THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年04月

今月初めにこのブログで告知したように、先週土曜日、茨城県つくば市で、ヤマハ発動機とつくば3Eフォーラムの共催による「ひとまちラボつくば」が開催されました。当日会場に足を運んでいただいた皆様、運営関係者の方々には、この場を借りてお礼を申し上げます。私もトークセッションに出つつ、当日用意された電動化車両に触れたり、専門家の方々と意見交換をしたりと、充実した時間を過ごしました。

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車両については、ヤマハの4輪電動自転車プロトタイプ、日本製と欧州製のカーゴバイク、欧州製自転車タクシーがありました。2種類のカーゴバイクは以前東京都世田谷区でのイベントで乗ったので、今回は自転車タクシーの運転と同乗、そして特別にヤマハのプロトタイプを試すことができました。すべて電動アシストがついており、ヤマハのプロトタイプはフル電動への切り替えも可能ということで、大柄な車体ながら楽に走らせることができました。

ところでこれらの自転車を見て、日本の公道は走れないのではないかと思った人がいるかもしれません。おそらくその方は、日本独自の規格である「普通自転車」を、公道を走れる自転車のことだと考えている可能性があります。警視庁のウェブサイトによれば、自転車は荷車や馬車などと同じ軽車両のひとつで、普通自転車とは車体の長さが190cm以内、幅が60cm以内、4輪以下であることなど内閣府令で定める基準に適合する自転車のことと書いてあります。

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警視庁「自転車の交通ルール」ウェブサイトはこちら

つまり軽車両>自転車>普通自転車で、すべて公道の走行は可能です。カーゴバイクでも、今回用意された日本製「STREEK(ストリーク)」や、以前ブログで紹介した川崎重工業「noslisu(ノスリス)」は、普通自転車の基準を満たしています。では走るうえでの違いはあるかというと、警視庁のサイトには、普通自転車であれば例外的に歩道の通行が可能とあります。しかしそもそも自転車は「車道が原則歩道は例外」ですから、大きな違いにはならないでしょう。

それよりも多くの人が懸念するのは駐輪場ではないでしょうか。日本の駐輪場は多くが普通自転車前提で、1台ごとに輪止めやレールに固定する方式が一般的となっており、欧米のようなシンプルなパイプ型と比べると、駐輪できる車体がかなり限定されます。横並びを好む日本社会らしいとも言えますが、前が2輪のタイプは普通自転車であっても難しそうな感じがしています。

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少し前のブログで紹介したフランス・パリの自転車環境整備「プラン・ヴェロ」には、物流を含めたカーゴバイクの環境整備も含まれていて、カーゴバイクの寸法を考慮した自転車レーンや駐輪場の整備のほか、物流拠点としてのマイクロハブも準備するそうです。自転車で賄える移動や物流は、なるべく自転車に任せることで、過度に自動車に依存した社会からの脱却を目指すという意志が伝わってきます。

昨年のブログでは、欧州の子供乗せ自転車はカーゴバイクに近い設計が多いことを書きました。日本で多く見かける、2輪の普通自転車の前後の高い位置に子供を乗せる方式より、安定性や安全性でははるかに上です。自動車は2輪車から大型トラックまで目的に応じていろいろな車種があるわけで、自転車にも普通自転車のほかに大型自転車のようなカテゴリーがあっても良いのではないでしょうか。

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昔は大柄な自転車は動かすだけでひと苦労でしたが、今は電動アシストのおかげで、自転車タクシーのような車格であっても楽に動かせることも今回実感したことです。移動の多様性を謳うのであれば、運転免許なしで乗れる自転車の多様化にもっと目を向けるべきではないかと、今回のイベントに関わってあらためて感じました。

ヤマト運輸が今週17日、関東地方に山梨・新潟県を加えた1都8県と、山口県を除く中国・四国8県の間などを運ぶ一部の荷物について、6月1日から配達を翌日から翌々日に変えると発表しました。以前から課題になってきた物流業界の「2024年問題」が、具体的な影響となって出てきたと実感しました。

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「2024年問題」とは、来年4月の働き方改革関連法施行によって、ドライバーを対象とした時間外労働の上限が年960時間となるため、トラックドライバーの多くは現在より労働時間が短縮されることになり、業界全体でドライバー不足が深刻化したり、ドライバーの収入や運送会社の利益が減ったりすることを指します。

ただ個人的にはデメリットばかりとは思えません。なによりもトラックドライバーの労働環境改善になりますし、事故の減少も期待されます。トラックが走るのはほとんどが公道で、事故を起こせば他の多くの交通に影響を及ぼすことを考えれば、多くの人にとってメリットになります。荷主に対して弱い立場と言われている運送業者の地位向上のきっかけになる可能性もありそうです。

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さらにヤマト運輸はすでに対応していますが、トラック偏重の物流を鉄道や船舶に振り向けるモーダルシフトも期待できます。最近の日本は今回に限らず、変化に直面したときに、デメリットばかりを挙げて変わることを拒もうとする動きが見られますが、広い目で見ればこれだけ良い点があることは認識しておくべきでしょう。なので「トラック物流の2024年改革」とも言えるわけです。

物を運ぶ仕事が厳しいのは、2024年問題で影響を受ける長距離トラックに限った話ではありません。たとえば宅配ピザチェーンを展開する日本ピザハットは18日、これまで徴収していなかった配達料を1回につき250円として導入すると発表しました。近年の人件費や燃料代の高騰が理由とのことです。ヤマト運輸もそうですが、物を運ぶ仕事が厳しい状況にあることを、私たち一般の人々に知られる、わかりやすいメッセージだと感じました。

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一部の人はこの2社の利用を控えるかもしれませんが、個人的にはそれよりも、ドライバーやライダーの待遇を重視した考えを評価します。同じ業界にいる他の会社もこの流れに乗れば、この仕事を選ぶ人が以前より増えて、ドライバー不足などの課題解決につながる可能性もあります。それが結果的には、私たちが荷物や料理を確実に受け取れることにつながるわけで、勇気ある決断に賛同したいと思っています。

次世代モビリティのひとつとして、世界各地で開発が進められているエアモビリティ(eVTOL)。この分野における日本企業の代表格であるスカイドライブが今週木曜日、商用運行を行う「SD-05」の個人向け予約販売を開始し、第1号機の申し込みがあったことを発表しました。複数のニュースによれば、納期は2025年以降、価格は150万ドル(約2億円)とのことです。

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スカイドライブのウェブサイトはこちら

この数字と、以前から公表されていた最高速度100km/h、満充電での航続距離5〜10kmというデータを含めて、これを空飛ぶクルマというのは違和感があるというコメントが多く出ています。たしかに約2億円と言えば、自動車の最高峰に位置するフェラーリやロールス・ロイスの上級車種よりはるかに上。一方で5〜10kmという航続距離は、原付一種規格の電動スクーターより短いものです。スカイドライブは渋滞から解放されることをアピールしていますが、5〜10kmであれば自転車で十分と思う人もいるでしょう。

エアモビリティは2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で運行が予定されており、今年2月には事業者が発表されました。導入される機体は、ANAホールディングスがパートナーシップを結ぶ米国ジョビー・アビエーション「S4」、 JAL(日本航空)が提携しているドイツ・ボロコプターの「ボロシティ」、丸紅が日本での事業推進に関わる英国バーティカル・エアロスペース「VX4」、スカイドライブSD-05の4機です。

ジョビーとバーティカルは、軍用機オスプレイのようにプロペラが離着陸と巡航時で向きを変え、パイロット以外に4人を乗せることが可能。200mph(320km/h)という最高速度も共通です。航続距離はジョビーが150マイル(240km)、バーチカルが100マイル(160km)以上。これぐらいの数字なら個人的にも満足です。残るボロコプターとスカイドライブのプロペラは固定で、乗車定員が2名であることも同じ。性能はボロコプターのほうが少し上で、最高速度110km/h、航続距離は35kmとなっています。

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バーティカル・エアロスペースのウェブサイトはこちら

欧米3機と日本のスカイドライブの違いもあります。前者は一般向けの販売は考えず、エアタクシーとしての運行を前提としていることです。理由のひとつに機体が高価であるうえに、バッテリーの充電あるいは交換に時間や労力がかかることがあるでしょう。価格を明かさずに済むところも、今回のスカイドライブのニュースを見る限り、タクシーユースのメリットに数えられます。

呼び名については、以前のブログで扱ったときにも触れましたが、ジョビーはエレクトリックエアクラフトあるいはエアタクシー、ボロコプターとヴァーティカルはアーバンエアモビリティと呼んでおり、世界的にも一本化していないようです。日本でよく使われる「空飛ぶクルマ」は、スカイドライブが当初から掲げてきた言葉が、一般的になりつつある感じです。

ただし海外でフライングカーというと、別の乗り物を指します。映画「パック・トゥ・ザ・フューチャー」に登場したデロリアンのような、空も飛べる自動車のことです。映画の中だけの話ではなく、スロバキアのクライン・ビジョンのように、実用化を目指す企業がいくつかあります。スカイドライブをはじめ、ここで紹介した4機はすべて陸上走行ができないので、外国ではフライングカーではないとなりそうです。

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クライン・ビジョンのウェブサイトはこちら

スカイドライブのウェブサイトには、「自動車のように日常的に気軽に使えるモビリティ」というフレーズがあります。なので空飛ぶクルマと呼んでいるのでしょう。個人向け販売に乗り出したのも、この考えが理由だと思われます。しかし1機約2億円、航続距離10kmの乗り物が、自動車のように日常的に気軽に使えると思う人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

この乗り物自体を否定しているわけではありません。離島や中山間地域などの交通手段として、物流のドローンともども有効だと考えています。空飛ぶクルマという表現は、知名度を上げる点では効果があったかもしれませんが、実態が明らかになるにつれて違和感を抱く人が増えているようであり、もっと内容を正確に表す名称に変えたほうがいいのではないかと感じているところです。

今週はひさしぶりにイベントの話をしたいと思います。4月22日(土曜日)、茨城県つくば市のイオンモールつくばで、ヤマハ発動機とつくば3Eフォーラムが共催する「ひとまちラボつくば」が開催されます(小雨決行、雨天時は翌日に延期)。こちらのトークセッションに出させていただくことになりました。

ひとまちラボつくばパンフレット1

つくば3Eフォーラムとは、つくば市を省エネルギー・低炭素の科学都市として構築する研究に取り組むことを目的に、大学・研究機関・自治体が連携して2007年に結成されたフォーラムで、環境(Environment)、エネルギー(Energy)、経済(Economy)の3Eの調和をとりつつ、2050年カーボンニュートラルに向けて学際的に研究・社会貢献活動を加速化することをミッションとしているそうです。

ひとまちラボつくばパンフレット2
ヤマハ発動機のニュースリリースはこちら

イオンモールつくばの屋外イベント会場「ソラステ」では、今回が初公開となるヤマハ発動機の新開発モビリティのデモ走行がお披露目されるほか、日本発の電動アシスト3輪カーゴバイク「STREEK」、欧州製電動アシスト3輪カーゴバイクや3輪自転車タクシーの試乗ができるとのこと。さらにブースの出展、パネル展示、ステージイベントも開催予定です。

モール1階ウェストコートにも会場があり、こちらではSTREEKが開発した救急医療用3輪電動アシスト自転車が参考出展されるほか、子供向けメニューとしてぬり絵や乗り物作りが楽しめるコーナー、アンケートに答えると挑戦できるガラガラ抽選会などが行われるそうです。

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私が出るのはステージイベントのうち、12時50分から始まるトークセッション「ホロニズム構想と、ひと中心の街とモビリティ」に、筑波大学システム情報系構造エネルギー工学域教授で工学博士の石田政義先生とともに登壇します。ホロニズム構想については石田先生がお話しいただける予定で、私は欧州の最新事情を紹介しつつ、ひと中心のモビリティというテーマで話題提供をさせていただきます。

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つくば市は日本を代表する研究学園都市として開発が進み、現在茨城県では県庁所在地の水戸市に次ぐ人口規模を誇っています。スマートシティにも積極的で、国家戦略特別区域諮問会議において、大阪府および大阪市とともにスーパーシティとして指定することが決定されました。モビリティ分野では日本自動車研究所が置かれていることでも知られています。


さらに以前ブログでも紹介したように、新型コロナウイルス感染拡大にともなう地方移住の場所として、つくば市を選ぶ人が増え、2022年も子育て世代の転入超過率は全国トップ3に入っています。今回のイベントで子ども向けメニューを用意したのは納得できるところです。

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しかし今年初めにつくば駅周辺を訪れた印象では、スマートシティとしての環境が整っているのに対して、モビリティは日本の地方都市でよく見られる光景だと感じました。だからこそ実際にさまざまな乗り物に触れながら、ひとりでも多くの人がひと中心のモビリティを考えていただきたいと思っています。スケジュールに余裕があるお近くの方、ぜひ足を運んでください。よろしくお願いいたします。

今日から自転車に乗るときのヘルメットの着用が努力義務となりました。たしかに警察庁の昨年の交通事故分析資料では、ヘルメットを着用していない場合、事故にあった時の致死率が約2.6倍になるとしています。ただしこの資料では、自転車乗車中の死者数は年々減っているのに対し、自転車対歩行者の事故による歩行者の死傷者数は横ばいであることも示されています。

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この数字からもわかるのは、たしかにヘルメットの着用は命を守るためには大事ですが、それとともに自転車と歩行者の接触事故を減らすことも急務ではないかということです。具体的に言えば自転車、そして今年7月から新しいルールの導入で増加が予想される電動キックボードなどが走るレーンを、歩行者や自動車と完全に区切って用意するということです。

このブログで何度か書きましたが、日本には自転車が一部の歩道を走っても良いという、世界的にも珍しいルールが存在しており、これが事故が減らない理由のひとつだと感じています。たとえば写真のような歩車分離式信号。自転車は車両なので、車道を走るときは自動車の信号が青のときに進みますが、自歩道を走ってきた自転車は、逆に歩行者の信号が青のときに進むことになるそうです。これだけでも混乱してしまうのではないでしょうか。

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警察庁の交通事故分析資料はこちら

昨年秋に訪れたフランスのパリでは、自転車レーンが一気に増えたことを紹介しました。 パリでは2015〜2020年に続き、第2期の「プラン・ヴェロ(ヴェロは自転車の意味)」を2021〜2026年に進めており、すでに1000kmの長さを誇る「ヴェロポリタン」と名付けた市内の自転車レーンを、さらに450km延長するとともに、駐輪場などの整備を、2.5億ユーロ(1ユーロ140円で350億円)もの予算をかけて行うとしています。

この数字を、今年度の国土交通省の東京都道路関係予算配分(約240億円)と比べてみれば、いかに多くのお金を注ぎ込んでいるかがわかるでしょう。しかも東京都では、2019年度末で305kmだった自転車走行空間を、2021年度から10年間で900kmにする計画を掲げていますが、予算配分の内訳を見る限り、自転車のみを掲げた項目はゼロです(京都府のように項目がある自治体もあります)。これでは今後も安心して自転車に乗るのは難しいのではないかと、多くの人が思うのではないでしょうか。

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国土交通省の道路関係予算情報はこちら

ヘルメットはたしかに致死率を下げますが、事故そのものは減らしてくれません。しかも日本は世界的に見ても、歩行中の交通事故死者の割合が高い国であり、犠牲者の一部は自転車との接触によるものです。加えて東京都の数字を見てもおわかりのように、自転車レーンの整備が遅れています。ヘルメットを努力義務にすれば問題解決などと思わず、より抜本的な対策を望みたいところです。

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