THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2022年07月

今週月曜日に国土交通省から発表された、「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」が話題になっています。「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」がまとめたもので、このブログでも取り上げたJR西日本(西日本旅客鉄道)のローカル線に関する課題認識と情報開示、滋賀県の交通税提案などの問題提起に対する、国としての指針を示したものと理解しています。

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しかしこれを報じたメディアには愕然としました。多くが1キロあたりの1日平均利用者数(輸送密度)が1000人未満という数字を大きく取り上げ、これが存続か廃止かの目安であると伝えていたからです。70ページにわたる提言の中でこのフレーズが出てくるのは一度だけです。ごく一部だけを切り取ってショッキングに伝える、最近の日本で目立つ悪しき傾向が、ここでも出てしまった感があります。

時間があれば提言全部を読んでいただきたいですが、ローカル鉄道については既存の地域公共交通活性化再生法に加え、新たに国の主体的な関与で沿線自治体や鉄道事業者などからなる協議会の設置が適当としており、1日1000人は具体的な要件のひとつとして出されたものです。しかもそこには隣接する駅間において、1時間あたりの一方向の最大旅客輸送人員500人というもうひとつの目安も書いています。

1日平均1000人しか利用しない路線で、限られた時間とはいえ1時間に500人も乗るはずないと思う人もいるでしょう。しかし地域鉄道の中には、日中は空いているものの、朝のラッシュ時には一転して大混雑する路線もあります。先週のブログで触れた地方の道路事情と似たような感じです。

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象徴的な存在が福岡県福岡市と新宮町を走る西鉄(西日本鉄道)貝塚線です。西鉄の2021年末のデータによると、輸送密度は1727人ですが、提言の直前に国土交通省から発表された都市鉄道の混雑率調査結果では、最混雑区間の1時間の利用者は2076人、混雑率は140%で、東京都の日暮里舎人ライナーに続いて全国第2位になっています。輸送密度だけですべてを判断すべきではないことがわかります。

これだけの人を路線バスで運ぼうとしてすると、バスは定員オーバーは違反になるので、15台ぐらい必要になります。車両や運転士の確保だけでも大変です。しかも当然ながらその時間の道路は渋滞が予想されるので、定時性でも劣ります。ラッシュ時の利用者は通勤通学という、生活に必須の移動をしているわけであり、公共交通である以上、こういう人たちを軽視してはいけないと考えています。

ではどうすれば底上げを図れるでしょうか。少し前のブログで触れた近江鉄道では、沿線の工場の近くに駅を新設することで、利用者減少に歯止めをかけました。貝塚線の場合は、沿線に病院や図書館など公共性の高い施設を誘致したり、観光地へのアクセスを改善するなどして、通勤通学以外の利用者を増やすことがポイントになりそうです。

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そうなると現状の2両編成では乗客をさばけなくなりそうですが、貝塚線は他の西鉄の鉄道路線とは軌間(レールの間の幅)が異なるので、車両の増備に手間がかかりそうです。それよりも以前から懸案に上がっている、起点の貝塚駅で同じフロアで乗り換えできる福岡市営地下鉄箱崎線(6両編成)との直通運転を考えたほうが、利便性向上による利用者増加も見込めるのではないかと思っています。

どちらの路線も複数の自治体をまたぐので、提言にあるように、国が主体的な関与をすることで、協議会の中で自治体や事業者との調整を図っていくことを望みます。そしてこれも提言にあるとおり、数字だけを頼りに存続か廃止かという二元論で進めるのではなく、あくまで利用者の立場に立って、その地域の将来を見据えた協議を進めていってほしいと願っているところです。

先月16日に発売された、日産自動車と三菱自動車工業の共同開発生産による軽自動車規格の電気自動車(軽EV)、日産「サクラ」と三菱「eKクロスEV」が、ともに人気を集めているようです。それとともに、日本人のEVに対する考えが、少しずつ変わってきていると感じています。

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理由のひとつとして、2車種が軽自動車であることが大きいと考えています。軽自動車は近場の手軽な移動手段として生まれたカテゴリーで、実際に低速近距離移動が多くなっています。それは低回転でもっとも効率が高いというモーターの特性に合致するものであり、逆にEVの短所である航続距離の短さは目立たなくなります。そしてもうひとつのデメリットである充電時間の長さも、さほど影響はないと考えます。

全国軽自動車協会連合会の今年3月末の統計によると、自動車の保有台数に占める軽自動車の比率が高いのは高知・長崎・和歌山県などで、最下位は東京都となっています。一戸建てで暮らす人が多く、自宅で充電ができるうえに、他に自動車を持っており、長距離移動ではもう1台を使うというライフスタイルが思い浮かびます。逆にガソリンスタンドは廃業が目立っており、給油のために10kmぐらい走らなければならない場所もあります。それならEVのほうがいいと判断するのは自然でしょう。

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少し前、電力不足が問題になったとき、電力消費のピーク時の急速充電を問題視する意見がありましたが、地方では多くの人がその時間、仕事や家の用事に忙殺されているはずで、外出する余裕などないと感じています。現に地方の道路は、朝夕は通勤で渋滞することもありますが、日中は閑散としている場所が多いという印象です。しかも世界各地の統計で、マイカーは90%以上の時間は車庫で休んでいるという数字が出ています。社会の実情を見たうえでの意見を出していただきたいものです。

しかも実際に日産サクラと三菱eKクロスEVに乗ると、走りの面でもEVのメリットを痛感します。軽自動車は車両重量に対して排気量が小さいので、加速時にはエンジン音が耳につき、レスポンスも遅れ気味です。その点EVはリニアに加速し、静かです。高級車はエンジン車でも静かで力もあるので、EVのメリットを感じにくいこともありますが、軽自動車ではその差は歴然としているのです。

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ここまで乗用車について書いてきましたが、軽EVは商用車でもメリットがあります。静かで滑らかで反応が良いという長所は、労働者の疲労軽減につながるからです。もちろん住宅地の騒音防止にも貢献します。稼働時間が決まっていることを含めて、乗用車以上にEVに向いているカテゴリーだと感じます。ゆえに最近、先行する三菱自動車以外の複数のメーカーが参入を発表しているのでしょう。

自分自身は、すべての自動車をEVにすべきとは思いませんが、EVに向いているカテゴリーは確実にあると考えています。低速短距離移動がメインとなる軽自動車は、超小型モビリティやパーソナルモビリティともども、電動化との相性が良いと以前から感じていましたが、今回の試乗で、その気持ちがさらに強くなりました。

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個人的には現在の軽自動車の規格に満足しているわけではありません、以前も書いたことですが、高速道路を使わないカテゴリーを新たに作り(現在の超小型モビリティのルールを当てはめてもいいかもしれません)、動力性能や安全性能をそれに見合ったレベルとすることで、コストダウンを図ることができれば、シティコミューターとしての存在価値がより高まるのではないかと考えています。

「e(ええ)やんOSAKA」というプロジェクトをご存知でしょうか。大阪府、大阪大学、日本自動車工業会が共同で進めたもので、2025年までに日本国内の原付一種(50cc以下)の市場を中心に二輪EV(電気自動車)の普及を進め、バッテリーを含めた二輪EVの標準化をリードし、アジア諸国の法整備を支援する目的で進められました。

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2020年10月から大阪府で始まった実証実験は18か月にわたり続き、今年3月で終了となりました。今月4日、その成果を発表しつつ今後の展開を説明する「eやんOSAKA成果と大阪での電動二輪車とバッテリーサービス展開」がオンラインで開催されたので、その内容を紹介したいと思います。

日本では1990年代から二輪EVの試作車が作られ、2002年のヤマハ発動機「パッソル」を皮切りに、市販車も何台か送り出されてきました。しかしガソリンエンジンで走るバイクと比べると航続距離、充電時間、販売価格、使い勝手の面でユーザからの不満が聞かれたとのことです。

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そこで航続距離と充電時間の課題を解決するために考え出されたのがバッテリー交換式です。すでに台湾「GOGORO」などが実用化していますが、日本では利便性の検証、二輪EVの認知と訴求、課題の洗い出しをするために、大学やコンビニエンスストアにバッテリー交換ステーションを設置し、学生に乗ってもらうという実証実験を大阪府でスタートしました。

参加者数は130人で、車両とバッテリーの利用料は合わせて月1000円でした。バッテリー交換ステーションはコンビニ10か所、大学2か所に用意したそうです。参加者の半分以上はそれまで二輪車に乗ったことがなかったそうで、環境にやさしい、新しいものに触れたいなどの理由で参加した人が多かったようです。

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eやんOSAKAを紹介する日本自動車工業会のブログはこちら

1日の平均走行距離は3~10km 程度で、これはガソリンエンジンの原付と同等とのこと。高望みする人もいると思いますが、現実はこのレベルなのです。メリットとしては音が静かなので夜間帰宅に躊躇しなかった、デメリットでは気温によって走行距離が変わるので焦ったなどの意見がありました。EVに精通しているわけではない一般学生の声だからこそ参考になります。

実証実験で終わりにならず、本格サービスに移行したことも評価できます。今年4月、エネルギー企業エネオスと国内二輪メーカー4社の出資で、バッテリーシェアサービスの会社「Gachaco(ガチャコ)を設立。今年秋から大阪に加えて東京でもサービスを開始すると発表したからです。スマートフォンのアプリでアクセスし、リースやシェアリングの車両も対象とするそうです。

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すでにコマツの建設機械への採用が決まっているバッテリーは、、災害用電源などにも活用するとのこと。移動距離が短いことを逆に生かし、バッテリーを交換式として汎用性まで見据えた発想は、航続距離の要求に応えてバッテリーの大容量化を推し進める傾向にある四輪EVとは対照的です。アウトドアなどのレジャーシーンでも活躍してくれそうで、今後の進展に期待しています。

明日7月10日は参議院議員選挙の投票日ですが、滋賀県では同じ日に県知事選挙の投票も行われます。この県知事選の争点のひとつに、再選を目指す現知事が提案した「交通税」があります。本件について書いた記事がウェブメディア「ビジネス+ IT」で公開されたこともありますので、投票日直前ではありますがこのテーマを取り上げます。

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滋賀県が交通税を提案したのは、県内を走る近江鉄道の鉄道部門が理由だと言われています。近江鉄道は2018年に単独での運行維持が難しいと表明。これを受けて滋賀県では協議会を設立し、2024年度に上下分離を行うことで存続という結論を出しました。ところが新型コロナウイルス感染症によって事態がさらに悪化。上下分離だけでは不十分ということで、交通税に至ったようです。

交通税は滋賀県が勝手に考え出した概念ではなく、海外に先例があります。有名なのはフランスで、1970年代から存在しています。これ以外の欧米諸国も税金や補助金主体の運営を行っており、ドイツやアメリカではガソリンなどに掛かる税金を原資としていることも紹介しました。日本では考えられないかもしれませんが、自動車運転者が公共交通を支えているのです。

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今回の県知事選で注目したのは現職候補が、新しい税を作るという、多くの有権者にとってネガティブであり、故に多くの政治家が避けてきた話題を、あえて出してきたことです。当然ながら対立候補は導入反対を謳っています。県民の中にも反対する人は多いでしょう。それでも交通税を出してきたのは、公共交通が危機的状況にあるからだとと思っています。

滋賀県独自での導入も考えているでしょうが、本音は国全体で地域交通の危機を打開する議論に発展させていきたいのではないでしょうか。つまり今年4月、JR西日本がローカル線の情報開示を行ったのと、同じ気持ちではないかと思っています。



では同じ滋賀県で参院選を戦う候補者はどう考えているのか。京都新聞が滋賀県選挙区の5候補に、交通税の是非、交通渋滞の現状の2点について質問した記事がありました(インターネット記事は登録すれば無料で読むことができます)。それによると交通税については、ひとりが議論と理解が必要と答えた以外はすべて反対でした。一方交通渋滞対策は全員が進んでいないと回答しています。

交通税の制度を誤解している候補者、県内に住んでいないので渋滞はわからないという回答もありました。国の財源確保が重要と、他人事のような意見も見られました。交通税を導入するかはさておき、税金や補助金で公共交通を支える仕組みを作ることで質を上げれば、渋滞緩和の可能性もあるのに、立法府を目指す身でありながら具体的な提案はなく、反対するだけという候補が大多数であることに唖然としました。

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京都新聞のオフィシャルサイトはこちら

100人いれば100通りの考えがあります。約140万人が暮らす滋賀県で、全員が満足する政策を作ることなど困難です。フランスをはじめとする欧米の公共交通改革は、一部の人たちに負担を受け入れてもらうことで、全体として好ましい姿を生み出すことができました。耳障りの良い言葉に惑わされることなく、本当に政策を作り、社会を良くする力があるのか、そこまで見極めて投票すべきなのだと思い知らされました。

平年よりはるかに早く梅雨が明け、暑い夏がやってきました。全国各地で最高気温が35度越えの猛暑日という状況であり、くれぐれも熱中症には気をつけていただきたいと思います。そんな中でも新型コロナウイルス感染症の対策は引き続き必要だと思ってはいますが、私は少し前から、外出中でも場所を選んでマスクを外すようにしています。

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移動中では、公共交通の車両や施設はマスク着用ですが、人通りの少ない歩道や広場、自転車での移動中は外すようになりました。二輪車は、フルフェイスのヘルメットを装着する際は、それ自体がフェイスガードになると思っているうえに、被るときにずれてしまうので外しており、今はジェットタイプのヘルメットの場合でもマスクなしとしています。

一部の人はこういう行動を不快に思うかもしれません。その証拠に今週見たニュースの中には、宅配ドライバーがマスクをしないで運転や荷役をしていると匿名の通報があるので、ひとりで業務しているときもマスクを外せないというものがありました。私もそのような場面を見たことがありますが、重労働と呼んでいい作業をしているわけで、本当に気の毒です。

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国内外の調査結果では、同じコロナでもオミクロン株以降は重症化しにくくなっているという数字が出ており、欧米ではその結果をもとにマスクなどの規制を緩和しているとのことです。一方でゼロコロナこそ最善と信じ、その方針を貫いた中国では、生活や経済に多大な影響を与え、ゼロになる前にロックダウンを解除するという結果になっています。どちらが良いか改めて記すまでもないでしょう。

新規感染者が再び増大に転じている今こそ、日本も欧米のように、事実に基づいた明確な指針を出してほしいところですが、すべてを政治に頼るのは民主主義ではないような気もしています。もちろん感染者数だけを取り上げて危機感を煽るマスコミの主張が正しいとも思えません。では誰がこの状況を変えるのか。個々の国民が大事なのではないかと考えています。

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感染拡大が始まってから2年以上が経って、どのような状況で気をつけたらいいか、学習した人も多いのではないかと思います。自分自身もそうで、もちろん感染防止はしたいので会食への参加を控えたりはしていますが、一方で人がいない場所でのマスクが必要とは思わなくなってきました。そしてもうひとつの理由があります。

みなさんは四六時中マスクをつけた生活を、このまま続けたいと思うでしょうか。そういう人は少数であるはずです。であれば、よりよい社会にしていくために、政治やマスコミに頼ったりせず、一人ひとりが世の中を動かしていくことが大切ではないか。その結果として、マスクの着脱シーンを考えるようになったのです。

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それは初めて自転車に乗ることができたときの頃に、似ている気がします。最初は親に支えられて、補助輪をつけたりして、それでも不安だったのが、走りたいという気持ちが上回り、なんとか自立し、自在に操れるようになっていくというあのプロセスです。もちろん乗りこなせるようになってからも、常に危険と隣り合わせではありますが、それを頭に入れつつ移動を楽しむことになります。

私たちとコロナとの付き合いも、そんなフェーズに差し掛かっているように思います。

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