THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2020年04月

先週取り上げたエッセンシャルワーカーの中で、私たちの生活に近い場所にいるのが物流関係者です。外出自粛という状況の中、インターネットショッピングを利用する人が大幅に増えていることに加え、レストランが作った料理を配達してもらう人が多くなっているからです。その一部を担う宅配バイクについては前回紹介したので、今回はウーバーイーツ(Uber Eats)について触れます。

UberEATS

こちらについてはファッション系メディア「FORZA STYLE」で記事を書かせていただきましたが、そこでも触れたように、昨年末時点では10都市展開にすぎなかった我が国のウーバーイーツは、現在は倍の20都市になっています。これだけでもニーズが急増していることが分かります。そういえば昨年まではひんぱんにポストに入っていたチラシを、最近は見なくなりました。宣伝の必要がないほど需要が伸びているのかもしれません。

さらにウーバーイーツでは、3月には中小規模のレストランパートナーに対して支援を始めるとともに、いわゆる「置き配」の選択を可能とし、感染が確認された配達パートナーには最大で14日間の経済的なサポートを実施。4月にはレストラン支援や利用促進を目的として神戸市および東京都渋谷区と提携を結ぶと、配達パートナーへのマスクの配布も始めるなど、さまざまな対策を実施してもいます。



今週、ここにタクシーが加わることになりました。これまで一部のタクシーでは「救援事業」という名目で買い物代行などを担当していましたが、4月に入ると利用率が前年比で50%以下になる地域が出るなど、経営基盤を揺るがす事態になっていることもあり、国土交通省は4月21日、当面5月13日までという期間限定で、タクシーを使った料理の配送を認めることにしたのです。

今回適用した法律は、自家用自動車が有償で運送できる場合を定めた道路運送法78条の3号「公共の福祉を確保するためやむをえない場合」を適用しています。同じ78条の2号は、日本で初めて地域交通にウーバーのアプリを使った京丹後市の「ささえ合い交通」も用いた「自家用有償旅客運送」です。ウーバーをはじめとするライドシェアを「危険な白タク」と呼び導入に反発してきた日本のタクシー業界が、同じ法律を使ってウーバーイーツと同じ業界に参入するわけで、背に腹はかえられない状況であることが窺えます。

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ただ東京のような大都市では、すでにウーバーイーツが普及しているうえに、細い路地やビルの地下などにあるレストランも多く、路上駐車が渋滞などを引き起こすことも考えられ、タクシーによるフードデリバリーは不向きだと考えます。むしろ鉄道やバスが貧弱な地方で活躍してもらうほうが、フードデリバリー以外の多くのサービスを提供できる可能性があるので有意義ではないでしょうか。

自転車でウーバーイーツの配達パートナーとなっている人にもお伝えしたいことがあります。5年前の兵庫県を皮切りに、日本でも自治体ごとに自転車保険の義務化が進んでいることです。東京都では今月から全域で義務となりました。自転車保険は自治体で用意するもの、生命保険の特約、自動車保険の特約などさまざまなタイプがあります。配達パートナーで保険に入っていない人は、すぐに加入してください。

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個人的には、フードデリバリーは多くの人に利用してほしいという気持ちを持っています。なによりも個性的なレストランに魅力的な料理を提供し続けてほしいですし、外出自粛という中でプロの料理人の味を楽しむのはストレス解消のひとつになるからです。だからこそウーバーとタクシーが以前のような敵対関係になるのではなく、お互いの得意分野を生かし、作る人と食べる人をつなげていってほしいと願っています。

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、多く見るようになった言葉のひとつに「エッセンシャルワーカー」があります。医療や介護をはじめ、食品販売、公共交通、物流など、社会を支えるために必要不可欠な、インフラやライフラインに相当する仕事に従事する人のことです。

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フランスのマクロン大統領は今週13日「農家、教職員、トラック運転手、配送業者、電気工、レジ係、ごみ収集員、警備員、清掃員、公務員たちが社会生活が続くことを可能にしてくれた」と、エッセンシャルワーカーへの感謝を口にしました。次の日にはNHKがニュースの中で海外のエッセンシャルワーカーを取り上げ、米国のバス運転士を紹介した後、この運転士がその後感染が原因で亡くなったことを伝えていました。

多くの人が自分の仕事は社会のために必要不可欠だと思っているはずです。しかし海外ではそれを踏まえた上で、インフラやライフラインを守る人たちをエッセンシャルワーカーという呼び名で区別し尊重しているわけです。その裏にあるのは公共という概念への理解だと思います。優れた公共があるからこそ個人が快適に生活できると考えているのでしょう。

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多くのエッセンシャルワーカーが過酷な労働を強いられています。交通分野で見れば物流がそれに該当します。先日そのひとつである宅配バイクについて記事を書きましたが、こうした人たちが安全快適に目的を遂行するためにも、私たち部外者はなるべく道路を使わないことを心がけるべきでしょう。まして今は、交通事故を起こしても病院に入れないかもしれませんし、それによって医療従事者というエッセンシャルワーカーにさらなる負担を掛けることになります。



ところがエッセンシャルワーカーの中で移動を担う人々については、今週水曜日にJ-WAVEのラジオ番組「STEP ONE」でタクシーをテーマに電話出演(radikoであれば1週間聴取可能です)した際にも触れましたが、物流とは正反対に需要の激減に悩んでいます。一部のタクシー会社では、以前から地方では展開が進んでいた買い物代行などを取り入れています。今はバスや鉄道を含めた多くの事業者が、貨客混載を真剣に考える時期かもしれません。



しかしそれだけでは抜本的な解決にならないでしょう。ゆえに米国では今月2日、感染拡大で深刻な影響を受けている公共交通機関に対し、総額250億ドルの緊急支援金を交付すると発表しました。感染がもっとも深刻なニューヨーク周辺だけで54億ドルになりますが、それ以外の多くの都市に交付されるようです。写真のポートランドはTRI-MET(トライメット)という組織が公共交通を一括して管理しているので、ここへの支援になるのでしょう。

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対する日本は、仮に米国のような支援が交付されたとしても、地方都市であっても複数の交通事業者が競合していることが多く、どの事業者にどのぐらい配分するかを自治体や各事業者の間で話し合ったりするプロセスが不可欠で、スピードが遅れるのは明らかです。とりわけ地方の交通事業者は経営基盤が弱い分、さらに深刻になっていると想像できるので、なおさらスピードが必要です。

運営面では民間企業の知恵や工夫は大切であると私も思います。しかしこうした非常時に対面すると、公共の基盤はやはり公的組織が一体で支えることが望ましいと感じます。理想はすべての部分の統合ですが、それが無理なら、すでに国内各地で実例がある上下分離方式で公共交通を維持していくのが、今の日本では理に叶っているのではないかと思っているところです。

新型コロナウイルス感染拡大の影響であまり注目されていませんが、3月29日から羽田空港の新しい飛行ルートの運用が始まりました。以前もブログで取り上げた、国際線の増便に対処するもので、国際線の発着が多くなる15〜19時、かつ南風時に限り、東京23区西部の上空から滑走路にアプローチするルートを使います。通過する渋谷区にある事務所には、事前にこのようなパンフレットが送られてきました。

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開始から数日間は北風だったので、実際に事務所の上空を飛行機が飛ぶようになったのは4月3日以降でしたが、実際に体験してみると、不快になるほどの音量ではないもののかなり長い間響くことを知りました。渋谷区でもそう感じるので、もっと南の品川区に住む方はより強い印象を抱いているでしょう。

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それ以上に感じたのは数の多さです。5分に1機ぐらいの間隔で飛んできます。新型コロナウイルスの影響で大幅な減便がなされているので意外でしたが、羽田空港のウェブサイトで今日の15時台の到着便を調べると、国際線は通常14便中実に12便、国内線は27便中18便が欠航するものの、1時間に11便は飛んでいるので5分に1機ぐらいにはなります。

逆に言えば、感染が収束して本来の便数に戻ると、今の約4倍の飛行機が飛ぶ計算になるので、常に音が響くようになるかもしれません。また現在は15〜19時に限定されてますが、これ以外の時間帯も国際線は多くの便が設定されているので、今後時間帯の拡大が予想されることも頭に入れておく必要はあります。

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このような事態になったのは、国際空港として作った成田空港が都心から遠すぎ、多くのエアラインが羽田発着を望んでいることが大きいですが、もっとも新しいD滑走路が、A/C滑走路の離着陸に干渉する位置にあることも関係していると思っています。B滑走路に並行して作ったりしておけば、北風時と同じように従来に近い飛行ルートでより多い飛行機をさばけたはずです。

前回は現状での対処案を書きましたので、今回は電力中央研究所の創設者であり当時理事長だった松永安左エ門主催の「産業計画会議」が出したレコメンデーションのひとつで、東京湾内に巨大な埋立地を作り、そこに新空港を開設するプランを紹介します。1959年に作られたこの案では、アクセスのために東京湾横断道路も建設し、羽田は廃港として、小田急電鉄や相模鉄道、当時計画中の東名高速道路が近くを通る厚木基地を民間転用するというものでした。



当時の政府は、羽田の廃港や東京湾横断道路は非現実的として成田空港に決まったそうですが、道路はその後東京湾アクアラインとして現実になっています。実現に向けては東京湾の漁業や厚木基地の騒音をどうするかなどの問題が出てくるでしょう。でもそれは空港などの大規模な開発ではどこでも発生することで、現実に成田でも大規模な反対運動が起こりました。

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国際空港としてあとから整備した成田空港では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、2本ある滑走路のうち1本を閉鎖するという状況に追い込まれています。今後ますます羽田への一極集中が進んでいきそうな気配を感じます。現在においても言えることですが、先を見通せる能力と冒険を厭わない精神が、国の舵取りには大切であると改めて思いました。

新型コロナウイルスの感染者数は、厚生労働省の発表によると国内では東京都、大阪府、愛知県の順に多く、逆に岩手県、鳥取県、島根県ではゼロという結果になっています。海外でも米国ニューヨークなど大都市で感染者が多く発生しています。人から人へと感染しているので、人が密集した場所ほど多くの人が感染するのは当然のことです。

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しかも高密度なまちづくりを推進した結果、人口に対して病床のキャパシティが不足し、飲食店や商店は外出する人が大幅に減ったことで収入が得られず、地方に比べて大幅に高い場所代が負担になっています。集客力があるからこそ開催できるイベントやコンサートも、多くの人が長時間狭い場所で過ごす環境が感染につながるということで中止に追い込まれています。

欧米の報道では第2次世界大戦以来という言葉を多く目にします。日本は戦争で悲惨な体験をしたにもかかわらず、この表現を使いたがりませんが、自然災害で東京が被害の中心になったのは最近は記憶になく、リーマンショックは人々の命を直接奪うものではなかったので、戦後生まれの自分にとってはこれらとは明らかに違う、いままで体験したことのない危機的状況だと実感しています。

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それでも今週、仕事で都心の幹線道路を訪れると、交通量はいつもと変わらない感じでした。東京はさまざまな娯楽に囲まれているので、外出しないと気が済まない人が多いのかもしれませんが、これも感染拡大の原因になります。しかも困ったことに一部の人は、感染者が少ない地方に旅行に出かけたり、「疎開」と称して実家に身を寄せたりしています。ウイルスの運び屋になっているかもしれないのにです。

地方が東京人の来訪を拒んでいるという一部の報道は、私も実話として聞いたことがあります。マスクを送ろうとしても断られるほどだそうです。中国武漢で感染が広がった頃、春節での来日に懸念を示したときのことを思い出せば納得できます。そんな状況にもかかわらず、地方の病院に移送すればいいと主張する人がいます。原子力発電所を福島に押し付けるような感覚の持ち主が存在するのは残念です。

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自分を含めて東京で暮らす人は、地方では得られない多くの恩恵を享受してきたはずです。だからこそ今は大都市ならではの危機的状況から逃げることなく、正面から受け止めるべきでしょう。そうはいっても今回はメガシティのデメリットを痛感した人もいるはずで、これまでのような一極集中の流れは、感染収束後は少し平準化していくのではないかと予想しています。

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