THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2021年11月

昨日、京都大学で特別講義を担当させていただきました。カーボンニュートラルや新型コロナウイルス感染症への対策を含めた、国内外のモビリティの最近の動きを、リアルとオンラインのハイブリッドで話しました。受講していただいた学生の方々と担当の先生に、この場を借りてお礼を申し上げます。

ここでは講義内容の中から、拙著「MaaSが地方を変える」でも取り上げた山口市の取り組みを紹介します。同市では、これまでのように行政や事業者だけの努力では地域交通の維持に限界があることから、市民が自主的に考え動くことが必要と考え、2006年という早い時期から、市長が中心となって住民参加を呼びかけてきたことが特筆できます。

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山口市は2005年と2010年に周辺の町と合併することで、市域を拡大してきました。同市ではこのうち山口と小郡を都市核、小郡以外の合併前の旧町拠点を地域核と考え、それぞれの核の間はJRなどの交通事業者が輸送を担当することにする一方、地域核と生活拠点を結ぶ交通などについては、住民が主体となって交通を整備することにしたのです。わかりやすい役割分担だと思っています。

4公共交通の機能分担

住民主体の交通の代表が、地域住民が自主運行するコミュニティタクシーです。地域内をきめ細かく廻り、地域の中心地や駅・バス停までを結ぶ定時定路線の乗合交通で、2007年にまず小郡の「サルビア号」が運行を開始しました。市民交通計画の策定と同じ年に走りはじめたことから、同時並行で検討が進められたことがわかります。運行地域はしだいに拡大し、現在は7地域で運行しています。

地域住民は、路線や時刻を考えるだけでなく、年に何度も会議を開き、車両への乗り込みヒアリング調査をしながら、より利用しやすい経路やダイヤへと改善を進めているとのことです。ただし運行はタクシー会社が受託しています。行政は取り組みを支援し、地域に適したコミュニティ交通として守り育てていく役目を担っています。

サルビア号

グループタクシーという制度もあります。こちらは駅やバス停から離れた地域に住む高齢者にタクシー券を交付するもので、1乗車につき1人1枚の使用が可能ですが、特徴的なのは相乗りを可能としており、3人で乗れば3人分の利用券が使えるので、相乗りするほどお得になります。4人以上のグループを集落などで作り、代表者を決め、その人が申請することで利用券を受け取る仕組みなので、外出促進で高齢者の健康維持に貢献するだけでなく、地域のつながりをも促進することになりそうです。

時刻表とマップ

もちろん行政が何もしていないわけではなく、前述したコミュニティバスなどを走らせているほか、昨年9月からは自転車シェアリングも導入。これらの交通をトータルで考えるという観点から、市内の鉄道やバスの時刻表をひとつにまとめ、マップとともに発行してもいます。以前のブログで紹介したパークアンドライド駐車場「置くとバス駐車場」も取り組みのひとつと言えるでしょう。

多くの地方都市が、山口市と同じような悩みを持っていると思います。その悩みを自治体や事業者だけで抱え込んでしまい、減便や廃止になってしまう例もあるでしょう。ただ地域交通の良し悪しは市民がいちばんよく知っているはずですし、そもそも民主主義の国ですから、本来はひとりひとりがもっと地域のことを考えていいはずです。なので山口市の方針には納得していますし、まちづくりの知識や経験が養われる市民は多くなりそうで、それがプラスに働くのではないかと期待しています。

先月から今月にかけて、電気自動車に関わる機会が二度ありました。ひとつは昔のフィアット500をコンバートした車両の試乗、もうひとつは日本EVフェスティバルで最新EVの同乗説明というものでした。このうち前者については、古いクルマを使ったコンバージョンEVの他の事例と合わせて、東洋経済オンラインに記事を掲載させていただきました。

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ここでは電気自動車のことをEVと書きます。日本EVフェスティバルが今年で第27回ということでもわかるように、多くの人が電気自動車のことをEVと認識しているからです。一方海外では欧州委員会の7月の発表にあるように、EVは電動化車両全般を指す言葉でプラグインハイブリッド車や燃料電池自動車も含めるという意味への置き換えを進めており、それに従ってBEVと呼ぶ人もいますが、政治的な戦略に慣れ親しんだ表現が屈する必要はないので、EVという表現を使うことにします。



2つの事例を見て感じたのは、EVにもいろんなジャンルがあり、そのEVに興味を寄せる人もさまざまだということです。ジャンルは新車から旧いクルマまで、乗用車だけでなくトラックやバスもあります。取材したコンバージョン事業者は三者三様で、試乗会でお会いした合計14組の来場者は、学生もいれば自動車業界関係者もおり、EV初体験という人から所有している人まで、経歴はさまざまでした。

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しかし事業者にしても、来場者にしても、共通しているのは、EVに興味を持っていることです。興味がなければコンバージョンに手を染めないし、イベントには足を運ばないからです。最近のニュースでEVがひんぱんに取り上げられているためかもしれませんが、多くの人に注目されていることがわかりました。

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EVフェスティバルでは試乗の感想も聞きました。「速い」「静か」「滑らか」といった言葉が寄せられました。実際に所有するにはインフラの問題があるという人もいましたが、温暖化やカーボンニュートラルという言葉は聞かれませんでした。心のどこかにそういう意識はあるのかもしれませんが、逆に言えば、環境対策以外にもEVの魅力はいろいろあることが伝わってきました。

 

欧州がすべての新車乗用車をゼロエミッションとするのは、移動の多様性という観点からも反対です。現実に日本や米国、中国はそこまでの制限は設けていないので、欧州の主張は無視すればいいのですが、一部の人は欧州の挑発を正直に受け止め、EVそのものを非難するような言及が見られます。これもまた多様性に反する動きです。

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そもそも上に書いたように、日本にもEVに注目している人は少なからずいます。しかも実際に体験して、独特の楽しさに感心しています。移動することが楽しい。この気持ちは大事にしたいと感じました。モビリティの選択肢が広がった中で、それぞれの人が社会のために、ひとつひとつの移動を考え、それによって社会全体が良い方向に進んでいけばいい。そう思ったのでした。

先月から今月にかけて、新しいパーソナルモビリティに2台続けて乗ることができました。ヤマハ発動機のNeEMO(ニーモ)と、トヨタ自動車のC+walkT(シーウォークティー)です。

ヤマハNeEMOは、低速モビリティのコンセプトモデルで、自動車で言えばSUVを連想させるオフロードテイストのデザインに、大径タイヤと4輪独立サスペンションを装備しています。東京都内の公園の敷地で一般向けの試乗会を行ったので乗ってきました。見た目以上の悪路走破性に驚き、これでオフロードレースをしても面白いとさえ思いました。

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トヨタC+walkTは、同社が歩行領域EVとして開発してきたシリーズのひとつで、10月1日に発売されました。今回乗ったのは立ち乗りタイプですが、これ以外に電動車いすのように座って乗るタイプ、既存の車いすに連結するタイプも考えられています。こちらは報道関係者向け試乗会で、特設コースで乗りました。旋回時は自動的に速度を落とすなど、安心安全の思想に感心しました。

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さらにスタイリッシュなパーソナルモビリティとして、このブログでも何度か紹介しているWHILLは、従来型よりさらに軽量で折り畳みも可能とし、低価格も実現したModel Fを発売しています。このように、ここへきてパーソナルモビリティの動きが活発になってきたように感じますが、実はこれと並行して、国ではルールづくりが進みつつあります。

警察庁では昨年7月から今年4月にかけて、「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」を行い、4月に中間報告をしました。一方国土交通省では今年10月から、「新たなモビリティの技術基準などに関する検討を行うワーキンググループを開催しました。

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警察庁のウェブサイトはこちら
国土交通省のウェブサイトはこちら

両者に共通しているのは新たな車両区分として、最高速度6km/h程度までの「歩道通行車」、15km/hまでの「小型低速車」、それ以上となる「原動機付自転車(原付)など」という3つを提案したことです。これまで曖昧だったこのカテゴリーをわかりやすく整理しており、一歩前進と感じています。最初に紹介したNeEMOやC+podTなどは電動車いす同様、歩道通行車になるでしょう。

ただし議論が必要なところもあります。ひとつは電動キックボードが、シェアリング車両については小型低速車、個人所有車両については原付とカテゴリーが分かれることです。もうひとつは歩道通行車の最高速度で、現状の6km/hでは高齢者や障害者の自由な移動を阻害しているという意見もあることから、欧米に近い10km/hまで引き上げてはどうかという意見が出ています。

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電動キックボードについては、警察庁の資料では海外の事例も紹介されており、多くの国では自転車に近い扱いをしています。日本は原付免許・原付登録を必要としているので、その点は踏襲し、歩道走行を禁止したうえで、最高速度を15km/hとし、ヘルメット装着は同様の性能を持つ自転車と同じように、任意としてよいと考えています。

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歩道通行車は、最高速度を10km/hに引き上げて差し支えないと思います。高速道路の120km/hと同じで、そのスピードを出し続けなければいけないわけではないですし、自転車に乗ることさえ難しい人、運転免許を返納して自動車を運転できない人に、代わりの移動の自由を少しでも提供してあげたいからです。ともあれようやく日本からもこうした議論が出てきたのは、好ましい流れだと考えています。

2020年1月にトヨタ自動車が建設を発表した「ウーブン・シティ(Woven City)」。先月5日には舞台となる静岡県裾野市が地元住民や報道関係者向けに開催した「これからのまちづくり」説明会で、ウーブン・シティを手がけるウーブン・プラネット・ホールディングスのジェームス・カフナーCEOが説明を行いました。

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ウーブンシティのオフィシャルサイトはこちら

当日の模様はYouTubeで配信されたので私も視聴し、ウェブメディア「Merkmal」で記事を書かせていただきました。説明会の内容は記事を見ていただきたいですが、1ヶ月たった今思うのは、たしかに名前にシティが入っており、オフィシャルサイトに掲げたコンセプトでは「ヒト中心の街」「実証実験の街」「未完成の街」と「街」が多く出ているものの、多くの人が想像する「まち」とはかなり違う場所になりそうだということです。

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裾野市「これからのまちづくり」説明会報告ページはこちら

当日もカフナーCEOが私有地のまま開発を進めることに言及し、新しいモビリティを実証し住民が体験する場と説明しました。翌日はトヨタ自動車の豊田章男代表取締役社長がオウンドメディア「トヨタイムズ」で、テストコースという表現を何度も使っていました。私企業が自己資産を投じて作る施設ということもあり、実験の場所であることを第一目的にしたことがクリアになってきた感じがします。

新しいモビリティの実証実験を大学構内など公道以外の空間で行うことは、これまでもありました。ウーブン・シティはそこに人が住み、暮らしの中で実証実験を行っていく場だと解釈しています。ただし当初の住民はトヨタ関係者など約2000名に限られ、試作車の実験を敷地内で行う関係もあり、大学のキャンパスなどよりも閉じた場になることが予想できます。

裾野市ではウーブン・シティ構想を受けて、次世代型都市構想であるSDCC(裾野デジタル・クリエイティブ・シティ)構想を発表しています。市民や企業などがデジタル技術やデータの利活用によって地域課題を解決していくとしており、ウーブン・シティの周辺整備も含まれていますが、ウーブン・シティ本体は事業主体が異なるので、これとはまったく違う方針で進んでいくことになりそうです。



それでも同市では今年6月から周辺の住民や商店会などが、ウーブン・シティに近いJR御殿場線岩波駅周辺地区のまちづくりワークショップを開いています。説明会直前には第4回ワークショップを開催しており、さまざまなアイデアが出されたようです。裾野市のオフィシャルサイトでは内容をくわしく見ることができます。市民の希望と熱意がウーブン・シティと連携していくことを望んでいます。

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第4回岩波駅周辺地区まちづくりワークショップの報告はこちら

個人的には運転免許返納後の高齢者に居住の機会を与えてほしいと思います。新しいプロジェクトである分、新鮮な感覚を持つ研究者などを率先して迎え入れたい気持ちはあると思いますが、社会課題の解決という視点で考えれば、やはり高齢者への移動手段提供が思い浮かぶのです。それが長い目で見れば、まちづくりにつながっていくのではないかと考えています。

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