移動の確保に悩んでいる小都市に適した交通改革として、多くの影響を与えていきそうです。

今月8日、岡山市に本拠を置く交通事業者、両備グループ代表の小嶋光信氏が、重大発表を行なったことはご存知の方も多いと思います。県内を走るグループ内の両備バスと岡山電気軌道バス(岡電バス・写真)計31路線を廃止するという衝撃的な内容です。

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理由として両備グループでは、岡山市内で2012年から低運賃の小型バスを既存のバス路線と競合する形で走らせる八晃運輸の「めぐりん」が、両備グループのルーツである西大寺軌道が108年前に結んで以来の主力路線であるJR岡山駅〜西大寺間に新路線を開設しようとしていることを挙げています。

地方のバス会社が厳しい経営を強いられているのは両備バス・岡電バスも例外ではなく、過半数の路線は赤字であり、岡山駅〜西大寺間などの黒字路線の収益で維持しているとのことです。黒字路線に低価格の競合バス会社が参入すると、赤字路線の維持が難しくなることから、31路線の廃止を表明したのです。つまり問題提起を含んだ発表と言えるでしょう。

しかしながら同じ日の夜、この地域のバス路線を統括する国土交通省中国運輸局は、めぐりんの新路線を認可しました。運賃は中心部の東山まで100円、それ以遠が250円となる予定で、東山まで220円、西大寺まで400円の両備バスより大幅に安くなります。

なぜめぐりんは低運賃を実現できるのか。調べた結果いくつかの理由が浮かび上がりました。車両が維持費の安い小型であることに加え、運行時間帯が7〜20時台と路線バスとしては短いこと(両備バス西大寺行きは6〜23時台)、採用条件の違いなどです。最後についてはリンク先を参照していただければ、賞与の有無など相応の差があることがお分かりでしょう。

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両備バス(西大寺営業所)の採用情報=https://ryobi-saiyo.com/ryobihd2/kyujin_d.htm?L=BMSDetail&ID=A71019800646&KCD_=33103&PC=33&VAL93=30
めぐりんの採用情報=https://megurin-okayama.com/recruit/index.html

今回の問題の根源として、両備グループでは2002年の道路運送法改正によるバスの規制緩和を挙げています。私もこの規制緩和がさまざまな影響を及ぼしていることは認めます。しかしすべての都市で岡山のような問題が起こっているわけではありません。たとえば先週紹介した富山はコミュニティバス・フィーダーバス・既存の路線バスがしっかり役割分担をしています。

公共交通はただバスや鉄道を走らせれば良いわけではなく、都市内の人の移動を安全快適に行えるかという観点で考えるべきだと思います。つまり地域の自治体が陣頭指揮を取って管理すべきでしょう。地方の公共交通が危機的状況に置かれている現在はなおさらです。しかし岡山市からはこうしたビジョンが伝わってきません。

岡山市では同じ8日、やはり両備グループが運行する岡山電気軌道の路面電車について、現在駅前交差点の手前で止まっている線路(写真)を駅前広場まで乗り入れる事業を今年度から始めると表明しました。以前から検討されてきた計画が動き出すことになりますが、バスの分野で大きな動きがあったその日に合わせたような発表に釈然としないものがありました。

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今回の問題提起を受けてあらためて感じるのは、人口減少と高齢化が問題となっている現在の日本で、都市交通が民間企業の競争原理で発展するのは無理だということです。日本に先駆けて似たような問題に直面した欧米のように、都市交通は都市が管理の主役となり税金主体で運行する方式に移行すべきでしょう。今回の問題提起がそのための契機になることを望みます。

先月20日に富山市でセミナーの講師を務めさせていただいたことは、以前このブログでも紹介しました。富山に行くのは2年ぶり6度目で、地方都市の中ではしばしば足を運んでいますが、せっかくなので早めにこの街に入り、これまで見なかった場所をいくつか訪れることができました。

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まずは富山ライトレール蓮町駅です。ここは終点の岩瀬浜駅とともにフィーダーバスが発着しています。電車を降りると反対側にバスの停留所があり、簡単に乗り換えすることができます。この配置は岩瀬浜駅と似ていて、電車とバスの連携を考えた設計であることが伝わってきました。また駅前広場の反対側にはパークアンドライド駐車場もあり、週末にもかかわらずかなり埋まっていました。

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こちらは蓮町駅前のパン屋さん。今回案内していただいた方によれば、ライトレール開業時にはなかったお店だそうです。 富山市が進める「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」が着実に進んでいることの証明と言えるでしょう。

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富山駅に戻り、今度は富山地方鉄道本線に乗って2つ目の新庄田中駅で降りました。2012年に開業したばかりの新駅で、整備費用の一部は市が負担したそうです。周辺は住宅地が広がっており、やはりJR高山本線に作られた婦中鵜坂駅を思わせます。ホームは1面だけですが予想以上に乗降客がおり、駅としてしっかり機能していることが確認できました。

ひと駅戻って不二越・上滝線が分岐する稲荷町駅へ。駅前には大きなショッピングセンターがあります。店の前には広い駐車場があり自動車で埋まっていました。マイカー利用がメインになっているようです。しかし店の入り口にはタクシー会社への直通電話が置かれるとともに、コミュニティバス「まいどはやバス」の時刻表も貼ってありました。

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まいどはやバスは富山ライトレール開業前から走り続けており、現在は2ルートで運行しています。ブルーのイメージカラーは最近制定されたそうで、派手さを抑えながら識別しやすい、公共交通として好ましい色だと思いました。こちらも買い物客などに利用されており、市内交通網のひとつとして多くの市民に親しまれているようでした。

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富山の交通改革というとLRTが有名ですが、実際はLRT以外にも多くの交通が移動を支えています。既存の鉄道やバスも活用することで、多くの人が安全快適に移動できるまちづくりを実現しようとしています。富山市も高齢化が進んでおり、高齢ドライバーの事故も問題になっているようです。この街の交通改革はその対策としても、お手本たり得る存在に思えました。 

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