THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2022年08月

新型コロナウイルス感染症の流行と、その影響で普及したテレワークやオンライン授業など新しい生活様式の中で、公共交通が大きな打撃を受けていることは、このブログでも何度か触れてきました。しかし交通事業者の側も、こうした社会変化に対応して、さまざまな対策を講じています。今回はその中から自分も利用したことがある、2つのサービスを取り上げます。

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ひとつは駅や空港に設置が広まっている個室ブースです。かつて日本中各所で目にした公衆電話ボックスぐらいの大きさのブースが設置されており、中で仕事ができるというものです。中には机と椅子、デュスプレイ、電源コンセントなどが備わっており、パスワード付きのWi-Fiも用意されています。これなら出先でオンライン会議に出ることも可能で、私も実際にそういう用途で利用しました。

カフェなどでも無料Wi-Fiサービスは用意しているので、メールチェックや資料作成などはできますが、オンライン会議は無理でしょう。しかも公衆無料Wi-Fiは、モビリティに当てはめれば道路同様、容量が限られているので、多くの人が接続すると渋滞のような状況になります。その点個室ブースは専用Wi-Fiなので、スムーズに仕事をこなすことができます。

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自動車を駐車場に止めて同様の作業をする人もいるようです。しかし駐車場は自動車を止めておく場所であり、エンジンをかけっぱなしにしての作業は周囲の人々の迷惑になります。また多くの場所はWi-Fiが用意されていないばかりか、地下駐車場では携帯電話の電波さえ届かないところもあります。そもそも駐車場は車両だけを置く場所なのですから当然でしょう。

もうひとつは新幹線などに用意されているオフィス車両です。こちらは編成のうちの1両を充てたもので、中で電話やオンライン会議などをしてもいいという環境になっています。バスや航空機のように、すべての客室がつながっている乗り物では難しい対策であり、鉄道以外では船舶ぐらいしかできないサービスではないかと思っています。

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似たようなサービスとして、東海道新幹線では大型連休や夏休み期間限定で、子供連れ専用車両が用意されました。こちらは赤ちゃんの泣き声などが周囲に迷惑と考える家族連れに向けたものです。オフィス車両とは必要となる日が正反対に近いので、同じ車両を使い分けることもできそうです。

個人的にはほとんどすべての人が、赤ちゃんのときには泣いていたはずなので、特別扱いはしなくてもいいと考えています。しかしながら日本は少し前まで、ベビーカーを畳まずに乗せることにも批判があった多様化後進国なので、即座に欧米レベルに持っていこうとするとかえって混乱を招くはずであり、まずはこうした特別車両を作って理解を深めていくというプロセスが必要だと思っています。

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それとともに以前も提案した、新幹線などに個室を用意してほしいという気持ちが、こうした事例を見てさらに強くなりつつあります。自分だけの空間を持つことはコロナ禍で重視されている点であり、基本は乗合交通でありながら状況に応じて個室を選択できるようになれば、公共交通のイメージを向上させることにつながるのではないでしょうか。

鉄道の終着駅と比べると、バスの終点は停留所と折返場があるぐらいで、寂しい場所が多いと感じていましたが、最近は新たな取り組みも出てきています。そのひとつが東京都武蔵野市にある小田急バス桜堤折返場を開発し、2021年10月にオープンした複合施設「hocco(ホッコ)」です。先日近所に行く用事があったので、訪れてみました。

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折返場の奥にあるのは、店舗兼住居5戸と住居8戸からなる賃貸住宅で、各戸とも土間スペースを用意しているのが特徴とのこと。店舗兼住居ではカフェや雑貨販売などを営み、住居ではアトリエやガレージのような空間が持てる間取りです。すでに飲食店や書店などが営業しており、まちとして動き始めていることが確認できました。

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駐車場がないことも特徴です。その代わり入居者は小田急バス全線が利用できるほか、施設内には以前このブログでも紹介したホンダモビリティソリューションズのカーシェア、およびハローサイクリングのサイクルシェアがあり、前者は平日限定で利用料金を500円割引。後者は毎月3000円分の利用が可能とのことです。

バス停がすぐ近くにあり、全便始発で、平日日中でも1時間に4本出ており、最寄の武蔵境駅までは約12分なので、マイカーがなくてもさほど不便ではないでしょう。テレワークが普及した現在はなおさら、そう考える人が多いのではないかと思います。

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居住者以外でのサービスもあります。hoccoの店舗を訪れた人に対し、小田急電鉄のMaaSアプリ「EMot」をダウンロードすることで、武蔵境駅までのバスを利用できるチケットを発行するサービスです。近隣の住民も、バスに乗るためにhoccoの近くに足を運ぶわけで、駅前商店街のような機能を果たすことが期待されます。

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モビリティ以外で感心したのは、すべての住宅が共用スペースを囲むように建っていることです。この共用スベースでは、すでにイベントが行われたようですが、イベント以外でも住民同士、周辺地域とのつながりが育まれ、そこから新しい楽しみや豊かな暮らしが生まれるのではないかと期待しています。「暮らしの町あい所」と名付けたこの場、他の折返場でも参考にしてみてはどうかと思いました。

今週は東北地方や北陸地方などで激しい雨が降り、各地で交通被害が出ました。なかでも福井県敦賀市と越前市の間では、これを書いている時点でJR西日本北陸本線、国道8号線、北陸自動車道のすべてが寸断されています。東北地方でも鉄道や道路が各所で影響を受けています。被害に遭われた方々に、この場をお借りしてお見舞いを申し上げます。

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その中で個人的に衝撃的だったのは、東北地方でJR東日本の米坂線と磐越西線の橋梁が、相次いで流されてしまったことです。冠水や土砂流入であればメドがある程度見えますが、橋梁の復活には長い時間を要します。以前ブログで取り上げた長野県の上田電鉄別所線の千曲川橋梁は、2019年10月の台風19号で流されてから、復旧まで約1年半を要しています。

鉄道は自動車に比べて車両がはるかに重いので、橋梁は頑丈に作られているはずなのに、なぜ最近相次いで流されるのでしょうか。頑丈ゆえに長い間使われていることが、目に見えない経年変化を生じさせているのかもしれませんが、それとともに技術が今ほど発達していなかったことも大きいのではないかと考えています。

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鉄道にせよ道路にせよ、新しいルートになればなるほど、長いトンネルや高い橋などを使い、山や川を避けたルートを設定できるからです。直線に近いラインで結べるのでスピードも出せます。私が乗った路線では秋田内陸縦貫鉄道がそうで、第三セクター移管後に開業した比立内〜松葉間は、全長5000mを超える長大トンネルのおかげもあり、つづら折れが続く国道よりはるかに早く移動できます。

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つまり鉄道も道路と同じように、最新技術を使って路線をアップデートしていくべきでしょう。それが前回取り上げた、今後のローカル鉄道を考えるうえで重要と考えます。もちろん相応の予算が必要です。国土交通省の鉄道関連予算が道路のそれに比べてあまりに少ないことは以前書いたとおりなので、予算を大幅に増やしたうえで、線路の維持管理は国や自治体が賄い、運行のみ民間企業に委ねる、いわゆる上下分離方式が望ましいのではないでしょうか。

個人的には、先週取り上げた国土交通省のローカル鉄道のあり方に関する提言が、後ろ向きの内容であることに不満を抱いています。鉄道は環境に優しく、大量輸送が可能で、定時性に長けているなど、今日の目で見ても魅力的なポイントを多く持っており、これらの点をもっと国民にアピールしたうえで、今後の方向性を示していくべきだと思うのです。

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1日に数人しか利用しない路線を鉄道のまま残すべきだとは思いませんが、前回のブログで触れたような通勤通学客が多数いる路線まで、黒字赤字という尺度だけで判断することには疑問を持ちます。物流を含めて考えれば、私たち人間同様、自分たちを支える骨格は維持すべきではないでしょうか。そのために必要なのはやはり、国の明確なバックアップだと思うのです。

*来週は夏休みをいただきます。次回の更新は8月20日の予定です。

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