THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2019年07月

2年ぶりに書籍を出すことができました。今回はモビリティ業界で話題になっているMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)がテーマです。このブログでも紹介した、昨年秋のフィンランドスタディツアーが契機であることはたしかですが、当時は本を出そうという気持ちにまでは至りませんでした。

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その気持ちが変化したのはまず、MaaSがモビリティの一大革命のようなものではなく、私が長年追いかけてきた欧州の公共交通改革の延長線上にあることを知り、しかも発祥の地であるフィンランドでは構想から導入まで10年の歳月をかけ、じっくり進めてきていたからです。

ヘルシンキ中央駅前の路面電車

ビジネス系メディアを中心に、 MaaSに関するニュースが連日のように届きます。こうした速報では書籍はインターネットにかないません。そこで個々のトピックを紹介するより、ストーリーとして綴っていこうとしたのです。

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MaaSと同じフィンランド生まれのノキアの携帯電話を長年愛用してきており、現地の情報通信産業の知識も少し持っていたことや、スマートフォンを使ったモビリティサービスのパイオニア的存在である米国ウーバーの取材を体験したこと、国内外の自動車メーカーとつながりがあり、無人運転シャトルの実験に注目してきたことも、書籍化を決意する理由になりました。これらはすべて、MaaSと関係があったからです。

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本書ではMaaSをまちづくりのためのツールのひとつと位置づけています。この点はモビリティと同じで、それ自体が目的にならず、手段のひとつであるべきと考えます。昨今のインターネットの情報は玉石混交で、MaaSをビジネスツールと捉えたり、モビリティそのものをMaaSと呼んだりする例も目にします。これがMaaSを分かりにくくしているのも事実であり、フィンランドで習得した真のMaaSの姿を伝えるには書籍のほうが効果的だとも考えました。

whimアプリ画面

「MaaS入門〜まちづくりのためのスマートモビリティ戦略」は学芸出版社から7月25日発売。価格は2300円+税で、書店やAmazonなどで販売しています。多くの方に手にとっていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

少し前のことになりますが、また団地に行ってきました。今回訪れたのは千葉市美浜区の幸町団地。ここは1969年入居開始で、都市再生機構(UR)では以前紹介した松原団地とは異なり、当初からある建物をリニューアル。一部は子育て世帯仕様としてエレベーター設置なども行っています。

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現地を訪れると、建物の壁や入口、案内板などがきちんとデザインしてあって、これからも魅力あふれる住宅地であり続けていこうという気持ちが伝わってきました。また歩行者用の道が広くとってあり、自動車が通り抜けできる道路は中央に1本あるだけで、暮らしやすそうな街にも感じました。
 
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それだけに交通が不便に感じました。団地の南西側を走るJR東日本京葉線は、稲毛海岸駅と千葉みなと駅のちょうど中間で、最寄り駅がありません。この近くにはもともと貨物ターミナル駅があったことが関係しているためかもしれませんが、貨物駅は2000年に廃止しており、跡地には大型商業施設が複数作られ、賑わいの場所にもなっています。

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京葉線は新習志野〜海浜幕張駅間の、イオンモール幕張新都心や千葉運転免許センターがある付近に新駅を作ることが決まりましたが、団地の活性化だけでなく周辺の商業施設の足として、この付近にも駅が欲しいと思いました。また大型商業施設は線路を隔てて団地の反対側にあるのに、団地の両端の道路まで回って行かねばなりません。地下道などでのアクセスを望みたいところです。

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バス(ちばシティバス・あすか交通)は総武線・京成千葉線稲毛駅や総武線千葉駅、京葉線千葉みなと駅を結んでいますが、直線距離で1キロに満たない千葉大学がある西千葉駅行きは平日朝の数本のみです。すでに大学では一部の部屋を留学生向けシェアハウスとして提供しているそうですが、交通が密になればさらなる連携が展開が期待できるのではないでしょうか。とはいえバス事業者は経営的に厳しいところが多く、首都圏とはいえ地方のような補助金などでのバックアップが必要と思われます。

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幸町団地のある場所は平坦なのでベビーカーや車いすの利用も苦にならず、緑にあふれた心地よい環境でした。それだけに駅の新設やバス路線の見直し、商業施設へのアクセス改善などで、スタイリッシュな外観にふさわしいスマートな移動が実現できそうです。東京都心のマンション価格が高騰を続ける中、再び郊外居住にスポットが当たりそうな気配であり、こうした地域のモビリティは重要な要素になるのではないかと予想しています。

参議院議員選挙の選挙戦が繰り広げられている今週、朝日新聞京都版の記者の方から現地の地域交通事情の説明を受けたうえで、今後に向けての意見を求められました。内容は記事に掲載されたので、京都の方はご覧になったかもしれません。

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出来上がった紙面を見ながら感じたのは、日本でもモビリティが国政選挙の争点のひとつに取り上げられるようになってきたということです。これまでも自治体の首長や議員の選挙では話題になりましたが、国会議員の選挙でこのように取り上げられるのはあまり記憶にありません。

それだけ今の地方の交通事情が厳しいということであり、今年の春以降、相次いで報道された高齢ドライバーによる交通事故報道も関係していると思います。高齢ドライバーの事故ばかり取り上げることに批判の意見もありますが、地方の交通事情の課題を浮かび上がらせることには貢献したと思っています。

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京都府は縦に長く、南寄りに位置する京都市は面積では府の2割弱にすぎないですが、人口は過半数を占めます。裏返せば、以前このブログで取り上げた京丹後市をはじめ、多くの地域が過疎化や高齢化に悩んでいます。

京丹後市を紹介したときに書いたように、京都には交通に精通した担当者がいたことが、多くの交通改革につながっています。新聞記事では久御山町や宇治市の取り組みが紹介されていますが、それ以外でも笠置町・和束町・南山代村を走る「相楽東部広域バス」、福知山市三和町の「みわ ひまわりライド」など、積極的な策を打ち出しています。

しかし京丹後市を訪れた感想を言えば、財政や人材に余裕がなく、ギリギリの状況でもあります。その窮状を身をもって感じ、国に伝えるためにも、地方選出の国会議員の役割は重要です。なので選挙戦のテーマに上がるのは好ましいですし、比例代表でも交通問題に言及している政党があり、風向きの変化を感じるところです。

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それだけに私が住む東京の選挙区で、モビリティを取り上げる候補者がほとんどいないのは残念です。東京の交通にはさして問題はない、つまり票にならないと思っているのでしょう。近年の欧州各国の首都の交通改革を知るだけに、こんなことで大丈夫なのかと心配になります。

自治体の首長が交通に明るければいいのですが、現在の東京は逆です。公共交通が発達しているのに、本来であれば地方が先に実施したい交通事故防止装置への補助を、潤沢な財源を後ろ盾に導入しようとしています。まちづくりでも、投資目的で買う人が多いというタワーマンションの建設は野放しに近い状況です。
 
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それ以上に懸念するのは一極集中です。総務省が先日発表した、住民基本台帳に基づく人口動態調査では、人口が増加したのは6都道府県で、うち4つが首都圏に位置しています。これは地方の公共交通維持だけでなく、子育てや福祉(公共交通も福祉の一部ですが)などの分野にも影響を及ぼしていると思います。 

今回の参院選で東京選挙区の定員は6。四国4県合計の2倍です。徳島県と高知県は独自の議員が出せません。欧州諸国に比べて高すぎる報酬、少なすぎる議員数を改めるべく、報酬を半分にする代わりに議員数を倍にすればアンバランスは少し抑えられますが、現状のままでは地方は先細りするばかりです。当選の暁には東京の交通に目を向けることはもちろん、国としてのバランスを考えて任務に当たってほしいと思います。

今週は経済産業省が主催した「多様なモビリティの普及促進のための展示・試乗会」に参加してきました。報道関係者向けなどではなく、あくまで一般向けの会で、ウェブサイトで情報を知ったので一般人として申し込み、経済産業省中庭の駐車場に用意された会場に向かいました。

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なぜ経産省がこのような場を設けたのか。6月18日に政府が開いた「昨今の事故情勢を踏まえた交通安全対策に関する関係閣僚会議」が大きいでしょう。このブログでも一部を取り上げた痛ましい事故を受けての国の動きの一環ではないかと考えています。

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この会議で世耕経産大臣は、安全運転サポート車の普及、新たなモビリティサービスや自動運転の社会実装、多様なモビリティの普及促進などに取り組んでいきたいとし、高齢者の移動を伴う日常生活を免許の自主返納後も含めて着実に支えていくためには、移動に関する多様な選択肢を用意することが重要と発言しています。ここでいう多様な選択肢を知ってもらうことが会の目的だったと想像しています。

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上が当日参加した車両です。プチモーターショーと呼びたくなる状況だったことがおわかりでしょう。当日お会いした自動車メーカーの担当者も、「こんなに多様な車両が一同に会する場は経験がない」と話していました。しかも表に書いてあるとおり、ほとんどが試乗可能でした。多くのモビリティの乗り味をその場でチェックできるという点では、モーターショー以上だったかもしれません。

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さらに当日は、当初のプログラムにはなかった世耕大臣が飛び入り参加し、超小型モビリティや電動車いすなど数台を試乗しながら開発者と意見を交わすという光景も見られました。モビリティを知るには実際に使ってみるのがいちばんであることは、私もジャーナリストとしての業務で感じていることであり、大臣の行動には共感を抱きました。

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これまで触れたことのない車両をいくつか試し、会場を訪れた他の方が乗る様子を見ながら思ったのは、日本はスモールモビリティにおける先進国のひとつであるということです。ハードウェアがこれだけ充実しているわけですから、あとはソフトウェア、つまり多くの人が使いやすいルールを確立し、インフラを整備すれば、モビリティの多様性は少しずつ浸透していくのではないかと感じました。

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今年秋に開催される東京モーターショーでも、このような場を設けてほしいものです。次回のモーターショーは、会場としてきた東京ビッグサイトの一部が東京五輪パラリンピック関連で使えない関係で、お台場地域のいくつかの施設を用いた分散開催となるそうです。会場間の移動などにこのようなモビリティを活用できれば、これまでと違ったモーターショーの楽しみが提供できるのではないでしょうか。

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数年前にトヨタ自動車の超小型モビリティ「i-ROAD」に1カ月乗った経験から言えば 、この種の乗り物は子供を筆頭に、想像以上に多くの人が注目してくれます。社会課題に真摯に向き合っているのもこうした乗り物たちです。日本の得意分野であるスモールモビリティ、今回の経産省の展示試乗会がきっかけとなって、普及が進んでいくことを期待します。

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