THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2018年11月

このブログで何度も紹介してきた無人運転シャトルが、最近さらに注目を集めています。この分野を代表する車両は、ともに2014年に創業したフランス企業のイージーマイル社とナビヤ社が生み出したEZ10とアルマで、我が国では前者はDeNA、後者はソフトバンクグループのSBドライブが実証実験で走らせていることでおなじみです。

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これまでイージーマイルは20カ国、ナビヤは17カ国でテストを重ねてきており、前者は25万kmを走破して32万人を運び、米国ではスクールバスとしても導入しています。一方これまで400台以上を生産したというナビヤは、2017年に6人乗りのタクシーキャブを新たに開発し、用途に合わせて2つの車種を提案する体制に進化しています。

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こうした状況を見て、自動車メーカーをはじめ多くの企業がこの分野に参入しようとしています。我が国ではトヨタ自動車が1月に発表したe-Palette(イーパレット)が代表格ですが、昨年はソニー「ニューコンセプトカートSC-1」、今年はパナソニック「SPACe_C」と、家電大手もこの分野に参入を宣言。さらに無印良品を展開する良品計画は、フィンランドのSensible 4社の無人運転シャトルにデザインを提供しました。

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個人的に興味を抱いたのは、東洋経済オンラインで記事にもした良品計画の「Gacha(ガチャ)シャトルバス(仮称)」です。詳細については記事を参照していただきたいですが、個人的に注目したのは技術ではなくデザインで世界に進出していることと、降雪時や凍結路面でも無人運転を可能とする世界初の全天候型としていることで、後者は世界的な豪雪地域を抱える日本でも有効ではないかと思いました。

良品計画がデザインを提供したGachaシャトルバス
東洋経済オンラインの記事 = https://toyokeizai.net/articles/-/250460

以前も紹介したように、無人運転シャトルは2012年から4年間続いたEU助成型研究開発フレームワークプログラムCityMobil2が源流です。そこから生まれたイージーマイルとナビヤだけでなく、国内外から多くの車両が登場しているのは、世界的に地域交通維持に課題が山積しており、問題解決のための無人運転というコンセプトに多くの人が期待しているからでしょう。その状況にいち早く注目したCityMobil2の先見性を改めて評価したいと思います。

先々月から先月にかけて、フィンランドの首都ヘルシンキでMaaSのスタディツアーに参加したことや、フェリーでバルト海対岸のエストニアの首都タリンに渡ったことを書きました。しばらく時間が空きましたが、今回はタリンで体験したことを書きます。それは市民向けに実施している公共交通無料の取り組みです。

タリンでは市役所の担当者に話を聞くことができたので、無料にした理由、財源について、無料化の効果、市民に限定した理由などについて質問をしました。その答えを含めたタリンの公共交通事情については、東洋経済オンラインで記事にしているのでご覧ください。 

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タリンを取り上げた東洋経済オンラインの記事 = https://toyokeizai.net/articles/-/249037 

話を聞いてまず感じたのは、我が国との公共交通に対する考え方の違いです。タリンは公共交通運営への補助金を72%から90%に引き上げることで無料化を実現しました。つまり運賃収入の割合は無料化以前から30%未満だったことになります。これはエストニアに限った話ではなく、ドイツは45%、フランスは30%ぐらいとなっています。一方日本の広島電鉄は、昨年のブログで紹介した時点では、9割以上を運賃収入で占めていました。

タリンの公共交通が文字どおり公共サービスとして位置付けられ、その延長上として無料化を実施したのに対し、日本の公共交通の多くは営利事業となっており、無料化は遠い世界の話であることを、あらためて思い知らされました。黒字赤字という収支状況によってサービス内容が大きく左右されるというのは、公共サービスとして好ましくないことです。公立学校が赤字なので授業を減らしたり休校にしたりするでしょうか? 公共交通も同じ考えのもとで運営すべきと思います。

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もうひとつ、タリン市役所の担当者は、公共交通無料化がフランスを中心にいくつかの都市で実施され、今後も導入予定があることを言及していました。自分も今年になって無料公共交通の現場を訪れるのは初ではなく、これが3度目でした。最初はこのブログでも紹介した石川県輪島市、2度目は米国ペンシルベニア州ピッツバーグで、後者についても東洋経済オンラインで記事にしています。

輪島市の場合、運営主体の輪島商工会議所は交通事業者ではなく、ドライバーは2種免許を持たないので、日本のタクシー業界のルールに沿って無料にしたという理由もあったとのことです。一方ピッツバーグでは市の中心部のみ無料とすることで、ショッピングやスポーツ観戦などに利用してもらい、都心の活性化や交通渋滞の解消などを狙っているようです。

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タリンの実例では無料化による収入減を、住民の増加による税収増が大きく上回ったという報告もありました。そのうちに転入者が少なくなり、無料化が負担になると考える人もいるでしょう。そういう場合は有料に戻せば良いと思います。現に昨年訪れた米国オレゴン州ポートランドでは、以前はピッツバーグと同じように都心部を無料としていましたが、現在は有料となっています。しかしポートランドはいまなお「全米でもっとも住みたい街」であり続けているようです。

交通以外にも積極的な都市改革を実行したおかげもあり、にぎわいが定着したので有料にしても問題ないと判断したのではないでしょうか。そして今、タリンが同じ道を目指しているような気がしました。記事にも書きましたが、日本も今すぐ公共交通を無料化せよとは思いません。それよりも、公共交通の活性化が都市の活性化につながるという欧米の実例を、ひとりでも多くの日本人が知ってほしいという気持ちでいます。

毎年この時期、東京の渋谷ヒカリエで開催している「超福祉展」に行ってきました。自分にとってひさびさの超福祉展でもっとも印象に残ったのは、車いすの充実ぶりでした。ここでは会場に置いてあったいくつかのモデルを紹介します。なお最近、車いすをパーソナルモビリティと呼ぶこともありますが、今回のブログではそうした呼び名を知らない人にこそ読んでほしいと思い、あえて車いすと記します。

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まずはオフィス家具で有名なオカムラの「ウェルツ セルフ」。座ったままでスムーズに移動できることを考えたチェアで、大型車輪を重心付近に置いたことでその場での旋回がしやすく、フレーム形状を工夫して足元を広くすることで足こぎ移動をしやすくしたそうです。なによりも通常のオフィスチェアと並べても違和感のない洗練されたデザインに感心します。

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次は自動車や二輪車で有名であり、電動カート(シニアカー)のトップメーカーでもあるスズキのコンセプトモデル「kupo」です。写真で分かるように1台で電動車いすと電動アシスト手押し車の2役を備えています。手押し車のときはいすを畳んで荷台にするだけでなく、踏み台も格納されるなど良く考えられています。早期の市販化を希望します。

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こちらはパラリンピックのオフィシャルサプライヤーでもあるRDSが展示した「WF01」。フォーミュラカーのようなカッコいいデザインと最先端のテクノロジーを融合させた車いすです。ミニ四駆のようにさまざまなパーツを装着して、自分の用途に合った形状や機能にカスタマイズ可能としているところも新鮮で、車いすという枠にとらわれない使い方ができそうです。

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スタイリッシュな車いすと言えば2015年、私が審査委員を務めるグッドデザイン賞で大賞を受賞したWHILL Model Aをまず思い出します。あれからわずか3年で、デザインにこだわったモデルがこれだけ登場したのは喜ばしいことです。一昔前まで、車いすは歩行が困難な人が仕方なく乗るというイメージでしたが、ここに紹介した3台なら健常者でも進んで使いたくなるのではないでしょうか。

車いすは歩行が困難な人だけの乗り物ではありません。少し前に紹介したニュータウンやショッピングモールなど、広い敷地内での移動を快適にするためのツールでもあります。そのためにもデザインの力で敷居を低くすることが大事だと考えます。パーソナルモビリティという言葉を使わなくても、車いすというだけで多くの人がカッコいい姿を想像できるようになれば理想です。超福祉展は13日まで開催中。気になる方は足を運ぶことをお勧めしておきます。 

今年に入ってから我が国のタクシーに大きな動きが起こっています。これまで「違法な白タク」として業界から反対されてきた米国Uber Technologiesに代表されるライドシェア会社が、既存のタクシー会社にアプリを活用してもらう形で参入を始めたのです。

この動きと、1か月前に発表されたトヨタ自動車とソフトバンクの提携(モビリティ分野の新会社MONET Technologies設立)は、リンクしていると思っています。両者の提携で、日本のタクシーが良い方向に大変革を起こすのではないかと期待しています。

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まずライドシェアアプリとタクシーの連携では、4月にDeNA(ディー・エヌ・エー)開発の「タクベル」をまず神奈川県横浜・川崎エリアで採用開始し、7月には神奈川県全域に拡大。10月には東京都内の数社との協業を合意しました。一方Uberは7月に兵庫県淡路島で始めた実証実験に続き、9月には愛知県名古屋市周辺で展開開始。6月に中国Didi Chuxing(滴滴出行)とソフトバンクの合弁で設立されたDiDiモビリティジャパンは、9月に大阪エリアでのサービスを開始しました。

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タクベルのウェブサイト = https://taxibell.jp

このうちDiDiモビリティジャパンは10月25日、10月1〜7日の中国国慶節休暇中に大阪を訪れた中国人ユーザーの利用動向を発表。この間の中国人ユーザーの割合は5割以上を占めていたそうで、中国のDiDiアプリがそのまま使え、自動翻訳も可能で、AlipayやWeChatといった現地の決済サービスが利用できるなど、使い勝手を評価するコメントが目立ったそうです。

昨年あたりから問題になっている、ワンボックス車両を使った外国人観光客向けの白タク行為については、中国人利用者が多いと言われています。DiDiモビリティジャパンではアプリの利用促進によって、白タク行為減少にも貢献するだろうとしています。この種の白タクについては、警察による取り締まりは行われているようですが、業界団体からの反対意見はUberのときほど明確ではありません。その防止に違う形で乗り出したのが、Uberと同じライドシェアのDiDiだったというのは興味深いところです。

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DiDiモビリティジャパンのウェブサイト = https://didimobility.co.jp

ところでUberとDidiはともに、ソフトバンクが筆頭株主になっています。シンガポールに本拠を置くGrab、インドのOlaもソフトバンクが筆頭株主です。世界のライドシェア市場はこの4社で90%のシェアを握っていると言われています。一方日本のタクシー配車アプリでは、日本交通などが始めたJapanTaxi(トヨタ自動車のタクシー車両JPN TAXIとは別物)がパイオニアであり最大勢力となっています。このJapan Taxiにはトヨタが出資しています。

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Uberのウェブサイト = https://www.uber.com/

今後、自動運転の普及に合わせて、自動車は所有から共有への移行が進むと多くの人が予想しています。音楽配信サービスなどのように安価で便利なサービスが提案されれば、一気に移行するかもしれません。トヨタはそんな時代を見据え、カーメーカーからモビリティサービス・プラットフォーマーへと転換を目指し、UberやGrabなどに出資を進めています。しかし前述のとおり、いずれもソフトバンクが筆頭株主となっています。両者が手を結んだ理由のひとつはここにあると言われています。

先月の提携発表では、新会社はトヨタが発表した無人運転シャトル「e-Palette」を活用し、移動から物流まで幅広い分野を担い、とりわけ高齢化、買物困難者、運転免許返納、学校統廃合、無医師など、地方の過疎地で問題となっている事象の解決に力を入れていきたいと話していました。タクシーかライドシェアか、乗用車かバスかという既存の枠組みにこだわらず、ゼロから理想のモビリティを構築していこうと考えているようです。

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トヨタ自動車のウェブサイト = https://www.toyota.co.jp/

トヨタとソフトバンクの提携、UberやDiDiとタクシーの協業という状況を見ると、カーメーカーとIT企業が対決したり、タクシー会社とライドシェア会社が対決したりというという構図は、終わりを迎えつつあるのではないかと思っています。今後は両勢力が力を合わせて国内外に山積する移動問題を解決していってほしいと願っています。

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