THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2018年07月

東京五輪の開幕まで2年となりました。これから新たに鉄道や道路を作りはじめても2020年には間に合わないでしょう。モビリティに限らず、既存のインフラをどう活用するか、に焦点が移ったのではないかと考えています。すでに交通渋滞を緩和すべく、さまざまな提案がなされていますが、ここでは2020年以降の日本全体のモビリティに役立つであろう2つの点に触れたいと思います。

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ひとつは東京メトロと都営地下鉄、2つの地下鉄の運賃一元化です。この問題は猪瀬直樹元都知事が副知事時代から経営統合を最終目的として取り組んでいましたが、九段下駅の壁の撤去などに留まり、その後の都知事は積極的には関与せず現在に至っています。

残る2年間で経営を一体化することはかなり難しいでしょう。しかし経営母体が別々であっても運賃体系を同一とした例は、世界各地に存在します。東京メトロの前身である帝都高速度交通営団も、2つの会社の統合により生まれています。写真は新宿駅ですが、同じ駅の地下鉄が2つの運賃表を掲げるのは奇妙なシーンであり、外国人には東京の交通が分かりにくい理由のひとつになっているはずです。

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もうひとつは専用レーンです。五輪・パラリンピックのワールドワイドパートナーを務めるトヨタ自動車は今週、東京五輪・パラリンピックを最先端モビリティとトヨタ生産方式でサポートすると発表しました。今年1月に公開したモビリティサービス用電気自動車「e-Palette」などを走らせ、完全自動運転の実証実験・デモンストレーションを行うとしています。

実証実験は将来のサービス実現を視野に入れたものであり、公道を使って大会関係者などの移動を担当することに価値があります。しかし一般公道を他車に混じって完全自動運転車を走らせるのはリスクが大きいと考える人も多いでしょう。専用レーン確保が現実的なソリューションとなるはずです。それ以外でも選手や関係者の移動確保は大会の成功のために必須であり、優先レーンではなく専用レーンが理想だと考えています。

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最初に書いたように、2つの革新は2020年以降の東京以外で役立つと考えています。地下鉄の運賃一元化は、地方交通の運賃体系共通化によるサービス向上の参考事例になると思いますし、専用レーンは完全なるBRT実現に向けて必須となるものです。完全なると書いたのは、今の日本のBRTの多くは連節バス導入が主眼で、本来の目的である定時制・速達性にあまり寄与していないからです。完全自動運転が赤字経営と運転手不足に悩む地方交通の味方になることは言うまでもないでしょう。

地方都市がこれらの施策を他に先駆けて導入するには相当の苦労があります。一方五輪・パラリンピックは、国のバックアップにより革新的な技術やサービスを実現しやすい機会でもあります。2020年の東京での経験を地方の移動に役立たせるためにも、革新的なモビリティが導入されることを期待します。

今週も西日本豪雨で被害を受けた地域の鉄道にスポットを当てます。今回は岡山県岡山市と総社市を結ぶJR西日本吉備線(愛称・桃太郎線)です。同線は今年4月、JRと両市がLRT(ライトレール)化における役割分担や費用負担について基本合意しました。

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これを受けて現地で三者などに取材した内容が、今日発売の鉄道専門誌「鉄道ジャーナル」に掲載されました。かなり長い記事でもあり、興味がある方は購読していただきたいのですが、取材を通して考えた吉備線LRT化の特徴としては、既存の鉄道路線を継承することと、廃止が議論されるほど利用者減少に悩んでいないことが挙げられます。

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前者は富山ライトレールという前例がありますが、吉備線の一日の平均利用者数はライトレール化される直前のJR富山港線の3倍以上に上ります。実際に乗ってみても、沿線には住宅が立ち並び、学校が多いこともあって、朝のラッシュ時を含め利用者の多さに驚きました。しかし車両は古いディーゼルカーで、本数は朝のラッシュ時でも3本、昼間は1〜2本に過ぎず、家や会社があるのに駅がないという場所も目立ちました。

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岡山県もまた自動車移動者が多く、交通渋滞が問題となり、環境悪化も懸念されています。高齢化も進んでおり、移動困難者の増加や高齢ドライバーによる事故も問題視されています。増えつつある外国人観光客のための交通整備も重要です。しかし現状の吉備線は、こうした要求に応えきれていないと感じました。

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駅を増やすとともにユニバーサル性を高め、加減速性能の良い小さな車両を数多く走らせれば、自動車で移動していた住民の一部が吉備線に移行し、沿線訪問をためらっていた観光客も使ってくれるようになるのではないでしょうか。つまり吉備線のLRT化は、いまある線路を有効活用することで住民や観光客などの利便性を高めつつ、都市問題の解決を図るための選択と言えます。

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吉備線が開通したのは今から110年以上前の1904年。当時もまちづくりのような考えはあったと思いますが、今とは状況が大きく異なります。同じ線路を使いながら、未来のまちづくりに見合った鉄道にできるか。その答えがLRT化なのだと思いました。

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LRT化の議論はまだ始まったばかりであり、今後住民理解など多くのステップをクリアして行く必要があります。その前に今は三者とも復興に全力を注ぐ時期だと思います。しかし少子高齢化をはじめ、将来起こり得る問題に対し、先手を打って対処していこうという積極的な姿勢には好感を抱きました。

先週末から今週初めにかけて西日本の広い地域を襲った豪雨は、200人以上の方が犠牲になるという大災害になってしまいました。この場を借りて、亡くなられた方のご冥福をお祈りしますとともに、被害に遭われた方にお見舞いを申し上げます。

今回の災害では、天候が回復したにもかかわらず大雨で増水していたため池が決壊するなどの二次災害も発生しており、片付けにあたる人々を猛暑が襲うなど、影響は長期にわたりそうです。一方で今日は山陽自動車道が全通しており、復興への動きも少しずつ出始めています。そんな中で個人的に気がかりなのは、JR西日本山陽本線のかなりの区間が不通であることです。

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並行して走る山陽新幹線は大きは被害がなく、雨が弱まった7日夜には運転を再開しており、現在は山陽本線不通区間の乗車券を持っていれば自由席に乗れるという代替輸送も行なっています。しかし貨物については、新幹線で貨物輸送を行なっていない以上、止まったままです。

鉄道には大量輸送という長所があります。JR貨物のウェブサイトによると、山陽本線などを走る高速貨物列車は最大650tの荷物を一度に運ぶことが可能で、これは10t積みの大型トラック65台分に相当します。運転士の数の違いを含め効率の高さは圧倒的です。また貨物1tを1km運ぶ際のCO2排出量は、トラック240gに対し鉄道はわずか11gと、ここでも大差がつきます。加えて定時性でも鉄道は優位に立っています。

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国土交通省の統計では、国内の貨物輸送の内訳は自動車が50%、船舶が44%で、鉄道は5%にすぎません。一方欧米では環境保護の観点から、自動車から鉄道や船舶へのモーダルシフトが進んでいます。今年初めにはドイツの自動車メーカー、ポルシェが鉄道による物流輸送を進めており、物流部門の年間CO2排出量を3%、CO2の発生を6000t以上削減することを目指すと発表し話題を集めました。

数年前に広島県の山陽本線西条駅を数日間利用した際、昼間は2本に1本ぐらいの割で貨物列車が走っていたことに驚いた覚えがあります。あとで調べてみると、鉄道貨物のメリットを生かした路線でした。それがストップしているわけですから影響は多大です。JR貨物ではフェリーやトラックで代行輸送を始め、日本海側を走る山陰本線への振替も検討しているそうですが、いずれも輸送力が低下し、環境面でも不利になることは確実です。

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このブログでも書いてきたように、現在の日本のトラック輸送業界はドライバー不足と高齢化に悩んでいます。前述の世界的な流れに加え、こうした状況も考えれば、大きな災害に見舞われてもモーダルシフトを推し進めていくことが必須であり、そのためにも山陽本線の早期復旧は重要だと思っています。

このブログで何度か紹介してきたパリのEV(電気自動車)シェアリング、オートリブが大きく動くことになりそうです。運営を担当してきたボロレは赤字に悩んでおり、一部の負担を自治体に要求。この話し合いが不調に終わったようで、今月いっぱいでのサービス停止を発表しました。

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パリでは自転車シェアリングのヴェリブも展開していますが、こちらは競合事業者の参入はあるものの、大きな動きなく推移しています。システムやインフラは自転車と自動車で大差はなく、場所はパリ市が協力しています。やはり車両コストが大きく影響しているのでしょう。さらに現地のニュースではライドシェアの台頭によって、利用者が減少していることも理由と報じられています。

オートリブでは最近まで4000台の車両、6200か所の充電施設付き駐車スペースを稼働していました。 このうち後者は従来から他のEVでも利用可能だったので、インフラとしては継続することになりますが、パリを走る電動車両(PHV/プラグインハイブリッド車を含む)の数からすれば過剰になるでしょう。

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それに利用者の側からすれば、たしかにライドシェアは便利かもしれませんが、個人所有の車両ゆえ多くはガソリン/ディーゼル車であり、近年パリが悩んでいる環境対策にはほとんど寄与しません。やはりEVによる移動を提供することが重要ではないかと思われます。そんな中、フランスを本拠とする2つの自動車メーカー、PSAとルノーが動きました。

PSAは7月3日、自身が2016年に発表し10以上の地域で導入しているシェアリングプラットフォーム「Free2Move」を、500台のプジョーおよびシトロエン製EVとともに今年中にパリに導入すると発表。ルノーは翌日、欧州ベストセラーEVであるゾエ、日本でも日産自動車がシェアリングに活用しているトゥイジー、商用車のカングーZ.Eなど2000台を2019年末までに用意するとパリ市とともに発表しました。

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両者のアプローチは微妙に異なっていますが、概要のみの発表なので、将来的に一本化する可能性もあります。ボロレに比べれば車両の用意はさほど負担ではないうえに、自動車メーカーにとって電動化とシェアリングサービスは将来的に大事な分野であり、インフラはすでに整備済みということもあって、一定の需要が見込めるパリへの導入を決断したのではないかと思われます。

一方のボロレはパリ以外に米国インディアナポリス、シンガポールなど7都市でパリのオートリブと同様のサービスを展開しています。これらについては大きな動きはないようです。パリからは撤退しますが、PSAやルノー以外にも複数の自動車メーカーがEVシェアリング参入を発表していることを考えると、ボロレの先見性は十分に評価すべきではないかとも思っています。

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