THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2018年09月

今週は1週間ヨーロッパに滞在しました。その中でフィンランドのヘルシンキからエストニアのタリンへはフェリーで移動しました。バルト海に面した両都市間の距離は約85kmしかなく、飛行機もありますが高速フェリーでも2時間で結び、運賃が安いので選びましたが、自分にとって初の国際フェリーはさまざまな発見をもたらしてくれました。

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ヘルシンキ側の乗り場へはトラムでダイレクトに行けます。日本の広島港に似ています、国際便ゆえ発券にはパスポートが必要。タリン行きターミナルは最近作られたようで広くモダンな作りでした。乗客は幅広い桟橋から船内へ。飛行機のボーディングブリッジより乗り降りが早く済むという利点があります。

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船内は日本の2時間クラスのフェリーとは比較にならない広さで、旅客定員約2000名、車載スペース2000㎡を誇り、乗客用、車載用それぞれ3フロアありました。客室は個室もありますが、多くの人はバーやレストラン、マーケットなどで過ごしており、クルーズ船的な雰囲気でした。 

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今回お会いしたタリン市役所の交通担当者に聞くと、フィンランドとエストニアは物価に差があり、日帰りでエストニアに買い物に行くフィンランド人が多いそうです。アジアの観光客も目立ちました。アジアからエストニアへの直行便はないので、ヘルシンキ経由でアクセスするようです。

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自動車の出し入れを乗用車とトラックの上下2段で行っていたことも目を惹きました。分けたほうが効率的だからだと思われますが、片道2時間クラスのフェリーとは思えない装備です。タリンのターミナルは工事中で、市の中心部へはバスも出ていますが徒歩でも10分ほど。さらにトラムが延伸予定になっています。

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ヘルシンキとタリンの間には海底トンネルの計画があるそうです。地球温暖化の影響で北極海航路が開設され、欧州〜東アジア間の物流が増えることを見越したものです。物理的に不可能ではないようですが、予算配分などが理由で進展していないとのことです。英仏海峡トンネル同様、完成までにはかなりの時間がかかりそうで、早期開通を熱望する意見も少ないようです。

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それよりも2時間で着くならフェリーで十分であり、その2時間を単なる移動ではなく、楽しんで過ごしたい、過ごしてほしいという気持ちが伝わってきました。この点は飲食施設のない日本の新幹線とは対照的であり、移動には速さや安さと同じぐらい、豊かさも重要であることを教えられました。

日本自動車工業会(以下自工会)が9月20日、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催直前となる7月6〜12日の1週間、自動運転の実証実験を公開するという発表をしました。この実証には自工会加盟会社10社(スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、日野自動車、本田技研工業、マツダ、三菱自動車工業、ヤマハ発動機)が用意する、合計80台もの車両が参画するそうです。

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使用する車両は、 SAEの自動運転レベルでレベル4に相当するようですが、安全性に配慮してドライバーが乗るとのことで、レベル3に近い状態になりそうです。場所は3か所を想定しており、羽田空港地域での公共交通機関であるバスをモデルケースとした実証・デモ、羽田と臨海副都心・都心を結ぶ首都高速道路でのインフラ連携の実証・デモ、臨海副都心での交通量の多い混合交通の公道における自動運転や緊急停止、乗用車や小型モビリティなど多様なタイプの自動運転車両による実証・デモを行うとしています。

日本政府は2020年に、自家用車でのレベル3と移動サービスでのレベル4実現を目標としており、この実証実験は目標どおりの結果を披露する場として、海外からも注目を集めそうです。一方で羽田空港、首都高速道路、 臨海副都心はいずれも外部からの交通流入が限られた場所であり、東京都内では比較的自動運転の実証が行いやすい場ではないかと考えています。

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ではなぜ本格的なサービスではなく実証実験に留まるのか。今年3月のウーバー自動運転車による死亡事故によって、不特定多数のドライバーが自動運転車に自由に乗る形態を不安視する意見が目立ってきたことがあるでしょう。また法整備が追い付いていないことも挙げられます。昨年、市販車初のレベル3を実現とアナウンスしたドイツの高級車アウディA8は、発表から1年経った今も、日本のみならずドイツでさえレベル3は認められず、一部の機器を搭載せずに販売しています。

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最近はレベル3、レベル4とひとつずつステップを上げていくのではなく、車両側は完全自動のレベル4を達成したうえで人間を乗せ、人間の介在度合いを変えていくことでレベルアップを図る方式が主流になりつつあるようです。シティモビル2から生まれた無人運転小型バスはそうですし、自工会が今回発表した内容もこの方式です。その場合、完全なレベル4に至るまでは実証実験扱いになるのは仕方がないでしょう。

ただし自動運転の研究開発を行なっているのは自工会に加盟するメーカーだけではありません。このブログでも紹介してきたDeNAやソフトバンクグループのSBドライブなど、新たな企業がこの分野に参入しています。米国におけるウェイモ(旧グーグル)やアップルなどに似た立場と言えるでしょう。石川県輪島市のように、自治体が主導して自動運転の実証を行なう例もあります。自動運転を多くの人に体験してもらうという点で、彼らの貢献度は大きいと思っています。

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既存のメーカーとこれら新興勢力を敵対関係に置く論調も見られますが、そもそもモビリティとは鉄道、バス、自動車、自転車などが力を合わせて理想の移動環境を作り上げていく世界ではないかと思っています。メーカーが得意な分野、ベンチャーが得意な分野があるはずです。競争ではなく共存の精神で、自動運転社会のいち早い実現という同じ目標に向けて進んでいってほしいと考えています。

前回に続き災害関連の話題を取り上げます。今回は既存の交通の中で地震に強い乗り物は何かを考えていきたいと思います。

9月6日に北海道を襲った地震では、全道停電という事態に陥り鉄道や飛行機はストップ。道路も信号が消え麻痺しました。翌日から徐々に停電は解消し、交通も回復しはじめました。その中でいち早く平常運転を実現した公共交通のひとつが札幌市電(札幌市交通局路面電車)でした。

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下は地震発生翌日夕方の北海道のYahoo!路線情報です。JR北海道は全線で運転を見合わせ、(画面には映っていませんが)札幌市営地下鉄は動き始めていたもののダイヤが乱れていた中で、札幌市電だけが平常運転を行っていました(現在は節電対策で本数削減中)。

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Yahoo!路線情報 = https://transit.yahoo.co.jp

今年6月に発生した大阪北部地震でも、大阪市と堺市を結ぶ阪堺電車(阪堺電気鉄道上町線・阪堺線)が、地震発生からわずか10分後に走りはじめたという報道がありました。2011年3月の東日本大震災では、東京都交通局の都電荒川線が2時間以内に運行再開を果たしています。

路面電車が地震に強いのは、理解できる人も多いのではないでしょうか。多くの鉄道が都市内を通過する際に用いる高架橋やトンネルは、地震が起きた後の点検に時間が掛かります。しかし路面電車はその名のとおり道路上を走っているので、被害が見つけやすく直しやすいと想像できます。自動車よりはるかに重い電車の走行を前提として軌道は固められているので、被害にも遭いにくいでしょう。

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ライトレールやLRTではなく、あえて路面電車と書いたのは、道路上を走っていることを強調したかったためもあります。欧米のライトレールは都心では地下を走っていたりするからです。さらに我が国の路面電車は、最高速度が40km/hに制限されています。これについては時代錯誤だという意見も多々ありますが、40km/h制限だから復旧が早いということはあるでしょう。

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もちろんバスやタクシーは路面電車より前に動き出していますが、1台で輸送できる人数に限りがあるうえに、道路が渋滞すると前に進めません。乗用車も同様です。東日本大震災では家人が、普段は地下鉄で約30分の距離を同僚の自動車で移動したところ5時間経っても家に帰れず、途中で動き始めた地下鉄に乗って戻ってきたことを思い出します。

実は今回のブログと似たような話題を、大阪北部地震発生直後にウェブメディア「citrus」で取り上げたことがあります。その内容が今月の北海道の地震でも通用したことを知り、路面電車が地震に強いことは自分の中で確信になりつつあります。

今週は大型台風が四国と関西に上陸したあと、北海道を震度7の大地震が襲い、ともに多大な被害を出しました。亡くなった方のご冥福をお祈りしますとともに、被害に遭われた方が1日も早く元の生活に戻ることをお祈りします。

このような場面で必要とされるモビリティは何か。西日本豪雨のあと、国内最大の消防車製造会社モリタが開発した小型オフロード消防車を取材し、工場内で試乗もしました。その模様は自動車専門サイト「オートックワン」で紹介していますが、車両の内容のみならず、誕生の背景からして革新的であり、ブログでも取り上げることにします。

走り1M
モリタホールディングスのウェブサイト = http://www.morita119.com

まず注目したいのは、2年前の熊本地震の消防関係者の声がきっかけだったことです。現場を熟知した会社ならではの判断です。しかもその声に応えるべく、多くの車種を検討した結果、あえて国内で販売していない車両をベースに選び、公道走行用ナンバー取得に挑戦しました。その過程では、社会貢献という状況を理解し、国土交通省や車両製造元の川崎重工業がバックアップしました。

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一連のストーリーは2月に当ブログで紹介した、石川県輪島市を走る電動カートに似ています。あちらも従来は許されなかったナンバー取得を、輪島商工会議所の陣頭指揮のもと、関係省庁や車両製造元のヤマハ発動機のバックアップで実現し、まちなか移動に展開していました。

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オートックワンの記事 = https://autoc-one.jp/workcar/5002666/

どちらもレジャー用途でのナンバー取得は難しいでしょう。日本はこうした分野に厳しく対処する国であると思っています。しかし社会貢献という名目であれば、製造会社ともども実現に向けて柔軟に取り組む姿勢があることを、2つの実例は示しています。

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もうひとつ特筆したいのは、車体後部のユニットを目的に合わせて交換することです。モビリティに限らず、日本のものづくりは完璧を求めがちな傾向があります。消防車でもできるだけ多くの装備を搭載した車両が良いと考える人がいるかもしれません。しかしそれは車両の大型化やコストアップにつながります。 小型化にこだわるためにユニット交換という手段を編み出した発想に感心しました。

消防車は自治体などの予算によって採用が決まるそうで、本格導入は来年になるとのことですが、今回の災害で威力を発揮するモビリティのひとつであることは間違いなく、早期の配備を期待します。

少し遅めの夏休みを取って新潟県に行ってきました。十日町市と津南町で行われている「大地の芸術祭」を見るためです。この地域も過疎化や高齢化が進んでおり、アートの力で地域の魅力を発信するというコンセプトで2000年にスタート。3年に一度開催され世界的に注目を集めているようです。

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作品数は357もあり、見ることができたのはその10分の1ぐらいですが、印象に残ったことのひとつに、廃校を舞台とした作品が3つ存在したことがありました。校舎の中には1980年代に建てられたものもありました。半世紀足らずの間に急速に少子化が進み、廃校を余儀なくされたようです。

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現在、日本の多くの地域で過疎化や高齢化が進んでおり、交通の分野では鉄道やバスの廃止や減便が問題となっていますが、今回は廃校という形で、その実情を教えられました。

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ただし大地の芸術祭の会場は、廃校になったとはいえ校舎は残され、美術館という別の形で、期間限定ではありますが再活用されています。これを鉄道に当てはめると、廃線ではなく、いまある線路を生かして従来とは異なるタイプの列車を走らせ、線路を活用するというパターンになるでしょう。

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さまざまな作品を見た後、帰路に着くべく十日町駅に足を運ぶと、来年全線開通90周年を迎える飯山線のホームに、観光列車「越乃Shu*Kura」が停まっていました。車内では新潟県内の銘酒や地元の食材にこだわった軽食を用意し、ジャズまたはクラシック等の生演奏、お酒にまつわるイベントも実施しているようです。

過疎化や高齢化はもちろん社会問題として意識しないといけません。しかし一方で、時代の変化によって暮らしかたが変わるのは仕方がないことでもあり、昔作られた学校や鉄道が、当初と同じ目的で生き残るのは難しいとも考えています。以前ショッピングセンターを市役所として再活用した事例を紹介しましたが、学校や交通も、社会状況の変化に対応する能力が求められていると言えそうです。

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ただし学校や鉄道は、作られた当時は地域の核として存在していたことは確実です。安易に校舎や駅を取り壊したり、線路を剥がしたりということはせず、将来的にその地域がどう変わっていくか、どう変えていくべきかを見据えて対処することが大事でしょう。大地の芸術祭の会場として再活用されている校舎が、幸せに見えたのは紛れもない事実ですから。

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