THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2018年10月

名古屋市の隣、愛知県春日井市にある高蔵寺ニュータウンを訪ねました。日本住宅公社(現UR都市機構)が初めて手掛けたニュータウンで、今からちょうど50年前に入居が始まりました。東京都の多摩ニュータウン、大阪府の千里ニュータウンと並ぶ、日本における大規模ニュータウンの先駆けです。この地でまちづくりに関わっている知人から話を聞き、気になって足を運ぶことにしました。

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高蔵寺ニュータウンはJR中央本線、愛知環状鉄道が乗り入れる高蔵寺駅が最寄り駅となります。しかし多摩や千里のように、駅周辺にニュータウンが広がっているわけではありません。駅からニュータウン中心部までは2km以上あり、上り坂が続きます。歩行や自転車での移動は無理だと思う人がほとんどでしょう。つまりアクセスはバスがメインになります。

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かつては名古屋鉄道小牧駅と桃花台ニュータウンを結ぶAGT(いわゆる新交通システム)、桃花台新交通ピーチラインが高蔵寺ニュータウンを経由して高蔵寺駅に伸びる計画があったようですが、2006年にピーチラインそのものが利用者低迷で廃止されてしまいました。

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バスはニュータウンの地域別に系統が分かれていて、ニュータウン内が終点ではないバスも多く、初めて訪れた人間にとって理解し難いものでした。バス停がニュータウンより一段下にある場合も多く、降りると階段やスロープを使うことになりました。バス停間の距離が長めであることも気になりました。一方ニュータウン内には循環バスが走っており、こちらは停留所をきめ細かく設定しているようですが、駅へ行くには路線バスに乗り換えなければなりません。

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ニュータウン内は大通りをまたぐように歩道橋が縦横無尽に整備してあり、歩車分離がなされているので安全ではあります。しかし端から端まで約4kmと広いことや、バスが上記のような状況ということもあり、多くの住民はマイカーで移動しています。商業施設はもちろん、住宅地域にも駐車場が数多く用意されています。しかし最新報道では高齢化率が30%を超えるそうで、高齢ドライバーによる事故も懸念されます。

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こうした状況を受けて高蔵寺ニュータウンでは最近、電動パーソナルモビリティを使った歩行支援モビリティサービス、自動運転の電動カートや自動車を用いた地域内移動の実証実験を行っており、来年は高齢者向け配車サービスの実証実験も行う予定であるなど、さまざまなトライをしています。この中で個人的に注目したいのは歩行支援モビリティサービスです。前述のように歩道は整備されているので、位置情報や遠隔操作を組み合わせれば、高齢者向けのシェアリングサービスとして有効だと思います。

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高蔵寺ニュータウンのウェブサイト = http://kozoji-nt.com/category/

それとともに駅へのアクセス性向上も望みます。ニュータウンの人口は減少に転じているとはいえ約4.5万人と、春日井市全体(約30万人)の15%を占めているわけですから。これは高齢者だけでなく若者にとっても重要です。最近、団地をリノベーションする若者が目立っていますが、彼らは自動車の所有にあまりこだわりません。先進国都市部の若者のマイカー離れは、先月訪れたヘルシンキでも話題になりました。公共交通で暮らせるまちづくりは高齢者だけでなく若者にとっても価値があると考えています。

高蔵寺駅から名古屋駅まではJRで30分で着きます。都心へのアクセスという点では多摩ニュータウンよりはるかに便利だと思います。ニュータウン内には商業施設や飲食店もあります。モビリティを見直すだけでも、可能性のある街に生まれ変われるのではないかと感じました。

前回のブログではMaaSがフィンランドの首都ヘルシンキで生まれたことを書きました。でもヘルシンキの交通事情が飛び抜けたレベルにあるかというと、そんなことはありません。下は都心にある市立公園の脇の道です。石畳の道を、路面電車と自動車が共用していることが分かります。次の写真のように都心からやや外れると、道幅が広く、路面電車の軌道と自動車用の車道が分かれています。

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ヘルシンキは約500年前からある都市であり、その後誕生した自動車や鉄道のために作られてはいません。これは欧州の多くの都市に共通しています。ゆえに大通りでは軌道と車道を分けて路面電車の定時性や速達性を確保し、狭い道では共用するという、臨機応変な判断をしているのです。これも欧州の都市で良く見られることです。さらに道が狭ければ線路を単線にします。日本の路面電車は複線の専用軌道にこだわりがちという印象を受けます。もう少し柔軟に考えてもいいのではないでしょうか。

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もうひとつ、歩道が広いことにも気づいたかと思います。最初の写真の道では歩道と車道がほぼ同じ幅を確保しているように見えます。これも欧州の都市では一般的な光景です。おかげで歩いて移動する機会が増え、自動車や電車に乗っていると分からない魅力を発見できたりします。まちなかの賑わいを盛り上げる効果もあるでしょう。日本でも少しずつ歩道を広げる動きは見られますが、まだまだ差は大きいと言わざるを得ません。

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ちなみに自転車レーンは多くが歩道側にありました。石畳の道が多いことが関係しているかもしれません。面白いのは横断歩道の描き方です。最初は歩道の上に横断歩道が描かれているのかと錯覚しましたが、すぐ慣れました。下の写真は路面電車の停留場で、利用者は自転車レーンを横切ることになりますが、自転車側が注意すれば問題は起きないでしょう。ここでも歩道の広さが目立ちます。

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 バス停留所はここまで整備されているところは少なく、裏通りではこのように、停留所の看板だけという、日本のバス停でも良く見られるパターンもありました。ここには自転車レーンもありませんでした。こういう場所では車道右側を走ることになります。ただ日本の同程度の裏通りと比べると、やはり歩道が幅広いとは感じます。

 ヘルシンキのバス

ヘルシンキの道をさまざまな手段で移動しながら、人間中心の考え方が伝わってきました。歩道を広く取る道作りはもちろん、電車やバスは狭い道であってもまず路線を用意し、MaaSアプリに代表させるソフトウェアで使いやすさを高めようとしています。ヘルシンキは現在、市内4か所で再開発を進めており、それに合わせた公共交通を整備してもいますが、同時に既存の交通を生かすためにMaaSのような考え方を導入したことが分かりました。

2週間前のこのブログで、フィンランドのヘルシンキからエストニアのタリンへフェリーで移動したことを書きました。では両都市では何をしていたのか。まずヘルシンキでの活動を書けば、私も所属している日本福祉のまちづくり学会の有志が企画したMaaS(マース)のスタディツアーに参加していました。

ご存じの方も多いかと思いますが、MaaSはMobility as a Serviceを示した言葉です。しかし単なるモビリティサービスを示しているわけではありません。この言葉をいち早く使いはじめたフィンランドの交通通信省、ヘルシンキ市役所、MaaS Global社から説明を受け、議論を重ねることで、MaaSの真の意味が理解できたような気がします。内容についてはモビリティ専門ウェブサイト「ReVision Auto&Mobility」でも紹介していますので、興味のある方はご覧ください。

ヘルシンキのトラム
ReVision Auto&MobilityのMaaSの記事 = https://rev-m.com/mobility/whim20181009/

日本でも今年になって、MaaSに取り組む交通関係者が多くなりました。特に自動車業界で目立つような気がします。しかしフィンランドのMaaSは自動車のために生まれたわけではありません。その逆で、ICTを駆使することで公共交通にマイカー並みの利便性を持たせ、自動車移動に頼りがちな市民を公共交通に誘導するという考えです。

そのためにMaaS Global社が製作したスマートフォンアプリ「whim(ウィム)」は、目的地への経路探索を行うのみならず、クレジットカード情報をあらかじめ入力しておくことで事前決済を行い、定額乗り放題のプランまで用意しています。しかも鉄道やバスだけでなく、タクシーや自転車シェア、カーシェア、レンタカーなど、あらゆるモビリティサービスを使って案内をしてくれます。

whimアプリ画面

アプリを開発すればOKという簡単な話ではありません。ヘルシンキの交通にはさまざまな事業者が絡んでおり、各事業者の時刻や運賃などのデータがないと実現は不可能です。そのために陣頭指揮を取ったのがフィンランド政府で、交通事業者などが持つデータのオープン化を進めました。国を挙げてのスマートモビリティへの取り組みがMaaSに結実したと言えそうです。

もうひとつヘルシンキのMaaS関連のウェブサイトを見ると、インテグレーテッドモビリティという言葉を目にします。ユーザーの声でもオールインワンであることがもっとも評価されているようです。前述のように鉄道、バス、自転車シェア、レンタカーなどあらゆる交通を、マイカーのように一体で利用できることもスマートモビリティでは大切だと教えられました。

ヘルシンキ自転車シェア

つまり特定の交通事業者が自分たちの利益だけのためにアプリを提供することは、MaaSとは言えないと思います。日本の多くの都市は複数の民間事業者が競合している状況ですが、利用者にとって有り難いのはやはり、ひとつのアプリで多彩なモビリティを一体に使いこなせる、スマートでインテグレーテッドなサービスではないでしょうか。そのためには国や自治体のリーダーシップが大切だと感じました。

前述のReVision Auto&Mobilityでは11月21日にセミナー&交流会を開催予定で、私もMaaSをテーマにした回で登壇予定です。この場を含め、MaaSの本場を見てきたひとりとして、今後も積極的にこのテーマについて情報発信をしてきたいと思っています。

先週末に日本に上陸した台風24号では、進路に近い首都圏でJR東日本が前もって運休を告知・実施する、いわゆる「計画運休」を初めて行なって話題になりました。

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まず記しておきたいのは、首都圏では計画運休は今回が初めてだったものの、JR西日本の京阪神圏では4年前に初めて行なっており、今年は強風や高潮で多くの被害が出た台風21号でも実施していることです。つまり日本国内で見れば画期的なことではありません。鉄道に限ったことではありませんが、マスメディアの東京偏重報道は是正を望みたいところです。

ではなぜJR東日本は、JR西日本では4年前から取り入れていた計画運休を、今回初めて導入したのか。これは台風の襲来予定が日曜日の夜だったことが大きいと思います。平日に比べれば明確に利用者が少なく、朝ではないので事前に知らせやすかったのではないでしょうか。

ただし決定の時間帯は、台風21号のときのJR西日本は前日だったのに対し、読売新聞のウェブサイトでは運休の約6時間前に記事がアップされていました。東京在住の自分はこれでも十分だと思いましたが、台風の進路はある程度予測できるものであり、遠くから東京を訪れる人のことを考えれば、前日発表のほうが望ましかったように思います。

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YOMIURI ONLINEのウェブサイト = https://www.yomiuri.co.jp

一方でテレビのニュースでは、列車が止まりはじめた20時過ぎに駅に来て初めて運休を知った利用者を映し出していました。この場合は「知らなかった」のではなく「知ろうとしなかった」のだと考えます。手にはスマートフォンを持っていたので、情報収集はできたはずです。地震と違って予測が可能なわけですから、こういう人まで判断に含める必要はないと思います。

ただJR東日本にとっては、翌日のアナウンスがなく、運休や遅延で混乱を招いた点はマイナスでした。夜の間に強風による倒木などがあることは想定できたはずで、朝のラッシュ時が終わった午前9時ぐらいからの運転再開にしても良かったのではないかと思います。倒木の瞬間を時刻入りで記録し、公開することができれば、計画運休が正しい判断だったと理解してもらえるでしょう。

計画運休は仕事に支障を及ぼすという声も出るかと思います。しかし普段の生活環境を守ろうとする気持ちが、被害を大きくした例はいくつもあります。東日本大震災では、避難を拒む住民の自宅に消防団員が説得に向かったが聞き入れてもらえず、消防団員もろとも津波で命を落としたという話を聞きました。台風が近づいていれば仕事や学校を休み、身の危険を感じたら自治体に言われなくても率先して避難するのが自然な行動ではないでしょうか。

2018-10-06 0

台風24号は自分の動きにも影響を与えました。関東地方に最接近する日曜日の夜にヨーロッパから帰国予定だったからです。現地でやることは残っていましたが、早めに日本に帰るほうが重要だと考え、1日早い便に振り替えてもらいました(上の図版の左が当初の予定表、右が変更後の搭乗券)。帰国後、本来乗るべきだった便を見ると、同じ時間帯に到着する他の国際線と同じように、翌日到着に変わっていました。

翌日は前述のように、沿線の倒木などで多くの路線が運休あるいは遅延という状況になっていたので、自分の選択は正しかったのかなと思っています。備えあれば憂いなし。この言葉の大切さを噛み締めているところです。

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