THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2020年09月

先週末から今週初めにかけては、土日のあとに祝日が2日連続したので、4連休だった人も多かったようです。一方で祝日のひとつが敬老の日だったこともあり、高齢者に関連したニュースもいくつかありました。モビリティ分野では、このブログではおなじみのWHILLが新型 Model C2を敬老の日より予約販売開始。それに先駆けて先週、メディア向け発表会を行いました。

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Model C2は従来からあるModel Cの進化形で、フロントに加えてリアにもサスペンションを内蔵し、操作系は片側に集約することで左右どちらにも装着可能になりました。さらにテールランプはリュックを背負った状態でも見えやすい位置に変え、左右のアームは跳ね上げ方を変えることで乗り降りしやすくするなど、実用性や快適性を高める改良を美しくまとめてあり、相変わらずプロダクトデザインの良きお手本と呼びたくなります。

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それとともに注目したいのは、新製品がシニア層の使用を主に想定していることです。車いすのような福祉用具は、介護保険の適用を受けた上で、介護系の流通事業者を通じて借りることが一般的ですが、WHILLによれば歩行困難を抱える高齢者は日本だけでも1000万人いるそうで、介護保険利用者の数を大きく上回る現状があることを見据えた判断だそうです。

さらにWHILLでは新型コロナウイルスが高齢者の行動に及ぼす影響が気になっており、先月65歳以上の男女600名と、歩きずらさを感じている親を持つ30~50代の男女300名を対象に、調査を実施しています。その結果は同社ウェブサイトで紹介されていますが、自粛前後で観劇・映画を目的とした外出は86.7%、友人・親戚宅訪問は76.1%も減っており、1年前と比べて公共交通の利用も4割減少したなどの結果が出ています。

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WHILLの調査結果のニュースリリース = https://whill.inc/jp/news/28585

新型コロナウイルスの感染拡大で行動範囲が狭まっているのは多くの人に共通していますが、特に高齢者は自転車や自動車の運転に不安を持つ一方、足腰が弱っていて長時間歩くのが辛い人もおり、感染を恐れて公共交通の利用を控えると行動機会の減少に直結します。加えて高齢者はコロナで重症化しやすいことから、私たち周囲の人間が会いにいくのも躊躇しがちで、人との関わりが少なくなることから、認知症の進行などが懸念されています。

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こうした結果を受けてWHILLでは、介護保険や補装具費支給制度などを利用しないユーザーに向けて、すでにオンラインでの予約受け付けを始めており、11月からは直販体制を整え、試乗サービスや運転アドバイス付きの購入サービスを、電話やWEBなどで全国から申し込めるようにする予定としており、シニアの外出機会創出を後押ししていくとのことです。

以前からWHILLを取材してきた人間としては、この動きは驚くべきことではないと思っています。健常者でも乗りたいと思えるパーソナルモビリティと、それを使った新しいモビリティサービスの提供を、当初から目標に掲げていたからです。以前紹介した空港での自動運転実証実験もその一環と言えます。自分の中でも電動車いすは特別な乗り物ではないという気持ちが強くなりつつあります。

電動バイクのバッテリーを街中で交換できるようにすることで、車両価格を抑えるとともに電池切れや充電時間の心配をなくし、手軽にスマートなモビリティが楽しめるようにする。この構想を世界に先駆けてプラットフォーム化した台湾のGogoro(ゴゴロ)については、以前このブログで紹介しましたが、最近になって日本でも似たような動きが出てきました。

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まず8月19日(バイクの日)、大阪府と大阪大学、 日本自動車工業会(自工会)の二輪車特別委員会では、バッテリー交換式電動バイクの実証実験プロジェクト「e(ええ)やんOSAKA」を、大阪大学のキャンパスが位置する大阪府吹田市、豊中市、箕面市で今月から開始することになりました(プロジェクトでは二輪EVと称していますが今回は電動バイクで統一します)。



ちなみに昨年4月には、自工会の二輪車特別委員会を構成する川崎重工業、スズキ、本田技研工業、ヤマハ発動機4社が「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を創設しており、交換式バッテリーとその交換システムの標準化の検討を進めてきました。今回のeやんOSAKAには、このコンソーシアムが連携しています。
 
具体的には、大阪大学の学生や教職員に電動バイクを有料で貸与し、大阪大学吹田キャンパス、豊中キャンパスおよび周辺地域の提携コンビニエンスストア(ローソン)でバッテリーを交換。バッテリー交換式電動バイクが移動の社会インフラとして定着するための課題抽出を約1年間実施するそうです。今回の実証の結果を踏まえ、普及に向けて大阪府内での実証サービス拡大も検討していく予定です。

一方京都市は今月18日,関西電力,岩谷産業,日本マクドナルド、読売新聞大阪本社とともに「脱炭素社会を目指した電動バイクのバッテリーシェアリング推進協議会」を設立し、バイクの電動化および電動バイクのバッテリーシェアリングに取り組むと発表しました。こちらはまず、各事業者が配達や保安などで使うバイクの電動化を進め、来年4月以降に各事業者間のバッテリーシェアリングを実施。市民を含めた地域内バッテリーシェアリングも目指しているそうです。

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ウィズコロナで感染予防の観点からパーソナルモビリティに注目が集まっています。その中で自転車とともに人気を集めているのが二輪車で、自動車の販売台数が大きく落ち込んだ今年4〜6月も、前年比で増加した月がありました。自動車よりも車両も維持費も安価で済むのに対し、都市内での移動速度は自転車や自動車より速いという機動性の高さが再注目されているようです。



ただエンジン付きの二輪車は、排気ガスや音が気になるという人もいるはずです。電動ならその問題も解消できます。しかもバッテリー交換式とすれば、電動車両の欠点である航続距離の短さや充電時間の長さを解消できるわけで、都市内をスマートに移動できる乗り物のひとつになり得ます。

いずれにしても日本の4メーカーがバッテリーシェア標準化に向けてタッグを組み、自治体や大学、企業が協力を始めた状況は好ましいことです。このうちヤマハ発動機はGogoroとの協業を進めているので、日本の力と台湾の技を組み合わせた世界展開も期待したくなります。そのためにも大阪と京都で始まったプロジェクトが成功し、各地に展開していくことを望んでいます。

新型コロナウィルスによって人々の移動のあり方が大きく変化していることは、このブログでも何度か記してきました。公共交通での感染を恐れ、マイカー利用に注目が集まっていることにも触れました。私自身は感染拡大後もしばしば公共交通を使っているものの感染には至っていないので、長時間でなければ問題はないと思っていますが、中には不安を抱く人はいるでしょう。

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そんな中で東武鉄道東上線が10月に開業する、埼玉県寄居町のみなみ寄居駅は異例と言えます。副駅名がホンダ寄居前とあるように、西側に隣接する本田技研工業(ホンダ)埼玉製作所寄居完成車工場のために作られる駅で、設置費用はすべてホンダが負担しているからです。この件については東武鉄道、ホンダ両社に取材した記事を東洋経済オンラインに掲載し、多くの方に読んでいただきました。

自動車メーカーも現在は多角化が進んでいますが、メインのビジネスは今も自動車を作って売ることです。それを考えると自動車工場のために新駅を作るのは矛盾していると思う人もいるでしょう。従業員が全員マイカー通勤をしてくれれば、その分売り上げが伸びるのですから。



ただこれは企業視点での考え方です。両社の話を聞いてみると、社会視点での決断であることがわかります。具体的に言えば寄居工場の西側を走り、多くの従業員や物流などの車両が通る国道254号線の渋滞を懸念したのです。町にとって大企業の工場があることは税収や地域活性化など有利な面もありますが、渋滞が恒常化すれば住民の生活に影響を及ぼしてしまいます。

しかもホンダでは同じ埼玉製作所の狭山完成車工場を、来年をめどに寄居に集約することを発表しています。また寄居工場にはホンダのマザープラントとして、先進的な生産技術をいち早く試し、世界に伝えていくという役割も持たされています。今後これまで以上に多くの人々がここを訪れる予定で、それを見越して以前から話し合いを進め、今年秋の開業に漕ぎ着けたのだと思っています。
 
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この記事はYahoo!ニュースにも掲載されました。コメント欄をチェックしていて気づいたのは、ホンダらしいという言葉が多かったことです。筆者もなんとなくホンダらしい取り組みであるとは感じていましたが、コメントでは具体例を挙げていたので納得しました。

中でも印象的だったのは創業者の本田宗一郎氏が生前、「クルマ屋のおれが葬式を出して大渋滞を起こしちゃあ申し訳ない」と言ったことを受け、社葬は開かず「お礼の会」としたエピソードで、ホンダのウェブサイトでも紹介しています。自動車メーカーだからこそ渋滞を出してはいけないというメッセージは、今回の新駅の設置理由にもつながるものです。

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記事では最後に物流面について、ドイツの自動車メーカーが完成車や部品の輸送を再生可能エネルギーを使った鉄道輸送に切り替えたことにも触れました。ホンダもそうですが、すべてを自動車で賄おうとせず、公共交通のメリットも認め、行動に移す姿勢に感心します。社会との共生という視点で考えれば、移動や物流における自動車と公共交通の連携は重要というメッセージと受け取っています。

JR東日本が今週、来年春のダイヤ改正で終電時刻の繰り上げなどを行うと発表しました。新型コロナウイルス流行による利用者の行動様式の変化により、特に深夜時間帯の利用が大きく減少していること、夜間の作業体制改善の2点を理由として挙げています。減便によるコスト削減効果があまりないことは2週間前に書きましたが、運行時間短縮なら多少の削減も期待できます。

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具体的には主に東京100km圏の各路線で、終電から初電までの間隔を、作業の近代化や機械化を推進するために240分程度確保することを念頭に、各方面への終電時刻を現在より30分程度繰り上げ、終着駅の到着時刻をおおむね午前1時頃とする改正を行うとともに、一部線区では初電時刻の繰り下げも実施するそうです。

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終電繰り上げのニュースはこれが初めてではなく、先月26日にはJR西日本が同様の理由で、来年春のダイヤ改正で近畿エリアの主要線区を対象に、10分から30分程度終電を繰り上げるとしています。路線バスでも各社が終バスの繰り上げを実施しています。、深夜便の運休も目立っており、京王バスでは4月13日から、ターミナル駅と郊外を結ぶ深夜急行バスをすべて運休としています。

驚いたのは、今回の発表について賛否両論を公平に扱うメディアが多かったことです。終電繰り上げを否定する人も多いというメッセージと受け取りましたが、JR西日本が発表時に公開したアンケートでは、感染拡大後は下のように繰り上げに反対する人は大幅に減っています。別のインターネットのアンケートでも約8割が賛成となっていました。誤解を招くような報道は慎んでほしいものです。

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JR東日本では感染収束後も、利用者の行動様式は元に戻ることはないとしています。たしかにテレワークやネットショッピングが衰退するとは思えず、東京に限れば人口は減少局面にあります。とりわけ深夜は、勤め帰りに飲食店などに向かう人が減ったうえに、長時間マスクをつけずに狭い場所にいるのは感染が心配と思う人もいるでしょう。多くの人がコロナ前に戻りたいと願う中、メッセージの重さを感じました。

 

この決断を見て思い出したのは、以前このブログで紹介した国土交通省道路局の提言「2040年、道路の景色が変わる」です。進化とともに回帰という言葉が使われていたからです。今週インターネットメディアの「ビジネス+IT」で担当者への取材記事が公開されましたが、今回の終電繰り上げにも回帰の流れを感じます。大都市で深夜まで遊び続けることが豊かではない。そんな時代の変化を痛感します。

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