THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2022年11月

都市に住む人にとって欠かせない憩いの場である公園。しかしながら心地よい空間を作り、保っていくためには、想像を超えた労力や工夫が必要です。とはいえ日本にも、運営面で評価されている公園はいくつかあります。その中から今回は、Park-PFI制度を使って魅力的な空間に生まれ変わった、大阪府堺市の大蓮公園に行ったので、この場で報告させていただきます。

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Park-PFIとはパーク・プライベート・ファイナンス・イニシアチブの略で、2017年の都市公園法改正により新たに設けられた、公募設置管理制度のことです。園内に飲食店や売店などの施設を設置し、こうした施設から得られる利益を使って周辺の広場や遊歩道の整備を一体に行う事業者を、公募により選ぶというものです。

東京都の新宿中央公園、福岡県の大濠公園など、全国各地に実例がありますが、大蓮公園はその中でも専門家の評価が高く、今年度のグッドデザイン賞で金賞にも輝いています。私も審査委員のひとりとして説明を聞いているうちに、実際に見に行きたくなり、京都で用事があったので足を伸ばしたというわけです。

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大蓮公園は堺市と和泉市に広がる泉北ニュータウンの中にある公園で、ニュータウンを貫く泉北高速鉄道の泉ヶ丘駅から徒歩10分のところにあります。公園自体は1982年に開園しており、名前の由来である大蓮池が面積の3分の1を占めています。敷地の中ほどには、建築家の槙文彦氏が設計した資料館がありましたが、2016年に閉館しており、取り壊すかどうかという議論が進んでいたようです。

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そこで堺市はPark-PFIの導入を決断。選ばれたのは、泉北高速鉄道などが属する南海グループでした。資料館は同じ大阪府のアウトドアブランド「DOD」とのコラボで、カフェやBBQサイト、テレワークスペース、図書館などが入るスペースに作り替え、隣接する芝生広場はキャンプ場として運営。旧資料館の向かいには、ものづくり拠点スペースとリフォーム相談所が入る建物が用意され、芝生広場の脇にはライフイズパークと名付けたマルシェを用意しました。

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訪問したのは週末の天気の良い日だったこともあり、芝生広場にはテントが並んでいました。周囲に集合住宅が並ぶ都市公園とは思えない光景です。旧資料館もカフェや図書館などに人が入っていました。一方、大蓮池に向かって斜面となる敷地は従来どおりの公園で、さまざまな人が思い思いの時間を過ごしていました。2つの空間が違和感なく融合しているところも感心しました。

Park-PFIの実例の中には、商業主義的な匂いを感じる公園もあります。しかし大蓮公園に、そういった雰囲気はまったくなく、世代を超えて理屈抜きで楽しめる空間に仕上がっていて、羨ましいとさえ思いました。それをまちづくりの老舗でもある鉄道事業者のグループが手がけたというストーリーも新鮮でした。

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日本のニュータウンは多くが高度成長成長時代に作られたが故に、昨今は高齢化が進み、オールドニュータウンと揶揄されることもあります。しかし大蓮公園のような場があれば、若い人も住もうと思い、世代間でのつながりも育まれるのではないでしょうか。このプロジェクトが日本の他の公園、そしてまちづくりに良い影響をもたらしていくことを望みます。

JR東日本(東日本旅客鉄道)が、QRコードを使った乗車券の導入を発表しました。紙の切符の代わりとして、ICカード乗車券が導入されていない地域を中心に導入していくそうです。一方で高速バスや西日本の鉄道を中心に広まりつつあるのが、Visaカードを使ったタッチ決済です。私も関西や九州などで使ったことがあるので、運営事業者などに話を聞きました。

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その内容はインターネットメディア「ビジネス+IT」で書かせていただいており、ご興味のある方はお読みいただければと思います。そこにも書きましたが、Visaカードのタッチ決済の交通分野への導入は、海外では以前からあったことで、日本導入の理由としてはインバウンド需要への対応が大きく、交通系ICカードとの対抗は考えておらず、それぞれの得意分野を生かしつつ共存していきたいとのことでした。

そこまでいろいろな種類の決済方法があると紛らわしいと思う人もいるでしょう。でも私たちが買い物をするコンビニエンスストアやスーパーマーケットでも決済方法はいろいろあり、各自が好みのデバイスを選んでいます。そのほうが多くの人を快適にできるからであり、こういう話題は社会はどうかという視点で見ることが大切です。



それに多彩な決済方法が選べるのは大都市圏などに限った話であり、国内でも交通系ICカードが導入されていない地域は数多くあります。理由のひとつにコストがあると言われています。多数の利用者がおり運賃収入が多い大都市の交通事業者なら導入や維持ができても、地方ではオーバースペック・オーバーコストになるようです。

現にJR東日本がICカードで統一を図ろうとせず、QRコードの導入を発表し、まず東北地方から展開しようとしているのは、コストも理由にあると思っています。とはいえ地方はおしなべて高齢化率が高く、スマートフォンを持たない人も多いので、キャッシュレスアプリやQRコードを使えない人も出るのではないかと心配しています。

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もちろんクレジットカードを持つことができない、持ちたくないという人もいます。しかしそういう人でも多くは銀行口座を持っているはずで、記事にあるようにデビットカードを持つことで同等の決済ができます。しかもタッチ決済の端末は、交通系ICカードより大幅に安価です。能登半島の先端にある石川県珠洲市が、人口あたりの決済数日本一を記録したことからも、地方にフィットする手段と感じています。

さらにグローバル視点で見ると、クレジットカードは世界共通という利点があります。この点では両替が必要な現金以上に便利です。外国人観光客にとっては、もっともストレスフリーに使える決済手段であり、より多くの観光地に足を延ばしてもらえるきっかけにもなると思います。

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とはいえすべてをクレジットカードに統一すべきとは私も思いません。移動手段と同じように、決済手段も使い分けていいと考えます。大都市は交通系ICカード、新幹線などはQRコード、観光地はクレジットカードというのが望ましいのではないでしょうか。ちなみに認識速度は、交通系ICカードよりやや遅い程度で、QRコードよりはるかにスピーディであり、この点も交通向きです。

4年ぶりに海外に出ています。まず向かったのは、これまで何度も訪ねてきたフランスの首都パリです。もちろん新型コロナウイルスの感染が拡大して以降では初めてになります。このブログではコロナ禍が始まった頃、パリでは自転車走行空間の拡大に乗り出していることを書きました。今回の渡航はそれを確かめる目的もありましたが、結果から先に言えば予想以上でした。

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最初の写真はルーヴル美術館の脇を走るリヴォリ通りです。ここは以前は一方通行の車線が3車線分ぐらいあったと記憶していますが、コロナ禍を受けて自動車レーンを1車線だけ残し、残りをすべて双方向に通行可能な自転車レーンに変えてしまいました。これなら自転車はもちろん、4年前には見ることさえなかった電動キックボードも安心して走れます。これまで自動車で何度も走ったことがある場所だけに、大胆な変身に驚きました。

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次はバスティーユ広場です。ここはナポレオンによるフランス革命以降、何度か革命の地になった場所で、広場の中央に7月革命記念柱がそびえ、道路はその周辺を巡るラウンドアバウト(環状交差点)となっていました。ところがひさしぶりに訪れると、ラウンドアバウトの南側が人のための広場に姿を変え、交差点は信号制御に変わり、広場を取り巻くように自転車レーンが用意されていました。人と自転車を優先した空間づくりというメッセージが伝わってきました。

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これ以外にもシャンゼリゼ通りをはじめ、多くの道に自転車レーンが整備されていました。そして自転車の数も、4年前より明らかに増えていました。ここまで急ピッチで自転車の走行空間が増え、逆に自動車のそれが減ったことで、自転車で移動しようと考える人が増えたのでしょう。そしてリヴォリ通りの広いレーンは、パリが自転車推進都市であることを世界にアピールする象徴になっていると感じました。

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パリの中心部は建物が密集していて、新たに道路を作るのは困難です。そこで道路や広場の再配分を選んだのでしょうが、注目したいのは手法が大胆なことです。自動車利用者からの不満はあるでしょう。日本の多くの都市はその点に配慮しそうです。でも移動そのものを否定しているわけではなく、時代に合った移動環境を提供しているのです。そこには「未来のパリをこうしたい」という行政の明確なビジョンを感じます。パリがいつ訪れても新鮮に感じる理由のひとつは、ここにあると思いました。

今から65年前の1957年に創設された、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組み、グッドデザイン賞は、今週火曜日に2022年度のグッドデザイン大賞が決まり、すべての結果が決まりました。私は今年度も審査委員を務めさせていただきましたが、初めてこの任についた2013年の頃と比べて、デザインの分野も年々変わっていることをあらためて実感しました。

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モビリティを対象とするユニット12からは、本田技研工業(ホンダ)のハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE」がグッドデザイン金賞に輝きました。スイッチひとつで健常者に近い目線まで上昇するうえに、手を使わずに前後左右の移動が可能で、社会参加を促すツールである点が高く評価されましたが、それが自動車や二輪車のメーカーとして知られるホンダから出たことにも感心しました。



さらにこれは他のユニットへの応募でしたが、以前このブログでも紹介した、ホンダの新事業創出プログラムから生まれたベンチャー企業が開発した歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」も金賞を獲得しています。製品が生まれた場は異なりますが、ホンダの創業者本田宗一郎の「人の役にたちたい、喜ばせたい」という想いを形にした点では共通しているとも思いました。

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一方グッドデザイン・ベスト100には、ユニット12からはUNI-ONEを含めて7つが選ばれました。このうち日産自動車は、電気自動車「アリア」に加えて、福島県浪江町とともにシステム支援型モビリティサービス「なみえスマートモビリティ」も受賞。こちらはグッドフォーカス賞(防災・復興デザイン)にも選ばれました。

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「技術の日産」という言葉があるように、昔からこの会社は先進技術を積極的に取り込むことで知られており、それはアリアで形になっていますが、その技術がモビリティサービスにも展開されたことを知り、時代の変化を実感しました。一方ベスト100にもユニット12以外でのモビリティ関連受賞はあり、阪神高速道路の道路休憩施設「尼崎パーキングエリア」、このブログでも紹介した小田急バス折り返し場脇の賃貸集合住宅「hocco」などがありました。

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つまりモビリティと他の分野をクロスオーバーしたデザイン、長い歴史を持つ会社が新しい分野に挑戦するという点でのクロスオーバーデザインが目立ってきていると感じました。どのユニットで審査をするか悩みどころでありますが、規制の枠にとらわれないクリエイティビティこそデザインの魅力であり、個人的には歓迎しているところです。



ちなみにここで使った写真は、東京六本木の東京ミッドタウンで明日まで開催している「2022年度グッドデザイン受賞展」で撮影したものです。終了間際の案内になってしまいましたが、ここで取り上げた以外のグッドデザイン・ベスト100や金賞、そして大賞を紹介したひさびさのリアルな場でもありますので、明日時間に余裕がある方は足をお運びください。

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