THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2021年09月

今日9月25日、自分にとって11冊目の書籍が発売になりました。「MaaSが地方を変える〜地域交通を持続可能にする方法」(学芸出版社)です。一昨年の「MaaS入門」、昨年の「MaaSがまるごとわかる本」に続き、3年連続でMaaSがテーマの書籍を出させていただいたことになります。関係者の皆様には、この場を借りてお礼を申し上げます。

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本書を執筆するきっかけは、新型コロナウイルスでした。海外へ行けなくなり、国内も外出機会が激減しました。それは多くの人に共通することで、公共交通が大きな打撃を受けているという話が耳に入るようになりました。しかし、たまに仕事で地方に出かけると、東京ほどはコロナの影響は受けておらず、感染に気をつけながら日々の生活を営む、ウィズコロナの生活が軌道に乗っていると感じました。



MaaSを含めた地域交通改革も継続的に進んでおり、私がアドバイザーとして関わった企業のように、新たに参入したところもあります。さらに高齢化が進み、運転免許を返納しようという人が増えた中で、地域交通の整備が急務になったうえに、コロナ禍で東京などから地方に移住する流れが明確になり、一部では人口減少から増加に転じるなど、改革推進が必要とされるような出来事も増えてきました。

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こうした状況を見て、今こそ地域交通を改革する好機だと感じるようになりました。とはいえ何をすればいいかわからないという声も出てきそうです。そんな人たちに必要なのは、海外の素晴らしい事例を紹介したり、理論や技術を解説したりといった上から目線ではなく、日本国内で頑張っていて、成果が形になりつつある地域を紹介する、同じ目線の話だと思いました。

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取材や講演で訪れたり、知人が改革に携わったりしていた自治体で、注目すべき事例はいくつかあったので、そこに業界内で話題になっている地域を加え、自分がアドバイザーとして関わっている事例の体験談も交えることで、地域交通改革のヒントになればという気持ちから、1冊にまとめました。

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多くの事例を簡潔に並べるという手法もありますが、それならインターネットでも見ることができます。なので個々の都市にある程度のボリュームを割き、現地に行って担当者から直接聞いた話をベースに、ストーリーとしてまとめました。一部は企業や研究者からの取材としましたが、それを含めて自治体が主導している事例に絞りました。MaaSはまちづくりの手段のひとつであり、目的ではないからです。



地域交通をどうやって立て直すか。地方にMaaSは必要なのか。地方移住の流れにどう対応するか。こういった疑問を解決するためのヒントになれば嬉しく思います。すでに本書で取り上げた前橋市の山本龍市長にブログで紹介いただくなど、反響が少しずつ届いており心強い限りです。とにかく今は、地域交通改革のチャンス。チャンスを生かす自治体が、少しでも増えていくことを望んでいます。

前回のブログでは、当初の精神を失いつつある軽自動車について書きましたが、穴を埋めるモビリティがないわけではありません。グリーンスローモビリティ(グリスロ)はそのひとつです。インターネットメディア「ビジネス+IT」で記事にしていただいたのを機に、着実に浸透しつつあるこのカテゴリーについて書いてきたいと思います。

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グリーンスローモビリティについてもう一度説明すると、2018年に国土交通省が提案した新しいカテゴリーで、最高速度20km/h未満の電気自動車を使う近距離輸送の公共交通のことです。20km/h未満という具体的な数字を出しているのは、道路運送車両法の保安基準で、最高速度20km/h未満の車両は窓ガラスやシートベルトなどの装着が免除されるという緩和項目があるためです。



制度が生まれて3年という新しいカテゴリーであり、実証実験段階の事例も多くありますが、それでも今年4月時点ですでに100近くの経験を重ねています。私がアドバイザーを務める企業でも、モビリティに精通しているとは言えない相手からいきなりグリスロという言葉が出てきたり、関係ない用事で訪れた地方で車両が走っているのを見かけたりと、予想以上に普及していることは実感しています。

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なぜここまで広まったのでしょうか。環境に優しいうえに、地域交通の課題解決のために生み出されたという背景が、地方の人たちから支持されているのだと思います。グリーンスローモビリティという名前もわかりやすく、それをグリスロと略したセンスにも感心します。さらに交通分野では長い間、速いことが素晴らしいとされてきた中、交通事故の犠牲者減少にも寄与するスローという概念を打ち出したのは画期的であり、時代の変化を実感するところでもあります。

横の窓はもちろん、車両によってはドアさえないので、車内と車外の境目が少ない、つまり心理的なバリアフリーをもたらす構造は、利用者同士だけでなく沿道の人たちのコミニュケーションを育んでもくれます。見るからに開放的な雰囲気なので、なんとなく乗ってみようという雰囲気にさせてくれることも、導入が進んでいる理由だと考えています。

低速の電動車両で、交通量の少ない場所を走ることが多いので、自動運転の導入にも有利です。福井県永平寺町など、運転手を乗せず、遠隔監視で複数の車両を運行している例もあります。多くはゴルフ場の電動カートで以前から使われてきた誘導線方式を採用していますが、同じシステムであっても最近のものは以前より走りが滑らかになっているなど、進化も実感しています。

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同じ国土交通省がカテゴリーを創設しながら、いまひとつ盛り上がっていない超小型モビリティに比べると、グリスロはうまく軌道に乗っています。超小型モビリティは、登録車両に関しては衝突安全試験を義務付けるなど、完璧さを求める方向性を感じます。何かにつけて完璧を求めるというのは、現在の日本で目立つ方向性ですが、グリスロは逆に敷居を下げる方向のカテゴリーづくりがなされており、それが多様性が求められる時代にフィットしたのではないかと思っています。



とはいえ気になる点がないわけではありません。小型の電動カートの中には、満充電での航続距離が30km程度と短いものがあり、アドバイザーを務める企業が関わった実証実験では半日しか持たず、問題になりました。最低でも2倍の航続距離は欲しいところですし、スクーターのように簡単にバッテリーを交換できるような仕組みがあると、より使いやすくなるのではないかと感じています。

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もうひとつ、多くが実証実験止まりであることも気になっています。マネタイズができないことが大きな理由だと思いますが、そもそも地方の公共交通は福祉事業なので、それ自体で黒字を上げるのは無理だと考えます。モビリティの導入でまちを活性化し、税収増などにつなげるというビジネススタイルなのであり、MaaS同様まちづくりの手段のひとつとして考えたうえで、導入に取り組んでいってほしいと思っています。

日産自動車と三菱自動車工業が共同開発を進めている軽自動車クラスの電気自動車(EV)が、2022年度初めに発売されるというニュースが先月末ありました。実質購入価格は約200万円からとなる見込みだそうです。実質というのは、国や自治体の補助金を差し引いたあとの価格を指すのでしょう。

たしかに現在市販している唯一の軽EVである三菱自動車の商用バン「ミニキャブMiEV(ミーブ)」、少し前まで販売していた乗用車「i-MiEV(アイミーブ)」よりさらに安くなりそうです。でも一方で、200万円の軽自動車は高いと思う人もいるでしょう。 でもそれはEVだからというより、そもそも現在の軽自動車がそんなに安くはないことが影響していると考えています。

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なぜここまで高価になったのか。欧州の超小型モビリティが、普通の自動車とは異なる独自のカテゴリーとして育てられてきたのに対し、軽自動車は高速道路を走れる代わりに相応の安全性を義務づけられるなど、普通の自動車に近づけようとした結果が、価格上昇につながったと考えています。

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軽自動車はそもそも第2次世界大戦直後の1949年に、日々の移動に困る人々に寄り添った自動車を提供することを目的に誕生しました。その後の高度経済成長の中で、当初の精神が忘れ去られてしまったようですが、日々の移動に困っている人がいなくなったわけではありません。今の日本は世界最先端の高齢化社会で、運転免許返納をどうするかが議論されています。おまけに先進国の中では平均年収が低い国になり、コロナ禍で生活が厳しい人もいます。地方の移動に焦点を当てれば課題だらけです。

だからこそ、軽自動車が生まれたときの精神を見つめ直すことが必要ではないかと思います。これについてはインターネットメディア「BLOGOS」で記事にさせていただきました。そこでは欧州の超小型モビリティのように、軽自動車も2つのクラスに分けてはどうかと提案しました。仮に低速型をK1、高速型をK2とすると、K2は従来どおりなのに対し、K1は超小型モビリティの拡大版で、高速道路を走行できない代わりに安全基準を緩和し、価格のみならず税金も下げるというものです。



今年の春に山口市に行ったときに見たパークアンドライド駐車場に、「軽トラ置いてバスでらくらくおでかけ!」という言葉がありました。気になって市役所の方に聞いたところ、軽トラは高齢の農家の方が運転することが多く、子供や孫たちが遠出を心配するので、近くでバスに乗り換えてもらえればという気持ちを反映したものだそうです。

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高速道路に乗らず、行動半径を制限することを条件に、運転免許の基準を緩和すれば、高齢者の近場への足に適した移動手段を提供できるかもしれません。もちろん大都市に住む人は公共交通を使えばいいので、地域限定になりますが、地方は軽自動車がインフラに近い存在になっていることを考えると、時代に即したルールに変えていくことも大切ではないかと考えています。

茨城県日立市というと、少し前にJR東日本の日立駅舎を取り上げたばかりですが、今回は同じ日に乗ったひたちBRTを紹介します。かつてこの地域を走っていた鉄道、日立電鉄の廃線跡の一部を活用したBRTで、2013年に一部で運行を始め、2019年に現在の路線になっています。さらに延伸の計画もあります。

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日立電鉄はこの地で創業した日立製作所の子会社で、日立市の西隣にある常陸太田市の常北太田駅から日立市のJR大甕駅を経由し、鮎川駅に至る路線でした。常陸太田市と日立市を結ぶルートとして、そして市内に点在する事業所への足として建設されたそうですが、近年は事業所の閉鎖や縮小などもあって利用者が減り、廃止となったようです。このうち日立市内の区間について、同市が道路を保有し、茨城交通がバスを運行する公設民営でのBRT導入を進めているのです。

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当日はJR常陸多賀駅から大甕駅まで、途中下車をしながら乗りました。常陸多賀駅を出ると、しばらくは駅から遠ざかるように一般道を東に進みますが、まもなく右折して専用道路に入ります。生活道路との交差部分には双方に遮断機があり、バスを優先して通すことになっています。1ヶ所だけ存在した大通りとの交差点は路面電車と同じように、信号により交互に通行するようになっています。

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専用道路区間の停留所の数は15で、鉄道駅の3倍です。新設したバス停の中には、周辺に新しい住宅が並んでいるところもあり、BRTがまちづくりに貢献していることもわかります。大甕駅に近づくと道路と並行して走りますが、信号が続く道路に対して、BRTは停留所以外は止まらないので(前述の交差点脇にも停留所があります)、流れが速いときさえありました。便数は大甕発着と常陸多賀発着で明確に差をつけており、バスならではの柔軟な運行がなされていました。

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ご存知かもしれませんが、BRTはバス・ラピッド・トランジットの略で、バスに鉄道並みの速さを持たせる輸送手段です。それにはやはり専用車線が必須だと痛感しました。残念ながら日本では、ここまで専用道路の比率が高いBRTは、鉄道の廃線跡を活用したものがほとんどで、新規に導入するBRTは専用道路を設けない中途半端なものが目立っています。多くの移動者がBRTの良さを認めてくれるためにも、ひたちBRTのような正統派が増えることを願うばかりです。

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