THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2018年08月

今週はJR東日本の山手線や東北新幹線などが、自動運転を検討しているというニュースに驚きました。将来的に運転士がいない無人運転を目指すそうです。運営維持に悩む地方のローカル線ではなく、どちらも利用者は多く、収支面で厳しい状況にはない両線の自動化に驚いたのです。

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このニュースについてはニュースサイト「citrus」で記事にしているので、ご興味のある方はお読みいただきたいのですが、鉄道の自動運転そのものは、さほど驚くべき事例ではありません。神戸のポートライナーや東京のゆりかもめなど、新交通システムと呼ばれることが多いAGT(オートメーテッド・ガイドウェイ・トランジット)は、30年以上前から運転士のいない無人運転を実用化しているからです。

また私もよく利用する東京メトロ丸ノ内線をはじめ、一部の地下鉄では、乗務員がボタンを押すだけで発車から停車までを行うATO(オートマティック・トレイン・オペレーション)を導入しています。東京メトロ南北線や福岡市営地下鉄空港線のように、他社の車両の乗り入れを受け入れている線も存在します。海外ではAGTと同じように運転士のいない無人運転の地下鉄もフランスのパリなどにあります。

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これらの路線と比べると、山手線は1か所ですが踏切があり、3年前に信号ケーブルが燃やされるという事件があったように、沿線から線路に立ち入りができそうな場所もあることが気になります。この点をクリアしなければ無人運転は難しいでしょう。逆に東北新幹線の場合は、走行距離が長いので非常停止した際の対応がスピーディに行われるかという懸念があります。

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citrusの記事 = https://citrus-net.jp/article/65881

ではなぜJR東日本は山手線などのいわゆる「ドル箱路線」の自動化・無人化を進めようとしているのか。列車の本数が多いぶん、ワンマン運転とするだけでも将来的な乗務員不足の対策になるうえに、1日に数本というローカル線に比べかなりの人件費が抑えられるからだと想像しています。

JR東日本は新幹線や首都圏の通勤路線だけでなく、東北地方などで赤字ローカル線も走らせています。東日本大震災で被災した路線の一部は、BRTへの転換や三陸鉄道への運行移管が進められており、運営の苦しさが窺えます。その状況を改善するために山手線などの収益率を上げ、赤字路線を支えるという、JR東日本トータルでの経営判断があるのではないかと考えています。

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前回のブログでは東京都心から自動車で約1時間の千葉県市原市が、日々の移動手段維持にも困っている現実をお伝えしましたが、東日本という広い目で見れば東京であっても、自動運転などの省力化を推進する必要に迫られるようです。このまま行くと日本中の公共交通が危機に陥ってしまわないでしょうか。欧米同様、公共交通は公で支えるという仕組みをいち早く構築する必要があると認識したニュースでした。

*来週は夏休みとさせていただきます。

私も所属している「日本福祉のまちづくり学会」第21回全国大会が、8月8日から今日まで神戸市で開かれました。今回は9日に「自動運転が地域交通に貢献する可能性」という題目で研究発表を行なった後、11日に 地域福祉交通特別研究委員会の一員として、「豊かな『くらしの足』を創り,育てる『のりしろ』を考える」というテーマで話題提供及び討論を行いました。

会場にお越しになった皆様、運営に携わった方々には、この場を借りてお礼を申し上げます。

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日本福祉のまちづくり学会ウェブサイト= http://www.fukumachi.net

自分にとって5年目となる全国大会参加は、まだまだ学ぶべきことが多いことを痛感しました。今回はまず、千葉県市原市の事例に驚きました。市原市は県庁所在地である千葉市の隣に位置しており、東京湾沿いは電車がひんぱんに走り工場や商店が並ぶのに対し、内陸部の市津地区は鉄道がないうえにバスが乗客減から廃止となり、地域住民が主体となってデマンドタクシーを走らせているというのです。

市津地区のデマンドタクシーは、実証運行から本格運行へと移行していく過程での内容改善が功を奏し、利用者数は増えているそうですが、東京都心から自動車で約1時間という場所が、日々の移動手段維持にも困っているという現実は、我が国の高齢化・過疎化の問題が大都市のすぐ近郊にまで迫っており、抜本的な対策が必要であるという気持ちになりました。

続いて本日の討論会では、私は近年我が国の地域交通に関連する制度改革に伴って誕生した新しいモビリティの技術やサービス、つまりこのブログで紹介してきた事例を報告したのですが、新しい技術やサービスが開発されれば問題が解決されるわけではないことは分かっています。高齢化や過疎化が進む現在では、これまでのように交通・福祉・コミュニティの取り組みを独立して進めていては問題は解決されず、のりしろを設けるように範囲を広げてみることが大事ではないかというメッセージが出されました。

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個人的には、交通は福祉の一部であるという認識を多くの人に持ってほしいと考えています。欧米ではすでに一般的な考えであり、福祉政策のひとつとして交通が位置付けられ、税金主体で整備や維持が行われます。しかし日本では住民のみならず、国会議員や地方議員でも選挙の際に交通に言及する人は稀であるばかりか、交通と福祉を対立軸に置き、赤字を計上する地域交通は無駄であり、同じ予算を高齢者に直接配分した方が有意義であるという主張さえ聞かれます。

たしかにそのほうが住民にとっては聞こえが良いでしょう。しかし人間は動物の一種であり、移動は人間の本能のひとつであると考えます。移動機会を増やすことで健康を取り戻したというエピソードは各所で目にします。世界屈指の高齢化社会であり、地方の過疎化も進む日本こそ、福祉の一部として交通を考え、積極的に整備と維持を進めていくべきではないか。全国大会が終わった今、改めてこの問題をアピールしていこうという気持ちになりました。

1か月前のこのブログで、グリーンスローモビリティという新しいカテゴリーを紹介しました。そのとき石川県輪島市で稼働している電動カートと並んで、群馬県桐生市などで運行中の電動バス「eCOM」に触れました。その後桐生に行く機会ができたので、今回はこの乗り物を取り上げます。モビリティメディア「ReVision Auto&Mobility」でも記事を掲載しているので興味のある方はご覧ください。

桐生再生本社とeCOM8_2
ReVision Auto&Mobilityの記事 = https://rev-m.com/mobility/ecom20180727/

記事にもあるとおり、eCOMは群馬大学と自動車設計技術会社「シンクトゥギャザー」が開発生産し、桐生ではまちづくり会社の「桐生再生」が運行していますが、それ以外に国内外各地で走っています。産官学の共同プロジェクトで、自動車メーカーが関わらずに、ここまで完成度の高い電動バスを製作し、各地で走行するまでの実績を作っている事実にまず感心します。

eCOM8_2の車内

しかもそれは、多くの地方都市が抱える人口減少と高齢化問題に対処した移動手段であり、電動化によって夏の酷暑に代表される地球温暖化対策の影響を抑えつつ、「西の西陣、東の桐生」と言われた繊維産業の伝統を残す街並みを観光資源としてアピールするツールでもあります。まちづくりの一部としてのモビリティという考え方も、これまでの多くの自動車とは異なるビジョンであり注目すべき部分です。

後部に車いす用リフトを装備

桐生市内をひとまわり乗った印象をひとことで言えば、予想以上の完成度の高さでした。低速電動バスの前に超小型モビリティの開発も行っていたグループならではの経験が伝わってきました。一方で19km/hという最高速度は、短距離の移動では不満は感じられず、コストや環境負荷、事故の際の被害を抑えられるだけでなく、独特の街並みをより身近に体験できるという美点も教えられました。

桐生本町通りを走行中

それは自転車や路面電車など、かつては前時代的と考えられたものの、環境に優しいなどの理由で再び脚光を浴びている乗り物と似ています。考えてみればこれらもグリーンスローモビリティです。世界的にモビリティの物差しが変わりつつあるからこそ、新しい物差しのもとで生まれたeCOMが各地で注目されているのでしょう。低速電動バスのベンチマークになりつつある存在として、今後も動向に注目していきたいと思います。

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