THINK MOBILITY

モビリティジャーナリスト森口将之のブログです。モビリティやまちづくりについて気づいたことを綴っています

2023年05月

今週日曜日、福井県永平寺町で、産業技術総合研究所(産総研)・ヤマハ発動機・三菱電機・ソリトンシステムズが開発に関わった、日本初の自動運転レベル4による移動サービスが始まりました。レベル4については今年4月1日に解禁となったものの、各種許可が必要になることから実現はしばらく先と思っていたので、予想より早い実現という印象を受けましたが、現場を知っている者としては納得できるところもあり、拙速ではないと理解しています。

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というのも、今回レベル4が導入されたルートは、鉄道の廃線跡を活用した遊歩道であるうえに、交差する道路がないからです。永平寺町の自動運転は、レベル2だった時代に全線を通して乗ったことがありますが、途中国道など何本かの道路と交差します。今回はその部分を除いた約2kmで実施しているのです。とはいえレベル4には限定された領域という条件があり、走行する道路は公道(永平寺町道)なので、日本初という表現は妥当だと思っています。

永平寺町が扉を開けてくれたことで、廃線後の道路を活用したBRTなどでは、レベル4の実現性が高くなったと言えます。続いて茨城県境町のように、レベル2でありながら他の自動車との混流や交差点の通過、右左折などを実現している地域で、課題をクリアしながらレベル4を目指していくのではないでしょうか。とはいえいずれも移動サービスに限った話であり、1年前のブログで書いたとおり、マイカー(自家用車)の完全自動運転、つまりレベル5は当面先という考えは変わりません。

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ところで今回のニュースを含めて、最近自動運転の話題を見るたびに感じているのは、同じAIを使う、ChatGPTなどの生成AIとの関係です。AIはデータを取得し、ディープラーニングなどの手法を取り入れることで、さまざまな作業を可能としていますが、データの取得が不十分な分野、まったく新しい分野では正確な答えを出してもらえないこともあるというのは、多くの人がChatGPTで体験していると思います。

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昨日、私も会員になっている日本都市計画学会の第12回定時総会が開かれましたが、その中でもChatGPTの話題が出ました。事務的なタスクをChatGPTに任せることで、クリエイティブな仕事により多くの時間を割くことができるというような話で、AIの特性を熟知した指摘であり、とても共感しました。 

同じ自動運転でも、移動サービスは車両の動きや走行するルートのデータが取得済みなので、今回の永平寺町のように他の自動車がなく交差する道路もないなら、事務的なタスクに近い状況で走らせることができます。対するマイカーの走行は、日々新しい状況が生まれる、いうなればクリエイティブな環境です。だからこそドライバーは突発的な状況にも対応できる心構えをしておかなければならないし、AIにそれを任せるのは現時点では難しいという結論になるのです。

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日本都市計画学会のウェブサイトはこちら

私は自動運転を含めたAIの仕事を否定するわけではなく、むしろ可能性を楽しみにしているひとりですが、成り立ちから考えれば万能とは言えないのも事実です。ChatGPTについても、安全や信頼が重視される状況では使用は控えたいという気持ちです。自動運転もこれと似ていて、突発的な事態に見舞われることがほとんどなく、ルーティーンの繰り返しで走ることができるような地域から導入していくのが望ましく、その意味でも永平寺町は日本初にふさわしい場所ではないかと思っています。

先週末、東京都の新宿住友ビル三角広場で、BICYCLE‒E·MOBILITY CITY EXPO 2023が開催されました。昨年まで東京ドームシティプリズムホールで開催されていたイベントで、見に行って良かったと思ったので、今年も足を運びました。 今年は小型電気自動車の出展が多くなり、イベントの裾野が広がっていることを実感しましたが、その中で目立っていると感じたのが、3輪の電動アシスト自転車でした。

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先月の「ひとまちラボつくば」でも試乗と展示をしていたエンビジョンの「STREEK(ストリーク)」は、ハニカム構造のストレージを搭載したカーゴバイクと、つくばでも展示していた緊急医療車を出していました。さまざまな用途に対応できる車体であることを再確認しました。今年量販を開始するとのことで、期待する車両のひとつです。

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自動車エンジン用タイミングチェーンや産業用チェーンのシェアで世界一のシェアを誇る椿本チエインも、3輪の電動アシスト自転車「多目的e-Cargo」を新開発しました。こちらは後ろが2輪で、質実剛健でありつつ長尺物の積載に対応するなど細やかな配慮もありました。2024年度と言われる市場投入を楽しみにしています。

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昨年のこのイベントで試乗して完成度の高さに感心したカワサキモータースジャパンの「noslisu(ノスリス)」は、出展はありませんでしたが、今週16日になって市販開始が発表されました。電動アシスト自転車仕様「noslisu」、ミニカー登録のフル電動仕様「noslisu e(ノスリス イー)」だけでなく、電動アシスト自転車カーゴ仕様の「noslisu cargo(ノスリス カーゴ)」も登場しており、日から順次発売するそうです。

個人的に驚いたのは、これまで姿を見ることがなかったnosulisu cargoで、約120リットルもの積載スペースを、車体中央の低い位置に用意し、高さのある荷物を保持する補助フレームも準備し、かつ前方積載とした設計は、数あるカーゴバイクの中でも大胆かつ大容量であり、宅配事業者など多くの分野から注目されるのではないかと思います。

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nosulisuのウェブサイトはこちら

ここで紹介した3車種には、3輪の電動アシスト自転車という共通点があります。2輪より3輪のほうが安定感があるのは当然で、荷物を載せるときだけでなく、高齢者の移動などでもメリットがあります。パリと同じように、自転車でできることは自転車にシフトするというアクションが可能になりますし、運転免許返納後の移動の自由を確保する点でも期待できます。

もうひとつ注目したいのは、STREEKとnosulisuは少し前のブログで触れた「普通自転車」のカテゴリーに収まっており、多目的e-Cargoも開発者に聞いたところ、このカテゴリーに収まっているという答えが返ってきたことです。設計には苦労があったかと思いますが、いずれもスタイリッシュにまとめてあり、それぞれ明確な個性もあって、デザイン面でも高く評価したいと思います。

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だからこそインフラを整えてほしいと思います。日本の駐輪場は前にも書きましたが、2輪の普通自転車を前提としたラックを並べており、3輪自転車の駐輪に躊躇する状況で、多様性の否定と感じます。普通自転車の枠内にあり、2輪より安定感が高いというメリットがあるわけですから、行政はこうした車両を排除するのではなく、むしろ普及に向けてバックアップする姿勢が、いまの社会に必要だ思います。

今週のブログは先月8日に続いてイベントの話題です。今回紹介するのは、5月28日(日)から6月2日まで、神奈川県鎌倉市で、今年で第4回目となる「鎌倉ワーケーションWEEK」です。

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ウェルビーイングな社会の実現に向けて、企業や個人が枠を超えてつながり、サスティナブルな行動やあり方を学び、次世代の働き方をともに実践する場とのことで、市内のワークスペースやカフェやお寺を拠点に鎌倉ならではのワークスタイルの体験、交流の場への参加、各種プログラムへの参加を行うことで、ウェルビーイングな働き方を実践できるそうです。



鎌倉でのワーケーションの提案は、とても価値があると思っています。なぜならアフターコロナという状況下で再び問題になりつつあるオーバーツーリズム対策として、観光の分散化につながるからです。その中で私は、5月29日(月)14時30分から16時30分まで、ヤマハ発動機の主催で行われる「ウェルビーイングな人中心のまちづくりとモビリティ」に出させていただくことになりました。

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ヤマハ発動機では以前から、「Town eMotion(タウンイモーション)」という取り組みを進めています。「モビリティの可能性を広げ、人々が賑わう豊かなまちづくりを」をテーマとしており、先月茨城県つくば市で開催した「ひとまちラボつくば」もその一環で、鎌倉でも昨年「ひとまちラボ鎌倉」としてワークショップやトークイベントなどを開催してきました。今回のイベントも、その流れの上にあるものと認識しています。

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つくばでは自転車タクシーやカーゴバイクの試乗や展示が行われていたので、そちらにフォーカスした話をしましたが、今回はウェルビーイングがテーマということで、自らが動くことによって得られる豊かさについても触れていきたいと思っています。かつて隣りの藤沢市に住み、観光以外で何度も足を運んだ経験も生かして、話題提供や意見交換をしたいと思っています。

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最初に書いたとおり、鎌倉ワーケーションWEEKは市内のさまざまな場所で開催されますが、ウェルビーイングな人中心のまちづくりとモビリティの会場は、鎌倉駅東口を出て若宮大路右側を南に進み、徒歩4分のところにあるカフェ兼ワークスペース「ANOTHERDAY KAMAKURA」(所在地:神奈川県鎌倉市御成町4-10)です。リアル・オンラインともに参加者を募集中です。よろしくお願いいたします。

日本を含めた世界各地で走行を続ける自動運転シャトルを開発生産してきたフランスのナビヤ(NAVYA)は、私も欧州や日本で何度も乗ったことがあり、この分野の代表格として認識しています。ところがそのナビヤ、経営面は順風満帆とは言えなかったようで、今年1月25日に支払い停止を宣言し、裁判所に対して管財人の就任を要請しました。

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その後しばらく関連のニュースは目にしなかったのですが、先月18日になって、フランスのゴーサン(GAUSSIN)と我が国のマクニカが新会社を設立し、ナビヤの資産を引き継ぐことが発表されました。新会社におけるゴーサンとマクニカの資本比率は51:49で、代表者にはゴーサンの副社長が就任する予定とのことです。

自動運転にくわしい人であれば、マクニカの名前は知っているでしょう。1972 年の設立以来、半導体、ネットワーク、サイバーセキュリティなどの技術や商品を提供してきた会社で、現在は自動運転のほかAI/IoT、ロボットなどの分野でビジネスを展開。海外展開も積極的です。私も数年前、神奈川県横浜市にあるファクトリーを見せていただき、先駆的な取り組みに感心した覚えがあります。

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ゴーサンのウェブサイトはこちら

一方のゴーサンは1880年創立という歴史の長い会社で、港湾などでの輸送用トラクターを得意としてきました。近年は空港や倉庫などに活躍の場を広げており、並行して化石燃料から電気や水素へのエネルギーシフトも進めています。2022年にはサウジアラビアのエネルギー企業アラムコをパートナーに迎え、ダカール・ラリー初の水素エンジントラックをエントリー。完走を果たした実績もあります。

ナビヤは自動運転シャトルの第一人者と呼べる存在であり、これまで蓄積したノウハウは膨大なものです。アルマのようなシャトルの他、同じフランスのボロレ(BOLLORÉ)と組んで電気バスの共同開発も進めていたそうです。筆頭株主のゴーサンは水素エンジンの経験もあるとのことで、バスについては電気か水素かというエネルギーの選択肢も可能になりそうです。 

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そこに日本企業のマクニカが、開発側の一員として加わることになるわけで、こうしたノウハウを日本の交通事情に落とし込んだ最適化が期待できそうです。おりしも日本では今年4月から、移動サービスでの自動運転レベル4が解禁されました。もちろん導入にあたっては自治体や運行事業者も重要ですが、今回の再編は導入に向けての後押しにもなるはずで、新会社の発展に期待します。

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