THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年03月

このブログでも取り上げたことがある、富山県を走るJR西日本(西日本旅客鉄道)城端線・氷見線のLRT化など新しい交通体系への転換検討が、今年に入って新たな局面に入りました。富山県では以前から「城端線・氷見線LRT検討会」で議論を重ねてきましたが、2月の第5回検討会でLRTの電化と非電化、新型鉄道車両、BRTについて事業費を調査した結果が公開され、新型鉄道車両導入を推す意見が多く出たようです。

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富山県城端線・氷見線L RT化検討会の内容はこちら

事業費がもっとも安く抑えられるうえに、電化の必要がないので工事のための運休もなく、速達性にも長けていることなどが理由になっています。この結果を受けて、今月初めの富山県議会では新田八朗県知事が「新型鉄道車両の導入が望ましいという方向でまとまれば」という考えを示しました。私も検討会の議事録などを見て、妥当な方向性だと感じました。

というのも自動車同様、鉄道の世界でも、これまでと違うメカニズムで走る車両が次々に登場しているからです。具体的にはハイブリッドディーゼルカー、蓄電池式電車、昔導入されたこともある電気式ディーゼルカーなどで、富山県が新型鉄道車両と呼んでいるのもこれらです。海外では蓄電池を積んだ路面電車もありますが、国内では実験段階であり、実績を積んだ新型鉄道車両を選ぶのはコスト面でも安全面でも理に叶っています。

少し前までは、自走できる旅客鉄道車両は電車かディーゼルカーしかありませんでした。しかも日本のディーゼルカーはトルコンを使った液体式が主力で、電車と比べて加速が鈍く、減速に回生ブレーキなどを使えないので、スピードアップには不利でした。しかし上に書いた新型車両はいずれも電気で走るので、電車と同等の性能が得られ、メインテナンスも楽と言われています。快適性にも長けており、とりわけ蓄電池式電車は、一般的な電車とほとんど変わりません。

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鉄道車両の運転にも独自の免許が必要で、電車とディーゼルカーでは異なる免許が義務づけられるとのことですが、上に書いた新しい新型鉄道車両は、どちらか一方の免許持っていれば良いとのことです。なので2つの路線が接続する高岡駅から、あいの風とやま鉄道への乗り入れのハードルが低くなることが期待できます。それでいて電化は必要ないので、工事のための運休はありません。

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このことから言えるのは、技術の進化によって、これまでとは異なるソリューションを出すことが可能になったということです。これは今後のモビリティシーンを語るうえで大事なことだと思いました。

とはいえ新型車両に置きかえればそれで問題解決だとは思っていません。朝夕の列車はかなりの混雑になることは自分も体感しており、車両の性能向上を含めれば、富山市のJR西日本高山本線のように、増便や新駅設置という方向に発展していってほしいものです。さらにいえば両線とも移動時間は短いので、現状の2ドアより、あいの風とやま鉄道と同じような3ドアのほうがふさわしいと思っています。

北陸新幹線の新高岡駅との接続も重視すべきでしょう。沿線自治体は新幹線の速達便である「かがやき」の停車を望んでいるようですが、それなら二次交通の整備に力を入れるべきではないでしょうか。駅の近くに開店したショッピングモール「イオン高岡」が増床して、新高岡駅から徒歩圏内になったからこそ、ショッピングセンターを巻き込んだターミナルとして整備することが重要だと思っています。

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城端線・氷見線沿線は住宅や会社も多く、潜在的な利用者はあるという印象です。でも人口減少や少子高齢化に加え、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、多大な投資は難しい状況です。そんななかでの新型鉄道車両による改革という指針は納得できるものであり、その中でなによりも利用者にとってありがたいと思える改革になるよう、インフラを含めてのプロジェクトを進めてほしいものです。

東京ビッグサイトで3月15〜17日に開催されていた「スマートエネルギーWeek春2023」に行ってきました。太陽光・風力発電、水素・燃料電池、バイオマス、スマートグリッドなど、次世代エネルギーに関連するさまざまな分野の最新技術を見ることができました。その中で個人的に興味を持ったのは、モビリティにも関係があるバッテリーや水素タンク、燃料電池などをパッケージ化した提案でした。

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スマートグリッドEXPOの本田技研工業(ホンダ)ブースでは、すでに原動機付自転車(原付)に採用している交換可能なバッテリーを使った製品が並んでいました。中でも目を引いたのは軽商用車の床下に8個のバッテリーを積んだ「MEV-VANコンセプト」で、最高速度70km/h、満充電での航続距離75kmとのこと。近場の配達が主な任務なら十分だし、充電の待ち時間から解放されるメリットもあります。

ただ一方で、約10kgのバッテリーを8個も交換するのは大変な作業であることも事実で、4個ぐらいで同等の性能が出せる、超小型モビリティ規格の商用車があればいいのではないかと思ったりもしました。

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すでにコマツのパワーショベルなどの実用例がある建設機械の新提案もありました。写真は酒井重工業の電動ハンドガイドローラ(小型締固め機械)で、バッテリーを2個積んでいました。作業員の労働環境を改善するだけでなく、工事現場周辺の騒音振動問題も軽減されることが期待されます。自動車以上に電動化のメリットを享受できる分野ではないかと感じました。

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H2 & FC EXPOでは、トヨタ自動車のブースに水素や燃料電池関連の展示が多数ありました。個人的に注目したのは水素貯蔵モジュールのコンセプトで、燃料電池自動車「ミライ」で実績のある樹脂製高圧水素タンクとセンサーや自動遮断弁などを一体化しており、展示されたTC10では現行ミライの倍近いタンク容量を持っているそうです。

水素を原料として電気を生み出す燃料電池スタックのパッケージも数社が展示していました。フランスのミシュランとフォルシアの合弁会社でステランティスが出資するシンビオ(Symbio)では、4種類のサイズを用意。展示していたのは定置用ですが、車載が可能な小型の製品もあり、幅広い用途に使えそうだという印象を持ちました。

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今回紹介した展示は、バッテリーは充電に時間がかかり、水素は充填場所が少なく、燃料電池スタックは構造が複雑といったネガを、パッケージの力で解決しようとしている点に感心しました。それとともに、小型にはバッテリー、中大型には燃料電池という使い分けが理想だとあらためて感じました。すべての乗り物をひとつのエネルギーで賄うのはやはり無理があり、適材適所でカーボンニュートラルを目指すのが理にかなっていると思いました。

先週に続いて、東日本大震災からの復興を目指すまちづくりを取り上げます。今回は福島県の太平洋岸(浜通り)にあり、福島第一原子力発電所事故で大きな影響を受けた双葉郡浪江町です。この地で日産自動車が展開するAIオンデマンド交通「なみえスマートモビリティ」を取材するために現地を訪れた際、日産の方の案内で町内を巡ることもできたので、そのときの印象を綴ります。

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なみえスマートモビリティの内容などについては、自動車総合ニュースサイト「レスポンス」で公開されていますが、現地に行ってまず感じたのは、原発事故の影響を受けた地域は、復興まちづくりの中で別枠で考えるべきではないかということです。



浪江町で避難指示が解除され、住民が戻ってきたのは2017年。交通インフラでは、2015年に常磐自動車道は全通したものの、JR東日本(東日本旅客鉄道)常磐線が復旧し、東京や仙台と再び結ばれることになったのは3年前で、新常磐交通の路線バスが町内の運行を再開したのは2021年です。つまり他の地域より6年以上遅れていることを、頭に入れておくべきだと感じました。

避難指示が解除されたのはおおむね常磐自動車道より東側で、西部の山林は除染されず、この町の重要な産業のひとつだった林業は大きな影響を受けているそうです。そんな中でこの町では、浪江駅前、町役場がある国道6号線周辺、海沿いと3つのゾーンに分けた、コンパクトな復興まちづくりを進めているという印象で、好感を抱きました。

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駅前は「地域スポーツセンター」「ふれあいセンターなみえ」に加えて、日産と東京大学が設立した「浜通り地域デザインセンターなみえ」があり、町役場の近くには「イオン浪江店」「道の駅なみえ」が相次いで開業。それぞれが地域拠点になっていました。さらに浪江駅は、建築家の隈研吾氏らとともに「浪江駅周辺整備事業に関する連携協定」が締結されており、近々生まれ変わることになっています。

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海沿いは産業集積地域で、世界最大級の水素製造能力を持つ「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」、ドローンの実験などが行える「福島ロボットテストフィールド」の滑走路などがあります。近くには、津波が来る前に全員が無事避難できた奇跡の学校として語り継がれる請戸(うけど)小学校が震災遺構として公開されており、請戸漁港市場も復活しています。

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カーボンニュートラルへに取り組んでいることも特徴で、道の駅ではEVの充放電を自律的に行う制御システムを活用。浜通りデザインセンターなみえではEVシェアリングも用意され、南隣の双葉町およびトヨタ自動車とともに、燃料電池自動車を用いた移動販売の連携協定を締結しています。

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浪江町を訪れて感じたのは、大変な状況に置かれながらも、まちづくりが前向きであることとです。一部のマスコミが伝える後ろ向きの被災地報道とは対照的です。しかも日本全体で見ても先進的な事例が多く、復興を機に日本の先頭に立とうという心意気が伝わってきました。数年後に浪江駅が新しくなったときに、再訪したいと思いました。

まもなく東日本大震災の発生から12年を迎えます。そんなこともあって今回の東北訪問では、津波の被害が大きかった太平洋岸の都市や集落もいくつか訪ねました。その中から宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)地区を紹介します。

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名取市は仙台市の南に隣接しており、仙台国際空港が南隣の岩沼市にまたがる形であります。閖上は同市のもっとも東に位置していて、太平洋に面しており、広浦という入江があることもあって、昔から漁港として栄えてきました。しかし2011年の東日本大震災で、かつて約5000人が住んでいたと言われるこの地域は津波に飲み込まれ、700人以上の住民が亡くなったとのことです。

公共交通で閖上を目指すには、JR東日本(東日本旅客鉄道)東北本線と常磐線、仙台空港鉄道が乗り入れる名取駅からコミュニティバス「なとりん号」閖上線を使うのが一般的です。私もこのバスに乗りました。駅を出たバスは東へ進み、国道4号線を横切り、市役所の脇を通過していきます。高速道路の仙台東部道路を潜って、まもなく、かさ上げされた土地に新しい住宅が立ち並んでいる光景に出会います。

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東日本大震災で津波被害を受けた地域の復興では、高台移転や巨大防潮堤の構築など、地域によってさまざまな手法を選択しています。そんな中で閖上は、港の周辺を非居住地域とし、海岸からやや離れた場所をかさ上げして、居住地域にするという結論を出したそうです。個人的には、それぞれの地域がそれぞれの手法を選ぶことは、まちづくりに個性が出るので好ましいと思っています。

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今回は終点の「名取トレイルセンター」でバスを降り、周辺を徒歩で巡りました。トレイルセンターは閖上のまちびらきが行われた2019年にオープンした施設で、震災を機に青森県から福島県にかけての太平洋沿岸をつなぐロングトレイル「みちのく潮風トレイル」の拠点として作られました。内部は情報コーナーやラウンジ、シャワールームなどがあり、海側の広場ではキャンプもできるようです。

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近くには「ゆりあげ港朝市」と「メイプル館」があります。メイプル館は、昔から名取市と交流のあるカナダの支援により完成した建物で、飲食店や土産物店などが入っています。広浦の対岸には2020年にオープンした「名取市サイクルスポーツセンター」が見えます。サイクリングロードフットサルコートなどのほか、温泉や宿泊の施設もあります。名取市は自転車のまちをアピールしていて、市内各所をめぐるサイクルマップを用意。仙台国際空港にはサイクリングポートも用意しています。

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ゆりあげ港朝市・メイプル館の北にある「震災メモリアル公園」にも足を運びました。市内で亡くなった人の名前が刻まれた芳名板、当時の皇太子同妃両殿下(現天皇皇后両陛下)の記念碑などがあり、昔からこの地のランドマークでもあった日和山もあります。さらに北に進むと、仙台市との境を流れる名取川に出ます。川上に歩みを進めていくと「かわまちてらす閖上」があります。こちらも飲食店や土産物店が軒を連ね、休日は多くの人で賑わっているとのことです。

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閖上の特徴は、海沿いの平地という地勢を生かし、サイクリングやトレイルの拠点と位置づけつつ、カナダからの支援を感じられる場、震災で犠牲となった方々への祈りの場も用意し、これらをコンパクトにまとめていることで、これがまちの個性を作っていると感じました。仙台空港や仙台駅から近いので、遠方から訪問しやすい場所とも言えます。機会を見つけて訪れてみてはいかがでしょうか。

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