THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2022年06月

鉄道の終着駅であり、交通結節点の意味も持つターミナル。私も国内外のいろいろなターミナルを使いました。その中から今回は、最近利用して印象に残った大阪市内の2つの駅を取り上げたいと思います。阪急電鉄大阪梅田駅と南海電気鉄道難波駅です。

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ターミナルには、線路が両方向に伸びる通過式と、片方が行き止まりの頭端式があります。日本は欧州に比べて頭端式が少ないと言われていますが、この2駅はどちらも頭端式です。しかも阪急大阪梅田駅は日本最大、南海難波駅は2番目の規模と言われています。大阪市内の大動脈、御堂筋の起点と終点の交差点に面しており、約5kmしか離れていない駅がトップ2。「私鉄王国」という言葉を思い出しました。

2駅を利用して最初に感じたのは、その頭端式ならではの良さでした。まずは人の動線です。2つのターミナルは、駅舎を兼ねたターミナルビルを入ってまっすぐ進み、改札を抜けるとその先に列車が並んでいます。列車に乗る人はほぼまっすぐ進めば良く、ホームを間違えても上り下りは不要。わかりやすく使いやすいと感じました。

さらに頭端駅は、改札とホームの間に空間があります。人の流れをスムーズにするためですが、待ち合わせなどに都合がいいと感じました。改札の外側も、日本の駅としては余裕があります。とりわけ大阪梅田駅は、駅舎からホームまで距離があることをうまく使って、コンコースや広場などを用意していることが印象的でした。難波駅のホームに向かう大階段も、ターミナルらしい眺めです。

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2つのターミナルビルが百貨店を兼ねていることも共通しています。しかもそれぞれが歴史的に特筆すべき存在です。阪急百貨店うめだ本店は沿線住民へのサービスを考えて、阪急電鉄の創始者である小林一三が1929年に考案した世界初のターミナルデパートで、そのビジネススタイルは多くの鉄道会社に影響を与えました。現在の建物が全面開業したのは2012年ですが、クラシカルかつエレガントなデザインは、ブラウン系のカラーともども阪急らしさを感じます。

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一方の南海難波駅には高島屋本店である大阪店が入っています。駅舎は4代目ですが、完成は1932年と、大阪梅田駅誕生のわずか3年後です。しかも東武鉄道浅草駅や近畿日本鉄道(近鉄)宇治山田駅も手がけた建築家・久野節の設計を改良を重ねつつ使い続けており、登録有形文化財に指定されているとのこと。新陳代謝の激しい繁華街にもかかわらず建て直しをせず、この外観を残したことに感心します。

建物の内部も対照的で、大阪梅田駅周辺の商業施設は阪急グループ直営ということもあって整然としており、周辺のビジネス街にも通じる機能的な空気が伝わってきます。難波駅は対照的で、それぞれの店や空間が個性を競うように並んでおり、近くにある道頓堀などと同じように賑やかで活気を感じます。

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梅田も難波も、他に複数の鉄道が乗り入れています。その中では最近リニューアルしたJR西日本(西日本旅客鉄道)大阪駅も存在感はありますが、「キタ」と「ミナミ」を反映しているターミナルはこの2駅になるのではないかと、東京人の自分は感じました。日本の多くのターミナルが再開発によって土地の色を失いつつある今、これからも独自の雰囲気を保ちつつけてほしいものです。

東京スカイツリーの近くに用事があったので、隅田川に架かる歩行者専用橋「すみだリバーウォーク」を使って行きました。2020年開通なので、すでに渡った人もいるかと思いますが、自分にとっては初めての体験であり、いろいろな発見がありました。

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すみだリバーウォークは、浅草と東京スカイツリーという、下町の2つの観光地を結ぶために作られました。2つのエリアは約1km離れています。公共交通では東武鉄道伊勢崎線(東武スカイツリーライン)、都営地下鉄浅草線、都営バスが結んでいますが、1~2駅なので歩いて行きたいという人も出てきそうです。ただし徒歩の場合は駒形橋をはじめ、多くの自動車が走る生活道路を使うことになるので、観光気分は薄れてしまいそうです。

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すみだリバーウォークはこの悩みを解消したような気がしました。東武浅草駅の脇から、線路沿いに歩道橋を設けることで、対岸の墨田区立隅田公園(浅草側にも台東区立隅田公園があります)、北十間川に沿って伸びる遊歩道「東京ミズマチ」を経て、東京スカイツリーまで遊歩道だけで行くことができるのです。 ゆったりした川の流れを眺めながらのウォーキングは、こちらの気持ちまでゆったりさせてくれるものです。しかも歩き疲れたときのためにカフェなども用意されています。

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おまけに橋そのものにエンターテインメントを感じます。線路より歩道が一段下なので電車の姿は臨めないのですが、音や振動は直接橋に伝わってきて、他の橋では味わえない体験でした。とはいえすべての鉄道橋でこれができるとは思えません。ここは西側がすぐ終点の浅草駅であるうえに、駅への進入が急カーブで、橋の上に進行方向を変える分岐器が設置されているので、最高速度が15km/hに制限されているとのことです。だからすぐ脇に歩道を設置できたのでしょう。

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このようにすみだリバーウォークは、特殊な条件があったからこそ実現できた橋とも言えます。ただ仮に鉄道橋の脇ではなかったとしても、浅草寺の門前町として昔から栄えてきた浅草と、10年前に生まれたばかりの東京スカイツリーという、まったく違う背景を持つ土地を結んだことで、これまでとは違う観光地として映るのではないかと思いました。

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このことは観光向けだけでなく、生活向けにも通じると思います。昔から橋は「架け橋」という言葉が象徴しているように、文化交流という役目も果たしてきました。とりわけ自動車や自転車が通らない歩行者のための橋は、対岸をつなぐという目的が明確になります。だからこそ歩行者専用橋によって、新たな都市の活力や発展が生まれる可能性があると感じたのでした。

今週水曜日、JAFの略称でおなじみの日本自動車連盟とヤマハ発動機が、低速モビリティの提供とサービスを通じて「地域社会にマッチした移動を実現することで人々の豊かな生活に貢献する」ことを目的に、協業契約を締結したというニュースがありました。

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ヤマハ発動機のニュースリリースはこちら

ヤマハ発動機の低速モビリティの開発・販売ノウハウと、JAFが全国に展開するロードサービス網や自治体連携を活かすことで、移動困難地域などで低速モビリティの導入やアフターサービスを行い、持続可能なモビリティサービスの提供を目指すとのことです。具体的には、導入地域の選定や導入検討に付随する業務および導入後のアフターサービスや安全運転講習業務などをJAF、車両提供・車両へのシステム搭載などをヤマハ発動機が行うという分担になるようです。

ヤマハ発動機が電動ゴルフカートをベースにした低速モビリティを開発し、グリーンスローモビリティとして全国各地で展開していることは、このブログで何度も紹介してきました。一方のJAFが、ロードサービスをはじめ安全運転講習、モータースポーツ運営など、自動車に関係するさまざまな業務を行う団体であることは、多くのドライバーが知っていることでしょう。

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しかしながらこれまでのJAFの活動は、ドライバーのために向けられたものがほとんどでした。その点今回の協業契約締結は、公共交通に近い乗り物が対象であり、1963年に誕生したJAFの活動のなかでも、特筆すべきものであると感じていますが、近年のこの組織の活動状況を見ると、変化の兆しも感じられます。



今年4月に制定した第11次3カ年計画では、「対話と共創により常に変化し続け、モビリティユーザーの生活を彩るJAFとなる」をテーマに掲げ、地域の活性化と環境にやさしい健全なモビリティサービスの実現を目指すなど、モビリティという言葉を多用しています。 また私も記事を書かせていただいた、グループ会社JAFメディアワークスが展開するニュースサイト「くるくら」では、鉄道や自転車などの話題も取り上げており、ここでもモビリティ全体を見る姿勢を感じます。 

警察庁の統計によると、日本の運転免許保有者数は人口が減少に転じたあとも増え続けてきましたが、2019年から一転して減りはじめています。同じ年に東京都豊島区東池袋で起きた高齢ドライバーの暴走事故が影響しているのでしょう。全国的に話題になったこの事故によって、運転免許の返納者が増加したことは以前から聞いていましたが、それが数字でも裏づけされていることになります。

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これまでは運転免許取得前と所持中という2つのライフステージで、自動車との関わりを考える人が多かったと思いますが、近年は免許返納後という、もうひとつのライフステージを考える人がいるようです。JAFとヤマハ発動機の協業は、こうした社会変化も見据えているのかもしれませんが、ドライバーのための組織という印象が強かったJAFが、ドライバー以外の移動にも目を向けつつあるのは新鮮であり、共感しているところです。

昨年に続いて福井市を訪れました。今回はこの地域を走る京福バスが目的で、現地の金融機関の担当者や公共交通を支援するNPOの方々と意見交換をする機会に恵まれました。

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福井市は鉄道については、JR西日本の北陸本線及び越美北線以外に、地元資本の福井鉄道とえちぜん鉄道が走っています。前者は鯖江市を通って越前市まで伸び、後者は海沿いのあわら市と山沿いの勝山市を結んでいます。一方路線バスは、福井鉄道のバスとともに、京福バスが市内各地を走り回っています。今回の主役はこの京福バスです。 

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えちぜん鉄道は昔は京福電気鉄道という組織で、京都市内で現在も電車を走らせる通称「嵐電」と同じ会社であり、京福バスもこのグループに入っていました。しかし少し前のブログで紹介したように、京福電鉄は衝突事故が相次いだことから運行休止となり、廃止への道を歩みはじめたものの、周辺の道路が大渋滞を引き起こしたことから第3セクターのえちぜん鉄道として復活しました。京福バスはこの直前に独立した組織です。

その後えちぜん鉄道の利用者は、福井鉄道との相互乗り入れが始まったこともあって順調に増加していきました。一方の京福バスは減少が続いていますが、近年はその度合いが小さくなっています。その理由が、さまざまな分野で改革を行っているためであることが、現地の方々の説明で理解できました。

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まず紹介するのが、NPO法人「ふくい路面電車とまちづくりの会(ROBA)」が2003年から発行を続ける「ふくいのりのりマップです。福井市周辺のバスと電車の路線図や乗り方などをまとめたもので、近年は福井市版と全県版に分かれており、福井駅前のバス乗り場、主な施設へのバスでの行き方なども紹介されています。驚くべきはこのマップが、福井駅前のバス乗り場にも掲示されていることです。事業者とNPOが好ましい協力関係にあることがわかります。

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京福バスも工夫を重ねています。たとえば病院やショッピングセンターをターミナルとしています。今回訪れた病院では、入口の待合室をバス用に使うことが可能になったことで、時刻表のみならず、バスロケのモニターまで設置しています。暑さ寒さにかかわらずこの場所でモニターを見ながらバスを待つことができるので快適です。

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京福バスも他の多くのバス事業者同様、運転手不足に悩まされているそうです。またかつて同じ会社だったえちぜん鉄道との比較では、相手は第三セクターゆえ自治体と共同での改革が進んでいることが目立つそうです。ただ私が現地で見た限りでは、地方の路線バスとしては意欲的な取り組みをしていると感じました。2024年春に北陸新幹線福井駅に乗り入れた際には、この地域が脚光を浴びることになると思うので、そこへの準備が滞りなく進められることを願っています。

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