THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2019年05月

高齢ドライバーが関係する交通事故が後を絶ちません。一部の人は警察庁の統計を出し、免許取り立ての若者のほうが高齢者より事故率が高いことを指摘していますが、その統計を見ると多くの年齢層で前年より事故率が減っている中、70歳以上では増加していることが分かります。このような情報に惑わされず、高齢ドライバー対策に真剣に向き合うことが大切です。

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しかしながら高齢者にとっても移動は大切であり、移動の自由を確保しながら、事故を起こしにくい、事故を起こした際の被害を最小限に食い止める環境を考えていくことが大事だと考えています。そんな中、一部で超小型モビリティに再び注目が集まっているようです。

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超小型モビリティについてもう一度ここで簡単に紹介しておくと、電動車いすと軽自動車の間に位置する3/4輪の車両で、多くは電気自動車となります。第一種原動機付自転車と、国土交通省が2013年に制定した軽自動車ベースの認定制度による車両からなり、前者はひとり乗りですが後者は2人乗りも可能になっています。

この超小型モビリティに再度注目する理由のひとつは、高速道路が走れず、最高速度が時速60キロ以下となっていることです。以前私が1か月間使用していたトヨタ自動車の「i-ROAD」も、時速59キロ以上は出ない設計になっていました。つまり仮にペダル操作を誤っても、時速100キロ近い高速での暴走は起こらないということです。 

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もうひとつは車体が小型軽量であることです。車体が小さければ、仮にコントロールを失っても歩行者や他の車両に衝突する衝突する可能性は小さくなり、衝突した場合のエネルギーを小さく抑えることができます。前述したi-ROADで言えば、全幅は870mmと5ナンバーのコンパクトカーの約半分、車両重量は300kgと3分の1以下にすぎません。

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しかしながら現時点では、運転免許は普通自動車扱いのままです。認定制度が生まれた当時は、将来的に独立したカテゴリーの創設が噂されていましたが、それから6年が経過した今も変わっていません。新たなカテゴリーの制定が難しいのであれば、自動二輪車の小型限定(125cc以下)のような限定制度を作り、それ以上の自動車の運転に不安がある人は、この限定免許での運転とすれば、事故による被害を抑えられるのではないかと思っています。

英国では今年1月、97歳になる王室のフィリップ殿下が衝突事故を起こし、日本同様、運転免許年齢に上限を求めるかどうかが議論になりました。その際に同国では、医師に運転を止める権限があることが報じられました。日本では免許更新時に認知機能などの検査を受け、必要に応じて医師の診断を受ける形になっていますが、医師が直接運転を止めることはできません。世界屈指の高齢化社会を有する国として、世界に先駆けた高齢ドライバー対策を望みたいところです。

先月のブログで、京都府京丹後市でウーバーのアプリを使った地域交通「ささえ合い交通」を紹介しましたが、京丹後市ではそれ以外にもさまざまな交通改革を実施しています。今回は市内を走る唯一の民間バス事業者である丹後海陸交通の丹海バス(他に市営バスもあります)、唯一の鉄道である京都丹後鉄道が実施している上限200円運賃を取り上げます。

上限200円運賃

上の写真は丹海バスの車内に掲示している運賃表です。200円の数字が並んでいます。以前は多くの地方のバス同様、距離制運賃を採用しており、最高で1150円にもなっていました。京丹後市はその運賃の高さが利用者減少につながっていると考え、利用者でのアンケートでもっとも多かった200円を上限としたのです。

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2006年に一部路線で実証実験を始めると、すぐに利用者数の減少が止まり、反転しました。新規利用者の6割は高校生で、従来は多くがマイカー送迎や自転車などでの通学でしたが、200円なら定期券代が出せると家庭が判断したようです。高齢者の中にも、運転免許を返納してバス移動に切り替える人が出てきました。そこで2007年には市内全域に拡大。2010年からは本格実施となり、2013年からは周辺の宮津市、与謝野町、伊根町でも上限200円を採用しています。

最高で1000円以上だった運賃が200円となると、減収を予想する人もいるでしょう。しかし結果は逆で、利用者数が約2.7倍に増えたこともあり、新路線開設やバス停新設を行う余裕が生まれており、京丹後市が丹海バスに出している補助金額はほとんど変わっていません。補助金がないと運営が難しいことは事実ですが、このコラムで再三触れてきたように、海外の公共交通は税金や補助金主体で運営するのが一般的で、黒字赤字を重視する日本は特殊な状況であることを改めて記しておきます。

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一方京都丹後鉄道では2011年(当時の運行事業者は第三セクターの北近畿タンゴ鉄道)から、高齢者に限り上限200円運賃を導入しています。丹後地域2市2町住民が地域内から乗車するなら、福知山市、舞鶴市、兵庫県豊岡市の降車もOKで、最高運賃1530円が200円になります。高齢者の利用は実施前の3倍を超えるそうで、自分が乗車した際にも窓口で申し込む人がおり、バスと合わせてマイカー移動からの移行が進んでいると感じました。高齢ドライバーの交通事故減少にも寄与するでしょう。

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ささえ合い交通を含めて感じたのは、自治体に「交通の目利き」がいるかどうかで、地域の交通整備が大きく変わってきていることです。以前書籍にまとめた富山市などにも通じることですが、京丹後市や京都府が各種補助金の内容を理解し、ウーバーのような新しいサービスの存在を熟知していたことが、大胆かつ柔軟な交通改革を推進できた原動力のひとつだと考えています。

課題がないわけではありません。東京23区でも露呈しているバスの運転士不足です。宮津市では昨年、丹海バスが一部路線の維持困難という方針を示しました。しかし京丹後市には豊富な経験と多彩な選択肢があります。ささえ合い交通は運転士不足の解決策のひとつでもあり、将来自動運転が導入される際にはウーバーアプリの経験が活きるはずです。交通に関する引き出しを多く持つことが、将来的にも効果を発揮するのではないかと期待しています。

また悲惨な交通事故が起こってしまいました。 滋賀県大津市の交差点で、直進する乗用車と右折する乗用車が接触し、直進車両が横断歩道脇で待っていた保育園児の集団に突っ込み、幼い園児2人が亡くなってしまった事故です。亡くなられた方々、ご遺族の方々には、この場を借りてお見舞いを申し上げます。

少し前にブログで取り上げた東京池袋での高齢ドライバーによる事故もそうですが、犠牲になったのは歩行者で、大津の事故では2人のドライバーは無傷だったそうです。当然だと思うかもしれません。しかし以前も紹介しましたが、日本は歩行中の交通事故死者の比率が極端に高い国でもあります。

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IRTAD道路安全レポート2018年版 = https://www.itf-oecd.org/road-safety-annual-report-2018

上の3つの円グラフは、IRTAD(国際交通安全データ解析グループ)が1年前に発表した32か国のレポートから、交通死亡事故の状態別比率について、クルマ社会の代表と言われることもある米国、自動車が基幹産業となっているドイツを日本を比べたものです。歩行中の犠牲者(Pedestrians)の比率が米独の倍以上であることが分かります。

32か国の中にはアジアがあまり入っていないのでグローバルデータとは言えないかもしれないですが、ひとつの指標にはなるでしょう。欧州各国はおおむねドイツに近く、歩行中犠牲者の比率で日本を上回っているのは韓国と南アフリカだけで(ナイジェリアはデータなし)、GDPランキングで日本よりはるかに下位のモロッコやウルグアイより比率が高くなっています。

では歩行中の犠牲者が日本より格段に低い欧米は、歩道橋や地下道、 ガードレールなどを整備して完璧な歩車分離をしているのでしょうか。過去に訪れた都市の写真をいくつか見てもらえれば、まったく逆であることが分かります。欧米で歩行者の犠牲者が少ないのは、歩行者優先という意識が日本よりはるかに浸透しているためだと考えています。今の自動車は軽いものでも1トン前後あり、衝突すれば生身の人間はひとたまりもないことを熟知しているのでしょう。

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中にはその意識が薄いドライバーもいるでしょう。そこで欧州では、日本に先駆けて生活道路の速度制限を時速30キロとするゾーン30を取り入れ、横断歩道の前などには路面を盛り上げたハンプを作って減速を促し、生活道路の入り口にはリモコンで上下する支柱ライジングボラードを設けて歩行者を保護しています。これらについても数年前に取り上げましたが、あとの2つについては日本ではほとんど見たことがありません。

フランスのパリ(下の写真)など、横断歩道の手前にガード用の支柱を設置した都市も一部にありました。しかし横断歩道以外の部分にはガードはありません。しかもパリの支柱は日本によくある白色ではなく、茶系の色として景観を害さないようにする配慮が見られます。茶系であっても歩行者からは識別できるので問題はありません。

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まちづくりにも違いがあると思っています。欧州の都市はいわゆるコンパクトシティで、郊外とはっきり分かれており、道路の速度制限も大きく異なります。 たとえばドイツでは、郊外では時速100キロで走れた道が、市街地に入ると制限速度50キロとなり、学校の近くなどでは時速30キロまで落ちることもあります。都市内は歩行者優先、都市間は自動車優先という違いが明確なのです。

ところが日本では、多くの地方で市街地が無秩序に拡大したために、都市と郊外の境目が曖昧になっています。これがまちなかでもスピードを落とさないドライバーの多さにつながっているような気がします。その点でもコンパクトシティは重要です。都市を高密度化すれば公共交通への投資が容易になります。これも交通死亡事故防止につながります。

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それ以前の話として、欧米では信号のない横断歩道の手前で待っていると必ずクルマが停まり、渡らせてくれます。逆に言うと停まってくれないのは自分の経験では日本ぐらいです。この違いは昔、足首を骨折して松葉杖生活を送った時の、欧州と日本の鉄道駅や列車内の対応の差に似ています。

ガードレールを設置したり通学路を変更したりすれば、歩行中の犠牲者は減るかもしれません。しかし車道はそのままで歩道に手を加えていくという考え方では、ドライバーは悪くない、歩行者が注意しなければいけないという気持ちが増長するのではないかと危惧しています。不思議に感じてしまうほど、この国は交通弱者に対して冷淡な社会であると再認識しています。

令和の時代が始まりました。この新しい時代に大きな変化が起こりそうなモビリティのひとつに、自動車の自動運転があります。我が国では来年、自家用車の高速道路でのレベル3および限定地域でのレベル4無人運転移動サービスの市場化を期待しており、大きな問題が起こらなければ普及が進んでいくと予想しています。

この話題については、5月1日13時からJFN/ジャパンエフエムネットワーク系列で放送された特別番組「新しい時代が始まるラジオ」でもお話しましたが(放送から1週間以内であればradikoで聞くことができるそうです)、そこでは触れなかった話題として、自動運転車の普及によって渋滞が増えるという研究結果を最近いくつか見るようになりました。
 
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このブログでは1年以上前に、「自動運転があれば公共交通は不要という嘘」と題して、乗用車は輸送効率の点で、鉄道などの大量輸送機関に取って代わるものにはなり得ないと書きました。MaaS誕生に関わった組織のひとつであるITSフィンランドも同様の考えを持っており、上のような図版で説明しています。だからこそMaaSにマイカーを含めず、タクシーやライドシェアより鉄道やバスの利用を促した内容としたのでしょう。
 
自動運転車は車間距離が人間の運転より詰められることから、渋滞を減らせるという主張は以前からありました。ライドシェアのパイオニア、ウーバー・テクノロジーズは自動運転とライドシェアの融合で最大97%の自動車を減らせると公表していました。しかし移動者の数が減るわけではありません。人件費削減によって自動運転移動サービスの運賃が安価になれば、公共交通の利用者がこちらに移り、むしろ台数が増加するという予想が出るようになったのです。

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現時点でも、ライドシェアの普及により公共交通の利用率が下がり、道路渋滞が増えたというニュースは目にします。中国ではドックレス方式の自転車シェアが大量に配備された結果、各所に自転車が放置され、人や車両の通行に支障を及ぼし、景観面でも悪影響をもたらしています。道路のキャパシティには限界があるのですから当然です。これが自動運転移動サービスにも当てはまります。

自動運転をビジネスとして推し進めたい人たちは、上で挙げたようなネガティブな話題は避けてきた印象があります(「空飛ぶタクシー」業界も似ています)。最近になってなぜ、逆風になるような真実が明かされたかは不明ですが、本格導入を前にこういう意見が出されるのは良いことです。私も自動運転やライドシェアは肯定の立場ですが、道路の能力を超えた配備は混乱を招くだけであり、自治体による総量規制などを掛ける必要がありそうです。

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ただしこれは都市部に限った話であり、地方は別の視点を持つべきです。地方は多くの場合、道路のキャパシティや人の流れに余裕があります。自動運転移動サービスによるコストメリットがほぼそのまま利点になるのです。ソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社モネ・テクノロジーズでは、すでに自動運転社会を見据えたモビリティサービスの実証実験を始めていますが、場所は過疎地域やニュータウンなどであり、自動運転移動サービスをどう活用すべきか理解していると感じています。

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