THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2020年01月

昨年あたりからコンビニエンスストアの24時間営業についての意見が目立つようになりました。今回の年末年始では一部の飲食店や商業施設が元日営業を止め、2日あるいは3日からの営業とするお店が増えました。そして今週、ガストやジョナサン、バーミヤンなどを展開するファミリーレストラン大手のすかいらーくグループが、24時間回営業を止めていくことを決断しました。

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一方で日本には、東京オリンピック・パラリンピックを前にナイトタイムエコノミーを推進しようという動きもあります。欧米の大都市に比べて日本は夜を楽しむことができないので、飲食店の営業時間をのばしたり、公共交通を終夜運転したりという主張が見られます。こうした論点の際に必ずと言っていいほど例に出るのがニューヨークです。ニューヨークでは地下鉄や路線バスが24時間運行だからナイトライフが満喫できるという主張です。
 
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 しかしニューヨークの地下鉄は、運営環境が日本の地下鉄とは大きく違います。このブログで何度も触れてきたように、欧米の多くの都市交通は公的組織が一括して管理しており、目先の黒字赤字に一喜一憂して減便や廃止を行うことはあまりありません。ニューヨークもMTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ)が一括して管理しています。ちなみにMTAは公共交通のみならず、マンハッタンと周辺を結ぶ橋やトンネルも管理しています。
 
ニューヨークの地下鉄は、ひとつの路線に複数の系統が走っているのも特徴で、日本で言えば地下鉄よりも路面電車やバスに近い状況になっていますが、すべての路線が24時間運行というわけではなく、深夜には運転しない系統も減り、本数もかなり少なくなります。深夜専用の路線図まで用意しています。朝晩に比べて利用者が少ないのはニューヨークも同じであることが想像できます。

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日本でも東京都が六本木と渋谷を結ぶ路線バスの24時間運行を実施したことがありますが、1年を待たずに廃止になりました。本数が少なかった、他のバスや鉄道との連携がなかったなどの理由が考えられますが、それをニューヨーク並みにするには今の運営体制では無理です。加えて近年は運転士不足も課題になっています。東京の地下鉄の24時間運行に言及する人は、このあたりの事情まで考えて議論してほしいものです。

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24時間運行の交通が日本にないわけではありません。空港では関西国際空港が知られていますし、都市間の夜行バスや列車も根強い人気があります。物流の世界も24時間営業です。しかし国際空港は海外との時差を勘定に入れる必要があり、夜行のバスや列車は高速移動手段が確立していなかった頃から存在しています。いずれも都市内の24時間運行とは分けて考えるのが自然でしょう。

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日本は農耕により発展してきた国であり、日の出とともに仕事を始め、日の入りとともに仕事を終え休むという生活を送ってきました。その風習が残っている観光地も多くあります。たとえば浅草の仲見世は19時ぐらいにはほとんどの店が閉まります。それでも世界各地から多くの人が訪れ賑わっています。これが日本らしさではないでしょうか。ナイトタイムエコノミーの議論はそろそろ終わりにして、多くの人が心地よく過ごせる社会を目指してほしいと思っています。

ここ数年、自動車のあおり運転が原因の事故や事件が大きな話題になっています。そんな中、カーナビやドライブレコーダーも手がけるパナソニックが、あおり運転に関する調査を実施しました。昨年末から年始にかけて、自動車で帰省や長距離移動をする予定のある全国の男女2000人に聞いたという内容は、信頼に足るものだと思っています。調査結果を受けて、日本アンガーマネージメント協会代表理事の安藤俊介氏とともにコメントを寄せる機会に恵まれたので、ここで紹介します。

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調査結果では、あおり運転を受けたと感じたことがある人が8割にもなる一方、あおり運転をしたことがあると感じた人も半分近くいたそうです。また運転中にイライラしたことがある人は8割以上とのことで、理由としては渋滞にはまったこと、時間に遅れそうだったこと、周囲の車両のスピードが遅かったことがトップ3になっています。



この結果からまず言えることは、安藤氏も指摘していますが、時間に余裕を持って出かけることです。現在の自動車は高性能車であれば500馬力という数字を掲げていますが、我が国の公道では目的地までの到達時間は軽自動車とほとんど変わりません。それよりも所要時間を左右するのは渋滞などです。自動車の走行性能は上がっても、移動体として見れば速くなっているわけではなく、場合によってはむしろ遅い乗り物になることを、多くの人が認識してほしいと思います。

以前テレビに出演していたアメリカ人タレントは、母国で自動車で移動する際は空いている時の倍の時間を見積もって出かけていたそうです。公共交通が発達した東京は時間どおりに動けて助かると話していました。多くの人が、自動車は時間が読めない乗り物だと認識し、余裕を持った移動を心がけるか、あるいは公共交通での移動に転換すれば、あおり運転は減るのではないかと期待しています。

 
(上のリンクとは異なるデータも掲載しています) 

一方、あおられないための心得としてひとつ考えられるのは、公道は公共空間であるという意識を忘れないこと、具体的に言えば流れに乗って走ることです。ゆっくり走っていればあおられないと考えている人がいるようですが、それは逆効果でしょう。高速道路の追い越し車線もまた、追い越しのために使用する公共空間であり、私有地のように占有が許される場ではありません。

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日本の高速道路で追い越し車線を占有する車両が多いのは、制限速度が実勢速度とかけ離れていることも関係していると考えています。日本の高速道路の制限速度が諸外国に比べて低いことは以前も取り上げました。制限速度が低いから追い越し車線を走りたがる車両が多いわけで、一部の区間で導入している制限速度の時速120kmへの引き上げは、あおり運転減少にも効果があると思っています。

鉄道では故意に遅延をさせる行為は処罰されます。自動車でも交通の妨げになる駐車違反は処罰されます。最近はわざとゆっくり走ることであおり運転を誘発する事例が報告されていますが、これもまた円滑な移動を乱す行為です。雪道をチェーンや冬用タイヤなどの装備なしで走行し立ち往生する車両にも言えますが、高速道路や幹線道路ではスムーズな移動確保をすべてのドライバーが心がけてほしいものです。

2020年最初のブログになります。本年もTHINK MOBILITYをよろしくお願いいたします。今年は日本政府が毎年発表している官民ITS構想・ロードマップの2019年版で、自家用車の高速道路での自動運転レベル3、移動サービスでは限定地域での無人自動運転レベル4の市場化・サービス実現のシナリオを描いています(自動運転レベルはいずれもSAE Internationalの定義に基づきます)。

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これに先がけて国土交通省では昨年5月、安全な自動運転車の開発・実用化・普及を図るため、道路運送車両の保安基準の対象装置に「自動運行装置」の項目を追加するなど、道路運送車両法の一部を改正する法律を公布しました。ただ施行するには保安基準の内容を詰めて行く必要があるので、細目を定める告示の改正を検討しており、現在パブリックコメントを募集しています。



内容が膨大なので、ここで全部を記すことは避けます。くわしくは国交省の資料を見ていただきたいのですが、今回は自家用車の高速道路レベル3導入に際しての内容がメインで、自動運行装置作動中に条件を満たさなくなる場合、人間のドライバーに運転操作の引継ぎを促す警報を発し、引き継がれない場合は停止するようにしたり、自動運行装置に関する各種情報を記録できる作動状態記録装置の用意、自動運行装置を備えている車両外部にその旨を示すステッカー貼付を求めたりしています。

パブリックコメントは1月 24 日必着となっており、結果を踏まえて法律が施行される見通しです。すでに自動車メーカーの中には、法改正を見越してレベル3対応の車両を発売予定という報道もあります。その前にもう一度、このレベル分けをおさらいしておきたいと思います。

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下に掲げた表は、官民ITS構想・ロードマップに掲載していたものです。0から5までの自動運転のレベルの内容を見ると、条件がないのは自動化がまったく存在しないレベル0と、完全自動化のレベル5だけで、それ以外はすべて「限定領域」という言葉が入っていることがわかります。つまりレベル3やレベル4はいつでもどこでもというわけではありません。実際、高速道路でのレベル3は当面は渋滞時のみと言われています。

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加えてレベル3は、安全運転に関わる監視・対応主体はシステム(AI)としつつ、作動継続が困難な場合は運転者(人間のドライバー)という微妙な立ち位置になっています。このレベルだけ2つの限定領域が存在しているわけです。以前から一部の関係者はこの曖昧な点に懸念を示しており、自動車メーカーの中にもレベル3はスキップしてレベル4を目指すというところが出てきました。

日本を含めた世界各地で実験走行が行われている無人運転シャトルは、乗用車のようにレベル1〜2〜3とステップアップしたものではなく、最初からレベル4相当の技術を搭載しており、現在はオペレーターが乗務し限定領域で低速走行するレベル3にレベルダウンさせて走っています。こうした技術展開のほうが安心できると思う人もいるのではないかと思います。

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すべての道ですべての人が運転から解放される世界こそ理想。そう思う人は多いでしょう。しかしWHO(世界保健機関)の2018年の統計によると、世界では24秒にひとりの割合で交通事故で命を落としているそうです。完璧な自動運転の実現には、こうした事例を逐一フォローしていく必要があります。普通の人がマイカーで運転せずに好きな場所まで行けるというのは遠い未来の話であり、決められたルートを低速で走行する無人運転移動サービスのほうが、はるかに現実的であることが想像できます。

いずれにしても今年は、順調に行けば自家用車の高速道路での自動運転レベル3と、限定地域でのレベル4無人運転移動サービスが実用に移される予定です。その状況を見つめながら、ひとりでも多くの人に正しい情報を理解してもらうべく、分かりやすい言葉での説明を心がけていきたいと思っています。

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