THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2021年06月

昨日、総務省が国勢調査の速報値を発表しました。2020年10月1日時点の外国人を含む日本の総人口は1億2622万6568人で、5年前の前回調査から約86万8千人減ったとのことです。その結果国連推計によると、日本の人口は世界で11番目となり、比較可能な1950年以降、初めて上位10カ国に入らなかったそうです。地域別では38道府県で人口が減る一方、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)は80万8千人増え、人口偏在が進んだという分析もあります。

ただしこれは、昨年10月1日時点の数字であることを頭に入れておく必要があります。日本政府が新型コロナウイルス感染症対策本部を設置したのは昨年1月30日なので、今日まで続くコロナ禍の影響は、半分ぐらいしか反映されていません。それが証拠にテレワークやワーケーションが進んだこともあり、一部の地方では人口減少が底を打ち、増加に転じています。このブログで紹介した長野県東御市および小諸市もそうで、両市のオフィシャルサイトによれば直近の人口推移は次のようになっています。

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 東御市 4/1:2万9822人→5/1:2万9824人→6/1:2万9827人
 小諸市 4/1:4万1821人→5/1:4万1876人→6/1:4万1888人

小諸市長の小泉俊博氏は今年2月に日本経済新聞が主催したオンラインフォーラムで、同市もまた人口減少が続いているものの、2019年の提出超過数は3年前の157人から15人に減少していることを挙げるとともに、近隣の佐久市や軽井沢町はコロナ禍前の2019年時点ですでに転入増となっていることを挙げ、選ばれる街を目指すと語っていましたが、その思いが現実になりつつあるようです。

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たしかに両市を訪れると、新しい店や住宅を目にします。そのひとつが小諸駅舎内に昨年オープンしたカフェ「小諸駅のまど」で、オーナーは東京から親の実家がある小諸市に移住してきたそうです。市職員や地元商店主などで構成している「おしゃれ田舎プロジェクト」のセミナーに参加したことで移住を決断し、駅舎内のみどりの窓口があった場所の紹介もあったことから、開店に至ったとのことです。

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一方、東京の人口は以前のブログで紹介したように、減少傾向になっています。オフィシャルサイトにある今年6月1日現在の人口総数は1395万7977人で、国勢調査と同じ昨年10月1日と比べて1万3132人、前年同月比で4万1591人の減少となっています。都市の規模が異なるとはいえ、たった1年で小諸市の総人口に近い数が減ったというのは、やはり潮目が変わったと思わざるを得ません。

6月15日に閣議決定された2021年版交通政策白書には、地方移住やワーケーションについての統計もありました。東京圏在住者のうち、地方移住に関心を持つ人の割合はこの1年で6.5%増え、東京23区在住の20歳代はおよそ2人に1人が関心ありとのことです。ワーケーションを希望している人も30歳代以下が中心で、今の若者は大都市への憧れはさほど強くないようです。コロナ禍がきっかけとなった一極集中からの脱却の流れ、今後もしばらく続くかもしれません。

プラグインハイブリッド車(PHV)に2台続けて乗る機会がありました。フランスのプジョー3008 HYBRID4とDS7クロスバックE-TENSEです。これまでも日本や欧州のPHVに乗る機会はありましたが、いずれも短時間の試乗に留まっていました。今回は途中での充電を含め、比較的長時間付き合ったことで、PHVの存在意義が理解できました。

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2台のメカニズムは共通で、ガソリン車としても販売している1.6リッターのターボエンジンとATの組み合わせにモーターを加えて前輪を駆動するとともに、後輪にもモーターを装備して、必要に応じて4WD走行もするというものです。日本製PHVの代表格である三菱自動車工業のアウトランダー/エクリプスクロスと似た成り立ちです。

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モーターは超低回転で最大トルクを発生するのに対し、エンジンが最大トルクを発生するのは中回転域です。燃料が水素やe-fuelなどになっても、この特性は大きく変わらないでしょう。PHVが生まれたのは、この2つの得意分野を1台にまとめるためだと解釈しています。今回の試乗でも街中はほぼモーター、高速道路ではエンジン主体で走ることを体感しており、適材適所という言葉が思い浮かびました。

カタログに掲載している電動走行可能距離は、WLTCモードで3008が64km、DS7が56kmとなっていました。たしかに東京都内の一般道の移動は、ほぼモーターだけで賄うことができました。充電は普通充電だけですが、商業施設などにある200V充電器では3時間でバッテリー容量の4分の3ぐらいは充電することが可能で、これで十分という印象を持ちました。

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現時点ではガソリンを燃料としているので地球温暖化対策では不利ですが、今後e-fuelなどが実用化されれば状況は一転します。なので中途半端な存在などではなく、今後も環境対策の一翼を担っていくのだろうと感じました。それとともに、大型高性能車までEV化を進める一部の自動車ブランド、PHVでさえ将来的に禁止すると表明している一部の国や地域の戦略に疑問を呈したくなりました。

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今回紹介したプジョーやDSのほか、シトロエンなどをブランドに持つグループPSAは、市街地走行が多いコンパクトカーはEV、長距離移動も想定される中型車以上はPHVという棲み分けを実施しています。このPSAと合併してステランティスを結成したFCA(フィアット、アルファ・ロメオ、マセラティ、ジープなど)、ルノー日産三菱のアライアンスも同様の考え方で、納得できる方向性だと感じています。

昨年10月にこのブログで、長野県東御市の電気バス実証実験にアドバイザーとして関わったことを紹介しました。この実証実験は今年3月で一旦終了しましたが、派手な広報宣伝活動をしなかったにもかかわらず周囲の注目は高く、当事者のひとりとして驚きました。

東御市の東隣にある小諸市も興味を寄せていただいた自治体のひとつで、それがきっかけとなって今年4月16日から、東御市電気バス実証実験にも関係したカクイチが用意した車両を用い、中心市街地でスマートカート「egg」を巡回させる実証実験を5月末まで行いました。この実験にもアドバイザーとして協力させていただきました。

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車両はいずれも電動の3輪と4輪のカートで、前者は側車付2輪車、後者はグリーンスローモビリティとして登録したものです。運行したのは毎週金・土曜日で、合計14日間にすぎませんでしたが、最初の10日間の延べ利用者数は522人でした。実はこの数字、電動カートを用いた地域交通としては、多くの先行事例を大きく上回るものでした。

でもこの結果は偶然ではなく必然であると、何度か小諸市を訪れた私は考えています。第一の理由は、昔からコンパクトシティだったことです。この地は戦国時代に築かれた小諸城を中心に発展しましたが、明治時代になって現在の鉄道が整備が決まると、線路を城趾内の三の門と大手門の間に通し、小諸駅は三の門の脇に作られました。

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小諸市が公開している懐古園マップはこちら

おかげで懐古園と命名された城趾公園は駅に隣接しており、大手門周辺に発展した商店街はそのまま駅前商店街になりました。今を見据えていたようなまちづくりです。現在もコンパクトシティの精神は受け継いでいて、市役所は駅から約500mの場所にあり、病院や図書館を併設しているうえに、近くには複合施設「こもテラス」が建設中です。

今回のeggに使った車両はいずれも、ラストマイルの移動のために考えられたものですが、小諸市における駅と市役所、病院、図書館、こもテラスの関係はまさにラストマイルであり、スマートカートのために生まれたようなまちだと思いました。元気な人は歩いて行くことも可能ですが、駅から市役所にかけてはゆるい登りが続くので、スマートカートが重宝するのです。

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しかもコンパクトシティなのでeggの1周の所要時間は15分ほど。車両は2台なので、駅で待っているとすぐにやってきます。これも多くの利用者を集めた理由だと思います。東御市の電気バスは広い地域を循環していたこともあり、おおむね1時間に1本でした。富山港線のLRT化もそうでしたが、利用者にとってはやはり、本数が多いほうが喜ばれることを改めて痛感しました。

もうひとつ好評の理由に挙げたいのは、積極的な広報宣伝戦略です。スマートカートを運行していたのは小諸市の都市計画課ですが、広報宣伝については産業や観光などそれ以外の部署の方々も積極的に動いたそうです。おかげで小諸駅構内から北国街道沿いの蕎麦屋まで、あらゆるところでポスターを見ることができました。センスの良いグラフィックデザインのおかげもあって、乗ってみようという気持ちにさせてくれました。

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前述のようにスマートカートの実証実験は5月末で一旦終了しましたが、こもテラスのオープンを見据えて、小諸市では次の一手を考えているとのことです。一方東御市での実証実験に使った電気バスは、現在は小諸市の新型コロナウイルスワクチン集団接種会場への輸送で活躍しています。今ある資産を有効活用してより良い社会を目指そうとする小諸市の姿勢に共感を抱いているところです。

栃木県宇都宮市および芳賀町で建設中の宇都宮ライトレールについては、このブログでも何度か紹介していますが、今週月曜日には2023年春の開業に先駆けて「ライトライン」と名付けられた車両のお披露目式がありました。くわしくは後日メディアで紹介する予定ですが、当日はデザインを担当したGKデザインの方々から話を聞く機会があったので、ここではデザイン面に絞って紹介したいと思います。

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3両編成で全長30m弱と、日本の路面電車車両としては規定ギリギリの長さを持つライトラインは、実はゼロから新開発されたわけではありません。福井県の福井鉄道を走る「FUKURAM(フクラム)」と基本設計を共有しており、運転席まわりの造形や塗色、車内の仕立てなどで独自性を打ち出しています。こうした手法は近年、JRなどの通勤電車でも一般的になりつつあります。

しかし見た目はFUKURAMとかなり違います。いちばん目立つのは運転席まわりで、先端がスラントして長く伸び、側面は先端に行くにしたがい絞り込まれていて、特急電車のようにスマートです。欧州ではLRT車両や通勤用車両でもよく見かける造形ですが、機能性や効率性を重視する日本では珍しいことです。

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ちなみに先端側面の絞り込みは、路面電車ならではの急カーブで長く伸ばした運転席がホームや架線柱などの設備に接触しないための処理ですが、広い面を絞り込んでいくので歪みなどがあるとすぐにわかってしまいます。しかし実車は曲面ガラスを含めてきれいに仕立ててあり、美しいプロポーションを実現していました。

車体色は以前のブログでも触れたように、宇都宮が「雷都」と呼ばれるほど雷が多い土地にちなみ、シンボルカラーの黄色を効果的に使ったもので、3案の中から公募で選ばれたものです。それは事前に知っていたことですが、実車を前にすると黄色と黒のコントラストが鮮烈で、この点も欧州のLRT車両を思わせました。

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車内もFUKURAMとはいろいろ違います。座席は黄色と黒を基調としているだけでなく、形状も独自です。見るからに体にフィットしそうな形で、実際に座ると腰のまわりをソフトにサポートしてくれました。シートの厚みを確保するために、下にある車輪カバーを少し削ってもらったそうです。優先席を茶色のレザー風としたことも目を引きました。優先席だからこそプレミアムな仕立てにしたそうです。

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扉の脇にはICカードのタッチセンサーがありました。乗車用と降車用が用意されていることから、いわゆる信用乗車を導入しようとしていることがわかります。乗車用が緑、後者用が黄色というのは宇都宮駅で接続するJR東日本の簡易型Suica改札機と同じ配色であり、乗り継いで使う人にとってはわかりやすいのではないでしょうか。

地域色という点では外板や座席に用いた黄色のほか、座席足元に大谷石をモチーフにした床材を採用するなどのこだわりが見受けられましたが、これ見よがしの演出になっておらず、スマートに見えました。ライトラインは観光路線ではなく、地域の洗練をアピールするツールになるはずで、派手さを抑えつつ明確な主張をしたデザインは、沿線住民のシビックプライドを高めてくれそうだと思いました。

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