THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2021年12月

2021年最後のブログになります。今回は日本でもいくつか導入事例が出てきた、徒歩や公共交通などでの移動でポイントやマイルが貯まり、商品の割引などが受けられるアプリを取り上げます。以前紹介した富山市のとほ活アプリもそのひとつですが、スマートフォン利用者の移動速度を位置情報機能で計測し、それをポイントやマイルに換算するという仕組みです。

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私の知る限り、この種のアプリは2018年に米国シリコンバレーで生まれたMiles、翌年フィンランドのラフティで導入されたCitiCAPあたりがパイオニアだと思っています。とほ活も2019年導入なので早いほうと言えるでしょう。このうちMilesは今年10月から日本でもサービスを始めました。さらに今月に入ると、全日空が自身のマイレージサービスとの連携もできるANA Pocketをスタートしています。

とほ活は外出促進による健康増進という目的から、徒歩や公共交通利用だけでなくイベント参加でもポイントを獲得できることが特徴です。CitiCAPは環境対策の一環で始まったので、移動手段を変えることでどれだけCO2排出量を減らせたかがポイントになります。MilesやANA pocketはこの2つの要素も含めてはいますが、ポイント活用アプリとしての側面もあると感じています。

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MilesとANA pocketについて獲得マイル数を紹介すると、前者は1マイル(約1.6km)あたり飛行機は0.1、自動車は1、鉄道・バスは3、自転車は5、徒歩は10マイルたまります。後者は1kmあたり飛行機が0.8、自動車が6、鉄道が8、自転車が20、徒歩が50ポイントです。レートはやや違いますが順番は同じで、どの乗り物が環境負荷が低いのかを教える点でも価値があると考えています。 

ただ、どちらも全国同一レートでの展開としていることは気になります。地域によって公共交通の普及の度合いには差がありますし、平坦な都市と坂の多い都市では選ぶ乗り物も違ってくるからです。仕事などで長距離移動が多い人はMilesやANA pocketのほうがありがたいかもしれませんが、地域の課題に真摯に取り組み、商店の宣伝などで地域振興にも役立つのはCitiCAPやとほ活のようなアプリではないかと考えています。

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もうひとつ気づいたのは、ここで紹介した4つのアプリには、経路検索や運賃決済といったMaaSの要素は入っていないことです。 経路検索には速さや安さだけでなく、環境や健康といった面を重視した結果を提示してもいいし、ひと月の移動の半分でこれらを選択すると特別の待遇が受けられるようなサブスクメニューがあっても面白いと思いました。

今年もTHINK MOBILITYをご覧いただき、ありがとうございました。来週はお休みとさせていただきます。2022年最初の更新は、1月8日を予定しています。良いお年をお迎えください。 

自動車の電動化が話題になって久しいですが、最近それ以上に動きがあると感じるのが自転車や2輪車です。自転車では以前から普及していた電動アシストにスタイリッシュなスポーツタイプなどの車種が増え、電動2輪車は小型のスクーターだけでなく中型スクーターやモーターサイクルに範囲が広がっています。

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今月初めには東京国際フォーラムで電動バイクのイベントが開催され、週末の都心だったこともあり多くの来場者がありました。その後知人が経営する2輪車専門店に行くと、ここでも電動化車両をいくつか見ることができました。今回はこれらを写真で紹介しながら感じたことを書きます。バイクという言葉は自転車からモーターサイクルまで幅広いジャンルで通用するので、電動バイクと称することにします。

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EVバイクコレクション in TOKYO 2021のウェブサイトはこちら(イベントは終了しています)

一連の車種(一部はコンセプトモデル)を見てまず感じたのは、個性的なデザインが多いことです。自動車ほど安全基準が厳しくないこともあり、独創的なフレームやボディを取り入れていて、見るだけで楽しませてくれます。コストを抑えるためにエンジン車との共用部分を増やしたりせず、電動車だからできる構造や造形に挑戦していることが伝わってきます。

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車種についても、東京国際フォーラムのイベントでは電動アシスト自転車とフル電動のスクーターやモーターサイクルが同じフロアに並び、車輪の数も2輪、3輪、4輪とさまざまでした。もちろん車種によって運転免許や乗り方が異なるわけですが、構造や性能ではなくシティコミューターという枠の中で多彩な車種を紹介した姿勢に共感しました。

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モータリスト・ファクトリーのウェブサイトはこちら

モトクロスやトライアルの競技用車両もありました。自然の中でライディングを楽しむ乗り物だからこそ、電動化は納得できるものです。たしかに日本では発電の段階でも多くのCO2を排出しますが、どこで排気ガスや音を出すかということまで含めて考えれば、理に叶ったものと考えています。

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自転車や2輪車は自動車に比べて移動距離が短く、発進停止が多いので、電動化にはもともと向いたジャンルです。小型スクーターには電動アシスト自転車同様、電池を車体から取り外して自宅で充電できる車種もあります。しかもジャンルは多彩でデザインは魅力的。もちろん車両価格や維持費は自動車より掛かりません。電動車に興味を持っている人は、このあたりから体験してみるのもいいのではないかと思いました。

今回はこのブログ初登場となる「プレイスメイキング」を取り上げます。プレイスメイキングとは、公共空間をコミュニティの中心の場として考え直し、作り替えていくために、⼈々が集まって描いていく概念のことです。 1990年代に米国ニューヨークで確立されたとのことで、都市について考える際の思想・手法として世界的な潮流となりつつあるそうです。

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日本でも以前紹介した国土交通省の政策「ほこみち(歩行者利便増進道路)」などで触れており、多くの都市で実証実験が展開されたりしています。プレイスメイキングウィークという世界規模でのイベントも各地で開かれており、日本では昨年度に続いて、プレイスメイキングウィークジャパンが今月初めにオンライン開催されました。ちなみにここまでの内容は、同イベントのオフィシャルサイトを参考にしています。



私がプレイスメイキングを知ったのは最近のことですが、それ以前から国内外で、近い事例はいくつも見てきました。たとえばフランスのパリでは、2002年に始まったセーヌ川沿いの道路をビーチに仕立てる「パリ・プラージュ」をはじめ、市庁舎前のスケートリンク、自動車工場跡地の公園などが、実はプレイスメイキングに近かったのではないかと思っています。

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国内では、私が企業のアドバイザーとして関わっている長野県小諸市で今年10月、小諸城址の大手門公園に「こもろまちタネ広場」がオープンし、さまざまなイベントが行われています。まちタネ広場について同市では、市民や事業者のいろいろな想いや活動を持ち寄り形にする(=タネをつくる)場としており、プレイスメイキング社会実験としているので、概念は近いと受け止めています。

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プレイスメイキングと公共空間活用は違うという主張もあります。個人的には堅苦しい考えの押し付けは浸透の妨げにつながるので控えたいところですが、そのうえで感じているのは交通とモビリティの関係に近いことです。交通は自動車や鉄道などの輸送機器の側に立った表現なのに対し、モビリティは人の移動のしやすさという違いがあります。建築や土木ではなく人間の側から公共空間活用にアプローチしたのがプレイスメイキングではないかと把握しています。

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プレイスメイキングはモビリティとは関係なく、むしろ道路空間の一部を活用することもあるので、モビリティとは対極にある概念と考える人がいるかもしれませんが、私はプレスメイキングとモビリティは関連していると思っています。その場所に行くための足が必要だからです。なかでも重要なのは公共交通です。

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こういう場所では長時間過ごすことが多く、マイカーでは駐車場代が嵩むうえに、駐車場そのものがコミュニティを生み出す場とは言いがたく、プレイスメイキングとは対照的な場と考えるからです。ここで挙げた国内外の事例もすべて、駅や停留場などの近くにありました。プレイスメイキングを考えているクリエイターの人たちはぜひ、モビリティもセットで考えていただきたいと思います。

公共交通の乗り換え地点のことを、交通結節点やトランジットセンターと呼ぶことが多くなってきました。このブログでも米国ポートランドの事例などを報告しましたが、最近は国内でもしばしば目にします。なおこの2つの言葉、交通結節点が文字どおり点というイメージなのに対し、トランジットセンターは機能を含めた面を示していると個人的に思っているので、ここでは後者を使います。

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まずは香川県を走る高松琴平電気鉄道(通称ことでん)琴平線の伏石駅です。2020年11月に開業したばかりの新しい駅で、今年11月にトランジットセンターがオープンしました。駅は高速道路の高松自動車道および国道11号線と交わる場所にあり、路線バスのほか、高松と徳島を結ぶ高速バスも乗り入れています。

これまで高速バスは当駅付近を通過していましたが、高松の中心市街地の渋滞で到着が遅れることがあったそうで、一部が中心市街地から離れた伏石駅に停車するようにしたそうです。同駅からことでんを使うと、県庁や市役所に近い瓦町駅まで7分で到達します。東京でも都心へ向かう高速バスの一部が手前の駅などに停車していますが、地方都市での実施は珍しく、今後の状況に注目したいと思っています。

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ブログで何度か紹介している栃木県の宇都宮ライトレールも、トランジットセンターを5カ所作る予定です。そのうちのひとつ、宇都宮市の清原管理センター前停留場では、隣接する工場から敷地の提供を受け、バスやタクシー乗り場などが整備されていました。写真は今年5月に撮ったものなので、今はさらに工事が進んでいるかもしれません。

ここからは宇都宮市に隣接する真岡市などに向かうバスが発着予定です。現在はJR東日本宇都宮駅と真岡市の間はバスで直結しているので、ライトレール開業後は乗り換えが必要になりますが、間を流れる鬼怒川の橋がしばしば渋滞したりするので、定時性ではこちらが上になりそうです。LRTの恩恵を受けるのは沿線だけではなく、周辺の広い地域に及ぶことが想像できます。

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複数の交通をつなぎ合わせ、便利で快適なものにする概念と言えば、MaaSが思い浮かびます。しかしデジタル技術を使って移動のシームレス化を目指しても、実際の乗り換えに時間が掛かっては効果半減です。ハードとソフトがともに高いレベルにあってこそ、真に使えるモビリティサービスになるはずです。MaaSを導入するのであれば、同時にトランジットセンターなどハードウェアのシームレス化にも目を向けてほしいものです。

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