THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年02月

1泊2日で東北地方を巡ってきました。個々のお仕事の内容は後ほど紹介できるかと思いますが、福島県の郡山市と会津若松市の間の往復では、行きは高速バス、帰りは鉄道を使いました。おかげでいろいろな発見がありました。

この区間はJR東日本(東日本旅客鉄道)磐越西線と、会津バス(会津乗合自動車)・新常盤交通・福島交通が共同運行する高速バスが走っています。最速の所要時間は鉄道の快速が65分、普通が75分でバスは67分。運賃は鉄道1170円に対してバス1200円と、どちらもほぼ同じです。
 
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利用した便は下に紹介したとおりで、まず郡山駅前10時05分発の高速バスに乗りました。乗客は15人ほど。駅を出ると、市街地にある市役所や学校などを巡りますが、乗降客はわずかでした。高速道路に乗ってからは無停車で、会津若松市に入って高速道路を降り、ほどなくして会津若松駅前に到着。ここで終点ではなく、観光地として有名な鶴ヶ城と合同庁舎が集まる地域まで行きました。

驚いたのは会津若松駅前でほとんどの乗客が降りたことです。しかもかなりの人が駅に向かっていきました。それならJRを使えばいいのにと思いましたが、高速バスが約30分に1本なのに対し、鉄道は1時間に1本で、快速と普通が交互に走るので、次に乗る列車との接続を考えてバスに乗ったのかもしれないと思いました。

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用事を済ませて会津若松駅に戻り、13時30分発の快速「あいづ」に乗りました。あいづにはリクライニングシートを使った指定席があるとのことでしたが、乗車日は車両が整備に入っていたのか、すべて一般車両でした。4両編成で、前2両は数人ずつしかいなかったのに対し、後ろ2両にはそれぞれ20人ぐらい乗っていました。車両によって大きな差があるのは、2両の列車があるためかもしれません。

すべての停留所が郡山と会津若松の両市内にある高速バスとは違い、JRの快速は会津若松を出ると、磐梯町と猪苗代町の中心駅に停車。猪苗代駅では観光客が数人乗ってきました。その後郡山市に入ると、停車駅が一気に増えます。驚いたのは郡山のひとつ手前に最近できた郡山富田駅で、10人以上が乗り込んできました。この付近は高速バスのルートではなく、路線バスでは時間がかかることから、多くの利用者があるようです。

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高速バスとJRを乗り比べると、まず快適性は全席リクライニングシートの高速バスのほうが、直角に近い向かい合わせ式のクロスシートのJRより上でした。快速あいづには本来リクライニングシートが用意されますが、運賃の他に指定席料金がかかるのが悩みどころです。さらに高速バスには車内Wi-Fiがあることも、現代人には重要なポイントになりそうです。

高速バスは乗り心地も良好でした。磐越西線の郡山〜会津若松間は明治時代に作られており、山越えの区間でカーブが多いことも影響しています。新線を作れば快適性と速達性がともに向上するでしょう。それでも郡山市内に駅を新設したりする姿勢は好感を抱きました。逆にバスは優位点が多いのに、利用した便に限れば乗客が少ないのが気掛かりでした。渋滞や大雪などで遅れることが多いのでしょうか。

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ちなみに自分が行きと帰りで乗り物を変えたのは、比べたかったということもありますが、行きは鶴ヶ城の近所に用事があったので、現地の交通事情に疎いこともあって、直通で行けるバスを選びました。逆に帰りは郡山から仙台に向かう予定で、定時性が第一だったので、時間が読めるJRにしました。郡山での乗り換えがバスよりスムーズであることも選択の理由です。

JRと高速バスは各地で競争関係にあります。郡山〜会津若松間も例外ではありませんが、その中でお互いの環境や特性を生かしていると思いました。だからこそ協業の道も模索してほしいと感じました。高速バスとJRを合わせてパターンダイヤとしたうえで、会津若松駅での列車やバスとの接続を調整すると、多くの人が使いたいという気持ちになる公共交通になるのではないでしょうか。

今週は月曜日にスローモビリティシンポジウム(交通エコロジー・モビリティ財団主催)、火曜日と水曜日にMaaS Meeting(WILLER主催)が、いずれも東京でありました。私も取材を兼ねて両方のイベントに足を運びましたが、そこで興味深いことがありました。どちらのイベントも.離島にスポットを当てていたのです。

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具体的には、スローモビリティシンポジウムでは大分県の姫島と三重県の答志島、MaaS Meetingでは新潟県の佐渡島を取り上げており、後者では佐渡市長や現地住民の方々まで登壇していました。

2つの場ではまず、離島がさまざまな困難に直面していることを教えられました。多くの地方で悩みになっている人口減少と高齢化はもちろんで、退職後に観光ガイドを務めてもらったものの、運転免許返納によって、運転しながらガイドをすることが難しくなっているそうです。さらに離島特有の問題として、エネルギーコストの高さ、フェリーの減便なども話題に上がっていました。

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しかしながらここで登壇した島々は、ただ厳しさを訴えるだけではなく、解決に向けてアクティブに動いており、好感を抱きました。太陽光発電と電気自動車の組み合わせ、グリーンスローモビリティーの導入などです。佐渡島ではさらに、自動運転の実証実験も始めており、住民からも前向きな意見を聞くことができました。



太陽光発電により生まれた電気で自動車が走ることができれば、エネルギーコストの高さは問題にならなくなります。しかも離島はそもそも移動距離が短いので、電気自動車の欠点である航続距離の短さや充電時間の長さはあまり気になりません。同じ理由から、低速で移動するグリーンスローモビリティも相性がいいと感じました。加えて道路が島内で完結していることは、自動運転の実験にも適しています。実はメリットがいろいろあるのです。

重要なのは、最近相次いで登場している新たなモビリティやインフラなどの多くが、先進技術を自慢するというより、むしろ社会の課題を解決するために生まれたものであることです。いままでの生活習慣に合わないからという理由で受け入れを拒んでいれば、いままでどおり衰退を続けることになってしまいます。流れを変える可能性を持っていることを理解し、情報を積極的に収集し、活用していることに感心しました。



もちろん財源という問題はあります。しかしながらスローモビリティシンポジウムでは交通エコロジー・モビリティ財団から、離島におけるグリーンスローモビリティの活用に向けた試走・実証調査の企画募集を発表したほか、国土交通省の離島活性化交付金の紹介もありました。さらに国土交通省では、ICTなどの新技術を用いて離島地域の課題解決を図る「スマートアイランド」企画提案の公募をしています。
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離島での生活はたしかに、さまざまな困難があると思いますが、このような政策や企画をじょうずに活用し、新たなモビリティやインフラをうまく取り込んで、持続可能な生活を目指していただければと思っています。

1年前のこのブログで、総務省が発表した2021年の住民基本台帳人口移動報告を取り上げました。そのときは新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、東京23区が集計を開始してから初めて転出増となった一方、東京近郊のいくつかの都市が転入増の上位に名を連ね、それらの多くが鉄道で大都市に直結していることを書きました。

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先月末、2022年の住民基本台帳人口移動報告が発表されました。ニュースで知っている人もいるかと思いますが、前年とは一転して、東京23区がもっとも転入増が多い都市になり、再び一極集中の動きが出てきました。しかしながら、前年は転出増だった長野県が転入増になるという動きもあり、1年前に取り上げた東京近郊の都市も、おおむね転入増が続いています。

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このうちつくばエクスプレスのつくば駅(茨城県つくば市)と柏の葉キャンパス駅(千葉県柏市)周辺について、自動車総合ニュースサイト「レスポンス」で記事にすることになり、ひさしぶりに現地を訪れました。どちらもスマートシティのお手本のような場所となっていますが、内容には違いがあり、つくば市はモビリティに関してはあまり積極的ではないという印象も受けました。



昨日、私の会社も入っている、東京都立産業技術研究センター異業種交流グループの合同交流会があり、その場でつくば市で研究開発の仕事をしている方と情報交換しました。

その方によれば、人口増加は顕著で、とりわけファミリー層が増えており、小学校は作っても作っても足りないとのこと。一方で市民の移動手段はもっぱらマイカーであり、道路計画がその後のまちづくりとリンクしていないこともあり、渋滞が年々ひどくなっているそうです。当方のブース展示を見ながら、LRTのような大量輸送機関、歩行空間で使えるラストマイルモビリティを望みたいと話していました。

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記事にも書きましたが、つくばと柏の葉では、開発時期に開きがあるだけでなく、体制にも違いがあります。産官学連携で開発が進む柏の葉は、コンパクトなまちづくりであり、自転車レーンやカーシェアリングが整備され、マイクロモビリティのテストコースもあります。つくばもセグウェイのシティガイドツアーや 顔認証によるバス乗降実証実験などはありましたが、最近は動きが控えめです。

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つくば市は2022年3月、国家戦略特別区域諮問会議において、大阪府および大阪市とともに、スーパーシティに指定されました。つくば市のオフィシャルサイトにはスーパーシティ構想の説明もあり、モビリティについても言及しています。スマートシティやスーパーシティを名乗るなら、モビリティにおいてもデジタル技術を活用して、住民や勤労者、学生の移動を便利で快適にしていくことが不可欠でしょう。勢いのある都市だからこそ、国の模範となるようなモビリティシーンを望みます。

日本バス協会が1月17日に開催した通常理事会および新年賀詞交換会において、会長を務める愛媛県の伊予鉄グループ社長・清水一郎氏が、2023年を電気バス元年と位置付け、国の支援を活用しながら、2030年に電気バス1万台を目指すと宣言したそうです。

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バスの中でも都市内を巡る路線バスは、電気自動車に向いたカテゴリーのひとつだと思っています。発進停止が多くスピードを出さないので、低回転で最大トルクを出すモーターは適役ですし、走行距離が短いなので満充電での航続距離はさほど気にすることはありません。静かで振動が少なく、排気ガスがないことは乗客や運転士にとってはもちろん、沿道で生活する人々にとってもメリットになります。

地球温暖化対策については、発電時のCO2排出も考えることが大切だとは思いますが、その点を抜きにしても、これだけの利点があるわけです。価格はディーゼルエンジンのバスよりは高価になりますが、燃料電池バスと比べれば半額以下とのことで、エネルギー補給の面でも有利です。乗用車に先駆けて置き換えを進める価値は十分にあるし、そのための国の支援は妥当だと考えています。

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電気バスは世界的に普及が進んでいるようで、昨年11月に行った欧州でも何度か目にしました。そこで感じたのは、エンジン車より設計や運用の自由度が高いことです。上の写真はフランスのパリを走る車両で、モーターがエンジンよりコンパクトであることを生かし、タイヤを車体の四隅に置いて、間をすべて低床にしています。四輪操舵システムにトラブルが多発して生産は終了したそうですが、こういう設計ができるのはメリットと言えるでしょう。

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もうひとつはルクセンブルクで乗った電気バスで、以前も紹介しましたが、折返所で電車のようにパンタグラフを上げて充電していました。車内には充電時間5分で140km走行可能という説明がありました。人が触れない方法なので大容量充電が可能となっているのでしょう。乗用車への導入は難しそうですが、バスのような背の高い箱型車両なら、充電時間の大幅短縮が可能ということになります。

さらに自動運転との相性も優れています。人間の代わりにアクセルやブレーキ、ステアリングを操作するのはAIからの指令を受けたモーターなので、もともと操作系を電気で動かすほうが相性がいいのです。それを実感したのが先月18日から27日まで、東京の臨海副都心で走っていたBYDの小型電気バスをベースとした車両で、既存のバスを改造した自動運転車のなかでは、群を抜いてスムーズな走行に感じました。

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これまで日本で販売されてきた電気バスは多くがBYD製ですが、先月には福岡県北九州市のEVモーターズ・ジャパンが開発した車両が伊予鉄バスに納入されており、同じ福岡県の西日本鉄道はディーゼルエンジンバスの改造に乗り出すなど、日本でも動きが出始めています。海外からはトルコの商用車メーカー、カルサンの参入もあるそうです。最初に紹介した日本バス協会会長の言葉は、こうした状況を踏まえてのものでしょう。

自分自身、電気バスは仕事で関わっている長野県小諸市のほか、京都市や長野県飯田市などで乗っており、フランスやルクセンブルクなどでの経験を含めて、都市内の移動にとても合っていると感じています。国の支援も手厚くなるとのことで、多くの人に電気バスを体験してもらいたいと思っています。

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